大子弁の特徴でも述べましたが、大子弁の文法についてもう少し詳しく調べてみましょう。
ただ、正式に勉強したわけではありませんのであくまでも私見です。
動詞の活用
中学校で習ったのを思い出してみましょう。
五段活用や上一段活用・ラ行変格と言ったあれです。
詳しくは国語の先生に任せるとして、まずは動詞の五段活用。
動詞は「う」の段で終わるのですが、語尾が「あ・い・う・え・お」と言うふうに変化します。
「走らない・走ります・走るとき・走れば・走れ」という、あれです。
大子弁での大きな特徴は未然形、この中でも特に推量形・意志形といわれるものの変化です。
五段活用では「お」の段になりますが、大子弁では「う」の段、さらに「っ」・「ん」になります。
「う」---- 泳ごう → 泳ぐべ、 押そう → 押すべ
「っ」---- やろう → やっぺ、 帰ろう → 帰っぺ
「ん」---- 飛ぼう → 飛んべ、 飲もう → 飲んべ
たまに余所の方が大子弁をまねていてもどこか変だなと感じるのはここです。
つまり意志形で「お」の段を「う」の段に変えるのは良いのですが、さらに「っ」や「ん」に変化させ
るのが出来ていないのです。
「あ」行の「お」→「う」への変化は「う」というより長音化します。
他には「な行・は行・ま行・や行・ら行」も注意が必要です。
うの段ではなく「ん」や「っ」に変化します。
たとえば「帰ろう」は「帰っぺ」であり、「帰るべ」ではないのです。
まとめますと
お → う → ー 買おう → かーべ
こ → く 書こう → 書くべ
そ → す 押そう → 押すべ
と → つ 待とう → 待つべ
の → ぬ → ん 死のう → 死んべ
ほ → ふ → ん 飛ぼう → 飛んべ(ば行ですが)
も → む → ん 飲もう → 飲んべ
よ → ゆ → ん 見よう → 見っぺ
ろ → る → っ 帰ろう → 帰っぺ
「死ぬ」の変化は難しいです。
標準語では「なにぬねの」と変化しますが、大子弁では「がぎぐげん」と4段活用+んに変化します。
つまり
死がない、死ぎます、死ぐとき、死げば、死げ、死んべ
と、変化します。
このあたりの変化を正しくしないと、正統大子弁と何処か変に聞こえてしまいます。
自然に変化して口から出るようになれば、あなたも立派な大子人です。
接尾語「ぺ」の変化
茨城は「ぺ」で、栃木は「べ」、福島は「ぱい」が使われますが、大子では「ぺ」と「べ」の両方が使
われています。
(「お」の列+う)が(「う」の列+べ、さらに「んべ」、「っぺ」)に変化。
「〜しましょう」も同じく変化します。
おう、ましょう → うべ | 買おう→買うべ、 買いましょう→買うべ |
こう、ましょう → くべ | 書こう→書くべ、 書きましょう→書くべ |
そう、ましょう → すべ | 返そう→返すべ、 返しましょう→返すべ |
とう、ましょう → つべ | 立とう→立つべ、 立ちましょう→立つべ |
のう、ましょう → んべ | 死のう→死ぬべ→死んべ、 死にましょう→死んべ |
ぼう、ましょう → んべ | 飛ぼう→飛ぶべ→飛んべ、 飛びましょう→飛んべ |
もう、ましょう → んべ | 読もう→読むべ→読んべ、 読みましょう→読んべ |
よう、ましょう → っぺ | 寝よう→寝るべ→寝っぺ、 寝ましょう→寝っぺ |
ろう、ましょう → っぺ | 走ろう→走るべ→走っぺ、 走りましょう→走っぺ |
そのほか語尾は次のように変化します。
行ったでしょう → 行ったっぺ
行きましたか → 行ったっけ
行くだろう → 行くべ(いんべ)
行きますか → 行くけ
行ったでしょうか → 行ったっけか
行かない → 行かめ
行ったら良いでしょう → 行ったらがっぺ
この変化も自然と口から出るように充分練習しましょう。
格助詞の変化
大子弁では助詞はかなり変化します。
〜へ → 〜さ 右さ曲がる。 上さ行く。 川さ行くべ
〜の → 〜ん 山ん中。 誰んだ。 俺んだ
〜の → 〜な 奥な方。 下な隠居。
〜と → 〜り どたーり投げる。 ごいーり持ち上げる。 ばちーリ閉める。
〜に → 〜さ 山さ行く。 トンネルさ入る。 風呂さ入る。
省略してしまう場合もあります。(前の語が長音化します)
〜は → やまー雪だ。 おらーきらいだ。 かわーこおたっぺ。
〜が → 歯ーいてえ。 背中ー痒い。 足ー速い。
〜を → 魚ー釣ってくる。 木ー切る。 手ーいたくした。
形容詞+助動詞の活用
方言は名称そのものが変化するものと、語尾が変化するものとがあります。
名称そのものの変化は大子弁の辞書を参照して貰うとして、語尾の変化の代表「ぺ」についてです。
「美しい、楽しい」などの形容詞に付く助動詞の変化です。
だろう → べ 楽しいだろう →楽しいべ
でしょう→ かっぺ 楽しいでしょう→楽しかっぺ
もう → んべ 楽しもう →楽しんべ(形容動詞?)
