荘園制度を支えたもの〜12世紀の農業革命


○18世紀後半、イギリスに始まった産業革命は非常に有名ですが、それと同じくらい重要な意義をもつのが、12世紀における西ヨーロッパでの農業の大発達です。ここでは、その具体的な様子をみていきましょう。

1)西ヨーロッパの植生とその効用
1000年頃の西ヨーロッパでは、ミズナラとブナが最も代表的な樹木でした。これらは建築用材や薪(まき)として用いられただけでなく、葉を落とすので、それらが腐植土となって、土壌を豊かにしました。特に小麦栽培には最適でした。
(問1)これらの木の実はドングリですが、これはまたある大切な目的のために使われました。それは何だと思いますか?
<ヒント> 人間が使うのではありません。

                               (問1の答へ)

2)三圃式(さんぽしき)農法
西ヨーロッパで12〜13世紀に発達した農法で、他人の畑、自分の畑の区別なく土地を3つに分け、1つは「春耕地」、1つは「秋耕地」、残りを「休耕地」としました。休耕によって、地中の有機物が適度に分解され、土の状態を良い方向に回復させることができました。
(問2)休耕地には、しばしば牛を放しておきました。この目的は何でしょうか?
<ヒント>牛のためだけではありません。

                               (問2の答へ)

3)犂(すき)の利用
西ヨーロッパの土は日本に比べてかたいために、鍬(くわ)ではなく犂を用いて耕しました。さらにこの犂に車輪をかけて馬や牛などに引かせたのです。

4)馬の利用
馬は軍事用として貴重でしたが、三圃式農法の発達によって飼料も豊富になり、飼育できる頭数も増え、農耕用にも仕えるようになりました。
(問3)牛に比べて馬が犂を引く利点はどこでしょうか?
<ヒント>競馬はありますが競牛はありませんよね。

                               
(問3の答へ)

(問4)犂の発明や馬の利用を可能にした大事な技術が農村内にも定着しました。それは何でしょうか?
<ヒント>共通する材質を考えて下さい。

                               (問4の答へ)

 
・けい駕(が)法(家畜と車とのつなぎ方)の発達
(問5)家畜4頭を使う場合、4頭を横並びにして車につなげるのと、2頭ずつ2列にしてつなげるのとでは、どちらが有効な引き方でしょうか、理由も考えて下さい


                               (問5の答へ)

(問6)同様にひもを、家畜の首にかけるのと、肩にかけるのとではどちらが有効でしょうか、やはり理由も考えて下さい。
                               (問6の答へ)

(問7)以上みてきたような農業技術の発達によって、穀物の種子生産性(1粒から何粒とれるか)は、大いに伸びました。ズバリ何倍になったと思いますか?
<ヒント>これは驚きますよ。

                               (問7の答へ)

◎答と解説

〔問1〕これは家畜である豚の大切なえさになりました。当時の絵を見ると、今よりずっと猪に近く、毛深かったことが分かります。少なくとも17世紀まではヨーロッパ人が普通食べた肉は羊か豚で、このため農家はよく豚を飼いました。

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〔問2〕休耕地になる部分では、麦の穂だけを切って下を残しました。これを牛などの家畜に食べさせて糞をさせ、またその家畜が歩き回ることによって地味の回復、施肥がなされました。そしてそれとともに犂返しが何度か行われたのです。

                                 
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〔問3〕馬は牛より力は弱いのですが、スピードがあり、犂返し度数がふえ、これが収穫量の増加につながりました。

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〔問4〕犂の歯の部分や馬がつける蹄鉄(ていてつ)をつくる「村の鍛冶屋さん」です。つまり、冶金術の普及です。

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〔問5〕横列4頭の引き方は古代ローマ以来の方法ですが、これだと外側左右の家畜の力を十分に発揮させられなかったため、2頭ずつ2列の引き方に替えました。

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〔問6〕肩かけの方が畜力の利用度を大いに高めることができます。

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〔問7〕6倍、すなわち1粒から6粒とれるようになった、というのが正解です。え?ずいぶん少ないですって?確かに日本の場合、例えば江戸時代には既に40倍だったことに比べれば、きわめて乏しいように感じられます。しかしヨーロッパでは、10世紀にはわずか3倍程度だったらしく、それに比べれば種子生産性は2倍にアップしていることになります。これはやはり革命的と言っていいのではないでしょうか。

※これらの問題と答・解説は、木村尚三郎『NHK市民大学テキスト ヨーロッパ文化史〜伝統と現代』(日本放送協会出版、1983年)、同『ヨーロッパからの発想』(角川文庫、1983年)、同『近代の神話』(中公新書、1975年)、同『歴史の発見』(同、1968年)、木村尚三郎他『物語にみる中世ヨーロッパ世界』(光村図書、1985年)、井上泰男『西欧文化の条件』(講談社現代新書、1979年)、堀米庸三編『生活の世界歴史6 中世の森の中で』(河出書房新社、1975年)、阿部謹也『中世を旅する人々』(平凡社、1978年)などをもとに作成しました。

                          
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