人工呼吸






 
16.緑


ライルが気を失ったままだ、という連絡がアレルヤから来て、刹那はオーライザー(沙慈不在)をかっ
飛ばしていた。アレルヤからの連絡先は南の小島だった。そこには武力介入が絶好調の時に配置したコ
ンテナがある。


オーライザーを収納すると、既にそこにはセラヴィーが収納されていた。ティエリアの方が早く着いた
らしい。そこからメットだけを置いて砂浜に出る。白く美しい砂浜にオレンジとパープルがいた。


どうやら目を覚まさないライルをアレルヤが座ったままで抱え込んでいるらしい。ティエリアは立った
ままでライルを覗きこんでいる。
「状況は?」
刹那が尋ねるとティエリアが刹那に場所を譲った。ライルは外傷もなく、ただただ眠っているようにし
か見えない。
「突然ケルディムがバランスを崩してね。それからずーーーーっと目覚めないんだ」
と心配そうにアレルヤ。
「刹那が襲いに来たぞ、と話しかけても反応が無いのは異常だと僕は思う」
刹那がジト目で睨みつけても動じないティエリアだった。
「よし、分かった。人工呼吸は俺がやろう」
そう言ってアレルヤに手を差し出す。正確にはライル寄こせのサインであった。が、アレルヤは思わず
という感じで刹那からライルの顔を隠すように胸に引き寄せる。ついでに刹那の眉も引き寄った。
「いや、呼吸はしっかりしてるから人工呼吸をしたら、反対にえらい事になると思うよ」
どうやら人工呼吸は必要ないらしい事実に刹那は面白くなさそうな顔をして見せた。いつも表情が無く
顔を間違えてコンクリートで洗ってしまったのかという刹那は、割とライル関係には表情を表に出して
くる。それをアレルヤやティエリアは微笑ましく思っている。ライル自身は微笑ましく思ってないで、
助けてくれよ!と叫んでいる状況ではあったが。
「そうか・・・・・。なら早めにトレミーに帰った方が良さそうだな」
「うん、僕もそれが良いと思う」
「確かにな」
話が纏まった処でアレルヤが何かに気付いたらしく、上を向く。つられて上を見上げた刹那とティエリ
アは信じたくないものを見た。何かが高速でこちらに向かって来ていたのだ。どこが信じられないか?
その『何か』がどう見てもデュナメスリペアにしか見えないからだ。緑のデュナメスリペアが何故か逆
さま且つ腕組みをして落ちて来ている。

お前は伊達征士か。
そういえば奴も緑だった。

頭の先からGN粒子が放出されているらしく、頭の部分が輝いていた。それが一心不乱にこちらに確実
に向かって落ちてきている。
「ど、どうしよう刹那」
アレルヤが更にライルを抱き込んで、慌てふためく。
「とにかく逃げるしかないだろう」
「賛成だ。このまま此処にいたらデュナメスリペアに直接吹っ飛ばされるか、風圧で吹っ飛ぶかどちら
 かしかないからな」
再び意見が綺麗に纏まった。凄い団結力だマイスター。


というわけでライルをアレルヤに預けたまま(流石の刹那もライルを抱いて走る事はできなかった)マ
イスターはわらわらと森に逃げ込む。そして草陰からそっと事の流れを見守った。
落ちて来た(としか思えない)のはやはりデュナメスリペアであった。しかし・・・・マイスター達は
信じていた。このまま頭から突っ込んでの着地ではなく、ちゃんと足からの着地である事を。だがその
信頼はすぐに裏切られる。結局デュナメスリペアはその逆さま腕組みのポーズのまま、頭から浜辺に激
突したのだ。おやっさんの悲鳴が聞こえる気がした。マイスター達はデュナメスリペアが砂浜に激突し
た振動で、高く高く森の中で成り行きを見守っているポーズのままジャンプするはめになる。
「僕、座ったままこんなにジャンプしたのは生まれて初めてだよ・・・」
ライルをしっかり保守しながら(なにかあったら自分の命が危ういからだ)アレルヤが呟いた。
「安心しろ、僕とて初めてだ」
「俺もだ」
またまたしても意見が綺麗に纏まった。改めてみるとデュナメスリペアは無残にも頭を砂に突っ込んだ
まま、何故か腕組み直立(反対方向に)していた。と、コクピットが開く。5年前と違ってデュナメス
リペアのコクピットは00などと同じような作りになっている。そこからひょこ、と逆さまに顔を覗か
せたのはマイスターが1人残らず想像した通りの人物だった。

