お風呂のアルミ蒸着保温シートの経済的な効果検証 2003.4.19
  • 風呂湯用の保温シートをご存知でしょうか?我が家では、風呂から出る時にプラスチックの「浴槽ふた」をして、お湯の温度が下がらないようにしていました。一年ほど前に、「浴槽ふた」のかわりに保温シートを使用するようになりましたが、「浴槽ふた」よりも軽く重宝しています。
  • 図1は、買ってきたばかりの「アルミ保温シート、ロング(平折)」(70cmx120cmx0.3cm:売値570円)です。発泡ポリエチレンの片側にアルミを付けた(蒸着した)もので、熱を逃がさない断熱効果だけでなく、アルミによる赤外線の放射を少なくする効果が期待できます。
  • この商品には、保温効果を示す図2が添付されていました。それによれば、45℃のお湯を二時間放置した場合、何もしなければ39℃、浴槽ふたをすれば41℃、ポリ保温シートをすれば42℃、そしてこの商品を使えば42.5℃程度になります。
  • 45℃の風呂に入る人はいないし、二時間も放置することもそれほどないとは思いますが ・・・、二時間あたりなにもしなければ6℃下がるのに対して、この商品では2.5℃で済むことになります。
  • アルミによる赤外線放射カットの効果は二時間で0.5度程度。思っていたより小さいようです。40℃前後の低温ではあまり効果がないということでしょう。高く販売するための見栄えを考えなければ、単なる発泡シートでもよさそうです。
  • 業務用の製品も販売されています。別の会社のものですが、大浴場などで使用する90cmX200cmx0.8cmの両面アルミシートが定価5000円です。
  • 図3に示すように夜間の保温効果の違いが大きく影響するので、多少高くても総合的にはペイするのでしょう。
  • それでは、「アルミ保温シート」の効果を実測してみたいと思います。
  • まず、我が家の風呂の形に合わせて、アルミ保温シートをカットしてお湯に浮かべます。お湯の量によって必要なシートの長さが変わります。お湯の量が多いと図4のようにカバーしていない部分が若干生じます。
  • LPガスを使って沸かした43℃のお湯を使い、時間と共にどのように温度が下がっていくのかを測定しました。
  • 測定条件は以下の通りです。
    • 日時:2月中旬の5PM〜11PM、条件を変えてそれぞれ一回
    • 浴室:タイル張り、70cmx120cmの窓有り
    • 浴槽:B1100 型
    • 湯量:150リットル(図4の状態)
    • アルミ保温シート:両面アルミ蒸着製品(一年前に購入した製品:詳細なスペック不明)
    • スタート時湯温:43℃、浴室温:10℃
    • 室温:9℃(測定終了時)
    • 測定:棒状アルコール温度計
  • 図5が保温効果を実測した結果です。縦軸が温度、横軸が経過時間を示します。実線がお湯の温度、点線が浴室温度です
  • ふたをした場合としない場合の両方とも、ほぼ直線的に温度が下がることが分かります。ふたをしない場合は、若干直線からずれる傾向がありますが、誤差の範囲と考えます。
  • お湯の温度は、なにもしなければ2時間あたり6℃下がるのに対して、アルミシートを使えば3℃ですむことが分かります。
  • 実験条件が一致しているわけではないので、最初の商品と単純に比較できるわけではありませんが、だいたい同じぐらいと考えてよいでしょう。
  • 次に、効果をコスト換算するために、150リットルの色々なお湯を43℃まで暖めるのに必要なガス量を測定しました。詳細な測定条件は以下の通りです。
    • 日時:2月初旬の4日間で5回
    • 浴室:タイル張り、70cmx120cmの窓有り
    • 浴槽:B1100 型
    • 湯量:150リットル
    • ガス:LPガス
    • 外気温:推定3〜7℃程度
    • 測定:棒状アルコール温度計
  • 結果を図6に示します。横軸は、追炊きを始めた時のお湯の温度です。7℃の水道水を追炊き方式で43℃まで沸かした実験を含めて合計5回測定しました。結果が比較的きれいに直線に乗っているいることが分かります。
  • 参考までに、通常の給湯で水道水を湯沸しした結果(赤丸:2回)も示します。追炊き方式よりもガスが少なくてすむのは、給湯器の構造によるものと思われます。
  • 測定結果から保温シートを使うことによる費用効果を計算します。
  • 表1のモデル(仮定)で保温シートを使った場合と全く何もしなかった場合を比較してみます。ちなみに、人が入ることで温度が下がった効果は、保温効果の違いに関係なく両方に影響するため考慮しません。
表1 経済効果算出のためのモデルと仮定
算出モデル 次の人が入るまでの時間が分になることが、一ヶ月あたり回の頻度で起き、
さめたお湯は、43℃になるまで沸かしなおす(追炊きする)。
LP ガス費用  円/m3:(我が家の2003年2月のLPガス領収書から計算;都市ガスは、燃焼エネルギーと単価が異なるため、別途検討が必要)
気温による効果の違い 2月に保温シートの効果が最大、盛夏が効果ゼロ、他の月は両者の平均
保温シート費用  
保温シート寿命  年(何回使っても同一結果が得られると仮定)
  • 計算式 (「計算」ボタンを上から触ってください。自動的に計算します。クリックするとクリアします。仮定を変えて算出することもできます)

