卒研IIレジュメ

1998年1月26日 伊戸川 暁


「オーガニゼーションズ」(J. G. March and H. A. Simon, 1958)

(後編 − 4章から)


前回の脱落分(「『個人が影響を受ける』とは:」の直前に挿入のこと)
3.3 満足と生産性

メンバーの満足度と生産性は、
相関するというよりはむしろ複雑な関係にある
(例えば、図3.5(p.76)に示したような関係)

「3つの枢要な代替的選択肢」(p78):
1) 組織を離れる
2) 組織の生産規範に従う
3) 組織内で、生産を高めることなく満足を得る機会を求める
→組織に残るか否かの選択(1と2,3の対立)と
  生産をするか否かの選択(2と3の対立)
    次の節は後者について論じている

3.4 生産への動機づけ

(ここから本編)
4章 動機的制約 − 参加の意志決定

参加の意志決定は、組織の諸条件についての理論の中核に位置している
→「組織の均衡」(Barnard 1938, Simon 1947)

4.1 組織均衡の理論 

基本的には 動機づけの理論

Simon - Smithberg - Thompsonの公準(1950)
→組織の参加者は、組織からの誘因が 組織への自分の貢献よりも等しいか大きいと
「感じられる」ときに限り、組織に参加し続ける。(第3/5公準)

誘因→効用への変換関数(効用関数)は 階段状を仮定
貢献についても、貢献→効用という「効用関数」を定義する

定義例:「貢献をなすために参加者が放棄している代替的選択肢の価値」。

観察問題への2つのアプローチ
1) 参加者の行動から効用の差分を算定できる
2) 効用関数を仮定することによって、誘因と貢献の変化から
   参加者の行動を予測することができる

誘因−貢献の零点は満足度の零点とは異なる
e.g. 満足度 = 転職の願望
       効用 = 転職の願望 + 知覚された転職の容易さ

作業仮説:
1) 効用関数は緩慢にしか変化しない # 時係数? (←よく意味分かってない)
2) 効用関数は誘因/貢献に対して単調である
3) 諸階層のかなりの広範囲に亙って、効用関数はほとんど同一である
# 個人的には、「変な効用関数を持った人」を少し混ぜてみたいのだが……。

4.2 参加者

4.3 従業員参加 − 参加の基準
従業員の特殊性→権限関係の受容(雇用契約、など)

自発的離職≠解雇

尺度→生産性・欠勤率・離職しているか否か
# or 労働忌避、病欠・欠勤、離職
↑これらは実は独立(Acron Society Trust 1953, Morse 1953, Brayfield and Crokett 1955)
  相関が生じる条件

4.4 従業員参加 − 一般モデル

「誘因−貢献」の差引超過分
←  組織を去る知覚された願望
←  組織を移動する知覚された容易さ

4.5 組織を移動する知覚された願望に作用する諸要因

  現在の組織に対する参加者の満足
  組織から離れること以外の選択肢に対する参加者の知覚

4.6 組織を移動する知覚された容易さに作用する諸要因

景気が良いほど自発的な離職は多い

組織移動のし易さ:
  選択肢に含まれる組織の数及び序列
  自分の位置
  移動する/しないの基準点(満足)



探索
←  満足(−)
←  仕事への慣れ(−)

4.7 他の参加者への拡張
↑従業者以外への。
条件の相違:
e.g. 消費者は、重業者と違って、「無行為」という選択肢が許されない

代替的選択肢の可視性
  [雇用]市場は、全ての代替的選択肢が全ての買い手と売り手に知られていない点で、
  「完全市場」ではない
代替的選択肢を探索する性向
  低い探索性向の例→ブランド指向
既存の代替的選択肢についての満足の水準
   希求水準の変化
組織を去ることに代替する受容できる選択肢の利用可能性
  組織を離れずに変化を引き起こす代替的選択肢

4.8 オポテュニズムと組織の存続
# opportunism→日和見主義、 らしい。
組織が存続するための適応

  参加者の知覚された組織への影響力
  かわるべき誘因が他の組織において即座に利用可能になっていると
    知覚されていない程度
  個人にとって重要な特定の誘因を破壊することなく、
    有利な「差引超過分」を回復する可能性があるとみられている程度

4.9 結論

「誘因−貢献」の公準

組織への不満が退出につながるかどうか
  参加者に知覚された雇用契約の可塑性
    不動である場合、選択肢は「受容」か「拒否」かしかない

5章 組織におけるコンフリクト

コンフリクト(conflict)の定義:
「個人もしくは集団が、行為の代替的選択肢の中から一つを選ぶのに
困難を経験する原因となるような、
意志決定の標準的メカニズムの故障」(p.169)

個人内・組織内(関心の重点)・組織間



5.1 個人コンフリクト

簡単な意志決定状況とは:
1) 喚起された選択肢のうちの一つが他のものよりも明らかに良い
2) 1)で選ばれる選択肢が受容可能なほど十分に良い
# 最適≠満足、ということ。(この主題はこの本で何度も繰り返される)

コンフリクトのパターン:
1) 受容不能 − 選ぶべき選択肢は明白なのだが、それに満足がいかない
2) 比較不能 − 予想される結果は分かるが、決められない #→確率分布
3) 不確実 − 結果の予想もできない

