ライル馬鹿2人
14.寄宿舎
「そういえばライルさんって寄宿舎にいたんですってね」
パイロットの控室でのんびりと談笑していた時に、沙慈がライルにそう言った。沙慈はライルと同じで
普通の生活とスリリングな犯罪ライフの両方を経験している為に、ライルと話が合った。普通の感覚を
持つ者が皆無に近いこのトレミーの中で、ライルはどれだけ沙慈の存在が有難かった事か。刹那が嫉妬
して沙慈を見つめていたようだが、刹那とて沙慈は大事な存在ではあるのであからさまに妨害してくる
事はない。
「ああ、ジュニアスクールの時からな。沙慈クンは?」
「僕は姉と住んでましたので・・・・」
「そっかー」
「そういえばルイスが前にぼやいてましたよ。日本に来たら女の子達に寄宿舎ってホモが多いの?って
訊かれたとか言ってました」
「寄宿舎育ちって別に珍しくもないし、そこにいたらホモになるなんてどっから出てくるんだろうな?
それなんかの漫画か小説のネタ?」
「ええ、風と木の○とか言ってましたよ」
「変なノリだなぁ・・・」
ここで朗らかに会話は別の話題に移るはずだった。そう、沙慈とライル的には。
「その話は本当か、ライル!」
ドバーンとドアを『押して』刹那がいきなり乱入してきた。ご存じの通りトレミーのドアは横にスライ
ドするタイプである。それを・・・・押したのだ。当然ドアはライルと沙慈の方向に吹っ飛んできて、
倒れた。幸か不幸か2人共それを回避できたのだが。
「せ、刹那!?」
「出やがったな、偏った経験者!」
そんな2人の言葉もなんのその、刹那は呆然としながらぶるぶると震える手の平を見つめて苦悩する。
「な・・・なんという事だ。ライルがそんなふしだらな場所にいたとは」
「いや、ちょっと待て」
「脚本家に頼んで過去に実際飛ばしてもらって、寄宿舎でふしだらな目に遭っていたかもしれないライ
ルを救出するべきか・・・・・」
「お前に救出された方がふしだらな目に遭う確率は高いと思うぞ、俺は」
「その案、監督にボツにされたって脚本家の人言ってましたけど」
沙慈は良くも悪くもマイペースが身に付きつつあったようだ。
「大体!そんなホモっぽい事が起こるわけなかろう!どちらかといえばエロ動画が入ったメモリーを如
何に先生達から隠すかという方面で、努力してたぞ皆」
「あーそれ分かります。僕もその輪に巻き込まれた事があるから」
刹那は安堵するどころか、ますます震えが酷くなる。何がそんなにショックなのか、ライルにも沙慈に
も全く分からない。
「お前のエロ動画・・・・・だと!?」
「誰のエロ動画だ。つか恐ろしい事をさらっと言うなよ、お前も!俺のエロ動画を観たい奴なんている
なら、是非ともお目にかかりたいね!」
「ライルさん!それ墓穴!」
「え?・・・・ん?・・・・・・・あーっ!」
ライルは自分の理解を超えた反応に対して、混乱のあまり墓穴を広く深く掘る習性があった。今も沙慈
の指摘で、自分が刹那に大きな墓穴を掘った事を悟る。
刹那の瞳が金色に輝いた。
「そ、それよりも刹那、ドア直した方が良いんじゃないかな・・?」
しかし天はライルに味方をしてくれたらしい。健気にも沙慈がライルと刹那の間に割って入って、飛ん
でって倒れたドアを示す。
「そうか」
「うん」
刹那は残念そうな顔をしたが、素直にのこのことドアの処にやって来て「よいしょ」とか言いながらド
アを掴んで入口に立てかけた。立てかけただけ。
「・・・・・・・・・」
「それ直したっていわねーぞ、普通」
「大丈夫だ。きっと後で自然に直ってる」
「お前なんぞヴァスティ一家から、トリプル呪いでもかけられてろ」
ドアが自然に直るわけはない。そこにはちゃんと直す人がいるから(ついでにお金も)直るのである。
そして直すのはヴァスティ一家の誰か、という事になるだろう。ただでさえ戦闘が激しくなってきてM
Sを景気良く壊して帰って来るマイスター達に、おやっさんがちょっぴり頭に来ている事は沙慈でさえ
知っている。
「トランザムすんなって言ってるのにして壊す奴がいるし、豪快に被弾して帰って来る奴もいるし、本
体は大丈夫でもバズーカをばかすか壊す奴もいるし、ビットを銭形平次の銭と勘違いしているのかい
くつも失くして帰って来る奴もいる。あー!時間と銭が足りん!」
そう言っていた事を。故にマイスターはおやっさんには全員頭が上がらないはずなのだが・・・・。
「安心しろライル・・・」
握り拳で言いだした刹那ではあったが、突然背後のドアが『押され』てドアの直撃を受けて吹っ飛んだ。
「ええ!?刹那!?」
焦る沙慈の声に被さるように、うろたえた悲鳴に近い声が響いた。
「ライルーーーっ!!ライルがそんなけしからん処にいたなんて、兄ちゃん知らなかったよ!俺がお前
を救ってやれば良かったーーー!!!」
トレミーの誇らないライル馬鹿コンビの片割れ参上!
