いつまでも一緒!






 
30.30歳

「ううむ・・・・・」
アロウズとの戦いが終わった後、刹那は珍しく唸っていた。この戦いを通して、刹那は純粋種のイノベ
イターに進化した。それは良い、刹那にとってはどうでもいい事だった。問題はイノベイターに備わる
という「老化抑制」の効果だ。つまり自分だけ、非常にゆっくりと年を取っていくという事。アンチエ
イジングする女性達にとっては羨ましいかもしれないが、刹那には由々しき問題だった。

原因は刹那の恋人のライルだ。

ライルは元々刹那よりも八歳も上だという事を、気にしていた。しかも受けで。よくフェルト辺りを薦
められたのだが、刹那にもフェルトにもお互い恋愛感情は無かった。そんな年の差を気にしているのに
年下の刹那がまったく年を取らなくなったら、ライルが離れていくのではないか?ありえる、大いにあ
りえる。刹那はライルを手放す気は更々無かった。自分なりに苦労してライルの心をゲットしたのだ。
兄を知っている人物、というだけでライルは壁を作ってしまう。かなり早い段階でティエリアと接触し
たのもマズかった。これは後でティエリアが申し訳ない事をした、と言っていたが。それを突き崩すの
には骨が折れた。
「・・・・・・よし」
ぐだぐだ悩むのは性に合わない。とにかくライルが自分から離れないように・・・・刹那はあるミッシ
ョンを敢行する事にした。


「なんだぁ、これ!?刹那、俺なにか悪い事でもしたっていうのかっ!!」
ライルはそう叫ばずにはいられなかった。いきなり刹那に
「お前にあるミッションをこなしてもらう」
と言われ、深く考えずにその後をひょこひょこついていった自分を呪う。刹那に連れられて行ったのは
窓もない小さな部屋。壁も床もただ金属の肌を晒している。その小さな部屋の真ん中に、何故か椅子が
ぽつんと置いてあったのだ。思わず後ずさったのだが刹那にがっしりと捕らえられ、強引に椅子に座ら
される。途端、バチン!と音がして両手首と両足首、腰に拘束具がせり出してきて、ライルの身体を拘
束した。これには流石のライルも腰を抜かさざるを得ない。しかし刹那は涼しい顔をしていた。
「心配ない」
「この状況で言われても、説得力がねぇ!」
確かに。
「ここで暫く一日十時間、ここから吹き出してくるGN粒子を浴びてもらうだけだ。たまにトランザム
 る予定なので赤くなる事もあるが、疑似じゃないから人体に影響は無い」
「十時間!?飯どーすんだよ!?あとトイレにだって行けないだろ!」
そう噛み付かれて、刹那は目をぱちぱちとさせる。
「飯は持ってきてやろう・・・・トイレは・・・」
「この部屋、トイレらしきもん無さそうだが・・・」
「尿瓶を置いておいてやる」
「置かれても拘束されてるんだから、使えないだろーが!!」
それも確かに。
「わかった、仕方ない。五時間にまけてやろう」
「それでも五時間かよ!?そんな長い時間、なにしてろっていうんだよーーーっ!」
ライルの最後の辺りは悲鳴に近かった。しかし刹那の答は簡潔だった。
「寝てろ」
「ちゃんと当てられた睡眠時間を取ってるんだから、寝れるわけ無いだろ?」
ライルの抵抗に、刹那はニヤリ・・・・と人の悪い笑みを浮かべた。マズイ、とライルの頭の中で警報
が鳴り始める。そしてその警報は間違いではなかった。
「その時間は、俺が寝られないように可愛がってやろう」
ああ、やっぱりそうきたか。ライルはそう思うだけで精一杯。口をぱくぱくさせるだけのライルの頬に
何を思ったか、ちゅ、とキスをして手元にあるスイッチを押した。ウイイイ〜〜ンという音と共に、エ
アコンのでっかい版のような装置が現れ、シュワアアアアア〜〜と緑色の粒子を吐き出し始める。
「これは毎日、五時間がノルマだ。サボったら・・・・・・分かっているな?」
珍しい刹那の脅し文句に、ライルは真っ青になったままコクコクと頷くのだった。



