可愛い合戦






 
20.コート


久々の休日の朝。休日ではあっても刹那はわりと決まった時間に目を覚ます。そして今日もぱちりと目
が覚めた。まあ、朝といってもCBの衛星基地なので朝日が射すわけでもないのだが・・・・。むくり
と起き上がって隣を見ると、青年は熟睡していた。昨日は久々にシフトが合ったのでベットに引きずり
込んだわけだが、双方ともにテンションアップして凄い事になった。流石に刹那も腰がだるい。だが隣
で眠っている彼はもっと大変なはずだ。起こさないようにベットの端に座って、とりあえず下着と制服
のズボンを履く。ふと見れば机に薄いベージュのコートが無造作に置いてある。そういえば急に部屋に
引きずり込んだ時に、なにかを持っていたような気がする。彼に触れたくて余裕がなかったので、まっ
たくといっていいほど目に入っていなかった。
(懐かしいな・・・・)

彼の兄とカタロンの情報を餌に呼び出した時、彼が着ていたコート。

ステーションで自分を待っていてくれた時に、着ていたコート。

CBに来てからは制服着用だった為に、それ以来着ている処を見た事がなかった。
ふと思いついて、刹那は立ち上がりそのコートを羽織ってみた。・・・・・・なんとか床に裾が届かな
かった事が、刹那のプライドを満足させる。彼よりも自分の身長が低いのは分かっていても、やはり男
心だって複雑なのだ。
「せつな・・・・・?」
舌ったらずな調子で呼ばれ、刹那は彼・・・・ライルに向き直る。ライルはきょとんと目を丸くして
「ぷっ」
と吹き出した。そのまま笑いだす。
「や・・・刹那。ぶかぶかじゃん、それ。あはははは、可愛い」
確かにライルも刹那も華奢ではないが、ライルのコートを羽織った刹那は子供が大人の服を背伸びして
着た時のような可愛らしさが確かにあった。ライルのコートを着ているのではなく、被らされている感
じ。それが可愛らしく見えて、ライルは少し痛む腰を気にしつつ笑いが止まらなかった。が、そろそろ
笑いやまないと、刹那が拗ねる。身近な存在になったからこそ、分かるその変化がライルには嬉しい。
しかし、少し遅かったようだ。
「え・・・・刹那ぁ・・?」
コートを羽織ったまま、刹那はやおらライルの上に乗っかったのだ。そしてライルの耳に唇を寄せて、
こう呟いた。
「昨日のお前の方が、可愛かったがな・・・・・・」
そしてライルの耳の後ろに、ちゅっとキスをする。固まったライルがみるみるうちに、真っ赤になるの
は簡単に想像できる。
「馬鹿言ってんじゃねーよ!」
案の定、噛みついてきた。しかし刹那は気にしない。耳たぶを唇で挟んで、はむはむする。
「わっ」
ぴくんとライルの身体が反応を示した。
「ちょ、刹那。止めろって」
「嫌だ」
「腰・・・・腰に響くんだってば!辛いんだぞ!?」
ライルの身体が反応すれば、その腰にだって振動がいく。ただでさえ、えらい事になっているというの
に、これ以上の刺激はご免こうむりたい。だが刹那はライルの耳から唇を離したと思ったら、ふっと息
を吹きかけた。
「ぎゃっ!」
色気もへったくれもない声だが、刹那的には満足だ。さっきの『可愛い』発言に、見事仕返しができた
のだから。

しかし、刹那は若かった。

「元気がまだあるようだな。ならもう1回しても大丈夫だな」
「ええっ!?もう動けねぇよ!」
「心配するな、ちゃんと今日1日面倒を見てやる」
「か・・・考え直せ、刹那!」
「元はと言えば、お前が挑発するのが悪い」
「なんで、俺が悪ーーっ!?」
助けてーっという悲鳴は、さっさと無視する。なんのかんの言ったって、ライルだって刹那とスルのは
やぶさかではなんだから。


「あら刹那、珍しく遅いわね。今から朝食?」
食堂でばったり出会ったスメラギに言われるが、そのスメラギだってたった今、朝食を取っている。
「今日は休日だからな」
「あ、そうね。そういえば、ロックオンは?」
刹那に引きずられてだったり、仲良くだったりして特に事が無ければ刹那とライルはセットで現れる。
それが今は刹那1人で現れている。スメラギとて刹那とライルの関係は知っているし、今日は偶然にも
2人共オフの日ではある。なんとなく想像できる事だったが、スメラギはあえて話題を振ってみた。
「俺の部屋で沈没している」
2人分の食事を調達しながら、刹那はあっさりと答える。スメラギに関係が知られている事を、刹那も
知っている。
「そう・・・・あんまり無理させないでね?」
「無論だ」
そう答えたものの、若い激情に任せてしまっただろう事は想定内だ。
「ライルが腹が減ったと喚いているから、失礼する」
そう言って刹那は食堂に背をむける。すたすたと去っていく刹那に、スメラギはひらひらと手を振った。


壁を作り、打ち解けようとはしなかったライルを最初に変えたのは、アニュー・リターナーだった。

そしてそのアニューの死の後で、部屋に籠りがちだったライルを変えたのは刹那だった。

実に辛抱強く、刹那が近寄って来るだけで荒れるライルを包み込んだ。
(なんのかんのいって、愛情に恵まれているのよね、彼は)
最初は家族・次に兄・そしてアニュー・刹那と、ライルを愛する者は絶えない。それはライルにある、
どこか不安定な処が彼らを引き付けるのだろうか。

最近はスメラギもライルをからかう事を覚えた。主に刹那との関係で。その度にライルは真っ赤になっ
て、慌てたり拗ねたり怒ったり。その素直な感情が、スメラギには嬉しい。懐に入れてない人物相手で
は、意外とライルはポーカーフェイスが崩れないのだから。感情を出したという事は、懐に入れて貰え
た証拠。それはアニューと刹那のおかげだ。
(明日、早速からかってみようっと)
スメラギは刹那が消えたドアを眺めて、楽しそうに笑った。



★スメラギさんは最強の存在であり、ディランディ兄弟にとっては有難くも恐ろしい女性です。刹那は  気にしてない感じ。からかわれるのは主にライルなので。そして酒飲みの時は大抵ライルを庇ってニ  ールが潰されます。 戻る