騒々しい






 
七夕


久し振りに地球へ降り立ったトレミークルー達。早速スメラギの提案で沙慈・クロスロードから教えて
(正確には吐かされて)もらった七夕というものをする事になった。7/7は雨が多いのだが、今年は嫌
味なほど晴れていて、綺麗に天の川が見えた。元王留美所有の別荘の庭にゴザをひいて、円陣を描くよ
うに座る。真ん中に置いてある御団子の山が残念な感じであった。誰もそのミスに気がつかない辺りも
物悲しい。


「というお話でしたぁ」
七夕の発端となったおとぎ話をミレイナが読み終える。これからが感想タイム。意外な事に口火をきっ
たのは刹那だった。
「年に1度しか会えない挙句、雨が降ると会えない状況に耐えれるとは・・・やるな彦星とやら」
なにやら普通とは違った角度から感心したらしい。しかし刹那の言葉は続く。
「俺だったら、ライルと1週間会えなくても嫌だ」
相変わらず直球の男だ。きっとピッチャーやらせたらストレートしか投げないだろう。カーブやフォー
クの存在自体、知らないのかもしれない。
「せ、刹那!いきなり何言ってんだよ!?」
顔を赤くして慌てる時点で、他の者からみれば「へーへー、お熱いこって。ご馳走様」の世界だ。事実
そういう生暖かな視線を皆から浴びたライルは、口をモゴモゴさせながら沈黙した。すると・・
「はーい!俺もライルに会えないなんて嫌だ!」
元気よくお手々を挙げたのは実兄である。ライルが振り向いて口を開く前に刹那がズバッと切った。
「大丈夫だ。お前達は12年も会えなくても平気だったんだからな」
確かにそうだ。ライルは思う。会いたくても会えない状況でもあったし(なんせ戸籍自体からも消えて
いる人間を探すのは至難の業だ。普通人ならなおの事)
「だからライルは俺に任せろ」
刹那はそう言いながら隣に座っていたライルの腰に手をまわして、引き寄せる。みるみるうちに実兄の
眉間に縦皺が寄った。
「平気じゃありません!だって俺、ライルの事ずーーーーーーっと覗き見してたし!」
ピクッとライルが反応を示したがそのまま動かなかった。というのも刹那に
「落ち着けライル。此処はペンギンやかき氷や氷河などを連想して耐えろ。最後の1つは聖闘士ではな
 いからな」
と囁かれたのであった。
「オ・・オーライ、刹那。ペンギン、白クマ、氷河、南極、北極、かき氷」
ぶつぶつ呟いて頭を冷やそうとするが、実兄の言葉はつらつらと続いて行く。
「俺、自分の目が良い事にこれほど感謝したこたねぇよ。ちょっと性能の良い双眼鏡買えば、ライルが
 何処にいても見放題!」
「あらま、休暇中はずっと張り付いていたって事?」
スメラギの問いにニールは自信満々に頷いた。
「だってマジ癒しだったもんよ、ライルってばさ!マイナスイオンがそよそよと強烈に出ててさ!あれ
 だったらプラズマクラ○ターなんて目じゃないね!!」
「氷・・・・麦茶(アイルランド人なのに)・・・スイカ・・・・・きゅうり(身体を冷やす作用があ
 る)」
「ガンバレ、ライル」
強烈に出ているのにそよそよとは如何に。ライルの瞳がますます虚ろになり、刹那はそんなライルを応
援する。
「でもライルだってお引っ越しぐらいするでしょ?そうした場合はどうしたのよ」
気のせいかスメラギの声が弾んでいる。
「んなの決まってるだろ!法をちょっとこう超えてだな、調べたさ」

