15.赤星たみことグリーン購入 2001.11.22
 
今回は、赤星たみこという漫画家と、一部企業で盛り上がりを見せている「グリーン購入」のお話です。「グリーン購入」とは、環境に配慮された製品、部品、材料などを購入することです。

egg   突然なんだけど、「赤星たみこ」っていう漫画家しっている?なんか、環境問題の著書がいくつかあるらしいんだけど。
にんじん 少し前に、日経で連載記事を書いていた人でしょ?たしかゴミを出すのがいやでゴミの減量化をはじめたとか・・・
豆腐 グリーン購入ネットワークが発行している冊子、「GPN NEWS 2001年10月 23号」に、彼女の名古屋公演内容が載っています。タイトルは、「暮らしの中のグリーン購入」。ちょっとまとめてみますと、・・・
  1. ゴミを減らした方が朝早くおきなくて楽(一週間に燃えるゴミがバレーボール、燃えないゴミがバスケットボール程度)
  2. そのためにゴミを買わない(レジ袋やスプーンを断る、ばら売りの促進など)
  3. ゴミ削減のために使っている風呂敷はおしゃれで、レジ袋再利用して夫からもほめられる
  4. 掃除機の背負子で時間を短縮、結果として省エネ
  5. カーテンを掃除機にかけると洗濯の手間が省ける
  6. 使い捨てからの脱却(6000円の携帯はし、1000円の扇子→高いから大事に修理して使う)
  7. お金の使い方を「もの」から旅行などの「こと」へ変える
となります。なかなかよく考えられていますね。
にんじん 日経に連載していた内容とあまりかわらないな。環境問題はすなわちゴミ問題だと思っている人から支持されているのかな・・・
egg そうかしら?身の回りで自分のできることをやっているところがいいと思うわ。環境問題を一生懸命考えていくと、なんか暗くなってくることがあるけれど、彼女は自分のできることをやって、その結果楽ができるし、ほめられて嬉しいという姿勢がすばらしい。
豆腐 環境問題は、もちろんゴミの問題だけではありません。われわれ製造業が、最近、力を入れて取り組んでいるのは、「鉛フリーハンダ」と「クロムフリー鋼板」に代表される「グリーン購入」です。
われわれ製造業は、「下請け会社や一般市場から材料や部品を買ってくる→組み立る→親会社に納入する」といった活動を繰り返し、その結果として製品を作り上げます。最終組立企業の環境影響よりも、材料や部品を作るために環境に与える影響の方がずっと大きくなります。つまり自社の活動よりも買ってくる材料や部品が環境に良い製品を選択することがトータル的には重要になるため、「グリーン購入」活動を進めているわけです。
egg 「グリーン購入」?われわれ主婦にはなじみのない言葉だけれど、それって、赤星たみこの記事が載っていた「グリーン購入ネットワーク」と関係があるの?
豆腐 もちろんです。グリーン購入ネットワークは、事務局が財団法人 日本環境協会で、グリーン購入を促進するために1996年2月に設立された企業・行政・民間団体からなる集合体です。活動内容は、グリーン購入ガイドラインの策定や啓蒙活動などです。
egg 要するに、買い物するときに「環境配慮した部品や材料を買いましょう」と薦めている団体ね。企業も結構がんばってるじゃない?
にんじん いや。がんぱっていることはがんぱっているんだが、ちょっとずれているのが難点だね。
egg ずれているって?
にんじん ハンダは、電気部品をいわゆる「ハンダ付け」する時に使う合金なんだが、ハンダの主要成分に有害物質である「鉛」が含まれているんだ。「鉛フリーハンダ」は、その鉛成分を違う金属に代替したハンダのことなんだ。でも、従来の「鉛ハンダ」は、特性がとってもよく、結果として何千年も人類が使い続けていた。鉛フリーハンダは従来の鉛ハンダよりも性能が落ちるので実用化は難しいといわれていたんだが・・・。
代替することで費用が2〜3倍になることも問題だが、実はもっと重要なことがある。それは、「鉛フリーハンダ」は従来のハンダよりも環境に悪い可能性があることなんだ。
egg 日本テレビ系の特命リサーチ200Xで、ローマ帝国が滅んだのは、ワインに含まれていた鉛が原因だったとか言ってたわよ。ベートーベンが難聴でうつ症状だったのも鉛中毒だったとか。鉛を含まない「鉛フリーハンダ」は環境に良いんじゃないかしら?