それからしばらくして
「あ、刹那、ただいま!」
「アレルヤとマリーか。よく戻ってきてくれた」
「え、そう思ってくれるのかい?」
「当たり前だ」
「嬉しいよ、刹那!」
宇宙にいるトレミーにアレルヤが自分探しの旅から、マリー共々帰ってきた。刹那はアレルヤは帰って
来ないかもしれない、と漠然と思っていたので結構嬉しかった。
「あれ、アレルヤじゃないか」
なんだか聞いたことがあるよーな、それにしては記憶にある声よりも高いよーな気がして、マリーとア
レルヤは顔を見合わせた。上からゆっくりとロックオン・・・・ライルが降りてくる。刹那が何気ない
動きでライルに手を差し出し、ライルは違和感無くその手を取ったものの床に足が着く事は無かった。
「ロックオン・・・・?」
「なんだ?」
「いえ、なんだかお腹が出てませんか?」
失礼だとは思ったのだが、疑問をぶつけてみる。太ったというのではなく、お腹の部分だけなんだか前
に出ている気がしたのだ。
「気のせいだ」
ライルが即答する。どこか遠い目で。
「で・・・でも胸があるような・・・・」
マリーもアレルヤと同じ事を思ったのだろう、恐る恐るという感じでやはり疑問を呈する。
「幻だ」
またしてもライルの即答。思わず顔を見て、二人して固まる。
ライルの目が、DVDの裏のよーにギラギラと輝いているからだ。
「ロックオン、その目・・・」
「こんな所にいたの、ロックオン。ダメじゃない!」
アレルヤの戦々恐々とした言葉を塞いだのは、リンダ・ヴァスティだった。
「いくら安定期に入っているからって、油断しちゃだめなのよ。さ、検査を始めるから来なさいな」
リンダはライルしか目に入っていないらしく、アレルヤとマリーの存在にも気がつかないようだった。
「え、また検査かよ。いい加減うんざりなんだが」
「そう言わないの。元気な赤ちゃんを産む為には必要なんだから」
「へいへい、分かりましたよ」
そのまま強引にライルを引っ張り、上の通路へと消えて行った。ライルの後姿が、やけに華奢に見えた
のは錯覚ではないだろう。


「お前の思ったとおり、ライルは俺の子を妊娠しているんだ」
マリーが疲れたからと言って自室に向った後、アレルヤはやっぱり自室で刹那に衝撃のコメントを貰っ
ていた。
「一体、どうしたんだよ。ライルに何が!?」
ライル・ディランディはちゃんとした男である。刹那とそういう関係に陥っている事は知ってはいたが
妊娠なんぞできるはずもない。そしてあの光る目。刹那と同じくイノベイターに進化してしまっている。
疑いの眼で見ても、やっぱり刹那は動じなかった。
「俺は、ライルと同じ時間を過ごしたかった。このままではライルに流れる時間が早くて、俺はいつか
 ライルを失う。それが嫌だった」
アレルヤはライルに勇猛果敢にアタックしていた刹那を思い出していた。四年前とは別人のように、執
着しているのを見て、驚いたのも懐かしい思い出だ。
「その気持ちは分からないわけでもないけど・・・・」
刹那の気持ちも、ライルの気持ちも分からないわけではない。
「俺はただ、ライルに一日五時間GN粒子を浴びてもらっただけだ。この数ヶ月」
「数ヶ月も!?」
途端に刹那に対する気持ちは消滅した。あるのは気の毒な目にあったライルへの同情だ。そんな無茶、
超人機関だってしなかった。
「その中でどうもロクでもない事を考えていたらしい。気がついたら女性の身体に変化していた」
「GN粒子って怖いんだね・・・・」
「医療班が言うには、あまりのGN粒子の濃さに細胞がべっくらこいて、変化したというが・・」
「医療班がそんないい加減な検査結果出してたなんて、なんだかこれから行くのが違う意味で怖いよ」
アレルヤは帰って来てしまった自分を、ちょっぴり後悔したのだった。
「男で、齢30歳で妊娠出産なんて凄い人生だな、ロックオン」



★GN散布部屋は結局ライルの個室になりました。ぶーすか文句を言ってトイレも作ってもらって。な  ので拘束椅子の出番は割と早く終了したのでありました。せっちゃんにしてみれば、同じ時間を生き  れるだけでなく、子供も産んで貰えるので一石二鳥です。ライルは新たにアレルヤとマリーに説明す  る事になった事で「俺、なにしてんだろ・・」と遠い目をしましたが、せっちゃんの子産むのはやぶ  さかではないのです。   戻る