狙わんで良い!






 
12.狙い撃つぜ


カタロンからスパイというお仕事で、CBにやって来たライル・ディランディさん(29)は今、CB
の宇宙船、トレミーのブリーフィングルームで大変な事になっていた。
「お・・おい。落ち着いて下さい、刹那さん」
「別に慌ててはいない」
目の前にはプロポーズ(刹那談)してきた、刹那・F・セイエイが立っている。立っているだけなら問
題はなにもない。そう、問題があるのだ。
「お前は、俺を殺す気かっ!」
ライルが叫んだ先にいる刹那は、どこから調達してきたかは知らないが弓を構え、矢をきりきりと引き
絞っていたのだった。
「俺はただ、お前に俺と恋に落ちてもらおうと思っているだけだ」
淡々と刹那。
「そんなもん刺さったら、恋に落ちる前に俺の命が落ちるわっ!」
「大丈夫だ、これはキューピットの矢だからな。その証拠に矢先にハートがくっついているだろう?」
刹那の言うとおり、確かに矢先の両側に画用紙で作ったとしか思えないハートに切り抜かれた物体が貼
ってある。だが正面にいるライルからは真ん中に鋭い本来の矢先が丸見えだ。
「ミレイナの自信作だ」
ミレイナちゃん、なんつー余計な事してくれんだよっ!とライルは心の中で愚痴った。ミレイナは優秀
な子ではあるが、CBの世界しか知らない為に結構常識が通じない。とはいえ妹のエイミーと重なる処
もある為、ライルは結構ミレイナを可愛がっていた。ここら辺はフェルトを可愛がっていたニールとノ
リが変わらない。弟ではあるが、兄属性も持ち合わせているという事なのだろう。
しかし現実逃避をしていても、今の恐ろしい状況からは抜け出せない。
(兄さん、助けろよ!)
とこれまた心の中で今は亡き兄に助けを求めてみるが、脳内の兄は笑って親指を立てただけであった。

四面楚歌。

ギリギリと引き絞られる弦からいつ矢が飛び出すか分からず、ライルは汗を滲ませて刹那を見つめる。
刹那の動向に目を離したら、立派な殺人事件現場が出来てしまう。
(ああ・・・・・どうしよう)
途方に暮れるライルと、タイミングを計っているらしい刹那の間には、戦場と同等かそれ以上の緊張感
が張り詰めていたのだった。

シュン
いきなりドアが開いた。
「あれー、なにやってるの2人共」
能天気な声をあげて、入って来たのはアレルヤだった。入ってきただけなら良かったのだが、アレルヤ
はこともあろうに刹那が弦を引いている、右肩にいきなりポンと手を乗せたのだ。これはさすがに刹那
も予測していなかったのだろう。右手が弦と矢から離れた。


離れた。


しかしここで奇跡が起こった!
「うお!?」
と短い悲鳴をあげて、ライルは紙一重でその魔の矢を回避したのだ。勢いよく飛んで行った矢は、びよ
よよよ〜んと壁に突き刺さった。

宇宙船の内壁に・・・・・矢が突き刺さった。

「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「あ・・・・あれ?」
アレルヤはわけが分からない。目を白黒させて、意味もなくおろおろしていた。と、いきなり力強く両
肩をライルに掴まれる。
「いたた・・・・っなに?ロックオン?」
「有難う、アレルヤ!お前は命の恩人だ!この恩はいずれ返すからな!」
一気にそう言うと、ライルはドアを開けて猛ダッシュしていく。ここまできてやっとアレルヤも悟る。
刹那に狙われたのだ、ライルは。多分、ライルにとっては苦手意識もあるだろうが、刹那に対してはや
たらとライルの防衛にまわるティエリアの処に逃げて行ったのだろう。さすがの刹那も、ティエリアと
面と向かっていざこざを起こす気はないらしいから。あと数分も経たない内に、ティエリアが額に怒り
マークを張り付けて此処にくるのは想像に難くない。その前に逃げた方が得策だ。ふと思いいたって刹
那を見ると憮然とした顔をして、矢を引っこ抜いていた。そしてその矢先をまじまじと見つめてから、
ぼそと呟いた。
「覚えていろ、アレルヤ・・・・・」
地獄から響いてくるような恐ろしい呟きに、アレルヤの顔色が一気に悪くなった。
「ご・・・ごめんよ刹那。で、でもあれじゃあロックオンが死んでしまう」
当たったら、確実に昇天する。そんな理由でライルが昇天してしまったら、あの世から激怒したニール
が突撃をかましにくるかもしれない。
「あれはキューピットの矢だから、死ぬわけがない」
どこまで本気だかわかんないが、とにかく刹那はそう反論してきた。が、宇宙船の壁に突き刺さる威力
だ。かすっただけで、大怪我をしそうではないか。

と、
シュン
扉が開いた。
「刹那ーーーーーーっ!!貴様、あの人の弟を刺し殺す気かーーーっ!!」
教官殿、ご降臨。その後ろには小さくなってライルが控えていた。
「これはキューピットの矢だ。死なない」
やはり刹那は淡々としていた。ティエリアの額に怒りマークが数個、怒涛の勢いで浮かぶ。
「そんな迷信信じるかっ!宇宙船の壁に突き刺さる矢は少なくともキューピットとは言わん!」
ギャンギャンとライルに対してうるさいティエリアだが、彼なりに葛藤を克服した後はライルの保護者
とも言えるようになってきていた。
(不思議だよね、ロックオンって)
最年長のマイスターだというのに、年下のティエリアがどえらい保護欲を持って色々口出ししてくる。
ライルはうるさいので嫌われていると思っていたようだが、嫌いな人間相手に世話をする程、ティエリ
アも人間はそこまで出来てはいない。
ぎゃーぎゃーと騒ぎ立てるリーダー様と最年少のマイスターの喧騒を聞きながら、アレルヤはそっとそ
の場を離れたのだった。



★ステキな恋のお話を書きました。・・・・いやぁ恋にトラブルはつきものですよね!はっはっは。因  みに兄さん生存パターンで考えてみましたら、ライルはやっぱり兄さんに泣きつく事に。真っ青にな  りながら、兄さんは健気にもライルの盾になって大騒ぎとなりました。 戻る