このCDは「和」の雰囲気を大切にしました。
一枚目のアルバムに比べて民族楽器の使用が少なく、二枚目のアルバムに比べてジャズ風味も控えめ、よりシンプルな編成とシンプルな音色で空間を生かした音作りにしたつもりです。
意識して和風のメロディにしたわけではありませんが、生まれ育った土地を想い自然とそうなったという感じです。
この想いはジャケットをご担当いただいた江島さんにも伝わりました。
今回初めてジャケットとCD盤面のデザインをお願いしたわけですが、満足のいく仕上がりとなりました。
「和」の意味は単に日本風という意味だけではなく、ロッサのメンバー、そしてこのCDを作るにあたり協力いただいたすべての人の和という意味も込められています。
1.
柿の木のある家
私の実家は金沢の柿木畠というところにあります。ただこれは旧町名で私が小学生のころありふれた町の名前に変わってしまいました。柿木畠というのは藩政時代からある町名でこのあたりは一面柿の木があったといいます。実家にも大きな柿の木がありました。一年おきにたくさんの実がなり、それを取って干し柿にして食べるのが楽しみでした。柿の赤い実は秋の澄んだ青空によく似合います。
その実家は私が金沢を出た後に取り壊されましたが、今も庭には新たに植えられた1本の柿の木が残っています。その後旧町名が復活し、柿木畠という名前は残りましたが、昔はどの家の庭にもあった柿の木はその1本以外ほとんど残ってはいません。
曲のタイトルはそんな私の生まれ育った家と柿の木に想いをはせたものです。最初はゆったりした曲想ですが後半は7拍子になります。
2.
風光る
この曲を書いたのはかなり古いのですが、ライブではまったくやっておらず、あまりリハも重ねてはいませんでした。前半はギターソロが続くためライブばえしないのと、また転調が多く演奏も難しいため長らく放置されていました。今回の録音に際し練習しなおしましたが、やはりなかなかキメられず、やっと満足いくテイクで録ることができました。それだけに愛着のある曲に仕上がりました。タイトルは風薫る5月にちなんで、風がキラキラと光るような新緑の季節からとっています。
3.
波の華
今回のCDには元々サズによる曲がありませんでした。サズはトルコの民族楽器でこれでオリジナル曲を作るのはなかなか難しいのです。でも全くサズの曲がないのも寂しいので、サズのためだけに作ったのがこの曲です。トルコの曲には変拍子が多いので、この曲でもところどころに10拍子のフレーズを取り入れてみました。ちなみにタイトルは能登の海の冬の風物詩である波の花からとったもので、激しいリズムで岩に砕け散る波を表したかったのです。
4.
窓から見える風景
中学生になってから金沢を出るまでの6年間、私に自分の部屋が与えられました。たった二畳という小さな部屋でしたが、とても好きな部屋でした。その部屋の窓から見える風景もまた好きだったのです。
幼稚園の時に通った近くの教会、プラネタリウム、テレビ局の大きなアンテナ、遠くには雪をいだいた山並み、そんな風景の見える窓でした。
5.
遠きにありて
金沢の実家からほんの少し歩いたところに犀川という川があります。この川べりから見る近くの山々が私のふるさとの原風景ともいえます。川沿いには室生犀星の石碑が建っています。高校卒業と同時に金沢を出てしまった私には室生犀星の「ふるさとは遠きにありて思ふもの」という詩には特に思い入れがあります。
この曲には私が好きになったいろいろなタイプの曲を、詰め込んでしまおうという思いがありました。沖縄風、R&B、アラブ風、10拍子や7拍子などの変拍子、ふるさとを遠くから想うように私が好きな音楽もみな遠くの土地にある音楽です。
6.
泡雪の夢
明け方に見る夢は正夢といわれます。覚えている夢は起きる直前に見る夢が多いでしょうから、見た夢は実現すると思っていいのでしょうか?しかし起きた瞬間には覚えていてもよほど印象が強かったり、書き留めたりしないかぎり、忘れてしまう場合がほとんどです。
信じられないほど美しい夢をみて涙して目が覚め、その想いに浸っている間に春の泡雪のように、地上に降り立ったらすぐに消えてしまうような夢。消えてしまうともう二度と思い出せなくなり、ただすごく美しい夢だったはずだ、との想いだけが残る、そんな夢のことを想って書いた曲です。
7. 夜香花
この曲も「 風光る」同様、書いたのは比較的古いのですがライブではほとんどやったことがない曲です。タイトルがなかなか決まらず、曲が出来てからつけたのです。夜に開花する強い香りを放つ花、亜熱帯の異国の夜にこの香りに誘われて散歩する、そんな雰囲気を感じ取ってつけたタイトルです。
今回はサズを使う場面が極端に少なかったため、中間のソロ部ではサズを使ってみました。結局サズの入った曲は2曲にとどまったのですが自分としては満足しています。
8.
海鳴りの記憶
「波の華」とともにこのCDのために書いた新しい曲です。このCDからは正式に打楽器が入ったおかげで、今まで出来なかったリズムを強調した曲を増やすことができました。久しぶりに再会してロッサに参加してくれたカホン(スペイン語で箱という意味の打楽器)の村上とは、昔ロックバンドをやっていたので、今までのロッサにはないロックっぽい曲を書いてみようと思いました。
村上の先祖は愛媛の出で、村上水軍の末裔、つまり倭寇だと聞いたことを思い出し、当初は彼の先祖に思いを託し、この曲は「パイレーツオブ瀬戸内」と呼んでいました(笑)。ただそれではあまりにもベタなので、このようなタイトルにしたわけです。
9.
陽光
このアルバムには組曲のように様々な風景を感じられる曲が多いです。この曲の前半では冬の終わりのうす寒さ、夜明け前のほの暗さを表したつもりです。後半は暖かい春の日差し、雪国の長い冬があけ、木々の芽が吹き、雪解け水が流れる、そんな雰囲気を感じとっていただけると嬉しいです。
10.
フェリアフェスタ
このCDの曲の中でもかなり古くからやっている曲です。スペイン、アラブ風の曲をやってみたかったので作りましたが、それだけでは最後が寂しかったので、一旦曲終らせたあと10拍子のメロディを入れてみることにしました。
レコーディングでは普段のライブではできない多重録音をやりたかったので、バイオリンでメロディをハモりながら加えていってもらいました。曲を書いた当初からぜひやってみたかったアレンジでした。迫力があり満足しています。あとバイオリンソロからテーマに戻る部分も、バイオリンを重ねてもらいました。これはその場で思いついて入れてもらったのですが、いい感じになったと思います。ぜひお聞きのがしなく。
田中