6話。



その頃、朱雀は青龍の神殿屋敷の客室に寝かされていた。

結局、「魔王」は2人で二本飲み干した。

朱雀が顔を真っ赤にして、倒れ損ない、青龍は朱雀の倍は飲んだのに整然と看病に当たっていた。

「うー・・・頭がくらくらするぅ・・・。」

「ごめんなさい、朱雀。お酒飲みしかわたくししたことがないので・・・。」

おっ、御茶はと思いつつ、朱雀は襖の開いた先の桜を見た。

「客室だけあって見晴らしがいいわね・・・う゛っ・・・。」

「あらあら、まだ横になって居てくださいませ。」

「うん・・・。」

青龍は酔い覚めの飲み物を準備していた。

「あ゛ー・・・こんなにお酒飲んだの生まれて初めて。」

全然顔の赤くない青龍を見て、朱雀は自分は酒は弱いと思いこんだ。

しかし、普通なら少し酔う。

そんんな様子は一切見受けられなかった。

「けど、玄武って本当に強いの・・・?童顔だし、背低いし。」

「まぁ、皆そういう反応は致しますわよね。」

青龍は朱雀と玄武のやり取りが大体想像でき、思わず笑みがこぼれた。

「青龍もビックリした?」

「えっ・・・?わたくしは、別に・・・。」

何か煮え切らない態度に朱雀が不思議そうな顔をする。

なんだろう・・・青龍ぎこちない?

「なんか〜青龍変だよ?」

けれど、青龍は表情を変えニッコリと笑う。

「それより、今度はマムシ酒飲みましょう?」

何故、酒の話題に・・・?

「玄武からは止められているのですわよ!わたくし、酒が恋人なのに・・・。」

ああ、そう言う意味だったのか・・・。

酒をとられたくないから玄武に対してぎこちない感じを示したんだ。

しばし、意識が飛びそうになる。

「今夜は泊まっていくといいですわ。」

「あり、がと・・・。」

微睡みの中、朱雀は目を瞑る。

ふかふかの布団が気持ちいい・・・。

川のせせらぎが聞こえる。

そのまま意識が飛びそうになったところで・・・。

「青龍、またやったかぁ?」

目を瞑りながらも分かる、今日初めて会った玄武だ・・・。

迎えに来たのかな?

「ええ、寝ておりますわよ。またやってしまいました。」

落ち込む青龍に玄武は深呼吸する。

「お酒禁止!琥珀からも譲って貰わないこと!!」

玄武はプンスカと、空になった魔王をとる。

「あー・・・見事に飲み干して・・・急性アル中になっちゃうだろう?」

「ちょっとしたお茶会のつもりだったのですけど・・・。」

「青龍のお茶会は桜見ながらの酒盛りだろうに!」

玄武は、空になっている魔王二瓶を見て溜息を吐いた。

「まったく、琥珀といい勝負だよ。」

せっかくの桜の香りが酒臭い、と玄武は嘆いた。

「また、酒隠しているんじゃないんだろうなぁ〜?」

ギクッとする青龍。

目を瞑っている朱雀には分からない。

だか、他の人から見れば茶目っ気があると言われるだろう。

まだ、朱雀の前では出したことのない表情。

「ばれちゃいました?」

「ばればれ〜。」

青龍はばつが悪そうに玄武を見た。

「あ〜青龍、お酒が無くても生きて居れるようにならなくては!」

「え〜・・・無理ですわね。」

「其処!断言しないの!!」

青龍の酒好きはこうも有名だが、知らない人がいれば外見のギャップと押され具合に酒が進むのだろう。

「それに、こんなに飲んでいたら、入院さ・せ・る・ぞ。」

幾ら何でも飲み過ぎなのには変わりない。

これがずっと続けば・・・。

その事を玄武は危惧していた。

「もうしませんわ。するときは玄武を呼びますわ。」

「本当に〜?」

「あらあら、なかなか信用して貰えないようで。」

クスクスと青龍は笑った。

「信頼してるって。酒以外は、ね?」

「別の意味ではありませんの・・・?」

鈴のような軽やかな声にしなやかな身体が月を照らす。

けれど、玄武は動揺はしない。

「桜、綺麗だね・・・。」

ふと、桜の方へ目を向ける。

月に照らされた桜は神々しい雰囲気を纏っていた。

「よく、人間は桜の下には死体が埋まっていると言いますけれど、そのように言うのも分かりますわ。」

青龍はカランを音を立てて、庭に立ち上がり玄武を見上げた。

「俺は・・・桜は鎭霊の為にあると思うよ。」

「・・・・・。」

青龍は少し無言のまま桜を見上げた。

「天界の天人・天神・・・殉職した者・・・ですわね?」

玄武は微かに頷き、桜を見上げる。

「俺達にとってこの『桜』は重要なんだ。」

「・・・玄武。」

青龍は玄武に触れようとした手を宙で弄んだ。

「俺、どんなことがあろうと絶対に己の人生を誇りを持って生きていくんだ・・・死ぬまで『玄武』として・・・。」

「そう、ですの・・・。」

なっ・・・何、この雰囲気?

