当会の山田達郎君は、2002年11月にカナダ・ロッキー山脈バンフ国立公園内レイク・ルイーズに出かけ、1本の初登攀を始め、WI グレード5級ルートを完登しました。

Louise Falls
Canadian Rocky Louise Falls Ice Climbing Report

ルート長110m、ルートグレードⅡ、ピッチグレードWI5
カナダロッキー山脈バンフ国立公園内レイク・ルイーズ        2002/12/24 山田達郎、Louise falls 全景Lynette Lo

 ニュージーランドから帰国して1年、今度はアイスクライミングに打ち込むため単身カナダヘ飛んだ僕だったが、2ヶ月間の滞在のうち(本当は3ヶ月間の予定だった)実質クライミングに費やせたのはわずか3週間だった。と言うのも、行ってすぐに20万で買った車が3日でブッ嬢れたり、住む部屋やクライミングパートナーがなかなか見つからなかったりと、1人で海外に出るとよく起こる面倒くさい諸事にかなりの時間と莫大な金を費やしていたからだ。
 しかも日本では6級をリードしいた僕もカナダでは、余りに長いルートと、その辛いグレーディング故に3級から始める羽目となった。それでも逆境に刺激され、クライミングマシーンと化した僕は2日に1回というぺ一スでクライミングに行きまくり、帰国直前になんとか5級を1本落とすことが出来た。それがこのLouise Fallsだ。
 クリスマス・イブの朝5時に起床、いつもより多いオートミールで朝食を済ませる。昨日準備したクライミングギアを車に積んで1人ホステルを出発。昨夜は緊張してなかなか寝付けたかったので少し頭がボーっとしているが、フロントガラス越しに無数の星が輝いているのを見て少しはっとした。「よしっ!」天気予報どおり気温もとびきり低い。
 今回のパートナーであるLynette(読みはリネット)を彼女の家から拾い、ハイウェイに乗ってキャンモアの町を出た。LynetteとLouise falls 1ピッチ目(WI 3) リード:山田は友達の紹介で知り合った。共通の友達が勝手に僕の電話番号をLynetteに伝え、2日前に突然知らない女から電話がかかってきたのが彼女だった。初対面の人間とクライミングに行くのもどうかと思ったが、もはや1回でも多くクライミングに行くことがマシーンに与えられたミッションなのである。Louise falls 2ピッチ目 リード:Lynette
 8時にはレイク・ルイーズの町に着き、ホテルの駐車場に車を止め、湖の対岸に見えるLouise Fa11sに向かって完全に凍結している湖面の上を歩いてアプローチする。9時、ルート取付き。日の出と同時に登攀開始。
 1ピッチ目(30m,3級+)は僕がリード。85度のノッペリした氷の壁で氷質は最高。「うぉー」一気にモチベーションが上がってきた。1段目のテラスでLynetteをビレイ。
 2ピッチ目(35m,3級)はLynetteにリードしてもらう。出来れば3ピッチ目の途中、核心である氷柱の下まで伸ばすよう頼んだが、スクリューを頻繁に打ち過ぎて切らせ、結局2段目のテラスで交代となった。Louise falls 3ピッチ目(WI 5) 核心部リード:山田おかげで3ピッチ目(45m,5級)は僕がフルに登らなければならなかった。
 良かった氷質もここから脆くなり、氷柱からは大量の流水が落ちている。テラス右端のビレイ点に居ても水飛沫がかかるほどだ。駐車場の気温計は-15℃を指していたのに…。後で調べたら気温が低くても水量の多い滝は冬中、氷の上を水が流れるそうだ。ただでさえ自分にとっては無謀な計画だ。帰国を前にしてケガなどしたくはないし、何も聖なる日に…と完全に震え上がった僕はLynetteに「ここで下りようか?」と聞くと、「あなたにとってカナダ最後のクライミングなんだから、行けるところまで行ってみたら?」と笑う。チクショウこの女、完全にひとごとだと思ってやがる。O.Kわかったヤッてやるよ!行けるところまでってのはスクリューに落ちるまでってことだな?おぉ、落ちてやろうじゃねえか。ありったけのスクリューとフックまで持って僕は、-15℃の中シャワーを浴びに出掛けて行った。最初の15mは垂直のマッシュルーム集合体だ。アックスもスクリューも全く効かないのでロッククライミングの様なムーブで思い切りランナウトする。何度か体重を乗せたマッシュルームが壊れ、肝を冷やした。