    ●追炊き開始温度:
    ふた無し:℃ = -0.05069 x 経過時間:分 + 43.0
    保温シート:℃ = -0.02516 x 経過時間:分 + 43.0

    ●消費ガス量:
    ふた無し:m3 = -0.00921 x 追炊き開始温度:℃ + 0.3998
    保温シート:m3 = -0.00921 x 追炊き開始温度:℃ + 0.3998

    ●LPガスの費用:
    ふた無し:円 = 円/m3 x 消費ガス量:m3
    保温シート:円 = 円/m3 x 消費ガス量:m3
  • 保温シートを寿命まで使った時の経済効果を表2に示します。家庭の事情によって仮定がかなり異なると思いますので、皆さんの家庭を想定して再計算してみてください。
表2 保温シートを使うことによる経済効果(算出結果)
費用 効果
保温シート費用

(二月の)一日あたり
(二月の)一ヶ月あたり
一年当たり
寿命まで使って
保温シート一枚あたり差し引き 

  • 保温シートを使わなくても「浴槽ふた」を使う家庭は多いと思います。図2から、浴槽ふたは保温シートの約半分の効果があります。そこで、上記の仮定に表3の仮定を追加(変更)して浴槽ふたの経済効果を試算してみます。今回は、保温シートと浴槽ふたを比較することをメインの目的としていないため「大体こんな感じかな」程度に見てください。
表3 浴槽ふたの経済効果を算出するために変更する仮定
浴槽ふたの費用  
浴槽ふたの保温効果 保温シートの 
モデル、気温効果、寿命は保温シートと同じ
  • 結果を表4に示します。浴槽ふたを使ったほうが使わないよりも良いとの結果になりますが、保温シートの効果よりもかなり小さいことがわかります。

表4 浴槽ふたを使うことによる経済効果(試算結果)
費用 効果
浴槽ふたの費用

(二月の)一日あたり
(二月の)一ヶ月あたり
一年当たり
寿命まで使って
浴槽ふた一枚あたり差し引き 

考察(雑記):
  • 保温シートの費用に比べた効果、いわゆる費用対効果は、倍程度と考えられます。一方、浴槽ふたの費用対効果(試算値)は、倍程度です。保温シートの効果が大きい割りに保温シートの費用がより安価であることがこの差を生んでいます。
  • 保温シートの経済効果は、思っていたほど大きくないような気もします。しかし、全国4千7百万世帯(2000年国勢調査)の全てが保温シートを使ったとすれば、使わなかったときよりも億円(保温シート一枚あたり)削減されます(実際には、未使用世帯があったり、浴槽ふたを使った世帯がありますからそれほどは多くはなりません)。
  • エネルギー関連でこれだけ効果があれば、CO2排出量はかなりの削減が期待できます。また、保温シート重量はかなり軽いため、資源の有効利用および廃棄物削減の観点からの効果も期待できます。LCAをやるまでもなく、「保温シートの使用は環境負荷削減に著しい効果がある」と言えるでしょう。
  • ちなみに、浴槽ふたは結構重いため、保温シートより操作性がよくありません。しかも汚れが付着して掃除が大変ですし、ごみとして捨てる時もちょっと大変そうです。保温シートの方が、商品自体が安価でトータルコストも安く、なおかつ(おそらく)環境負荷も小さいとなれば、浴槽ふたはいずれ駆逐されるでしょう。
  • 懸念事項:我が家の場合は最も寒い2月の風呂温度を43℃としていますが、これはちょっと高目かもしれません。また、2月の場合だけから年間を推計している(12倍の半分としている)ため、実際はもう少し効果が小さくなる可能性があります。


結論:
  • 保温シートを用いることによる総合的な経済的効果は大きい。全く保温しなかったときと比べれば、保温シートの費用対効果は8倍程度ある。
  • 従来の浴槽ふたに比べて数倍の効果が期待できる。
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