その後






 
ダーナの示す先・・・おまけ



はあ
溜息をつくと、赤い瞳がこれまた困ったようにこちらを見る。
「ロックオン、言っておくが俺は・・・・・」
「分かってる、分かってるって。刹那の事は信じているよ。でもさぁ、どうしたら伝わるんだろうな」
「それは確かに」
「俺だったら何回も言われたら、諦めるけど。かといって、泣かせるような事にはしたくないし」
「俺も困っている。どうして俺の言葉を聞いてくれないのか・・・・」
そして今度は2人して顔を合わせ『はぁ』と溜息をついたのだった。


ディランディ家を出た彼らは、首都から遠い地方都市の郊外に家を買った。元々高給取りだったライル
と、趣味を持たず貯金ばかりしていたらしいソランだったので購入資金はさして苦労はしなかった。裏
庭にはソランの・・そしてライルの趣味として畑やら花壇がある。家は2人で住むには部屋も多く、大
きいものだったが、ヴァスティ一家がバカンスと称して楽しみにやって来るので、実は丁度良い大きさ
なのだった。時折、ミレイナが『家出』と称してやって来たりする。因みに2人の部屋は家の中ではリ
ビングに次いで大きい。その部屋にはどどんとダブルベット(笑)が置いてある。だが部屋の真ん中は
仕切りができるようになっている優れものだった。そしてヴァスティ一家の泊る部屋から1番遠いのも、
良い処だった。落ち着いた処でライルはソランに名前を変えた、と言ってきた。確かに公式の書類では
『ライル・ディランディ』は存在せず『ライル・アークライン』もこの前の襲撃事件で死亡となってい
る。それは分かったのだが、ライルの考えたという名前を聞いてソランは目を丸くした。
「ロックオン・ストラトスって名乗る事にした」
「なんだそのふざけた名前は。もっとなにかなかったのか」
「だって俺、もう名前変えるの3回目だぞ。もう思い入れなんてないから、思い切って変なのにしてみ
 た!」
自信満々でそうのたまう8歳も年上の恋人を、ソランは頭痛と共に見つめたのであった。
「そうか、なら俺も新しい名前を考えよう。お前のセンスに合わせたものを」
そう言うと予想していなかったのか、今度はライルが目を丸くした。
「なんでだよ?別にお前はそのままで良いじゃん」
「いや、変える」
「なんだよ、意固地になっちまって?」
ソランにとって『ライル』の名は真の名前なのだ。ライルとて『ソラン』を真の名前だと思っているは
ずだ。だがライルは様々な事情により真の名前を名乗れなくなった。それがソランには悲しい。だから
彼が偽名を使うのであれば、自分がそれに付き合うのも至極当然の事だったのだ。
というわけで・・・
「刹那・F・セイエイ?・・・これまた変な名前だな」
「ロックオン・ストラトスと良い勝負だ。そうは思わないか?」
そう告げれば「どーせ俺のセンスは悪いですよーだ」とか言って口を尖らせる。ああ、可愛いなと思い
本当に末期症状なのだなとひとごとのように思う。

かくして小さな地方都市に『ロックオン・ストラトス』と『刹那・F・セイエイ』というなんともへん
てこりんな名前を持った者が誕生したのだった。

それからロックオンは小さな会社に入社。刹那は庭師としてのスキルが生きるように、それ関係の会社
に就職。単調でも肩の力を抜いて生きていける生活に、刹那もロックオンも満足していた。そんな時、
ディランディ家の次期当主の婚約が発表された。そのお相手の名前を見て、ロックオンは口端を上げた。

フェルト・グレイス

これまた名門のグレイス家のお嬢さんだった。いつもいつもニールを遠くから見つめている少女のいじ
らしさがどうにもほおっておけず、間を取り持とうとした事もあった。彼女から遠慮されたので、実行
はしなかったのだが。それとなくニールの前でフェルトを褒めたりもしてみた。ようやく彼女の想いが
昇華されたのかと思うと、ロックオンは嬉しかった。まさかニールの本命が自分であった等、ロックオ
ンは思いもしない。少し心配していたニールのこの情報に、ロックオンは胸をなでおろしたのだった。