にんじん そう簡単にはいかない。大手電気メーカが実施したハンダに関するLCA結果を見ると、鉛フリーハンダは枯渇製資源をより多くつかっているため、総合的には鉛フリーハンダのほうが環境に悪い可能性があることを指摘している。このLCAは、鉛の毒性は評価していないが、そもそもハンダの毒性はそれほど影響しない可能性がある。その理由は、
  1. まず右の図をみてほしい。これは、日本国内における鉛の用途を示したものだ。ちょっと古いが、1993年に使った鉛の使用量は輸入品や再生品をあわせて399千t。そのうちハンダに使っている量はたったの16千tで、全体の4%程度ということになる。もしハンダの鉛を規制するなら、鉛蓄電池のリサイクル徹底や無機薬品などの規制も考えないと意味がない。
  2. ハンダから鉛が流出するとすれば、使用済み電気製品からだろう。使用済み電気製品は、細かく粉砕してから鉄やアルミなどの有用金属を取り出し、残りのくずは「管理型処分場」で処理される。残りのくずの中にハンダが含まれているが、鉛は普通の水にほとんど溶けない。酸性雨で溶け出すとの指摘もあるが、管理型処分場は屋根付きのコンクリートの箱だから、そこから鉛が流出するのはちょっと考えにくい。
  3. たとえ漏れ出したにしても、鉛は生物濃縮されず、また食物経由で口に入っても他の重金属よりも簡単に排出される。そもそも昔は、鉛で作った水道管が普通に使われていて、それを飲んだ人が顕著な影響を受けたという話は聞いたことがない。
  4. 鉛の被害でもっとも影響があると考えられるのが、空気中に放出されたものが肺に吸い込まれるケース。例えば電化製品を野焼きして鉛が塵状になって空気中に漂うようなケースが考えられる。しかし、今秋の環境科学会で報告されたある研究によれば、そういったケースでもあまり大した影響がないらしい。
    昔の歌舞伎役者が、鉛のおしろいを使っていたことは良く知られているよね。彼らはその影響で青白い顔をしていたらしいんだが、大量に鉛を吸っていただろう歌舞伎役者もそれなりに生きていたんだから、たいしたことはないんじゃないかな。
総合すると、あまり環境を良くすることに貢献しない些細なことを成し遂げるために、コストが高く、しかも早く故障するかもしれない製品を出すのはちょっと賛成できないんだな。
豆腐 電化製品の故障の多くは、ハンダ接合関連だという話もあります。鉛ハンダは人類の英知の一つと言えるかと思いますが、その鉛ハンダですらその状況ですから、新しいハンダ材料を使うことに強い抵抗があるのは事実です。しかし、われわれの業界では、多くの困難を乗り越えて環境に良い製品を出そうと日々努力しています。まだ新しい技術ですからいくつも問題があるのは事実ですが、知恵や技術を蓄積して問題を解決していけると思います。例えば、値段が高いのでハンダを回収しようというモチベーションが働きますよね。一種のデポジットだと考えれば、リサイクル促進という違った貢献ができるのではないでしょうか。
にんじん 豆腐君の業界ががんばっているのは知っているよ。報われない可能性があることを知りつつも努力する姿を見ているから、面と向かっては言い難いんだが、・・・「クロムフリー鋼板」にしても同じような話で、大して効果があるように思われないね。
egg どうして豆腐君の業界はそんなにガンバっているの?
