前回、三鷹駅の話が出たので丁度よい機会と思い、三鷹駅について話をする。本編を書
き始めた当初はぼくは三鷹駅には全くと言っていいほど縁がなかったので、初めはごくあ
っさりと流そうと思っていた。というのも、最初に書いたかも知れないが、本編を書き始
めた頃はぼくは地元JR日野駅からJR神田駅まで中央線のオレンジ色の電車で通勤して
おり、三鷹駅を通過することはあっても電車を降りてホームに立ち寄ったり駅から外へ出
たりすることはほとんどなかったからだ(あるとすれば駅のトイレに寄るくらいのものだ
った)。
この話を書いている今は、臨海副都心線国際展示場駅まで通っている。駅名を言っても
ピンとこない人が多いと思うので説明すると、日野駅から三鷹駅までオレンジ色の中央快
速線の電車に乗り、三鷹駅で黄色の総武線直通中央緩行線の電車に乗換えて市ヶ谷駅まで
行く。
市ヶ谷を知らない人は東京近郊にはあまりいないと思う。次に市ヶ谷駅で営団地下鉄有
楽町線に乗換えて終点の新木場駅まで行く。営団有楽町線は西は確か和光市から、池袋、
有楽町を経て東は銀座一丁目、新富町、月島等々を通り、そして江東区にある終点の新木
場駅に至る。
新木場はJR京葉線との乗換え駅でもある。この新木場でまた臨海高速鉄道臨海副都心
線の電車に乗り換えて今来た方角とは殆ど正反対の方へ向かって移動し、国際展示場駅ま
で行くのである。
ここで、臨海高速鉄道臨海副都心線というのが耳慣れないと言う人がいるかも知れない
。臨海副都心線はかの有名な新交通「ゆりかもめ」と時期をほぼ同じくして出来た、半分
地上、半分地下の鉄道交通機関である。今はまだ新木場から3駅先の東京テレポートまで
しか開通していないが、平成12年には山手線大崎駅まで延長されて埼京線直通になると
いう。
臨海副都心線の国際展示場駅からは、「ゆりかもめ」の有明駅が左側眼前に臨め、国際
展示場ビッグサイトを真正面に臨むことができる。ビッグサイトのすぐ脇には「ゆりかも
め」の有明駅の次の駅である国際展示場正門駅が控えている。
とまあ、あまり細かく説明しても何だからこの辺りにするが、要するに臨海副都心線と
はだいたいこのような路線である。
ぼくは今の所に通うようになる迄に、JR新橋駅で降りて銀座の外れに通っていた時期
もあった。日野から新橋まで通うのでさえ通勤が負担に感じられたのに、今の所になって
また通勤距離と時間が増えた。あまり有り難いことではない。電車の乗換えも3回しなけ
ればならない。面倒なことこの上ない。
今の所に通うようになって、三鷹駅を毎日利用するようになった。ただ、それも必須の
ことではなく、必ずしも三鷹駅で乗換えなくとも済む。
前述したように、営団有楽町線に乗り換えるために市ヶ谷駅に停車する電車を使わなけ
ればならないが、それは黄色の電車である。
一方、日野駅は黄色の電車は通っていないからオレンジ色の電車に乗るしかない。
問題はオレンジ色の電車から黄色の電車へどこで乗り換えるかだ。
考えられるのは、黄色の電車の始発駅である三鷹、時に始発駅となる中野、乗降が激し
く降りるのに都合の良い新宿、乗換え可能な最後の駅四ツ谷などである。
始めのうちは市ヶ谷の一つ手前の四ツ谷で乗り換えていた。その方が通勤時間が短縮で
きるからだ。
最も早くは三鷹で黄色の電車に乗り換えることができるが、三鷹から黄色の電車に乗る
と、オレンジ色の電車では停車しない東中野、大久保、代々木、千駄ヶ谷、信濃町の駅に
停車する分だけ時間が余分にかかる。その時間をだいたい7〜8分とみている。
朝の貴重な時間をこのようなことで無駄に使いたくないというのは、誰しもが最初に考
えることだと思う。ぼくも当然そのように考え、時間のロスの最も少ない四ツ谷で乗り換
えていた。
神田や新橋まで通っていた頃の思いがあるから、四ツ谷くらいまでたとえ立って行った
としても問題なく耐えられると、簡単に思っていたのである。
しかし、体力の低下か、あるいは全体の通勤時間が延びたせいか、1週間がやけにきつ
く感じられたのだ。それでも2〜3週間は何とか耐えたが、次第に馬鹿々々しくなってき
て、ある日三鷹駅に到着する直前についに始発の三鷹駅で乗り換えることに決心をし、オ
レンジ色の電車を降りた。
三鷹駅で黄色の電車に乗り換えるのを意識して行ったのは、過去にあまり記憶がなかっ
たので、最初、ホームのどちら側から目的の黄色の電車が発車するのか分からず、ホーム
で暫くうろうろしていた。
市ヶ谷駅に停車するのが黄色の電車で、それも三鷹駅の場合最も南側のホームから発車
するのだということは、オレンジ色の電車に乗っていても見えるので前から分かっていた
。
そして、三鷹駅の最も南側のホームからは黄色の電車の他に、営団東西線の電車も発車
するようになっているのも前から分かっていたが、発車番線、つまりホームのどちら側か
ら発車するかが、決まっておらずに電車によって黄色の電車(以後、総武線という)と東
西線とが不規則に入れ代わるということは、実際に問題のホーム(1、2番線になってい
