産んでくれ
21.制服
どうしてこうなったんだ、流石に刹那は頭を抱えたくなった。刹那の前には凄く居心地が悪そうに、ラ
イルが立っている。
「で、そうなった原因に心当たりがあるのか?」
問えばますます小さくなるライル。ライルはいつも通り、緑を基調とした制服を着ていた。が、その制
服はライル用に作ってあるのだから普段はぴったりなのだが、今は完全にダボダボになっていた。ジャ
ケットなど袖が長くなりすぎて、手を完全に覆い隠している。ズボンもダブダブなので無理にベルトで
固定してあった。
同じイノベイターになって欲しくてGN粒子を浴びせたライルは、なにをどう間違ったのかある日突然
女性になっていた。
「ライル」
確かに無体を強いたのはこちらだろうが、女性になるとは思ってはいない。考えられる可能性は濃いG
N粒子がライルの思考に反応して、肉体を一時的だろうが作り変えてしまったというぐらい。しかも妊
娠出産も可能だというから恐れ入る。
「えと・・・・・」
ライルが恐る恐る口を開く。
「刹那の思惑なんか良く分かんなかったから、アレなんだけど。刹那は老化抑制されてずっとそのまま
だって聞いてた。それじゃ俺は確実に先に逝く事になるよな。だから・・・・・」
刹那は目で続きを促した。
「刹那の為に何か残せないかって思って。女なら子供産んで残していけるよなって思ってたら・・・」
「女性になっていたのか」
うん、とどこか幼い仕草でライルは頷いた。更に怒られると思ったのか、恐々と刹那を見つめてくる。
しかし刹那は意外と喜びに包まれていた。つまりライルは刹那との子供が産みたくて、肉体を変えてし
まったという事だから。これは男としてはクルものがある。
「そうか、なら話は早いな」
「ん?なにが?」
刹那はライルの手を取って、その手袋を外して握り締める。
「だったら俺の子を産んでくれ、ライル」
そう言って刹那はライルの手の甲に、唇を落とした。いつもそれ以上のあられもない事をしているとい
うのに、ライルは真っ赤になる。可愛いなと刹那は素直に思った。
「ライル・・・・返事は?」
訊ねれば暫くあわあわしていたが、やがて赤い顔のままコックリと頷いた。
その時である。
「おめでとう、ロックオン!大丈夫よ、優秀なスタッフと出産経験のある私が全力でサポートするから」
リンダ・ヴァスティが乱入してきた。その後ろには
「凄いですぅ、ストラトスさんが赤ちゃん産むんですね」
とはしゃぐミレイナ。その後ろで「悪いな」と謝る天才一家の長、イアン・ヴァスティがいる。
「あらもう、先を越されたわね」
真面目な話、結婚する気も子供を産むつもりもないスメラギがニコニコしている。
「おめでとう・・・・・刹那、ライル」
複雑そうな顔をして、フェルト。
「良かったな、刹那!」
豪快に笑うラッセ。つまりトレミークルーが大集合していたのだった。刹那はいつも通りだったが、気
の毒なライルは口をぱくぱくさせて固まった。そんなライルを置いて周囲は盆踊りぐらい披露できるテ
ンションで大変な盛り上がりをみせていた。しかしその陽気なテンションは刹那の突飛の無い行動に阻
まる。
むに
何を思ったのか、刹那はライルの両胸をむんずと両手で掴んだのだ。普通女性なら悲鳴を上げるところ
なのだが、もともと男のライルは平然として見ている。周囲(特に女性陣)が今度は固まった。
「意外と小さいんだな」
「そんなもんかね。つかなんだか女になってから肩凝るんだよな。やっぱこの胸のせいなのか」
「そういう話は聞いたことがあるな」
真面目にそう言って、むにむにとライルの胸を揉む。次の瞬間、刹那に抗議が殺到した。
「ダメです、セイエイさん!セクハラですぅ〜!」
ミレイナがそう訴えたのだが、刹那はきょとんとしている。悪い事をしているとは思っていないからだ。
「駄目よ刹那。・・・ライルも平然としてないで!」
「女性の胸は神聖なるものなのよ!おいそれと触れないの!分かった?」
結局フェルトやスメラギにまで怒られて、刹那は渋々ライルの胸から手を離した。ラッセとイアンは苦
笑してその様子を見ているしかなかった。
そんなこんなでライルは本当に刹那の子を妊娠したのだった。
出産の時も一騒動あった。あまりの痛さにライルが切れたのだ。隣で痛がるライルを心配しているのは
分かってはいるが、ぴんぴんしている刹那が癪に障ったらしい。
「ええぃ!お前にもこの痛さ、味わってもらう!!」
そう叫んだライルの瞳がギラギラと輝く。次の瞬間刹那が驚いた顔をして(当然目はギラギラだ)転が
った。流石の刹那でも想像を超える痛みだったらしい。ライルは心の中でザマーミロと思う。そんなト
ンチキをしながらライルは、無事に女の子を出産したのだった。
赤ちゃんの世話は、意外と楽だった。というのもおむつ替えなどは刹那も黙々としていたし、リンダと
いう経験者、無邪気に興味深々のミレイナ、将来の為の経験を積むと言ってフェルト、なんとなくスメ
ラギがほとんど交代で世話をしてくれたからだ。帰ってきたアレルヤとマリーもリンダの指導の下、世
話をマスターしたのだった。イアンも暇な時は手伝ってくれた。伊達に一児の父親はやってない。ラッ
セは力加減を間違えてしまいそうだと言って手伝いはしなかったものの、遊んでくれた。が、やはりお
乳はライルがしなければならない。粉ミルクも勧められたのだが、すぐに母乳が溜まり張って激痛を味
あうのでそれは見送られた。赤ちゃんの目は時折ギラギラしていて、世界初の生まれながらのイノベイ
ターである事は間違いない。なので検査となるとライルと暇なクルーがついて行って密かにデータを取
られたりしないように、注意しなければならなかった。ライルも刹那も我が子を実験体としてデータ収
集されるのは我慢ならなかったからだ。そんな事の為に産んだのではない。
生まれた子の異端性に気がついたライルは一大決心。刹那にもう一人だけ産むと言ってきた。ライルの
身体は非常にゆっくりではあったけれど、元の性に戻ろうとしている。なので急ぐ必要があった。ライ
ルは言う。産まれながらのイノベイターが一人なんて可哀想過ぎる。だからせめてもう一人だけでも同
じ子供を産むと。刹那はゆっくりと頷いた。ライルの思いを理解したからだ。
そしてライルは年子で男の子を産んだのだった。
★世界初のイノベイター家族の出来上がりです。皆、何かあれば目をギラギラさせて会話します(笑)
因みに子供達の名前はニールでもエイミーでもありません。刹那とライルにとってニールは兄さんだ
けの名前だし、エイミーもライルにとっては妹だけの大事な名前だからです。スメラギさんが仮名を
考えてくれたのですが、あんまりな内容だった為お断りしました。どっちもビジュアルは刹那似です。
色素の濃い方が優位だからね(髪の色とか瞳は・・・微妙か)ライルは割と筋肉質だと思っているの
で胸は小さめです(どうでも良いよ)脂肪が足りん!まぁ、子供産めば嫌でも膨らむのでいいでしょ
う。
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