人類の発展ー言語のもたらしたものー 

○ 地球上の数多くの動物のうち、なぜ人類だけが文化を発展させてきたのでしょうか?その理由の1つは、人類だけが「言語」をもったことでしょう。もっとも、サルやイルカも幾種類かの音声(あるいは超音波)の組み合わせによって、何らかの意味の違いを認識はできます。それでは、それらと人類の言語とはどのように違うのか、脳との関係なども含めて考えていきましょう。

1 人類の言葉の特殊性
 人類の言葉(言語)は、サルなどの音声に比べて大きく異なった特色をもっています。すなわち、人間の言語だけがいろいろな音声の組み合わせによって、それぞれ特定の意味をもった幾つもの「単語」を作りだし、それがさらに一定の法則によって複雑に組み合わさり、「句(フレーズ)」や「文」を作り上げているのです。

2 脳と言語の関係
 A 脳が大きければ頭がよいか?
(問1) 次の動物たちを、脳の重さの重い順に並べてみて下さい。

            ゾウ      ヒト       大型クジラ      ゴリラ      ネズミ


(ヒント) ネズミはどう考えても一番軽いですよね。あとは、惑わされずに素直に考えて下さい。

                             (問1の答えへ)

(問2) 上の動物のうち、全体重に占める脳の重さの割合が大きな動物はどれだと思いますか?
(ヒント) これはひっかからないで下さい。

                             (問2の答えへ)

 B 人間の脳の優秀さ
 人間の脳の中で、他の動物に比べて極端に進歩している部分の1つは、外側の厚さ4ミリほどの「大脳皮質」と呼ばれるところです。この部分は約900億個の細胞からできていて、ここで外から送られてきた複雑な情報をふるい分け、いろいろなものを判断したり考えたりする働きをします。その際、脳細胞の電気的変化により、さまざまな刺激が細胞から細胞へ伝えられます。
 ・言語中枢の存在
  @ 運動性言語中枢: のどの声帯を震わせ、唇や舌を動かして言語を発する。
  A 前総合中枢   : 個々の経験が集めれられ、記憶や理解をし、複雑な思考や推理の作用を行う。
  B 知覚性言語中枢: 他人の話した言葉を理解する。
 * このうち@とBは人間にしかありません。

 ・言語を発する時のしくみ
  ア 他人の言うことを口まねする時(意味がわかなくてもよい): 耳 → B → @ → 舌
  イ はっきり意味を考えながら自分でものを言う時       : A → @ → 舌 

2 言語のもたらしたもの
 ・ 今、おりの中に2匹のチンパンジーが入っていて、外にバナナがのったテーブルがあります。テーブルの足にはロープがついていて、それがおりの中まで届いています。
<条件> 1 ロープを引っ張れば、バナナがとれるように教え込みます。
       2 テーブルは2匹で引っ張って動く重さになっています。
(問3) 「協力すればバナナがとれる」ことを学習した2匹のうち、1匹を全く何もわからない別のチンパンジーと取り替えたら、どうなるでしょうか?
<ヒント> 1匹は学習済みです。しかし、…
                              (問3の答えへ)

答えと解説
〔問1〕 大型クジラ(9000グラム以上)・ゾウ(4000〜5000グラム)・ヒト(1400グラム)・ゴリラ(450グラム)・ネズミ(1,5グラム)の順です。これだとクジラが地球上で最も頭がいいことになります。でもそうではないですよね。つまり、単純に脳の重さだけでは比べられないということです。ちなみに、歴史上の偉人には脳の重い人が多いのですが(ツルゲーネフ2012グラム、カント1650グラム、ビスマルク1807グラム、横山大観1640グラム、桂太郎1600グラム)、平均以下でもアナトール・フランシス(ノーベル文学賞作家)1017グラム、ブンゼン1295グラムなどがいます。要は、使うか使わないかですよね!
                                (次へ)

〔問2〕 何と答えは人間ではなく、ネズミです!意外ですね、人間ではないなんて。参考に主な動物の体重比を次に示すと、シロネズミ 1:28、 テナガザル 1:28、 スズメ 1:34、 日本人 1:38、 ゴリラ 1:100, ハト 1:104、
カエル 1:172、 イヌ 1:257、 ニワトリ 1:347、 ウマ 1:400、 子ゾウ 1:500、 クジラ 1:2500 などとなります。では、人間の脳はどこが他の動物と違うのでしょうか?
 
                                (次へ)
〔問3〕 2匹とも学習していないのと同じ状況に戻ってしまいます。なぜなら、言語というコミュニケーションの手段がないから、学習済みのチンパンジーも新入りにやり方を伝えられないからです。これはアメリカの動物心理学者クロウフォードによって行われた実験です。学習した2匹のうち1匹を他のチンパンジーに入れ替えると、学習済みの1匹はすぐロープを引き、新入りに向かいやっきになっていろいろな合図や身振りをし、注意を引いて一緒にロープを引かせようとしますが、相手はポカンとしたまま。いつまでたってもバナナにはありつけません。勿論新入りも、相手の合図と関係なく自分で勝手にロープを引くので、偶然2匹が一緒に引いた時にテーブルは動きます。
これがもしヒトだったら、結果は明らかですよね。そう、言語によって「一緒にロープを引こう」と伝えることでしょう。ヒトの場合、こうして次から次へ後に続く者に知識が伝えられ、積み重ねられていく。これこそが文化の発達につながった、というわけです。

※ これらの問題と答え・解説は、祖父江孝男『文化人類学のすすめ』(講談社学術文庫、1976年)・時実利彦『脳の話』(岩波新書、1962年)・同『人間であること』(同、1970年)をもとにして作成しました。

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