ぷつ

自慢げに言うニールの声に、ライルの1本目の何かが切れた。刹那の腕を静かに外すと、ゆらり・・と
立ち上がる。
「兄さん・・・・・・一体、アンタどの辺りまで俺の私生活見てたわけ・・・・・・・・?」
その声にニールが固まった。ギギギギ・・と音がするような感じで、ライルの方を向く。
「確かに昔、友人に『お前の家の近くにマスクとサングラスと三角帽被ったあからさまに怪しい奴を見
 かけたから気をつけろよ』と言われたけど、それって兄さんか・・・・・」
「えっと、正体ばれるのまずかったし・・・・・・・」
「んで?どこまで見てた?」
「ま、まあライルさん。男らしいわ・・・・・」
しどろもどろのニールには見えた。最愛の弟の後ろに不動明王が鎮座おわしますのを。
「お、俺は彼女引っ張り込んでカーテン閉めるの忘れてHしてたお前ぐらいしか、見てない」
致命傷が出た。不動明王の炎が激しく燃え盛る。

ぷつ

本日めでたく2本目の何かが切れた。
「そんなトコまでチェックしてんじゃねーーーーっっ!!」
「きゃーーーーーーーー!!!」
ライルは真ん中にあったはずの団子の山が盛られている器を団子ごと持ち上げて、逃げるニールに団子
をぶち当てながら走り去った。食べ物を粗末にするな。


後に残された者達はシー・・・ンとして途方に暮れた。刹那はしれっとした顔でやっぱりミルクを飲ん
でいるだけ。
「そ、そういえば短冊とやらに願い事を書いたんだっけ。ちょっと読んでみるか?」
「そ、そうだの」
健気なおっさん2人組が立ちあがって竹に近づく。その緑色の中にはカラフルな短冊がまるで花のよう
に散らばっていた。
「今回はなんと!ティエリアにも書いてもらったんだぞ!」
自分の事のようにエッヘン状態でイアンが胸を張った。隣ではラッセが淡々とティエリアの短冊を探し
ている。
「お、あった。これだな。なになに・・・『全員服着ろ ティエリア・アーデ』?」
「裏にも何か書いてあるぞ・・・・『お前もな イノベイド一同』」
しょっぱなから凄いお願い事が展開。つかこれ星に対して願う事か?流石にスメラギもぽかん、として
いる。
「おやっさん、ヴェーダの中で何が起こっているんだ?」
「いや、ワシに訊かれてもな・・。ガンダムは作れるがヴェーダは良く分からん」
「なんだかアーデさん、大変そうですぅ」
割とティエリアが妹のように可愛がっていたミレイナが、困った顔をしていた。因みにミレイナを可愛
がるティエリアを見て、ニールが
「『あの』ティエリアがこんなにも女の子に優しくしてるなんて・・・・感無量」
とほざき(本人に悪気はない)ティエリアに照れ隠し一本背負いをされていた。ツンデレとはやっかい
なものだ。
「俺は1つ疑問に思う事がある」
突然、刹那が口を開いた。それに乗っかるのはやっぱりスメラギだ。フェルトは兄弟が走り去った方向
を心配そうに見つめていた。
「あら、なーに?」
「1年に1回しか会えず、しかも雨が降ったらお陀仏。そんな切羽詰まった自分の願いも叶えられない
 者にお願いしても、効力はあるのか?」
確かに。
「しかも奴らは白鳥を踏みにじって逢瀬をし、挙句の果てに白鳥の上で盛るかもしれない」
「・・・・・・・・」
「白鳥さん、可哀そうですぅ・・・・・」
ロマンを理解しない者の思考などこんなものなのかもしれない。スメラギは眼鏡ぽにてを思い出しなが
らそう思った。まだ臨終の際にポエムれたエミリオの方がロマンがあるだろう、と。確かに年に1回し
か会えない夫または妻に会えば、盛り上がって盛るのは至極自然だろう。刹那は素直に言葉通りに自分
の疑問を口にしただけなのだろうが、またしても微妙な空気が漂う。ラッセとおやっさんの努力は儚く
消えた。


暫くしてディランディ兄弟は帰って来た。ニールは団子まみれになって、ライルに引きずられながらで
はあったが。



★兄さんの名誉の為に書いておきますが、別にライルと当時の彼女のえっちっちをじーっと見ていたわ  けではありません。お墓参りとかしているうちに日が暮れて、会社に行ってみたらいない。んじゃ家  に帰ってるわな、と思って向かったらそういう状況だっただけです。刹那がそんな話をされても微動  だにしないのは、相手が昔の女性だから。これがクラウスだったらそうはいかない(笑) 戻る