形容詞は「い」が「か」に変化したり、いはそのままで「べ」が付いたり「い」が「ん」に変化し
たりします。
この変化も自然に口から出るようになれば、大子弁も名人級です。
打ち消しの形容詞
形容詞の未然形の変化で「く」が「か」に変化します。
寒くない → 寒かねえ
高くない → 高かねえ
打ち消しの動詞(受け身・自発・尊敬)
動詞のら行の活用の未然形は「ん」に変化します。
取らない → 取んねえ
くれない → くんねえ
その他の語尾変化(名詞や助動詞等)
その他にも語尾がいろいろと変化します。
何詞・何形とか難しくて良く解らないので、思いつくままに並べてみます。
「ぽ」と「ぼ」
「水戸っぽ」に代表される「ぽ」という語尾変化があります。
がけんぽ(崖)
じゃりっぽ(砂利)
すなっぽ(砂の場所)
いしがらっぽ(ガラガラ石の場所)
さきっぽ(先)
「ぼ」は「坊」と「棒」の意味があります。
おこりんぼ(怒りやすい人)
いやしんぼ(いやしい人)
ことこんぼ(おたまじゃくし)
きかんぼ(勝ち気な子供)
さがんぼ(氷柱)
さくらんぼ(これは標準語にもありますね)
さるんぼ(さる、大子では「さるんぼめ」になる)
きんぼ(木の棒)
くいんぼ(杭の棒)
「ぺ」 〜の端の方
茨詭弁特有の「ぺ」ではなく名詞の語尾変化です。
うらっぺ、さきっぺ
「ぺか」 〜でしょうか
だっぺの疑問形
やったっぺか、たりっぺか
「あんめ」 〜ではないだろう
半袖でも寒かあんめ、 もう雪はあんめ
「あんめか」 〜ではないだろうか
そろそろ着いたんではあんめか、 腐ったんじゃあんめか
「ちった」 〜してしまった
やっちった、病気になっちった
「ど」 〜ぞ
先生がゆったっちど、 警察が来たど
「み」 〜してみなさい
みしてみ、やってみ
「つぉ」 〜するぞ
おっこちっつぉ、風呂はいっつぉ
「か?」「け?」 〜しますか
か?(語尾上がり)----目下の者に対して疑問形 やっか?
け?( 〃 )----少し丁寧な言い方 やっけ?
「ねげ」 〜しないですか
くわねげ、いかねげ、のんねげ、やんねげ、かさねげ
「のげ」 〜のですか
やんのげ、たつのげ、すわんのげ
「ちけ」 〜だそうで
そうだっちけ、買ったっちけ
「ちめ」 〜でしまえ
しんちめ、のんちめ、やっちめ
「なんしょ」 〜してください
おあげなんしょ、入んなんしょ、おごんなんしょ
「がっぺ」 〜したらいいでしょう
来たらがっぺ、寝たらがっぺ、行ったらがっぺ
「ちど」 〜だっていうぞ
安いっちど、早いっちど
「ね」 〜しない
食わね、やんね
「め」 〜しないだろう
言わめ、買わめ、売んめ
「おごれ」 〜ください
しておごれ、うっとごれ、かっとごれ
「ちょ」
うらげえっちょ、ひっくりげっちょ、さきっちょ、ぶきっちょ
「り」 〜と
ぐいーり、ごいーり、どたーり、がちゃーり
「がぁ」 〜ですか?
でたがぁ、おきたがぁ、べんきょうしたがぁ
「ちょ」 〜のもの
うらげぇっちょ、 ひっくりげぇっちょ、 さきっちょ、 ぶきっちょ
これらが自由に使い分けられれば、あなたは大子弁の達人です。
濁音と鼻濁音
大子弁では濁音と鼻濁音は分けて発音します。
標準語の影響で混乱していますが、濁音と鼻濁音では意味が違ってしまう語があります。
文字に書いたのではどちらの意味か前後の関係で判断しなければなりません。
言葉で聞けば直ぐ解るのですが・・
例えば大子弁の特徴でも書いて有りますが、
でえご(鼻濁音)-------大子
でえご(濁音)-----大根
これなどは聞けば解りますが、文字では判断できません。
他にも有りますので声に出して読んでみてください。
(が行を変化) | 濁音の場合の意味 | 鼻濁音の場合の意味 |
まげる | 空ける、負ける | 曲げる |
わるぎ | 悪口 | 悪気 |
あぐ | 灰 | 顎 |
いがい | 大きい | 以外 |
おごる | 怒る | 驕る |
あげる | 空ける | 上げる |
いが | 烏賊 | (栗の)いが |
かげ | 書け | 影 |
しぐ | 敷く | 死ぬ |
たげえ | 高い | 多芸 |
とぐ | 解く | 研ぐ |
にがい | 二階 | 苦い |
にぎる | 煮切る | 握る |
ぬがす | 言う | 脱がす |
ぬぐい | 暖かい | (手)拭い |
ぬげ | 追い越せ | 脱げ |
ふぐ | 服 | 河豚 |
やぎ | 焼き | 山羊 |
よげる | 避ける | (豆を)選り分ける |
動物には「め」
それから大子(茨城)弁では、動物には何でも「め」をつけて呼びます。
この「め」はさげすむと言うものではなく、むしろ愛情を込めて使ってます。
いぬめ・ねこめ・へんめ(蛇)・きんぎょめ・ばっため・
馬め・牛め・かんめ(蚊)・のんめ(蚤)・・・・・・等
ところで大子では何でも「め」つけると述べなしたが、正確には全部ではありません。
新しい動物には「め」はつけないのです。
例えば
パンダ、ライオン、キリン、オラウータン、 ヤンバルクイナ
などには付けません。
これはまだ馴染みが薄いので、「め」を付けて呼ぶほど親しくはないのでどこか
よそ行きになっているのです。
甚だしい人は
「おらげのがぎめらは遊んでばっかりで勉強しやがんね」
となります。
他にもまだあると思いますが、思いつくままに書いてみました。
文法的に間違っているところもあると思いますが、ご教授いただければ幸いです。