囲炉裏

囲炉裏
囲炉裏の生活

囲炉裏は普通各家庭に二つあります。
一つは下縁の囲炉裏で
上の図のようなものです。
もう一つは座敷にある囲炉裏で、ここでは火は燃やさず、専ら炭をおこしておきます。

囲炉裏の生活では、まず朝起きたら一番にすることは、火を熾すことです。
前日に止めておいた熾きを口で吹いて火を熾します。
このときに火吹き竹が有ると重宝します。
この火の熾し方にはコツがあって、慣れないととなかなか薪に燃え移ってくれません。
最初にスギッパ(枯れた杉の葉)に火を点けて、細いきんぼっぱじ(木の枝)からだんだん太いきんぼっぱじに燃えさせえて、最後にまきに燃え移らせます。
新聞紙を使うとスギッパより簡単に火をつけられます。
火が熾きたら鉤吊るしに鉄瓶を下げて湯を沸かします。
マッチが普及してからはマッチで火をつけますが、ヘタがやると何本ものマッチが要ります。
ベテランは一本のマッチしか使いません。

そうしてお母さんは竈で朝食に準備に取り掛かります。
その頃に主が起きて来て、顔を洗い口をすすぎ神棚に水とお茶を上げ、仏壇に線香を供えて横座に座ります。
その間にお母さんは食事の準備をしながら子供たちを起こします。

全員がそろったら食事です。
お母さんはかか座に鍋敷きを敷いて味噌汁の鍋を置き、ご飯は釜からお櫃に移して用意します。
それぞれの高足膳の茶碗によそいます。
おかずは朝は忙しいので簡単な物、漬物や塩辛・キンピラ・納豆・オサイ(オヒシオ)などです。

囲炉裏は暖炉でもあり竈でもあり乾燥機でもあり保存庫でもあり、憩いの場でもあった訳です。
ご飯は竈で炊きますが、味噌汁やきんぴらなどは鉤吊しに下げた鍋で作ります。

昼はお母さんは皆より少し早くあがり、昼食の準備をしますが男たちはくつがけを履いたままどだべえり(たてべえりともいい、靴のまま囲炉裏に入ります)をします。
囲炉裏の踏み板を起こして地下足袋のままふんごんではいるわけです。
暖かい時期には囲炉裏には入らず、あがりっぱな(上がりかまち)で食事をすることもあります。

夕方もお母さんは少し早く上がりおゆはん(夕食)の準備をします。
仕事から上がったら一家の長がまず一番風呂を浴びます。
そして家長は横座に座り、一本つけてもらい晩酌をします。
肴は特別に一品つきます。

今なら不公平で差別問題に発展しそうですが、昔は当然のことでした。
外国の会社でも階級によって、食事をする場所も内容も違うということがあって、日本の経営者が平等にしようとしたら、下級階級の人から止めないでくれとの反対意見が出たそうです。
「俺も早く出世して、あちら側で食事が出来るようになりたい」との目標が無くなってしまう、というからだそうです。
相撲の世界にもそういう封建的な制度があるそうですが、早く出世したいというハングリー精神につながります。

昔の父ちゃんは威厳がありました。
子供が横座に座ろうものならキセルで叩かれたものです。
主がいなくても誰も横座には座りません。
お母さんから粗大ゴミ扱いされている、今の父ちゃんからは想像できない光景です。
今の子供たちはママゴトをすると、お父さんやお母さんには誰もなりたがらず、ペットが一番人気だそうですが、子供は大人をよく見ているものです。

現在日本では大人と子供が同居する標準世帯が減少して、大人だけ(老人だけ)という家庭が増えているそうです。
まして親子三代がひとつの囲炉裏を囲んで団欒を、という光景はもう見られなくなってしまいました。

お母さんは夕方も農作業から早めに上がって夕食の準備をします。
疲れている時や忙しい時はよくうどんが出ます。
茹でれば済むので、後はあり合わせの材料でけんちん汁を作ればよわけです。
おかずはキンピラと漬物でもあれば充分で、天ぷらでもあったら今日は何かのお祭りかと思ったほどです。
農家ですのでやはり野菜が中心で、春は山菜、夏はナス・キュウリ、秋から冬は白菜・大根・里芋などが中心になります。

肉や魚は今ほど食べませんでしたが、秋刀魚や鰯などは安いときは大量に買って、大なべで煮てしばらく食べていました。
ヒラメなども昔は安く、鍋一杯に煮てニコゴリになったのを温めながら食べたものです。
暮れには塩引きがお歳暮として届き、正月は無くなるまで食べましたが、親戚の多いところでは土間に箱がずらっと並んでいて羨ましく思ったものです。

夕食が済むと囲炉裏の周りでは一家団欒の時間ですが、私の小さいときはラジオであり「怪傑紅孔雀」や「里見八犬伝」などをワクワクしながら聞いていました。
小学校のころにテレビが我が家にもやってきて、「竜巻子天狗」「チロリン村とクルミの木」「まぼろし探偵」などに夢中になっていました。
プロレスの「力道山」は、もう憧れを通り越して神様でした。
それらとともにだんだんと囲炉裏から離れて、炭を使ったコタツの生活になってきました。

その後は改築で囲炉裏は無くなって、電気コタツになって火を使うことはなくなってしまいましたが、電気では暖まりかたが違います。
電気では炭のように身体の芯からじわじわと暖まらず、表面だけが暖かくなる感じがします。
小寒い時に火鉢で手あぶりをすると、手しか火にあたっていないのに体がホンワカと温まります。遠赤外線の影響でしょうか。
炭のコタツも同じで足を入れていると体全体が暖まります。