しかし波乱はいきなり訪れた。来た年の秋に開催された感謝祭で、刹那はいきなり赤毛の少女に腕を引
っ張られて、壇上に上がるはめに。しかもその少女は驚く事を宣言したのだ。
「皆さーん、私ことネーナ・トリニティはこの刹那・F・セイエイ君とお付き合いする事を宣言しまー
 すっ!!」
わああああ、と盛り上がる会場とは裏腹に青くなって表情を無くす刹那とロックオン。お互いに寝耳に
水状態。ネーナ・トリニティはこの辺りでは評判の可愛い娘で、男子の人気が高い。しかし刹那にして
みれば、確かに職場で(彼女の兄が働いているのだ)何回か会って話をした事はある。ただそれだけだ。
お付き合い宣言されても刹那にはすでにロックオンがいるので、割と迷惑な話だ。元々他人の自分に関
する好意に消極的なロックオンに距離を取られてはたまらない。一体なんの為に此処まで傍にいるのか
意味が無くなってしまう。
「しない!俺には別に好きな奴がいるんだ!」
そう叫んでみても何故か皆聞く耳をもたない。イライラしながら、しかし無碍に絡まった彼女の腕を離
す事も出来ない。刹那の目に呆然としたロックオンの姿が見えた。



それからそろそろ1年。未だに断っているのにネーナは刹那にご執心。
「他に好きな奴がいるから、俺は付き合えない」
「その好きな人って誰?」
「それは・・・・」
「ほーら、言えないならいないものとして見ちゃうもん!」
ああ・・・ロックオン・ストラトスだと言えたらどんなに楽だろう。しかし刹那がカミングアウトする
事を他ならぬロックオンが許さないのだ。おかげでこんな堂々巡りになっているのだが、正直どうした
ら良いのか刹那にはさっぱり分からなかった。恥を忍んで養母に相談してみて、アドバイス通りしてみ
たのだが、何故か効果はなかった。周囲では既に公認のカップルにされてしまい、刹那はどんどん追い
詰められていく。もがいても、もがいても絡まる蜘蛛の糸のようだ。救いなのはロックオンが刹那の好
意を、疑っていない事。これがなければ刹那はギブアップしていたに違いない。ところが今日、ネーナ
の長兄がロックオンを訪ねて来て
「少し我儘な処もあるが、ネーナの事を認めてやって下さい」
と頭を下げられたのだ。どうも刹那とネーナの恋路をロックオンが認めなくて邪魔をしていると思われ
たらしい事にロックオンは溜息をつかざるを得なかった。


そして冒頭に至る。

「多分明日の感謝祭でまた一波乱あるだろうな」
顔を歪ませてロックオンは呟く。いやネーナ・トリニティ自体は別に嫌いではない。寧ろ好感が持てる
程だったのだが、刹那にちょっかいをかけてくるのはハッキリ言って面白くない。救いは刹那自身もロ
ックオンと同じように思っている事だ。
「しかし顔を見せなければ、周囲が五月蠅いだろうしな」
職場の先輩に当たるネーナの兄、ミハエルに喧嘩を日夜売られることにも刹那は辟易している。カミン
グアウトできれば良いのだろうが、当の相手がそれを許さない。結局『好きな奴がいる』と言っても、
その相手の名前すら言わないのだから胡散臭い話だと思われているらしい。
「どうしよう・・・・・」
「そうだな・・・・・」
結局答もでないまま、次の日は無情にもやって来たのだった。


やはり刹那は去年と同じようにネーナにとっ捕まり、舞台へ引きずり上げられた。去年話題になったカ
ップル登場に、会場は大盛り上がり。1人除いては。ロックオンは思った。自分にはもう刹那しかいな
いのに、どうして取り上げようとしているのだろう。死んだ扱いになってしまった今、葬儀までご丁寧
にされてしまったので、アレルヤやハレルヤそしてクラウスにも連絡すら取れない。まさに孤独の1歩
手前状態。舞台には刹那に抱きつくネーナとそれを剥がそうとする刹那との攻防戦が繰り広げられてい
る。お願いだから、頼むから自分からこれ以上取り上げないで欲しい。そしてロックオンは・・・・


切れた。


ずかずかと舞台に上がり、ネーナから刹那を奪うと大声で叫んだ。
「刹那は俺のものなんだから、誰にもやらない!」
シ・・・・・ンと会場が水を打ったかのように静まり返る。我に返ったロックオンの顔が蒼褪めた後、
みるみるうちに赤くなっていく。口をぱくぱくさせたが言葉は出なかった。そのまま刹那を放り投げて
舞台から飛び降り、そのままダッシュで走り去った。その後を気のせいか嬉しそうな表情で刹那が追い
かけていく。舞台には唖然としたネーナだけが残されたのだった。



★本編とは違って、ちょっとコミカルなおまけです。ライルにしてもソランにしてもお互いがいれば良  い正に「2人の為に世界はある」状態なのです。あ、名前変更のエピソードは某クロボンからパクり  ました(おい!)いやシーブックさんのセシリーさんへの思いが凄くてねぇ。スパロボ経由で知った  んですけどね。後編があります。もうちょっとだけお付き合い頂ければ幸いです。 戻る