アイラブ ハロさん



11.ハロさん

ライルが一日のシュミレーションを終えて部屋に帰ってくると、あからさまに怪しいオレンジ色の物体
が目に入った。一瞬迷ったのだが結局は自身の好奇心に負けて、恐る恐る部屋に入ってその物体に声を
かけた。
「なにやってるんすか、刹那さん」
そう、その物体はオレンジ色の制服を身に纏い、丸くなって空中に浮かんでいる刹那だった。
「あの〜・・・」
「俺はハロだ」
大変男らしい口調で答えられる。咄嗟にどう反応すればいいのか迷ったライルは、硬直してしまった。
え、これマジで言ってんの?頭の中をグルグルと回る。刹那の狙いがさっぱりわからない。
「俺はハロだ。次回からケルディムのコクピットでお前をフォローしてやる」
「え、お前あの台座に入んないだろうが!」
突っ込むべき所ははっきり言ってそこではないのだが、動揺しているライルは気がつかない。対して刹
那は淡々としていた。
「頑張れば、入る」
「はあ?頑張ればって、お前・・・・・ってさ、ダブルオーは誰が操縦するんだよ!?」
「問題ない。ちゃんと優秀なパイロットが担当する」
「まさか・・・・あの坊やじゃないだろうな。可哀想だろ、それ!」
「違う、もっと優秀なパイロットだ」
「・・・・・・?いたか、そんな奴?」



その頃、おやっさんはダブルオーのコクピットシートにぐるぐる巻きに固定され、呆然とした青ハロを
発見していた。



ライルの部屋は阿鼻叫喚としていた(あくまでライルだけ)必死で部屋の中を目で探す。
「ハロさん!刹那、俺の癒しのハロさんはどこにやったー!」
「俺がハロだ」
「だから、お前はガンダムなんだろーーーっ!」
「たった今からハロに進化した」
「・・・・・ガンダムが進化すると、ハロさんになるんすか?」
「そうだ」
「嘘こけっ!」
ああもうやだ、誰か助けて。兄さん、足が見えなくても構わないから、俺を助けてよ。つかこの刹那育
てたの、兄さんじゃんか。なんで俺にとばっちりが来てんだよ。責任取れよ、兄さん!
ライルの頭の中ではどえらい勢いで、兄に対しての愚痴が出た。そう言われても兄もあの世で困ってい
るだろう。理では分かっていても、腑に落ちないというやつだ。で、ふと今更ながら気がついた。刹那
の制服は青が基本になっている。リーダーは赤というのが嗜みじゃないかと思ったが、まあいいかと思
っていたのだ。実際、刹那には青が良く似合う。
「そういえば・・・・その制服、アレルヤから借りたのか?」
刹那がどうもハロの真似をしようとしたらしく、くるりんと空中で一回転した。
「俺はハロだ。お前専用のハロだからオレンジなのは当たり前だろう?」
「えーとな、とりあえず本当の事言ってくれ」
「・・・・・・・・・・・」
「刹那」
睨むと、渋々という感じで刹那は白状した。
「廊下で歩いていたアレルヤから、制服を剥ぎ取って借りた」
「いやそれ、立派な追いはぎじゃねーだろうか」
「ちゃんと借りると断ったから、大丈夫だ」
いきなり廊下で羽交い絞めにあうというスキンシップを刹那からかまされた事のあるライルは、心底ア
レルヤに同情した。別に彼は羽交い絞めにあったわけではないが、歩いていてリーダーにいきなり制服
を剥ぎ取られたショックは大きいはずだ。アレルヤは変なところ、繊細だった。今頃、部屋で泣いてん
じゃねーの?と思う。



ライルの推測通り、アレルヤは部屋に篭もって「酷いよ、酷いよ、刹那」と泣き濡れ、ドアを開けてく
れないアレルヤにマリーが部屋の前で右往左往していた。



「あ〜〜〜もう、つきあってらんねぇ。俺、本当のハロさん探してくるわ」
早々と刹那との会話を放棄し(自分の心の平和の為にも)部屋を出て行こうとすると、首の後ろをむん
ずと引っ張られてベットの上に転がった。見ればさっきまで楕円形としか思えない球体状態を保ってい
た刹那が、人型に戻って自分の上に乗っかっていた。大変危険な状態に、ライルはぎゃあああと悲鳴を
上げたい心境だったが、彼の口はぱくぱくと動くだけであった。
「俺がハロだと、何べん言ったら分かるんだ」
「ハロさんはそんなに、髪が良いわふさふさじゃない!」
既にライルは涙ぐんでいた。自分の危機に。
「俺は進化して、新種のハロになった。その証拠に目がDVDのように光っているだろう」
確かに暗闇では大変見つけやすいだろうと思われる目ではあるが、普通の目ではない。
「そんなのハロさんじゃない!ハロさんは丸くって可愛くって、目をチカチカさせて・・・」
「目はチカチカしているだろう?」
「問題外じゃ!」
今迄の経験としても確実な無駄な抵抗をしながら、なおも文句を言うライルに刹那はふぅと溜息をつく。
「我侭な奴だ」
「って、俺か!?俺が悪いのか!?」
じたじたしながら、お前のそのゴーイングマイウェイ的な思考はなんとかならんのか!と叫ぶ。だが刹
那は気にした風には見えない。馬の耳に、念仏。
「まあ良い。遊ぼうか」
「良くない!遊ばない!」
「ハロと良く遊んでいるからな、今回は俺がハロとして遊んでやろう」
なにやら刹那的には、結論に達したようだ。ライルには嬉しくない、結論を。
「や、アロウズもいつ仕掛けてくるかもわからんから!無体はよそう、刹那さん!」
ライルの必死のお願いも、結論に達してなんだか充実した顔をした刹那には届かなかった。


「ぎゃああああああああ〜〜!た〜す〜け〜てぇ〜!!」
今度は素直に、悲鳴が口をついたのだった。




「ロックオン、ロックオン」
ベットの中で死んでいたライルは、ガバァと起き上がった。
「あいててて・・・。ハロさん!本物のハロさんだ!」
喜び勇んで、ライルは素っ裸なのも忘れてハロを抱きしめた。
「どこ行ってたんだよ、ハロさん」
因みに刹那扮する、ばったもんハロは消えていた。
「?ハロ、ケルディムセイビ。セツナニタノマレタ」
「なに〜〜!?あいつ・・・」
流石の刹那もハロを破壊したりする事は、出来なかったようだ。さっきは慌てていてハロが壊されたか
と思っていたが、良く考えればハロの重要性を良く知った刹那がそんな事をするわけはない。
「ロックオン、ダイジョウブ?ロックオン、ダイジョウブ?」
「ああ。ずーーっと傍に居てくれな、ハロさん」
「ハロ、ロックオントイツモイッショ。ダイジョウブ、ダイジョウブ」
「ハロさんーーーっ!」




ライルがハロと抱き合っていた頃、刹那はティエリアの元を訪れていた。
「上手くいったのか、刹那」
「ああ。お前の提案は良かったぞ」
「そうか、ならまたプランを立てるとしよう」
「頼む。ワンパターンはつまらないからな」
実は今回の騒動の、根源であるティエリアだった。


★30のお題に出させていただいたモノです。そろそろこっちにあっぷっぷして良いかな〜と思いまし  て。 戻る