愛されてるなぁ






 
13.兄さん

ふと目を開けると、どこかで見たような天井があった。
「?」
きょろきょろと周りを見る。
「・・・・重みがある。じゃ、これ誰かの身体か?」
呟いたのはニール・ディランディだった。
「誰のだ?」
こんなに他人の身体がしっくりくるなんて。と、意識の底でたゆたっているものに気がついた。
「あれ・・・ライルか!?」
そうだったら納得もする。というのも、同じ遺伝子情報の持ち主だからだ。しかしニールにとってはそ
んな事は、問題ではなかった。
「じゃあ俺、ライルの身体に入っちまったのか!なら最初にやることは決まってるな!」
そわそわと周りを見回して、お目当てのものを探し出す。それは・・・鏡だった。その鏡に意気揚々と
顔を覗かせる。
「はあ〜〜〜、やっぱり可愛いなぁ俺の弟は。まったくもってこの世の奇跡だな!」
同じ顔だというのにそんな事を素で考えられるニールの沸騰した思考回路の方が奇跡なのだが、生憎と
ここにはそういった突っ込みをしてくれる親切な人はいなかった。それにしてもいい年こいた男が、端
から見れば顔を赤くしてほぅ等と溜息をつくこの光景が、悪い意味で奇跡だった。
ピピピ
耳慣れた呼び出し音が響き、ニールはついいつもの習慣でその通信に応じてしまった。画面に映ったの
アレルヤだった。ニールの記憶よりも大人び、前髪が前に比べて短くなって両目を出していた。金と銀
の神秘的な瞳が、優しく自分を見つめていた。
「おう、アレルヤか」
「まだ寝ていたのかい?」
「いいや、今起きたところだ」
「そっか、じゃあそろそろブリーフィングの時間だから、ブリーフィングルームに来てね」
「分かった」
「じゃあ、また後で」
ぷつりと通信は切れた。ニールは少しの間感慨にふけっていたのだが、すぐにそれどころではないと思
い直す。
「ライル・・・ライル、起きてくれ」
意識の底に沈むライルに話しかける。だが応答はなかった。
「ライル!こら、いい加減起きろ!状況がさっぱり見えていない俺が行くわけに行かないだろ!?」
それでも反応は無し。暫くライルを起こす為に奮闘したニールだがライルは全く反応がなく、渋々自分
がブリーフィングルームにむかった。


ブリーフィングルームからとっとと帰ってきたニールは部屋に戻るなり、わあ、とベットに泣き崩れた。
「可哀想、ライル可哀想。皆ライルの可愛い顔を見ていないで、一体誰と重ねてるんだよ!?」
普通に考えればそっくりな顔のニールと重ねていると分かるのだが、ライルは世界一可愛い顔と信じて
疑わないこの男には、そんな考えにも及ばなかった。つくづくブラコン思考というものは恐ろしい。実
はニールは初めてライルの立場に立ったのだった。ライルの苦悩も分かろうというもの。
「ふふふふ・・・・今度あんな風に可愛いライルを無視して、他の誰かに重ねたら狙い撃ってやるから
 な・・・・・」
笑顔でそう言う、恐ろしいニールだった。
ピンポーン
その時だ、インターフォンが来訪者を告げた。一瞬出るか迷ったニールだったが、さっきブリーフィン
グに出ていて、今出ないのはおかしいだろうと考え直してドアを開けた。
「邪魔するぞ」
部屋の持ち主の思考などお構い無しで入ってきたのは、刹那だった。ぐいぐいと部屋の奥に押されて行
く。ドアをとっととロックしてから、刹那はニールに向き直った。
(大人になったなぁ、刹那)
呑気にそう思ったが、今はライルを演じなければならない。
「ニール・ディランディ、お前の復活は真に喜ばしい事であるが、ライルが消えてしまうのならば話は
 別だ」
いきなり剛速球の直球がきた。ニールはポカンとして刹那を見つめる。
「分かったのか・・・・・俺が」
「当たり前だ。お前は上手くライルを演じたつもりだろうが、あいつから染み出している間抜けさと可
 愛らしさが無ければ、嫌でも気がつく」
「あの・・・後者はともかく、前者は頷きたくないんだけど・・・・」
「何を言う、あいつの可愛らしさはあの間抜けな所からも染み出しているんだぞ。間抜けで可愛いから
 あいつはライル・ディランディだ」
きっぱりと言い切る刹那は男前だった。そしてやはり頭の沸騰具合が、奇跡を起こしていた。
「まあ、お前の言っている事は正しいな」
こちらの沸騰の奇跡もまだ持続していた。
「だが俺はお前の復活も無駄にはしたくない。だから代わりの身体を持ってきた」
「刹那・・・・」
ずい、と感動するニールの鼻先に出されたのは日本人形のようだった。
「これは前にアレルヤから貰った、幸せを運ぶ呪いの市松人形だ。これに乗り移って好きなだけ血の涙
 を流したり、髪の毛を伸ばしてくれ」
「いや刹那、幸せを運ぶのに呪われてるってゆー時点で、おかしかないか?つか俺の残りの人生、血の
 涙を流して髪の毛伸ばすだけなのか・・・・。ライルが怖がるだろうが」
言ってる事はもっともだ。ライルでなくても、怖いだろう。だが刹那は良い場所がある、と胸を張って
言った。
「ティエリアの部屋にでも置いとくさ。あいつはお前にらぶらぶだからな、きっと泣いて喜んでくれる
 はずだ」
「喜ばれる方が、恐怖だぞ」
これも正論だ。いくら中身がニールでも、血の涙流したり髪の毛が伸びる人形を喜ぶ感覚の方がどうか
している。
「大丈夫、あいつはイノベイターだからな」
「いや、そういう問題でも・・・・」
「なんだ、贅沢な奴だな」
心底呆れたように言われる。ニールはむかっときた。
「ならお前の身体を寄越せよ。んで刹那はその人形に入っていれば良いだろう?」
「断る」
刹那は仁王立ちになって、更に腕組みまでして断った。
「そんな事になったら、可愛いライルに(以下放送禁止用語羅列)が出来なくなるからな」
「なんつー羨ましいことを!俺だって(以下放送禁止用語羅列)したいんだぞ?」
「ライルはやらん」
「俺はあいつの兄貴だぞ!?元々ライルは俺のモンですーだ!」
ヒートアップして互いに人形を押し付けあおうとする、美しい譲り合いを展開した二人であったが、結
局騒動に目を流石に覚ましたライルの雷が落ちて痛み分けとなった。


そして
「兄さん、五月蝿いよ!もーいつまで俺の身体にいるんだよ!?」
『いつまでも。兄ちゃんはお前の傍にいてやるからな』
「ライル、今晩は部屋に行ってもいいか」
「あー刹那。兄さんが五月蝿いけど、それでも良ければ」
「分かった。行くから待っていろ」
『ライルー!兄ちゃん居場所が無いんですけど。良いなあ刹那・・・』
「卒倒したくなかったら、ちゃんと深層心理に逃げとけよ」
『有難うライル、やっぱりお前は優しいなv』
のー天気な兄の声を内で聞きながら、ライルは溜息をついた。

しかしニールが傍に居てくれて、実は結構嬉しいライルだった。



★刹ライ前提ニルライと言い張ります。そこ、詐欺とか言わないように!兄ちゃんは身体がないので、  色々我慢しているのデスヨ。男は辛いね。 戻る