各国で極秘裡に研究されている、らしい

未来兵器「爆撃ロケット」


 国防科学雑誌「機械化」20号(昭和17年7月)に掲載された、「未来兵器 爆撃ロケット」の活躍想像図だ。描くは「日本三大茂」の筆頭、小松崎 茂。画面右下のサインは世に知られるものとは異なっているが、右下の「敵戦闘機」(米軍マークを付けているが、英国フェアリー社のフルマー風)の描き方は、昭和30年代末期の口絵を彷彿とさせる。スピナーも赤い。

 「爆撃ロケット」の説明は以下の通り。例によって文字づかい等は改めてある。

 今やロケットは超速飛行機として、又新分野を開拓する新兵器として各国とも極秘裡に研究されている。
 ここにしめしたものは、現在考えられる範囲において最大の実現性を期待されるもので、前方から流入する空気を送風機にて圧縮し、内燃機関の冷却のために用いられた空気と混合して爆発室に送られ、多数の噴角から高圧ガスを噴出して進むもので、原理は火薬によるものと同様である。


 図はロケット爆弾によって敵地爆撃を敢行しつつある場面で、時速二千キロ内外の超スピードには敵機は勿論、高射砲などの対空兵器も物の数ではない。


機首部分を拡大



地上を粉砕する「ロケット爆弾」



出発にはカタパルト式を用いる



本機は着陸することができないのでパラシュートを用いる

 迎撃機を返り討ちにする爆撃場面はもとより、、発進・帰還場面に至るまで、「未来兵器」の名に恥じぬ壮大なものである。しかし説明文を良く読めば、単なる「超音速ジェット爆撃機」に過ぎない。
 プロペラ機の最大速度は800キロ/時で頭打ちになる、と云われた当時、プロペラの無い爆撃機の画だけで充分斬新であるのに、カタパルトで発進・落下傘で減速・着水させる読者サービスが災いし、一種のイロモノ爆撃機になってしまっているのが、小松崎ファンの一人として惜しい。

 カタパルトを使うところは良いとしても、いちいち水から引き揚げ、基地まで運び込まなければ次に使えない(パラシュートも乾かして畳まねばならぬ)のは、兵器として何かが間違っている。「着陸することができない」などケチ臭い事は云わず、搭載量を落としてでも機体強度を増やし、着陸出来ないと面白くない。できぬことが出来るのが、空想兵器の取り柄ではなかったか?
 カラー図の裏は、内部図解だ。

 このロケットのあらましの飛行原理は表記でのべましたが、成層圏飛行装備及び着水時による一切の設備を完備しており、その操縦装置は電動式、ロケット全体の形式はエンテ型の航空機に類似している。燃料タンクは胴体の周囲及び主翼内に設置する。出発にはカタパルトを用い飛行可能の状態にはいってから飛行する。

 「操縦装置は電動式」なのがハイカラだ。「成層圏飛行」は、当時の『将来の航空機』には欠かせないキーワードである(その装備が揃わなかったばっかりに、B29に国土を焼き払われたのだ)。

 図の補足をしよう。胴体中央に「発動機」。前方のプロペラで取り入れた空気を後方に送り込み、後方のプロペラがそれを圧縮して爆発(燃焼)室に送り込むよう描かれているのがわかる。
 「機械化」同号記事、「ロケットとロケット弾丸」(特許局技師 中島 和雄)では、ロケットの原理が語られ、「ドイツの宇宙旅行協会で、ずっと昔に工夫された装置」として液体燃料―液体酸素とガソリンからなる―エンジンにも言及、そして「ごく最近に特許になった」、レシプロエンジンで空気を圧縮する式の「ロケット」が紹介される。本機もその仕組み―イタリアの「ジェット機」も使用した―を採用している。
 表層では荒唐無稽な「爆撃ロケット」だが、根幹のところは(元ネタの『ちくわ飛行機』と同じ程度に)マトモなのである。


機首部分を拡大

 「前方の操縦室は過圧防止式」
 カタパルト発進、時速二千キロを超えるスピードが、当時の想像を絶するものだったことが伺える設備だ。対Gスーツと目論見は同じである。座席を収めた球体の操縦席―与圧室でもあるのだろう―が、宙づりになっているように見えるが、どんな構造なのかは良く判らない。

 発動機の下には、「ロケット爆弾庫」がある。ロケットで加速して標的を貫くつもりなのだろう。爆弾搭載量は多くはなさそうだ。
 その上には「砲座」(カラー図では『自働砲座』)がある。敵機も高射砲も追随できぬ超スピードなのに、自分の砲だけが命中弾をお見舞いできるのは、戦時中なればこそ。現代のジェット爆撃機からは、そぎ落とされてしまった装備である。


尾部を拡大

 翼の後ろに「ガス噴出孔(噴嘴)」があり、機体の下には「水上推進ガス孔」が描かれている。着水後はこれで揚陸場まで移動するようだ。
 ここで発想を欲張れば、『水上を高速機動し敵艦隊を壊滅させる』兵器に発展するのだが、「次に使える」ためか、そこまでは描かれていない。

 現代の大型輸送機が戦車まで運搬することを思うと、『空想兵器』の王様「空中戦艦」は、すでに製造可能になっているのではなかろうか(AC−130は、カタチにさえ眼をつぶれば、立派な『空中砲艦』と云える)。
 (おまけ)
 一色ページには、「ロケットの応用」と題して、以下の画もある。


「ロケット砲艦」と「ロケット砲兵」

ロケットの応用
各種新兵器

 海軍艦艇において優に四万噸、四〇糎砲装備の主力艦に勝る威力を持ったロケット砲艦が出現し、その必要噸数は数十噸でたりるという。

 砲兵隊もロケット式砲弾により大砲は軽い発射筒と変り、砲架も軽く持運びは敏速となり、且つその射程距離、爆発破壊力は普通の砲とは比べものにならない程大である。


 後のミサイル時代を予言したような言葉だ。しかし、それがビジュアル化される時、「大口径弾を撃ち出す、短砲身の大砲」の姿をしている所にこそ、注目しなければならぬ。
 この画を見て欲しい。

 説明はこうだ。

 ロケット砲を応用したこの超遠距離砲は実に四千キロ以上の性能を持つと予測され、反動の強い大初速を必要としない上にどのようにも加速できる。

 現代の読者諸氏なら、すぐに弾道弾の姿を思い浮かべるだろう。しかし画では、大砲なのか、ロケットランチャーなのか良く判らない―どこから何が飛んでいくのだろう―モノになってしまっている。
 適当な支え(ロケット花火の棒を差す空ビンから、サターン5型の発射台まで様々だが)だけで、大砲ほど大がかりな仕掛けの要らぬ―安全に飛ばす・標的に当てる技術は別にして―ロケットではなく、あくまでも「ロケット砲を応用したこの超遠距離砲」と書くところに、昭和17年当時、『大砲』から離れる想像力を持つ困難さを物語っている(それは人間を月面に送り届けるのに匹敵するはずだ)。

 昭和12年に刊行された、「婦人家庭百科辞典」(三省堂、本稿ではちくま学芸文庫の復刻版を使用している)には、「ロケット」の項があり、以下のように記述されている。

 爆発によって射出する瓦斯体の反動作用を利用し、これを推進力として極めて急速度の進行力を得ようとする装置。現に研究中のもので、実現の暁には月世界への旅行も可能であろうといわれている。

 この文章から、スペースシャトルはもちろん、V2号、サターン5型など現代のロケット・ミサイルの姿を想像出来るだろうか?