新案兵器 「除雪戦車」

「機械化」 昭和17年8月

 この新案兵器の除雪戦車は、底面橇状をしており、発動機は車内にあって後部推進ペラを動かすと共に除雪ペラを動かして進むのである。障害があれば引込式の車輪を出して乗り越え、車内には十分暖房装置をなして、戦闘の遺憾なきを期しているのである。

除雪戦車

 鉄道ファンにはおなじみのロータリー式除雪機構を備えた戦車である。

 コンセプトとしては、ドイツ軍が東部戦線で使用していた、プロペラ橇に近い。兵員数名を乗せて、雪上を移動するドイツのプロペラ橇が、物資輸送任務を想定していたのに比べると、こちらの方が 「夢」 度が高いのは云うまでもない。 「新案兵器」 たる所以である。


 図版下にある側面図を見ると、橇というよりも中国などで使用されている連結バスを装甲した感がある。後尾に舵を持っているようだが、雪上を走る橇に対して、このような舵がどこまで効果があるのか疑問である。また、前部胴体上部に20粍クラスの機関砲を備えた 「砲塔」 と、後部胴体に二つ装備された銃塔、そして装甲された本体を考えると、案通りに雪上を滑るがごとく進撃できるかは、怪しいと云わざるを得ない。


 現代の技術で甦らせるならば、ホバークラフト式にした方が、より実用的である。「橇」 というところに時代の限界があると云える。暖房装置が完備しているのは、読者としてなんとなく嬉しいところである。


 架空兵器イラストとしては私好みである。砲塔の左右に突き出した、測距器? がSF的である。この口絵が何色だったか既に忘れてしまっているのだが、黄色の地と赤のアクセントを入れれば、そのまま東宝特撮映画に出てきてもおかしくない。「信吉 画」とサインのある、このイラストレイターが何者であるのか知るよしも無いのだが、 「機械化」 は小松崎 茂がメカニックイラストレイターとして注目されるきっかけとなった雑誌であるから、何らかの影響を受けているかもしれない。小松崎自身、複数のペンネームを駆使していたことから、本人作の可能性も捨てきれないが、私は小松崎茂の研究家では無いので、結論は出さない。


 小松崎 茂の戦時中の仕事の成果を見たい方は、学研の 「小松崎 茂の世界」 (根本 圭助) に当時のイラストが数多く ( 「兵器生活」 で取り上げようとしているネタも含む)掲載されているので、興味のある向きは必見。兵器イラストレーション史に興味がある向きにもお勧めである。当然プラモデルのボックスアートが好きな方は万難を排して購入すること。近年の若いファンには忘れられつつある画家であるが、高荷 義之の師匠でもあるから、「兵器生活」 読者はすべからく購入されんことを希望する。( 「信吉」 さん、扱いが粗略でゴメンナサイ)  

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