元々のコードネーム






 
2.ジーン1

久し振りにCBの面々はカタロンの中東支部に来ていた。元々のカタロンメンバーであるライルが浮か
れている。足取りは軽く、このまま空の向こうに飛んでいってしまいそうな勢いだった(実際にそこま
で飛んだら死ぬがな)さっさとトレミーメンバーから外れて、ある男の部屋にむかう。クラウス・グラ
ードは旧知の仲で、わりと暴走癖のあるライルを止める良きストッパーであった。何回か行ったMSで
の実戦は、クラウスに守られていたと言っても過言ではない。「信じる」が口癖の男は、MSの腕が非
常にたつのだ。メンバー全体において指揮する立場になった彼は、滅多にMSに乗る事は無くなってし
まったのだが、ライルはクラウスの腕を考えると非常に残念だと思う。
ガチャ
ドアを開ければ、いつもと同じようにシーリンと共にPCにむかって黙々と仕事をしている。
「あら、お帰りなさい。ジーン1」
いつもは厳しい表情のシーリンが、こちらを向いて微笑んだ。最初は緊張からか、とっつきにくいイメ
ージだったシーリンは、いつの間にか優しい表情を浮かべるようになった。これもクラウスの影響なの
だろうと思う。ただライルとシーリンの間では、クラウスはお人よし過ぎるという評価があった。
「おや、お帰り。ジーン1」
椅子をくるりと回して、クラウスはライルを見た。久し振りだったが、アロウズに良い様に追い詰めら
れている今、クラウスは疲れ気味に見えた。
「おう、ただいま。やっぱ支部は違うけど、古巣は落ち着くなー」
そう軽口を叩けば、クラウスは機嫌良さそうに笑った。
「そりゃ光栄だね、ジーン1?」
ライルもにやり、と笑う。そんな彼らをシーリンが柔らかい目つきで、見つめていた。
「ジーン1はお前のカタロンでのコードネームか」
突然声がして、その場にいた全員が飛び上がった。というのもライルがカタロンのスパイだとばれると
まずいからだ。こんなご時世、奇麗事だけではやっていけない。
「せ・・・・刹那」
いきなりライルの背後に現れたのは、刹那だった。ライルは安堵する。刹那はライルがカタロンの出身
だという事を知っているからだ。これがあの教官殿に知られれば、何を言われるか分かったものではな
い。
「おや、刹那君・・・だったね」
こんな状況でも爽やかに挨拶できるクラウスは、大物だとライルは思う。刹那はひょこ、と頭を下げて
挨拶をした。
「お前のコードネームは感動1番という事か?」
「・・・・・・・なにが?」
真顔で言う刹那に、思わず質問で返してしまう。救いを求めるように周りを見回すが、クラウスもシー
リンも目を丸くして固まっていた。
「ジーン1って・・・・」
「別にジーンと感動したわけじゃない!」
「そうか、驚いた」
「俺にとってはお前のその発想自体が驚きだ」
ジト目で刹那を睨むと、はっはっはという呑気な笑い声がする。
「・・・・・・・笑い事かよ、クラウス」
「いやいや、刹那君と随分と仲良しで安心したよ」
「なんでそうなるんだ!今の会話のどこが仲良し!?」
そうクラウスに抗議すると、背中にのし、と重みが加わる。
「刹那!、重てぇって!」
「おやおや、本当に仲良しで羨ましいな」
やっぱりはっはっはと笑うクラウス。どうコメントすればいいやら迷っているシーリンが映る。
「そうだ、ライル・ディランディと俺は既にらぶらぶだ」
「なった覚えはねーーーーっ!」
「照れてるだけだ、気にしないで欲しい」
「確かにジーン1は、照れ屋だからな。ありえる」
クラウスの笑みは崩れない。しかも本気でコメントしているのが分かって、ライルは苛つく。頭の良い
男だが、何故かこういう事に関してはボケボケだった。一種の天然とも言えるだろう。
「だが今は『俺達』CBのロックオン・ストラトスだ。ジーン1ではない」
「・・・・・」
どうやら刹那なりにヤキモチを焼いているらしい。しかしライルにしてみれば、ロックオン・ストラト
スというコードネームよりもジーン1として生きていた方が長い(とはいってもそう長いわけではない)
し、今カタロンかCBか選べと言われれば間違いなくカタロンを選ぶ。刹那はそんなライルの心を感じ
取っているのかもしれないとライルは思った。なんせ動物並みに嗅覚が利くのだから。
(でもいつかは・・・・)
ジーン1の名を捨て、兄と同じコードネームで生きる日が来るのかもしれない。そんな事をぼんやりと
思う。そんなシリアスに浸っていたのだが、刹那が益々自分の体重をかけてくるので、それどころでは
なくなった。
「重いっ!刹那っ!」
気がつけば腰を抱きかかえられている。クラウスはまあ、いいだろう。天然な彼にはきっとこの怪奇現
象(ライルにとって)は理解できないんだろうが、問題はシーリンだ。気がつけば目をきらきらと輝か
せ、頬をちょっと赤く染めている。端から見れば可愛らしいとさえ思えるが、その頭の中では一体どん
な(ライルにとって)無体な想像が駆け巡っているか分からない。きっと刹那は分かってやっている。
何かあった時、頼りになるのは女性だったりするからだ。女性を味方につける事に勤しんでいるとしか
思えない。現にトレミー内ではミレイナに恋人認定をされ(ライルが否定したのにも関わらず)スメラ
ギにはからかわれ、アニューに至っては
「良いのよ、刹ライでも。でも女としての一番はもらうわね」
と言ってにっこり笑われる始末。トレミー内ではライルは今までとはまったく違った意味で、微妙な立
場になっていた。肩身が狭い。何が恐ろしいって00に乗っていても、何かあるとケルディムに急接近
してくるので、アロウズ内でもまことしやかに噂を流されているらしい。そりゃ00がケルディムに抱
きついてきたりするのだから、異常な光景ではある。オーライザーの時はサジが真っ青になっていたよ
うだ。
「まあ、仲良く末永くやってくれ」
はっと我に返る。待ってくれクラウス、助けてーというアイコンタクトは豪快に失敗したようだ。その
ままライルはずる・・・ずると刹那に引っ張られ退場していった。
「・・・・・・・ガンバレ、ジーン1。私は信じているぞ、ロックオンではなくジーン1をな」
そんな呟きをジーン1ことライルは聞く事はなかった。


★ラブラブの刹ライを書きました!・・・・すいません、嘘つきました。ジーン1のジーンって遺伝子  って意味らしいですが、別になんにも意味が無かったぜ!なんぞあるかと思っていた私が、うっかり  やさんですか。 戻る