ニール・ディランディである。

ニールは逆さまのまま腰のあたりまで出てきて、両手でコクピットの端を持ち「よいしょっと」の掛け
声と共に、綺麗に180度回転して足から着地した。恐ろしい事にいつもの制服姿だった。
「凄いね、ティエリア。制服って大気圏突入に耐えられるぐらい丈夫なんだ」
「そんな機能は持たせていない」
「・・・・・・ブラコン魂健在か。しかし・・・俺は負けない」
青のマイスターが何故かメラメラと燃えているようだ。しかし賢明な他2名のマイスターは沈黙を守っ
た。ライルが絡むとニールだけでなく、刹那もおかしくなるので大変だ。砂浜では左手を胸にやり、右
手を空に上げたポーズをかますニール。心なし頬が赤くなり、なんだか陶酔しているようだ。
「ライル!兄ちゃんがお前に人工呼吸する為に大気圏突破しましたよ!弟への人工呼吸の為に大気圏突
 破は古今ない事ですよ!」
ポーズを決めたニールの背景には、ザザ〜ンザザ〜ンという波のBGMと寄せては返す波だけが無情に
あるだけだった。横にはえらい事態になったデュナメスリペア。流石に声も出ず固まったマイスターで
はあったが、気を取り直した時にはいつの間にやら満面の笑みを浮かべたニールが目の前に立っていた。
隠れていたにも係わらず。
「ご苦労だったな、アレルヤ!俺が張りきってライルに人工呼吸するので、ライルをこっちに寄こして」
「い・・・・いや・・・」
震える声でなんとかライルを死守しようとしたアレルヤに、援軍が現れた。ズィ、とニールの前に立っ
たのは、同じライル馬鹿の刹那。
「呼吸は確保されている。人工呼吸の必要はない」
刹那の言葉にニールは盛大に肩を落とした。どういう思考回路になってんだ、お前。
「あ、ならライルを運ぶよ。だから」
「必要ない。ライルの世話や色々は俺がする」
「んだと・・・・?色々が気になるが・・・・何するつもりだ」
「色々といったら色々だ」
「なにそれ!?俺はお前をそんな子に育てた覚えはありません!」
「俺も育った覚えはない」
「ええぃ、ああ言えばこう言いおって!」
「お前を見習ったまでだ」
「・・・・・・!!!」
「・・・・・・!」
刹那とニールの戦いを呆然として見守っていたアレルヤではあったが、ティエリアが肩に手を置いたせ
いで正気を取り戻した。そんなアレルヤとまだ目を覚まさないライルを一瞥して、ティエリアは小声で
囁いた。
「この隙に逃げるぞ」
「え、でも気付かれないかな・・・・?」
「心配ない。最早マングース対コブラの様相を醸している。お互い見ているのは相手だけだからな」
「わ、分かったよ」
「いくぞ、くれぐれもライルを落とすな」
流石マイスター、彼らは見事にコンテナ内に逃げ込む事に成功したのだった。

ただすぐにバレて刹那とニールが入口でわーわー騒いでいた。




★実は劇場版観る前に書いたので、デュナメスのコクピット描写が間違ってます。でもこういう様式に  しておかないと、逆さにひょこ、と顔を出す兄さんが書けないので見逃して下さい・・・・。 戻る