矢でも鉄砲でも持ってこい!
今回も芸無く「機械化」(S17.5)から「空中戦車兵団」を御紹介する。画像サイズが大きいので、まずはテキスト部分から読まれることをお勧めする(笑)。
晴れわたった南国の空−飛来した荒鷲部隊からなにものかが投下された。
おお、近代戦の花形、落下傘…。ああ燦たり、空中戦車兵団…。
わが陸海軍落下傘部隊の戦果にこたえて落下傘技師友廣宇内先生考案、「空中戦車兵団」は裏面及び本文112頁を参照して下さい。
落下傘技師(おお!本職だ)友廣宇内 考案、小松崎御大画の「空中戦車兵団」!とりあえず上の画の説明をすると、左上より「大型輸送機」「戦車が輸送機から離れた瞬間」、
中央には「三頓から五頓までもちこたえられるように曳索も頑丈に作られている」「落下傘大型二個」「三頓から五頓までの軽戦車」「降着離脱機 戦車が降着した瞬間に外れる」「重量物懸吊の為に特に丈夫に作られた落下傘」、
右上は「兵団を護衛する戦闘機」、戦車の下には「航空機用の「オレオ」緩衝器を装置して接地に備える緩衝器は油圧式」「接地緩衝器(枠体)降着時に使用する」
右下の丸内は、緩衝器の説明で、「1 ピストン」「2 空気室 赤い所は油」「脚起動機」「「オレオ」緩衝装置 内筒のピストン@がシリンダーの油Aを圧縮し油の抵抗によって衝撃を吸収する」とある。
重量3トン〜5トンの範囲の戦車だと九四、九七式軽装甲車あたりを想定しているようで、イラスト(版ズレがひどいのは、当時の印刷事情によるもので、当方のスキャン時の事故にあらず)の戦車も九四軽風である。
さて「機械化」の現物では上のイラストをひっくり返したり、112頁にとばなければならないのだが、ここはWebの利点で別ページへジャンプ!(ただしこれも重いよ)
さて、今回はかなり気合いの入った記事構成となっており、友廣技師による解説も別途用意されている。では解説をどうぞ
「未来兵器 空中戦車兵団 とはどういうものであるか =空中戦車兵団のあらましと用兵と降着用器材について=」(長いタイトルだなあ…)
はしがき
空中戦車兵団というのは、ある空想のもとに名付けた仮に呼んでいるところの機械化兵団であります。
仮に呼んでいるのですから、たとえば空中機甲兵団といってもかまいません。
この兵団は航空機の発達につれて、きっとちかいうちに組織されるようになると思われます。
ですからつぎにお話をいたしますいろいろのことがらも、空想ばかりの話でなく、かならず将来こうなるに違いないという科学の夢を多分にふくんでいるのです。
空中戦車兵団のあらまし
空中戦車兵団は、機甲部隊の立体化と一体前進を意味するものであります。
今までの落下傘部隊を、もっと強くするためにつくられるのか、それとも機甲部隊のはたらきを、もっと活発にさせるのか、どちらともきめがたい密接な関係があることと思うのですが、どちらにしてももしこの兵団がうまれるようなことになりますと、まさに機甲部隊は鬼に金棒ともいうべく力強い限りです。
この兵団は、機甲部隊の中規模のものではなく、大兵団組織でなければなりません。なぜならば航空機と、落下傘が引き受けてくれる重さと、大きさの、範囲内の近代兵器は、一通り整うことができるからであります。
否そうとう大きな物でも分解ができて、組立がかんたんならば、こんなものまでも、と皆さんがおどろかれるようなものを、たくさん入れることができるのであります。
しかし、本兵団の中心となる戦車は、豆戦車であります。中戦車、重戦車の空中補給は今までのところではむづかしいのです。
本兵団の役目は、あとから続いてくる本格的の大機甲部隊の露払いとでも申しましょうか、もっとわかりやすくいえばそのあとの大部隊が主力戦艦とすれば、本兵団は駆逐艦に該当しているわけです。
中戦車、重戦車もできるならばこの兵団の中に加えたいのですが、それらのものは航空機でどうにか運べるにしても、落下傘で無事に降下させるということは、よほど大きな傘を使用しなければならないでしょうし、とにかく一寸専門的にみてむづかしいと思います。
もっとも航空機そのものが着陸して荷物をおろすのなら問題はないのですが、そんなおあつらえ向きの着陸場がどこにでもあるというわけには参りません。
そこで、お話をもどして、やはり空中補給ということになりますが、この大きな重さのものを、うまくおろすためには先にもお話しましたように相当大きな落下傘も入用ですし、それになかなか早い速度でおりるのですから、ここにはじめて適当な緩衝装置の必要がおこってくるのであります。
もっもと緩衝装置をほどこしていても、おりたあとは、ある程度まで地中に埋まってしまうので、その処置には苦心します。