寝たふりも大変な朱雀は必死に目を瞑っている。

「玄武、残された者はやはり後を追うのです?」

「青龍ならどうする?けど、俺は前を向きたい・・・白虎じゃないけど復讐って・・・前向きなのかな?」

玄武は青龍の手に気付くこともなく、ただ桜を見ている。

「わたくしは、少し・・・いえ、なんでもないですわ・・・。」

「なーに、煮え切らない顔して!青龍は美人で絶対男が放っておかないって。」

玄武も男でしょ!と内心つっこみをいれる朱雀。

「そんな、悲しそうな顔するなって。」

「玄武、相変わらず鈍いですの?それとも、ずっと『あの人』のことを思っていますの?」

あの人?誰だろう?

「・・・別に。」

なんでだろう、返事が素っ気ない。

「さてさて、朱雀もぐっすり寝ているようだから俺は帰るよ。」

「泊まっていけばいいのに・・・。」

青龍が微かに寂しそうに言う。

「酒の相手は出来ないよ?帰ったら色々書類が貯まっているから。」

「相変わらず、お忙しいのですね。」

玄武はこう見えても多忙だ。

四守護神の長としての仕事が彼にはある。

「名残惜しいですわ。」

「大丈夫。今度、辛くなったらまた酒の相手してあげる。」

そう言う意味じゃないのに・・・と青龍はぼやいた。

まるで青龍が我が儘を言っているように聞こえた。

朱雀にとって、大人の気品溢れるのに・・・そういう一面が新鮮だった。

「まぁ、あまり期待しませんけれど。」

「むぅ〜・・・俺だって、酒飲みたい時あるから。」

玄武は瓶をおく。

「さて、本当に帰る。」

「ええ、お疲れ様でした・・・見送りますわ。」

2人はそっと、その場を後にした。

ようやく朱雀は目を開いた。

「なっ・・・何?今の何?」

全く持って寝ているのが辛かった。

「私、完全に空気だったわね。それにしても、まさかとは言いたいけど。」

カァ〜と顔が赤くなる。

恋愛なんて小説や漫画でしか読んだことがない。

翌朝になったら聞いてみようかな?

青龍の反応が楽しみだけど・・・玄武が気になる。

翌朝。

結局、2人の関係が気になって眠れなかった朱雀だった。

あんな美人と子供のような童顔な青年・・・。

誰しもギャップを抱くだろう。

「あ゛ー・・・2日酔いが来たわぁ。」

目を擦り、ふぁ〜と大あくびをする。

「おはよう御座います。入っても宜しくて?」

青龍の声がドア越しから聞こえた。

「あっ!うん、ちょっと寝癖付いているけど入っていーよ?」

青龍は昨晩のことは何もなかったように落ち着いた。

「ふふっ・・・その様子じゃ、2日酔いみたいですわね。」

わたくしのせいですけど。

つい、誰でもいいからお酒を飲みたがる癖は直らない。

神殿屋敷の巫女など、従者やよく宴を開いている。

「うん、大丈夫!ちょっとね・・・。」

「そうですの?お粥を作ったので食べてくださいませ。」

青龍の持つお盆の上に乗せられている器から食欲をそそる匂いがする。

「わぁ、美味しそう!」

「わたくしの手作りなのですよ。」

家庭的だなぁ。

朱雀は料理は全く持って駄目だった。

もしかして、これって・・・花嫁修業しているの?青龍?

朱雀は聞こうとしていたことを思い出した。

「あのさ、青龍って好きな人いる?」

ダイレクトだ。

かなりのダイレクトさだ・・・。

青龍の表情が一瞬固まった。

「まぁ、いきなり大きな質問ですわね。」

オブラートに包むことなくされた質問はあまりにも。

「あっ、ごめん。ただ、青龍って美人だから恋人とかさぁ〜・・・。」

なんとか、話題を振ろうとする。

「朱雀こそ、好きなことはいますの?」

逆に質問された。

「ええっ!!私、武術しか特技無いし、恋人なんて作れないよ。」

突然の反撃に狼狽える朱雀。

どちらが手のひらで踊らされているのやら・・・。

「そうなのですの?」

いやいや、と朱雀は首を振る。

「それより、青龍こそ本当な好きな人いないの?」

昨晩のあのやり取りを聞いてしまったら聞くしかない。

青龍は微かにうなだれた。

「お酒が恋人ですわ。」

そうきたか!と内心つっこみ。

朱雀はジッと青龍を見た。

「ホントにホント〜意外な人に惚れて居るんじゃないの〜?」

肘でつっついてみせる。

「居たとしても・・・叶いませんわ。」

「・・・えっ?」

意外性のある答え。

まさか、玄武・・・結婚しているの?失楽園?

「言ってみたかっただけですわ。一途な思いは、叶うのかしら・・・?」

青龍は自分に問いかけるように呟いた。

「わたくは好きな人がいても、叶いませんわ。」

「そんなこと無いよ!青龍美人だし!!男の人が放っておかないよ!!!」

失楽園だろうと、一夫多妻制な部族もある。

「励まし、ありがとう。けれど、わたくしの恋はあっても叶いませんわ。」

断言する青龍に・・・。

「青龍・・・ごめん。変な話題出して。」

朱雀は2日酔いで顔が赤くなっているのではなくて恥をかいて赤くなっていると思った。

「いえいえ、これから色々親睦を深めるのですから。」

「うっ・・・うん。」

朱雀はぎこちなく笑った。

玄武と青龍の仲は一体どうなっているのだろう・・・?

白虎だって私の知らない一面を持っているだろう・・・。

これから先、このメンバーで戦うと思うとやる気が増した。

「よし、頑張ろう!」

「その勢いですわ。」

やんわり、青龍が頷いた。

意外な一面が分かり、これから仲良く馴染めそうだった。
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