にんじん それは、EUが2007年以降に鉛ハンダやクロム鋼板などを規制しようと動いているためさ。ただ、海外のメーカーやユーザーは様子見の状態らしい。欧州はもともと理念先行型で、今までの経緯からすると実際にEU指令になるかどうかも疑わしいし、実際に成立しても問題があれば順次修正するといった考え方だから、日本のメーカが先走りすぎていると言っても過言ではないだろう。
egg なんだかやるせない話ね。一生懸命やっても報われないとしたら、下手すると先進企業の環境意識が下がってしまうかもしれないわね。
にんじん それを心配しているんだ。環境問題は本質を見極めないと、ぜんぜん役に立たないどころか、害になる可能性もある。「やればいいってもんじゃない」ってことに、そろそろ気づく必要があるね。
豆腐 その点、最初にeggちゃんに紹介していただいた赤星たみこさんはすばらしいと思います。環境問題に取り組む姿勢に筋があるのを感じます。
にんじん そうだね。環境に取り組むためのいくつか重要な方針があるようだね。例えば、
  1. 不必要なものは不要であるとして行動を起こす勇気を持つこと。これは単にゴミを発生しないということにとどまらず、不必要なものを作らなくて済む、不必要なものを流通させたり、使用したり、処分したりするために貴重な資源を使わなくて済むという大きなメリットがある。
  2. 次に重要なことは、「コストがかからないから」、「手間がかからないから」環境問題に関心を持つという姿勢からスタートしていること。環境問題は「何か少し気をつければそれで終わり」という簡単なものではない。しかし、将来あるべき究極の姿を見続けて生活するのはちょっと無理。コスト削減、手間削減は、環境負荷削減につながるケースが多いから、そこからまず手をつけて長続きさせ、意識を高めていく必要がある。
    扇子や持ち歩きのできる食器が「素敵だから」というのがおそらく最終的な環境行動のモチベーションになる。このあたりは究極のコツだから、意識の高まりがある程度必要かもしれないが・・・。
  3. そして最後に、自分たちがやっていることが、全体の環境問題にどれだけ影響しているかを把握すること。これはもちろん大雑把であってもOK。
    全体を把握しつつ、自分たちができることを着実にやっていけば、どんなに困難な環境問題であっても、一歩ずつ解決に向かうようになるだろう。
エコちゃん 「シンク・グローバリー・アクト・ローカリー」ね。
egg それはどういう意味?
豆腐 最近あまり聞きませんが、環境問題に対処するための基本原則の一つとされています。「考えるときにはなるべく広く、大局的に。そして行動するときには自分のできることから、具体的に」ということです。
赤星さんの思考過程はわらりませんが、おそらく「ゴミを出したくない」という非常に強い欲求から実践的に行動した結果として行動指針が出来上がっていったんじゃないでしょうか。ことによると、行動さえ伴えば、誰でも同じような基本方針を持つようになるのかもしれません。
にんじん 豆腐君の業界の人達も、行動を起こし始めているから、「素敵だから」環境活動をやっているんだという意識と、「シンク・グローバリー・アクト・ローカリー」の知恵が、そのうちに生まれてくるかもしれないな・・・。
いや、そうなることを期待したい。
豆腐 そうですね。少なくとも大手製造業の環境意識は全体として確実に高まっていますから・・・。
エコちゃん 企業の人に限らず、環境に携わっている人たちは、「仕事だから・・・」、という意識から一歩進んで自ら行動を起こすように期待したいね。
日本人は環境問題の解決のかぎを握っているような気がするの。世界に貢献できる一つの分野として私たちは自覚していく必要があるじゃないかしら。
egg ふ〜ん?そうかしらね・・・。エコちゃんの言うことは時々わからなくなるけど、ともかく「重い」ながらも前進し始めているようね。変な風に転がっていかないように、がんばってよ。豆腐君!

いやあ、なんか難しい話がおおくなってしまいました。でも、一部の企業の人は市民の皆さんが考えられている以上に環境問題に熱心なんですよ。ちょっと意外でした?
お便りをお待ちしております・・・
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