高いビルディングも一っ跳び!
ロケット戦車の憂鬱

 第一次世界大戦に登場した「戦車」が、形態・運用ともに実戦兵器としての方向性が定まったのは、第二次大戦が始まってからである。その間、各国はその工業力と台所事情により、いくつかの名戦車と、それらと同数あるいはそれ以上の「迷戦車」を考案・製造してきた。

 と云うようなごたくは戦車の解説書にお任せするとして、今回御紹介の栄に浴するのは「機械化」20号(S17.7)の新案兵器、その名も「ロケット戦車」である。

ロケット戦車

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ロケット戦車解説

 戦車は現在においてもその地形の反動を利用して相当跳躍するが、その力を更に強力にしようとロケット戦車を、ここに新案してみた。
 構造はと云うと地面に着く反動に対しては、無限軌道を打ちつけないように空気圧の高いゴム製緩衝具をつかい、それを電動ポンプで油圧力をかけ跳躍と共に無限軌道より下に降る装置をし、又活動には普通エンジンを用い、ロケット動力の発生装置には、圧力にて燃料が爆発室へと送り、爆発ガスを後方噴出孔より噴出して推進するようにしてある。
 これによって飛び上がる力は強大で、敵の対戦車砲に砲撃されにくい、非常な戦闘力と防備力をもつ戦車となる。
 作画は三村 武とあるが、小松崎 茂の別名であることは周知の事実である。掲載時には二色カラーであったが、例によってモノクロである。カラーでご覧になりたい向きは、学研「小松崎 茂の世界」(根本 圭助)に他の作品とともに掲載されているので、参照の事。


 早い話が「マッハ号」の戦車版である(笑)。マッハ号に関しては読者諸賢は既に御存知のものと思うが、若年の「兵器生活」ファン(って居るのだろうか?)の便宜のために少し解説すると、タツノコプロのTV漫画「マッハGO GO GO」に登場するスーパーカー(と云う言葉はまだ無かったと思うが)の名前である。007(これまで説明するほど私はお節介では無い)のボンドカーよろしく様々な秘密装備を持ち、毎回なぜかゼッケン5番で出場し、一番でゴールに飛び込む車のことである。
 マッハ号の装備の一つに、走行中障害物を飛び越える、ジャンプ装置とでも云うものがあり、毎回危機をクリアすると云うお約束になっているのである。


 さて、この新案兵器、どの程度実用化の価値があるものなのだろうか?

 戦車登場時からの任務の一つに、鉄条網等で防備された敵陣の突破と云うものがある。現実の戦車の場合は、その無限軌道(今時こう云う表現はしないでキャタピラあるいは履帯と云うのだが)と自重とで障害物を押しつぶして行くものである。

 一方、戦車を待ち受ける側では、龍の歯などと称されるコンクリ製の凸凹を自陣に敷設したり、対戦車壕のような一種の落とし穴を用意するものとされていた。歴史の流れでは、このような守備側の防備は流行らなくなり、もっぱら地雷と対戦車砲・ミサイルとヘリコプタ、そして戦車そのものが戦車を止める役目を負っている。


 「戦車」である以上、相当の装甲とそれによる重量があることは明白で、それを飛び上がらせると云うことは、モーターサイクルをジャンプさせるのとはレベルが全く異なる。解説ではロケットエンジンを搭載しているかのような記述があるが、重量数トン〜十数トンの物体を静止状態から地上数メートルの高さに跳躍させるためには、かなり大型のロケットモーターを装備させる必要がある。当然そのための燃料量も増大し、車体の大型化と装甲の低下を招くことは明らかである。

 また、跳躍を何度行えるか、と云うことも考慮しなくてはならない。例えば対戦車壕を飛び越えたものの、別な障害物の真正面に着地して、ロケット燃料が尽きてしまったらどうするのか、と云う問題が残る。


 以上の理由により、残念ながらこの手のジャンプ戦車が実用化されることは、今後も無いものと思われる。その証拠に第二次大戦中の戦車の進化は、大火力+重装甲=車体の大型化をもたらし、飛び越えるべき河川は潜って進み、障害物は踏みつぶすか、工兵車両に粉砕させる方向がほぼ確定したかの感がある。
 また、高機動性が要求される任務においては、装軌車両では無く、装輪車両あるいはヘリコプタを利用するのがトレンドとなってきているようである。



 しかしながら、月面のような低重力地帯における地上戦闘においてならば、このような特殊戦車の出番が無いとは限らないし、昨今のTV漫画に登場する人型兵器は、机上の空論に終わった「ロケット戦車」のコンセプトを受け継いだものであると云うことが出来るだろう。



 この戦車のデザインであるが、3、4号系列の角形砲塔と、95式軽戦車風のシャシから構成されており、なかなか私好みのスタイルである。SFメカファンはキューポラに付けられた「ツノ」(実際は展望兼砲隊鏡とのことであるが)に後のSFメカに通じる空気を感じられることと思う。

 また、兵器ファンは車体前面に取り付けられた「高熱弾を防ぐ石綿」を見逃してはならない!もしかしたら90式戦車の複合装甲板に石綿が挟み込まれているかもしれない…。


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