選択肢の分類:
                     u          w
1) 良い選択肢        大         小
2) 無難な選択肢      小         小
3) 混合した選択肢    大         大
4) 貧弱な選択肢      小         大
5) 不確実な選択肢     ?          ?
ただしここで、
u: +に評価される自体を導く選択の確率
w: −に評価される自体を導く選択の確率


5.2 組織内コンフリクト − 組織の中の個人コンフリクト
コンフリクトが生じると、それを解消しようとする努力が生ずる
限りのない資源は、同時に目的の差異を増大させもする

5.3 組織内コンフリクト − 組織の中の集団間コンフリクト

部門間の相互関連↑
←  共同意志決定の必要感↑
←  目的の差異↓ or  認知の差異↓

5.4 コンフリクトに対する組織の対応
次に、コンフリクトを変数とする関数を考察

コンフリクトへの対応手段
分析的過程           … 公私ともに目的一致
1) 問題解決
  目標は共有されている
  情報収集が重要
2) 説得
  目的はどこかで共有されていると仮定
(広義の)バーゲニング … 公のみで一致
3) バーゲニング
  目的の不一致が前提されている
  「公正」「自明性」の価値
4) 「政治的工作」

#バーゲニング→取引・交渉 (横文字使うなー)


5.5 組織間コンフリクト

バーゲニング過程を通じてのコンフリクトの解消 → ゲームの理論
n人・非零和ゲームの理論
NeumannとMorgensternの理論の あまりに「経済人」な仮定、特に「完全知識」
連合の初期条件・探索強度のコントロール

バーゲニングにとって「公正」とは何か → 裁定の問題

5.6 結論

個人内のコンフリクト・個人間のコンフリクト

比較不能・受容不能・結果の不確実性

集団間コンフリクトの必要条件:
  共同意志を決定する必要感
  目的の差異或いは知覚の差異の存在

動機づけの要因と認知的要因との間の強い相互作用

6章 合理性に対する認知限界

3〜5章→人間を器械とみなした「古典的モデル」への重大な修正
6〜7章→その一方での、人間の合理的な側面に焦点を当てる



6.1 合理性の概念
人間の持つ合理性の幾つかの特徴

「経済人」モデル:
1) 選択肢は所与であり、どのようにしてそれらを得るかは不問に付される
  選択肢と結果の関係:
2) 選択肢とその結果の対応に関するモデル

3) 「効用関数」あるいは「選好序列」の仮定
4) 上のモデルに基づいた選択
問題点:
  せいぜいが「主観的」な合理性
  組織的・社会的環境こそが重要な変数

1) 選択は主体のもつ「状況定義」によってなされる
2) 「状況定義」は決して所与ではなく、諸変数の関数である
刺激→反応 …… 探索の程度によるグラデーション
常軌的な行動から非常軌的な行動まで
プログラムからプログラムの作成まで

最適な選択肢≠満足できる選択肢

6.2 組織の中の実行プログラム
組織の意志決定が「プログラム」化される過程

プログラムは観察から推定できる→あまりにも自明だが重要な事実

ステップへの分割
予測可能性
速度・活動内容・仕様

o プログラムの構造
# この本では、必ずしも形式的なそれのみを指していない(ようだ)

o 自由裁量の性質(p.225)
探索活動
戦略を適用する際のデータの推定 #?
個人的・非公式なプログラム
問題解決ないし学習の過程を通して実行プログラムを作成し、また修正すること

最適化なら 大きなコスト、しかし「満足化」なら それほどでもない


複雑度の低減のために、大抵のことを
既存の低次のプログラムの組み替えで済ますという方策




6.3 知覚と一体化
組織化の過程が、動機的というよりはむしろ知的な過程であることを示す

目的形成の過程における「認知」の役割

o 複雑な現実→[単純化・フィルタリング・歪み]→状況定義 (→プログラム)

「目的による組織」
  手段 − 目的による問題分割
    各人に行き渡る小問題を、一人の手に負えるほど十分に小さなものにする

目的を分割したとき、
下位目的以外のものが見えなくなってしまう傾向(注意の焦点の移動)が存在
  個人内
    準拠枠を守ろうとする傾向
  組織内単位
    集団内のコミュニケーション
  組織内単位の環境

組織の特定の部分がどのような特定の下位目的を見出すか
→選択的なフィードバックの効果

決定過程は普通は示されずに 結論のみが示されて、
それが次の人にとっての「事実」になる(p.237)

操作的 …… 目的のための手段が知覚されているさま/漠然としていないさま
↑事前操作的/事後操作的、<-> 非操作的

6.4 分業
意志決定過程が分業に対して持つ意味

個人の専門化≠組織内単位の専門化
比較的プログラム化された課業の遂行のために最も効果的な分業(本節)≠
比較的プログラム化されていない課業の遂行のために最も効果的な分業(第7章)