囲炉裏で毎日いろいろな木を燃やしていると、木によっていろいろあることが分ります。
堅木は火付きは悪いですが火持ちは良いです。
反対にボサッ木(枯れた木)はぺらぺらと燃えるだけで、火力がありません。
枯れた竹などはわっと燃えて一瞬熱いだけで暖まりません。
桐はなかなか燃えないし、のでんぼー(ヌルデ)ははねて閉口します。
桜は火力が弱いですし、杉は火力が弱い上に灰が飛び散ります。
やっぱり一番はナラ・クヌギ・カシです。
火力が強い上に、燃えた跡も良い灰が取れます。
灰も農家にとっては無くてはならないもので、灰汁抜きや肥料に使います。



いも串

大子の名物にいも串があります。
これは現在では袋田の売店でも売っていますが、大子では正月の3ヶ日は必ずいも串を食べました。
その昔、里芋を栽培することで定住することが出来、民族が栄えたことに感謝して正月に食べるようになったと聞いています。
いも串も各家庭によって味が違います。
たれの作り方も違いますし、里芋も代々種を受けついていますので微妙に違いますし、土地によっても味に違いがあります。

大晦日には大鍋で里芋を大量に煮ます。
3ヶ日分煮るのですから家族の多い所では大変です。
正月朝起きたら串に刺して囲炉裏で焼き、温まったところで特製の味噌たれをつけて焼きます。
焼きあがって味噌が乾いたらお盆に上げておき、正月の3ヶ日にお雑煮を食べる前にお茶を飲みながら食べます。

いも串は焼きたてのアツアツも美味しいのですが、もっと美味しいのは一度冷めたのを囲炉裏で再度温めたものです。
冷めたいも串を焼くと、熱くなってきて「キーン」と鳴きます。
里芋の水分が皮を破って噴出し音が出るのです。
この音が出始めたら食べごろで、水分が抜けて里芋がほっこりして焼きたて以上の味になります




焼もち

女性の専売特許ではありません。(失礼!今ではそんなことはないですね)
正確にはほど焼もちです。
お焼きというとフライパンで焼いたもので、大子ではたらし焼もちといいます。
で、ほど焼もちですがこれも各家庭によって違いがあり、材料や味付けに工夫があり、おらが味があります。
一般的にはうどん粉をやわらかく練って味噌を加えて丸く丸めて、囲炉裏の灰に埋めて上に熾きを載せてこんがりときつね色に焼きます。

食べ物を直接灰の中に入れてとお思いでしょうが、灰は木だけを燃やしたもので汚いものではなく、焼きあがったものを炉縁にコンコンと叩けばきれいに落ちてしまいます。
全体がきつね色で所々がちょっと焦げているくらいが最高で、表面の歯ごたえと香ばしさ、中心部のふっくらとした蒸しパン状の生地が美味しいです。

ご飯を入れるとまた違った食感で美味しいです。
ねぎや味噌漬を入れるとご馳走になります。
私は現在囲炉裏が無いのでうどん粉を練って、アルミホイルに包んでストーブで焼いています。
弱火でじっくり焼き上げれば、昔ながらの味を再現できます。
お年寄りには喜ばれますが、若い人は首をひねってなかなか手を出してくれません。

ほど焼もちは時間がかかるので、簡単なたらし焼もちも作ります。
この場合重曹を加えてふっくらと焼き上げます。
和風のホットケーキですが美味しいです。
味噌味で甘いホットケーキとは違いますが、冷めても美味しいですし、常温で保存しても悪くならないので携行食として、畑仕事や山仕事によく持って行きました。

現在大子町ではこの焼きもちをおしゃれにアレンジして、「おやき」として販売してます。
昔風の焼きもちとは違いますが、中にきのこやきんぴら、餡やカボチャなどが入っていて美味しいです。



焼きこ

囲炉裏で魚や餅を焼くときはヤキコを使います。
半円形のスノコに足が着いている物で、熾きの上に載せて焼きます。
普通、魚焼き用と餅焼き用の二つを用意しておきます。

秋刀魚を焼いたときは油が滴って熾きの上に落ちて、ジュジューッと煙が立ってこれがまた美味しい隠し味になるのです。
ひっくり返すときも注意が必要で、これは2本の鉄箸よりも火バサミの方が上手くいきます。
ヤキコを使わないで串にさして、立てて焼く所もありました。

焼きおにぎりもヤキコで焼けます。
この場合は直接ヤキコに載せると返すときにくっついて、美味しいおこげがはげてしまいますので、ごく細いきんぼっぱじ2本の上に載せて焼きます。
焼きあがる頃はきんぼっぱじは無くなっています。

餅を焼くのは難しいです。
よく「魚は大名に、餅は乞食に」と言われるように、餅は終始ひっくり返して焦げないようにしなければなりません。
火加減も難しく強いと表面だけ焼けてしまい、弱火でじっくり焼くのが良いのですが、急ぐあまり強火でよく焦がしたものです。

特に難しいのは「引き焼き」といって、焼きあがった餅に砂糖醤油をつけて再度焼くのですが、大変焦げやすくちょっと炙った程度にしないと直ぐに焦げて真っ黒になってしまいます。




お膳

お膳については現在取材中ですので、今暫くお待ち下さい。
本膳について知っている人が少なくなってきていますので。
私の頃はちゃぶ台でした(星飛馬の父ちゃんがひっくり返したアレです)。


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