アルファベットの発明者〜フェニキア人

○ 現在われわれが使っているアルファベットは、フェニキア人のつくった22文字から発展してきた、と言われています。彼らがこの文字を生んだ背景について考えていきましょう。

1)フェニキア人の海上進出
 フェニキア人は、紀元前1200年ごろ、シドン・ティルス(現在のレバノン国内)を中心として、カルタゴなど多くの植民市(植民都市)をつくり、またかなり広い範囲にわたって海上貿易を行いました。彼らが積極的に海に出ていった理由は次のとおりです。
 @フェニキアの土地が痩せていて、農業に不適当であった。
 A付近の山中に造船用材(レバノン杉)が豊富にあった。
 B小型船にとって自然の良港があった。


2)フェニキア人の活動範囲
・イギリス:コーンウォール(錫<すず>)
・イベリア半島:タルシシ(金属・鉱石?)
・エジプト
・インド南西岸:マラバール(薬味、金、ダイヤ、真珠、米、綿)
・セイロン島
・カナリヤ諸島・マディラ諸島(アフリカ大陸の北西)の発見



3)フェニキア人のアフリカ回航(紀元前613〜紀元前611)ー果たして本当か?−
 古代ギリシアの歴史家ヘロドトスは、「リビア(アフリカのこと)の発見はエジプト王ネコによって初めてなされた。彼はナイル川と紅海の間の運河からフェニキア人を乗せた数隻の船を南に向けて出帆させ、帰りはヘリキュリースの柱(ジブラルタル海峡)の間を通ってエジプトに戻るよう命じた。…彼らは実に3年目に帰航した」と述べています。ヴァスコ=ダ=ガマが喜望峰を回ってインドに到達する2000年も前に、果たして本当にフェニキア人がアフリカを一周できたのでしょうか?

◇古代の航海法
(問1)古代の航海は、基本的には岸づたいに行いました。しかし、もし陸地を見失った時には、何を頼りにしたと思いますか?
<ヒント>1つあげれば夜間には星の位置を頼りにしました。でも日中は?あと2つ考えて下さい。

                               (問1の答へ)

(問2)飲み水は腐らなかったのでしょうか?

                               (問2の答へ)

(問3)食料がなくなった時、どうしたのでしょうか?
<ヒント>これはえっ!ホント??というような答です。

                              
 (問3の答へ)

(問4)ヘロドトスは「アフリカを回航している時に彼らは太陽を右手上に見たと語った」と言っています。このことは何を意味しているでしょうか?
<ヒント>実際に手をあげて考えてみましょう

                               
 (問4の答へ)

4)アルファベットとフェニキア人
(問5)現在我々が使っているA,B,Cなどをアルファベットと呼ぶのは何故でしょうか。それはフェニキア文字を受け継いだある地域(国)の文字の1番目と2番目をあわせて呼んだものなのです。それはどこの地域の何という2文字でしょうか?
<ヒント>いずれも数学でよく使う文字です。

                                
(問5の答へ)

◇アルファベットの変遷
フェニキア人→問5の答<紀元前11世紀>→小アジア、スペイン、トラキア(エーゲ海東岸)、ガリア(今のフランス)、イタリア<紀元前後>→古代スラブ語・ラテン語(いわゆるローマ字)<9世紀>

◎答と解説
(問1)笠雲を見つければその下には山がある可能性があり、したがって陸地があることになります。また、鳩などの鳥を放して、それが飛んでいく方向に陸があるということで、船を向けた、といいます。

                                 (次へ)

(問2)船が揺れるので、摘んでいる水も常に揺さぶられることになるので、熱帯でも簡単には腐敗しない、ということです。

                                 (次へ)

(問3)食料がなくなりそうになると、秋に陸に上がり、一区画の土地に穀物の種をまき、収穫するまで待ち、ついでに船の修繕も行ったといいます。ずいぶん気の長い話ですが、収穫までの食料を確保した上でのことなのでしょうか?大陸一周に3年もかかったというのも、こうしたことが理由の1つなのでしょうか?

                                 (次へ)


(問4)当時は赤道などの概念はなく、南へ行けば行くほど暑くなり、太陽も北寄りの熱風で南側に吹き寄せられていると信じられていました。「太陽を右手上に見た」ということは、東廻りで進んだ場合、船が赤道を越えた(南半球へ達した)ことを意味すると判断されます。このアフリカ周航から160年後の人であるヘロドトスがこれだけ細かいことを記したということは、ある程度事実を反映したものともみなされます。

                                
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(問5)これは言うまでもなく、ギリシア字母の最初の2文字α(アルファ)とβ(ベータ)をあわせたものです。  
 

〜今から2500年以上も前に、こうした大航海など不可能だとお思いになる方も多いでしょう。しかし、小型船はかえって座礁の心配が少ないし、それにアフリカ沿岸には東廻りで(東岸から西岸へ)沿岸を進むのに都合がいい海流が多く流れているのです。まんざら不可能とは言い切れないかも知れません。  


※これらの問題と答、解説は茂在虎男『航海術』(中公新書、1967年)をもとに作成しました。

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