下位プログラムの専門化↑ → 組織内下位単位間の相互依存性↑
偶発的事態に対する調整の必要性

「相互依存への許容度」

∴安定した環境ほど専門化が進む
→標準化・部品の互換性・buffer在庫
計画による調整/フィードバックによる調整
前者はヒエラルキーを辿らない

6.5 コミュニケーション
分業のために生じてくるコミュニケーションの必要とコミュニケーション過程



用語の定義によってコミュニケーション能率の向上を図る
コミュニケーション能率↑ → コミュニケーションへの依存↑(自足性↓)

コミュニケーションにおける分類→不確実性の吸収


チャンネル使用の自己強化的作用
コミュニケーション・パターンの確立→意志決定への影響
  切迫時ほど大きく効いてくる



6.6 組織行動と合理性の限界
意志決定過程の分析から引き出せる、組織構造についての幾つかの広い命題

1) 最適化というよりはむしろ満足化を行っている
   また、満足のレベルは状況によって変わり得る
2) 選択肢及び想起される結果は、探索を通じて逐次的に発見される
3) 個人や組織は、プログラムのレパートリーを作り、
   反復的状況において使用する
4) 特定の各々のプログラムは、限定された範囲内の状況と結果に対応している
5) 各々のプログラムの間の連結はルーズである

プログラムの高次の部分ほど安定度は高い

「合理性に限界がないなら……安定的な組織構造などありえない」(p.261)


7章 組織におけるプランニングと革新

7.1 創始の概念

「創始」→既存の組織のプログラムにはなかったものを作ること

「埋没原価」(変化を起こす際に発生するコスト)
また、「満足↑ → 探索↓ → 継続↑」。

行為/無行為
「無行為」→組織にとってリソースを消費せず、
  いくらでも引き受けることのできる行為
o 複雑だが空虚な因果関係

或る要求が満たされず、かつそれを満たす
行為プログラムが無い場合は、「作られる」。

7.2 革新の過程

個人的レベル/組織的レベル
記憶と問題解決
再生的(記憶の探索)/生産的
探索と選別、高度の無作為性
手続的プログラム/実体的プログラム


o 問題解決アルゴリズムに関する仮説
1) まず問題解決者のコントロール下にある変数が注目され、
その範囲内で動くプログラムが探索される
2) 1)の条件で満足のいくプログラムが見出せなかった場合、
問題解決者のコントロール下にない変数に注目が移る
3) それでもだめならば、満足のレベルが緩和される

高いレベルの探索の制度化(-> communication channel)

集団による問題解決が個人による問題解決に勝る点
1) 数多くの独立の判断のプール
2) 社会的影響によってなされる解法の修正


7.3 革新の契機

この本にいう「満足水準」←心理学にいう「希求水準」
  時間の経過とともに、「緩慢に」現実に順応する傾向

「革新を行なうのに最適なストレスの水準」がある
ただし、ここでいうストレス→希求水準と達成水準との差
  過小ならば無感動、過大ならば絶望

活動に従事する性向 ←時間の切迫・目的の明確性

新しいことをするときには、別動隊を作ることが有効

7.4 プログラムの形成

プログラムの形成にはアイデアマンを、実行には官僚を。
→形成時に決めたことはほとんど再検討されない

企業者(アイデアを出す人)/投資者(提案を現実化する人)
/仲介者(前二者の仲立ちをする人)

資源配分:
  企業者→投資者のコミュニケーション構造
  選択肢の提示される順序
∴やはりこの場合も、意志決定は「注意のきっかけに依存」している

仮説: アイデアは、たいていは「借り物」である

選別の濾過作用(フィルタリング)はあらゆる箇所で起こるが、
「不確実性の吸収」が行われる点で濾過作用は最大となる

∴新提案は、内部コミュニケーションを通じて、
組織の記憶によって試されようとする。

手段−目的分析(或いは「因子分解」)によって、既知の手段まで降りる

  各段階での実現可能性の判断
  各手段の相対的独立の必要
  ↑この条件が満たされるところまで分析は続けられる


因子のレベルが下がるほど、解決の速度は速くなる

7.5 組織内レベルと革新

組織の目的構造と組織のヒエラルキーとの関係
  下の方に行くほど、目的は操作的になる

合成組織→全ての操作的な目的が、複数の部署にまたがっているもの #?
典型例→「ライン補助組織」
  「ライン部門」と 共通の家事的部門(補助部門)より成る

バーゲニングが多く見られる→
  目的の分割が操作的になっていないか、
  目的が共有されていないかのどちらかの兆候

操作的目的は 行為プログラムの評価の基礎となる

革新の率↑:
←  ライン部門の自足性↑
←  下位単位間の相互依存性↓

創始の権利は権力の源泉である

7.6 プランニングの過程
# プログラム化された意志決定とそうでない意志決定

「セントラル・プランニング」における計画/非計画論争
経済学上の論争から意志決定の問題へと発展



Mises(1949)-Hayek(1944)の説では、
人間のプランニング能力の現実的な限界を所与とすれば、
分権的なシステムは集権的なシステムよりもうまく動作すると結論されている



7.7 結論

1901-25 科学的管理法
1926-50 人間関係論
1951-   →認知的観点
特に6・7章は体系性を欠いてしまった



itogawa6@dolphin.c.u-tokyo.ac.jp