 Louise falls 3ピッチ目 核心部の山田(拡大写真)氷柱の基部まで来て見上げるとその傾斜に驚いた。下部は直径わずか1mの垂直なフリー・スタンディンク・ピラー。上部は厚く広いシャンデリアで抜け口がオーバーハングしている。「オーマイゴッド」ハンブなんて聞いてねぇぞ。そもそも氷のくせに垂直以上になるなんてズルイじゃないか?しかしここまで来て引き下がるわけには行かない。とりあえず氷柱の裏に回りレスト。腕を伸ばして表側にスクリューを3本打つと、おそるおそる氷柱の表に回り、上を見上げ何も考えずに手足を規則的に動かした。アックス、アックス、足、足…。氷柱は意外としっかりしていて、あっと言う間にハング下まで達した。ふと下のスクリューを見ると既に5mは来ている。そう思うと急に力が入り、腕がハンプしてきた。「うう」何とかせねばと思い、とっさにシャンデリアの隙間に左手を突っ込んでジャミングを決めた。シャワーで濡れたグローブが氷の表面に張り付いて意外と効く。決して良いバランスではなかったが、すかさず右手でスクリューを入れプロテクションを取った。不思議なもので同じ状態にあってもランナーを取った後は遙かに体が軽くなる。あと5m。「行ける」。息の詰まるような浅いフッキングを数手慎重にこなし、なんとか核心のハングを越えた。下ではLynetteの「キャー、キャー」と言う歓声が聞こえ、僕よりも喜んでいるのがわかった。
 残すは最後の15㎜で、短い垂直のつららが段になっている。こんな物さっきのハングに比べれば、と思ったが念のため残り2本のスクリューをしっかり効かせ慎重に登った。「遂にヤッてやったぞ!」 太い立ち木でアンカーを取ると、シャワーでビショビショになったジャケットが一瞬にして凍りつき、達成感よりも先に寒さで体が震え始めた。Lynetteにフォローしてもらい、一刻も早く下りなければ。しかし完全に凍ったロープはワイヤーのように堅く、ハンプしきった腕で喘ぎながらのビレイとなった。
 ルートを立ち木からの懸垂3回で取り付きに戻り、初めてお互いの顔に達成感があふれた。時計を見ると既に15時を回っていた。取り付いてから実に6時間。2人とも全身バリバリに凍り付いていたが大笑いしながら、やはり凍てついたギアをパッキングして今朝付けた湖上のトレースを今度は夕闇の中、駐車場へと向かった。
 こうしてLynetteの無責任な一言にプッシュされることによりクライミングマシーンとしてのミッションを終えた僕は普通の人間に戻り、ものすごい肉体疲労と共に12月30目に無事(?)日本に帰国したのだった。確かにすごいトリップだったとは思うが、いったい今回は何を得たのだろうか?おそらくそれは、海外には1人で行くもんじゃないと言うことだろうが、なんか毎回そんなことを学んでは繰り返してる気がする。
《おわり》

【以下、山田君のカナダでの写真を掲載します】

カナダ山岳会クラブハウス
"Hede Kasoku" WI 4
"The Peanut Gallery" 30m Ⅲ WI 4
"Carmore Junkyard" 60m Ⅰ WI 2
"This House of Sky" 500m Ⅲ WI 4+
"Weathering Height" 100m Ⅲ WI4
"Keso's Curtain" 300m Ⅲ WI 4
"The Urs Hole" 300m Ⅱ WI 3+
クライミングレポート
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