刹那と同じ反応をしているのは、ライル馬鹿属性の賜物なのだろうか?
「ニ、ニールさん!・・・・何故知っているんです?」
沙慈の疑問も尤もだ。ぜいはあと息を乱している処をみると、どこからか会話を聞きつけてそこから全
力をもってして走って来たとしか思えないからだ。
「ああ、ライルの制服とパイスーに盗聴器しかけてあるから」
真顔で言われる。
「それ犯罪ですよ。何処の世界に弟に盗聴器しかける兄がいるんです!?」
「此処に」
「わぁぃ・・・・・」
としか言えなかった。それにしてもブラコンで溺愛しているのは知ってたが、まさか盗聴器をしかけて
いるとは思わなかった。後でこっそりライルに教えてあげようと思う沙慈は良い子だった。しかしそれ
はおくびにも出さない。少しでもそういう意志が感じられれば目の前のブラコンは、きっと違う方法を
見つけ出してライルに仕掛ける事は火を見るよりも確かだった。沙慈は常々刹那とニールに追い回され
ているライルに同情をしていた。そしてふと思った。なら刹那はどうやって先程の会話を聞いていたの
だろう、と。実はドアにコップをつけて、会話を盗み聞きしていただけだ。コップは廊下に放置されて
後にアレルヤがそれを踏んですっ転ぶという悲劇が待ち受けていたのだった。なんせ透明度の高いコッ
プだったから。まあ、それはともあれニールの嘆き(?)は続いていた。
「兄ちゃんも一緒に行けば良かったよね、ライル。そうしたらそんなけしからん事に巻き込まれても、
兄ちゃんが守ってやれたっていうのに、俺というものがありながら、すまない!」
一緒に行ったらライルが寄宿舎付の学校に行った意味がない事を、ニールはすっぽんと忘れているよう
だった。
「ライル!なんでなんにも言ってくれないんだ!?やっぱり怒ってんのか、俺の事」
「ニールさん、ニールさん」
「ん?なんだい、沙慈クン」
「これ」
と、沙慈が指を指した方向には・・・・・・
「ああ!?刹那、なんでライルの上に跨ってんだよ!うらやましい!じゃなかった、けしからん!」
「いやこうなった原因はニールさんですよ」
「へ?」
つまり、こうだ。ドアごと『押され』た刹那は真っ直ぐにドアと一緒に飛んだのだが、どういうわけか
飛んでる途中で方向転換をして、状況についていけないライルに衝突したのだ。しかし刹那の奇跡(?)
も此処までで、刹那とライルは額をごっつんこしてしまったのである。当然勢いがあるものだから、お
互いに目を回して倒れ込んだ。今も両人ともに目をぐるぐると回している。
「ああっ!超絶に可愛い額にあんな無粋なタンコブがっ!」
原因を作ったブラコンの嘆きが聞こえる。
「額も可愛いんですか・・・」
ライルさんが聞いたら絶対に嫌がる言葉だと沙慈は思う。
「当たり前だ、ライルの額だぞ?」
実に不思議そうに返されて、沙慈はがっくりと肩を落とした。
「刹那、いい加減ライルからどきなさい!良いからどけ!」
というニールの叫びを聞きながら、沙慈はこっそりと部屋を抜け出した。これ以上自分で処理しきれな
い事柄が起こるのが面倒くさかったからだ。
(ごめんなさい、ライルさん。僕には・・・・此処までです)
心の中でライルに詫びながら。
★いやぁ、やっぱりギャグは心が落ち着くなぁ(自己申告中)やっぱりね、刹那とニールにライルが溺
愛されてるっていうのが好きなので。所詮、ライル好きです。
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