しかし埋まってしまったものを、掘り出すのにあまり時間をかけていたのでは、この兵団の意味が失われてしまいます。
この兵団の戦車は、30頓級一台よりは10頓級三台の方が、むしろ効果があるのですから、戦略的にみて豆戦車を中心として、編成すべきですし、また本兵団の機動について活躍するそのほかのものにとっても、都合がよいと思います。
つぎに、本兵団が収容する機甲部隊の顔ぶれを一通りならべてみますと、
豆戦車、装甲自動車、自動自転車、自転車、貨物自動車、医療器械、重機関銃、通信器械、軽機関銃、弾薬、燃料油、潤滑油、糧食一切、組立式高射砲、小銃、小口径自動銃、軍用鳩、軍用犬
等で、これに適当な将兵を配備することになるのですが、その割当数量の明示等は、都合によって略します。
さて、その機動に際しましては、爆撃機と輸送用大型機と、戦闘機と、援護機等のように空軍総出動のかたちで、膨大な仕掛けの動員活躍があるのです。
本兵団の能力は、落下傘部隊ではできない大きな力をもっておりますから、その奇襲作戦が成功した場合には、想像以上の手柄をたてることは、今からはっきり知ることができます。
それに加えて、相当に自分の身を守る力と火力をもっておりますから、ただちに友軍機の離着陸ができますし、そうなればしめたもので、あとは予定通りの作戦計画を順調にすすめられます。
本兵団の苦手は、一般的でだれでもこまる相手と思いますが、説明してみましょう。
まずその筆頭は荒天であります。変転きわまりない気流の悪いのには一番へいこうです。輸送機も困りますし、落下傘で降下する将兵達も、一苦労であります。器材も流されてしまい諸々方々へ散らばってしまいますと、それを一カ所に集めて行動を開始するまでが容易ではありません。
また、もっと困難なことは荒天のために起こる無線の障害です。無電通信班は、作戦本部と、戦っている将兵の間をつなぐ橋のようなものであるのですから。
長く降りつづく雨も、苦手の中に入りますがしかし多少視界が悪くとも、悪気流よりは遙かにましです。
湿地や泥濘も困ります。
また砂漠はひろびろとしているのが取柄ですが、おりたあとに、まとめるのが一苦労ですし、かくれるものがないので、機動の機密を保ちがたいので、反撃をうけやすいのです。
河川も、前進する速度を封じられてしまって駄目です。
しかし、これはあらかじめ参謀本部で予測して避ければある程度はさけられると思います。
用兵について
本兵団の将兵は、きびしい訓練を経た落下傘将兵と、おなじようなはたらきをもっています。
本兵団の将兵は、自分達の与えられた持ち場持ち場をただ忠実にまもり、それに全責任を感じて、行動していくと言うことが、絶対にたいせつです。
たとえば三人なり、五人なりを一班とした戦車兵員は、自分達の番号をよくおぼえておいて、かならずその戦車を入手しなければならないのです。もし、その途中でほかの班の戦友が傷ついて倒れるようなことがあっても、これにかかわっているわけにはいかないのです。
しかし、自分達の班員は、どんなことがあっても力を合わせて、決められた命令にしたがって行動しなければならないのであって、そこには一瞬のためらうこともゆるされません。なぜならば、疾風枯葉を捲く、と言うようなすばやい動作が、本兵団のいのちなのですし、それでこそ総合された大きな威力が発揮できるからであります。
無線通信班は、本兵団の口ともなり、耳ともなって、いつでも最良の状態を保たなければなりません。戦闘状態のうちりかわりを早くしらせることは、そのときどきの命令のみなもととなるからです。
防御は、機関銃班を主体とします。
この班は、本兵団の中でも、一番早くおりていなければなりません。この班は、本兵団主力の降下中と、その終結を終わって、行動開始になるまでの準備中に敵に対して攻撃する力が弱っていますのでそれを助けたり、またはまもったりする大きな役目をもっているのです。
それから、主力部隊がすすんだあとに残って、基地を守らなければならないのもこの班です。しかし、このころになると、その一部は空からの敵に備えることになるかもしれませんが、これは防御警備の範囲がひろがり大きくなったというだけのことで、その役目には変わりないのです。
自動自転車と、銀輪班の活躍は、本兵団の神経として、あらゆる出来事をすこしでも、洩らさずあつめて、これを伝えるとともに、あたらしい次の命令をくばらねばなりません。それから、軍用犬、軍用鳩も、無線電信班の万一に備えた万全の策でして、これを無視することはできないのです。
降着用器材について
輸送機から、投げおろすすべての重量物に落下傘をつけるのは当然ですが、それが単傘ではいけません。荷物の安定性から言って、かならず複数以上三傘くらいにはすべきです。