た)に降りるまでは寝耳に水であった。
三鷹駅は線路が地上よりやや高めだがほぼ地上と同じ位置にあって、券売機や改札口が
ホームから階段を登った位置即ち線路の上方にあるという作りで、中央線上り線路が再北
端側6番線、次いでホームを挟んでその南隣にもう一つ中央線上り線路5番線が、その南
隣に中央線下り線路4番線、ホームを挟んで南隣に同じく中央線下り線路3番線がある。
そして、最も南側のホームを挟んで北側に2番線、南側(最南端)に1番線がある。
1、2番線が総武線と東西線の共用番線で、中央線上りホームから行くには一度階段(
今はエスカレータもある)を登って中央線下りホームを跨ぎ、階段を降りて行くことにな
る。
その階段を降り、1、2番線ホームへ出た時、ホームの左右どちらにも電車は来ていな
かった。そのためどちらが総武線の発車番線なのか分からず、案内などを求めてうろうろ
キョロキョロしていた。幸い、階段を降りた直ぐ正面上方に電光掲示板があることにまも
なく気づき、とりあえずその案内で、その時は1番線が総武線、2番線が東西線というこ
とを確認することができた。
ところが、一度よそ見をして再び電光掲示板に目をやると、案内表示が変わっていて、
1番線の先発総武線、次発東西線、2番線の先発東西線、次発総武線となっている。
1番線側に並ぼうとしていた矢先だったので混乱した。とりあえず1番線先発総武線の
ようだが、それを信用してよいかどうか疑わしくなったのだ。
まず、電光掲示板の表示がさっきと変わったがどちらが正しいか。次に、電光掲示板に
よれば総武線と東西線は番線が相互に交代したりもするようだがそれは正しいのか。であ
る。
迷いながらもとりあえず電光掲示板の案内を信用して階段下の1番線側に適当に並んで
いたところ、例の構内放送があった。「まもなく1番線に○時○分発折り返し○○行きの
総武線直通各駅停車が到着致します。危ないですから黄色い線の内側に下がってお待ち下
さい。なお、当駅では電車到着後直ぐには乗車できません。降りるお客様がすむと一旦ド
アが閉まります。再びドアが開くまで白線の位置で3列に並んでお待ち下さい。ドアが開
きましたら列の前の方から順序良くご乗車下さい。お客様のご協力をお願い致します。」
電車到着の案内と、「整列乗車」の案内である。
電車到着の案内では、ああこの番線でよかったんだとホッとしたが、その後につづいた
「整列乗車」の案内には多少まごついた。というのは、以前の東京駅では2列整列乗車で
あったし、また、三鷹駅の階段下というのが曲者で、階段下つまり自分が今並んでいると
ころにどうも人がいないな、といぶかしく思っていたが実はここはドアの前ではあるが通
り道が狭いため整列場所を少しズラして作ってあったのだった。
虫の知らせか、案内放送に刺激されてもう一度念のために周りを見回してみて、ハッと
気づいたのだ。自分が今並んでいる所は正規の整列位置ではない。そして右方を見ると、
既に3列に整列した人たちが15人くらいいる整列場所があった。とき既におそかりしで
ある。しかし、この電車に座って乗ることの無理を承知でその列の後ろに並んだ。
ところが、電車が到着して実際に乗り込む時になると、列の中で自分より前に並んでい
る人が一人二人整列場所に残り、次の電車を待つ姿勢を見せるのだ。その人達の前に出る
と、もう完全に座れる順位である。ぼくは思った。こういうこともあるなら諦めずに並ん
でおいて良かった、と。そして、例の構内放送を、実に有り難いと思った。
よく聞いていると、電車が到着する度にだいたい同じことを喋っている。電車は3分毎
に2本の割合で到着して発車していく。駅の係員の苦労が忍ばれる。
ぼくは目的の電車に座れた。もちろん市ヶ谷までゆっくり座って行くことができた。目
的地国際展示場に到着した時も疲れを感じなかった。
三鷹駅の始発に座って乗るためには、そこで5分くらい待たなければならない。時間は
四ツ谷駅で乗り換えるのに比べて12〜13分くらい余分にかかる。しかし、今ではその
時間を犠牲にしても座って楽をして通う方がどんなにか良いか知れない。
三鷹駅はぼくの通勤において単なる乗換え駅の意味合いを持つにすぎないが、長年通勤
をしている間には、次第にもっと大きな役割を担うようになるに違いない。それだけ、今
でも、精神的にも肉体的にも少なからぬ支えとなっている駅だ。
しかし、今のところに通うのもあと何年か。そろそろ勘弁してほしいという気持ちであ
る。いまのところよりもかなり近場に通うようになれば、もしかすると三鷹駅で乗り換え
る必要がなくなるかも知れない。ということは、三鷹駅で乗り換えることは、ぼくにとっ
てはなくなることが好ましいことと言えるのかも知れない。
もちろんただなくなるのではなく、必要としなくなると言う意味であることは言うまで
もない。
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