分かれる道

       別離

          カタロンとの定期報告を終えて、ライルは溜息をついた。カタロンからの帰還命令が出たのだ。確かに
          ライルはCBがカタロンのプラスになれば良いと思い、幹部達の同意を得て加わっただけなのでとっと
          と帰れば良いだけの事だ。だが戦力をみると「ガンダム」という化け物MSであるとはいえ、1体抜け
          れば痛手になる。
          (さて、どうするか)
          思案していると、急にブリッジに呼ばれた。


          何事かと行ってみれば、マイスター達は既に来ていた。
          「皆に、重要な知らせがあるの」
          スメラギの声が弾んでいる。ブリッジクルーの顔も明るい。
          「先ほど、ロックオンから連絡が入ったのよ。4年間、生死の境をさ迷ったらしいのだけれど、生きて
           たの!で、こちらに合流してまた戦いたいって!」
          マイスター達の顔が輝く。わっという歓声が上がった。
          「生きていたのか、ロックオン」
          嬉しそうに刹那が声を弾ませる。
          「良かった、また会えるのか!」
          興奮を隠しきれないティエリア。
          「また一緒に戦えるんだね!」
          アレルヤの声も明るい。
          (生きていた・・・兄さんが)
          ライルは心の中で呟いた。もちろん、嬉しくないはずがない。唯一の肉親である兄が生きているとなれ
          ば嬉しいに決まっている。だがそれは・・・・・。
          ブリッジクルーとマイスター達がはしゃいでいるのを横目に、ライルはそっとその場を抜け出した。


          シュン、という小さな音にスメラギがドアに視線を動かすと、緑色の制服がそっとブリッジから出てい
          ったところだった。
          (あ)
          彼女もそっとブリッジを抜け出した。廊下にはゆっくりと歩み去る、彼の背中。
          「待って、ロックオン」
          声を掛けたが、彼は振り向かなかった。だが足は止める。
          「ロックオンは元々兄さんのコードネームだろ?兄さんが帰って来るならもう俺はロックオンじゃない。」
          「何を言っているの?」
          本気なの?と言外に含めば、彼は・・・・現ロックオン・ストラトスは苦笑を張り付かせて、振り向く。
          「そうだろう?あんた達が言う『ロックオン・ストラトス』は兄さんだ。俺は代打に過ぎない。本命が
           来るのなら、代打はいらないし」
          スメラギは唇を噛みしめた。確かにそうだ、自分やトレミークルーにとってその名を聞いて思い出すの
          は目の前にいる彼ではない。四年前に死んだと思われていた、彼の双子の兄なのだ。飄々としているよ
          うに見えて、彼は良く周囲を見ている。
          「でもガンダムに乗れるかどうか、分からないらしいわ。このトレミーの操舵手になる可能性の方が高
           いのよ、彼の現状を聞くと」
          そう言うと彼は肩をすくめた。
          「そりゃ、もったいないよ。兄さんはマイスターに相応しい能力値を持っている。そういうの、宝の持
           ち腐れっていうんだ」
          「・・・・貴方はマイスターに相応しい能力を持ってないって言うの?」
          絡むつもりは無かった。だが目の前の彼の事だって仲間だと思っているという事を、スメラギはなんと
          か伝えたかった。ガンダムは癖のある機体だ。凡庸性は無いに等しい。それをたとえ此処に来るまでに
          MS経験があったとしても、能力値が高くなければさっさと乗りこなす事は出来ない。だからこそガン
          ムマイスターは四年間という月日があったにも関わらず、ほぼ前メンバーになっているのだ。
          「ミス・スメラギは、俺の事評価してくれてんのか」
          どこか嬉しそうに呟く。
          「当たり前でしょ、じゃなければ私の立てる無茶って言われてる戦術プランを遂行できないわよ」
          そう、各マイスターの技術を高く評価しているからこそできる戦術なのだ。
          「そう言われると、なんだかほっとするよ」
          「じゃあ・・・・・」
          スメラギの期待はすぐに裏切られる。
          「ミス・スメラギは、俺が元々カタロン出身って事、知ってるだろ?」
          「?ええ・・・・刹那が言っていたわね」
          「丁度さ、帰還命令が出てんだ。カタロンでも、なにかやらかすらしい。で、俺に帰って来いってさ」
          彼が何を言いたいのか、分かってしまう自分の能力をスメラギは呪った。兄が来るから、自分は元いた
          場所に帰ると言っている。
          「それ・・・・覆せないの?」
          「残念ながら、俺はカタロンに骨を埋める覚悟でいたからさ。決してCBじゃないんだ。だから・・・
           時をみて帰ろうと思っている。戦力的にはカタロンの方が、圧倒的に足りないからな」
          「いつ?」
          彼の決心を変える事は出来ない、と悟ったスメラギは肩を落として訊いた。
          「それはこちらで判断する。あんたは許可さえ出してくれればいい。それに他のメンバーには黙ってお
           いてくれ」
          「どうして?」
          「せっかく兄さんが復帰してきて、良い雰囲気になっている。あいつらのテンション下げたくない」
          「・・・・・・そう、引き止めても・・・無理なのね。分かったわ、小型艇は好きに使ってくれて良い
           から」
          「サンキュ、無理言って悪いな」
          じゃあ、と片手を上げて彼は去って行く。その背中が自分達を拒絶しているように感じて、スメラギは
          辛かった。だがこれで彼が解放されるなら・・・・と思ったのも事実だ。最初はこちらに打ち解けよう
          としていた彼を、兄という名の壁を作ってしまったのはこちらの方だ。考えてみれば、良く耐えていた
          と思う。自分だったらきっと、耐え切れない。
          ティエリアもアレルヤもフェルトも、ラッセもイアンもそして自分も前ロックオンを彼を通して見てい
          た。彼を連れてきた刹那でさえ、その感触は否定できないだろう。


          「私は・・・・・私達は・・・・本当に残酷なのね」

     

          ★後ろ向き絶好調のライルさんですが、本当に明るくない話になります・・・・。小説を読むと、ライ            ルさんが歩み寄ろうとしているのを、他のメンバーが拒否している感じがするので読んでて気の毒に            なったもんです。        戻る