時計仕掛器、降着自動離脱器、緩衝器等を指して、補助器材と申しますが、貨物の降下は、落下傘ばかりに頼るわけにはいきませんので、かぜのまにまに落下傘がおりていくのを、だいたい予定の位置に、それから予定の時間に降下するよう調節するのが、時計仕掛器でありまして、その作用としましては、ある一定の地点に到達しない内は、傘のひらくのを抑制したり、地上近くなって、徐々にひらくようにしたりして、調節するのです。
つぎに、降着自動離脱器は、第二の手つづきであります。
本器は、貨物が地上に着いた瞬間、すばやく落下傘と、貨物との関係を完全に断ってしまう役目をもっています。
第三は緩衝器であります。
緩衝器は、小貨物の場合には藁、綿、その他のものを鎮めた肘蒲団(クッション)のようなもので充分ですが、大貨物になりますと、やはり優秀なものを必要とします。この緩衝器は、航空機の脚のように油圧式オレオ緩衝器を、上手に応用した折りたたみ式の枠体緩衝器が、一番よいと思います。これは、投下された貨物が航空機からはなれると同時に、この枠体の足がニュッと下方に突っ張り出て、貨物が地上に着く時には、理想的な緩衝作用を発揮してくれるからです。
なるべくこれらの緩衝具は、単純で容易なものでなければならない、ということをつけ加えておきます。
とにかく以上の三つの手続をふまなければ完全な降着を期待するわけにはいかないのであります。
つぎに、各貨物の容器について、気付いたことをのべてみますと、軍用犬、軍用鳩は容器自体が、はじめから畜舎をかたちづくっていますから、そのまま戦うことが出来ますが、戦車は包装なしの荷姿のままで、投下した方がいいか、あるいは簡単に帆布等で仮に包装した方が良い手、これは今後研究の余地があると考えます。しかし、突起物はなるべくすくなくすることや、精密機械または破壊しやすいもの等は、とりはずして別な箱に入れた上で、一緒に付けて投下するのは、当然の主法でしょう。
それから、それらの容器には充分に夜光塗料を使用して簡単に遠視の利く大きな符号をつけるべきです。
これは、先に降下した乗員が、各自の受け持っている貨物の発見に便利だからであります。
ここに、本兵団の用法として、夕方が、明け方のほの暗いころを利用して決行されることが多いのです。
落下傘は、おのおの色別にして、何か一貫した合印をつくり、それをあらかじめ報せておけば、なおさらよいと思います。
さて、このくらいで、大体のあらましがわかっていただけたことと思いますから、私の話は終わりにしますが、あとは、皆さんでこのすばらしい「空中戦車兵団」の威力を御自由に想像して頭の中のカンバスに描いてみて下さい。
=をはり=
「空中戦車兵団」!以前このコーナーで紹介した「空中トーチカ」のコンセブトをさらに拡大、発展させたものであると云える。空挺部隊の内包している欠陥を補う形で、本案も考案されていることは云うまでも無い。空挺部隊の欠陥については、あえてここでは触れない。
なるほど、素晴らしいアイデアである。現実世界においても、大々的に実戦投入されたケースは殆ど無いようであるが、英国ではテトラーク軽戦車と、ハミルトングライダーを用意した話は有名であるし。ソ連でも実際に重爆撃機に軽戦車を搭載する研究を行っている。日本の場合も、輸送用グライダー製作に乗り出したが、これには戦車は搭載出来ず、グライダー式空挺戦車構想もあったが、実用には至らなかった。
このアイデアを実現しようとすると、やはりグライダーによる投入の方が現実的のようである。このへんは落下傘技師のアイデアである以上、仕方の無いことではある。
しかし、兵器生活者諸子は、友廣技師が敢えて書かなかった問題点を容易に指摘することが出来る。すなわち、「輸送機が攻撃されたらどうする?」と云う問題である。
太平洋戦争後半に行われた日本の空挺作戦は、輸送機による強行着陸方式を採らざるを得なかった事は周知の通りであり、敵戦闘機の攻撃で部隊のかなりの部分が戦闘以前に排除されたのも事実である。
連合国側の空挺作戦においては、幸いにして味方制空権下において降下は実施されることが多いようで、輸送中の被害についてはあまり話題にならないことであるが、やはり気になるところである。
この案の良く出来ていることは、単に兵器と兵員を降下させることのみならず、合わせて燃料や通信設備までも降下させる必要があると認めたところにある(自転車も降下させるところが日本軍らしい)。
当初は色々ケチを付ける予定であったが、戦況、生産、技術的な限界を別とすれば、しごくまっとうな案のため、ケチの付けようが無いのであった(笑)。架空戦記ネタとして最適である。