有難う






 
9.ケルディムガンダム


イノベイド達との激戦を終えた後、ライルは格納庫に収納されている愛機を見上げていた。

自分のガンダム。

ケルディム。

激戦を潜り抜けたこの機体は、見る影もなくボロボロになっていた。このガンダムで家族の仇をとる事
ができた(例え生身で仕留めたとしても)そしてイノベイド3人に囲まれて苦戦する刹那をも守る事が
できた。アリー・アル・サーシェスとイノベイドとの激戦を連戦できたのも、このケルディムの性能の
おかげだ。そして今、こうして生き残って見上げる事が出来るのも。
(有難う、ケルディム。お前のおかげで俺は生き残れたよ)
声に出さずに、感謝を伝える。

どのくらいそこに立っていただろうか。
「ライル!ベット抜け出してドコ行ったのかと思ったら!!兄ちゃん、心配しましたよっ!」
ブラコン魂丸出して実兄がこっちに転がるかのように近づいてきた。いや実際バランスを崩したらしく
ハロのように空中を転がりながら近づいて来る。しかも更に目測を誤ったらしく、振り返ったライルの
前を「あれ?」とか言いながら空中回転しながら通り過ぎて行った。無論反対の壁を蹴ってターンして
きたわけだが。
「ライルッ!なんで兄ちゃん止めてくれませんか!?」
「や・・・・そんなミスするとは思わなくってさ・・・・・」
「わーん!兄ちゃん格好良く出現したかったのに!てか、まだ寝てなさい!」
今迄のシリアスが台無し。
「いやだってもう、寝てんのも飽きたしさ」
「飽きちゃいけません!もっと寝てなさい!」
「これ以上寝たら、脳みそとろけるプリン状態になるからっ!」
「大丈夫!俺はそれでも愛せるぞ!」
「なにがどう大丈夫なんだよ!」
「!!!!!!」
「!!!!」
不毛な会話が続いた。


割と派手に負傷したライルに、ニールはそれこそこの世の終わりのような顔をして大騒ぎした。そして
カプセルで治療する事となったわけだが、ニールがステッカーのように貼りついて離れないという異様
な状況が作り出されていたらしい。因みにマリーとライルが2つしかない治療カプセルに入っていた為
気の毒にも刹那は近くの基地に行くまで、簡単な治療で我慢していたらしい。その事を知った直後にラ
イルは刹那に詫びを入れたのだが
「お前が無事であればそれでいい」
と返されて、ライルは胸のときめきを覚えたのだった。救心が必要な動悸ではない事を記しておく。カ
プセルを出た後、心配性の実兄が事あるごとにわーわー大騒ぎをするので、CBの構成員から生暖かく
見守られライルはなんとなく居場所が狭くなった気がしてならなかった。


「んで、ここでなにしてたんだよ?」
「ああ・・・・ケルディムに礼言っていたんだ。コイツの性能のおかげで生き残れたわけだしな」
そう言うとやはり元マイスター、思う処があるのだろう。ニールは大まじめに頷いてみせたのだった。
「でもビームサーベルあったらもっと楽になってたかも」
ライルの何気ない1言に、ニールがギクリと身を竦める。実際対アリー戦の時は割と狭い場所で、白兵
戦を得意とするらしいアリーに、防戦一方になってしまったのだ。ビームサーベルじゃなくても、実体
剣でもあったらまだ楽に戦えたのは事実ではある。宇宙空間では接近されても自分の得意な距離の取り
ようもあるが、生憎封鎖空間だったわけで。ライルとしては悪意は無い。ただそう思っただけだったの
だが、どうも兄の様子がおかしい事に気が付く。固まっていた。
「どうしたんだよ、兄さん?俺、なにか悪い事言ったか?」
そう問いかければ汗をいっぱいに垂らした笑顔を向けてくる。
「悪い・・・・。ケルディムにビームサーベル付いてなかったの、俺のせいだ」
「なんだって!?初耳だよ、それ?」
「マイスター時代におやっさんに頼んだんだよ。『俺は絶対にサーベルを抜かないから後継機に付けな
 くって良い』てさ・・・・」
「・・・・・・その割には早めに『フラッグごときに』抜いているご様子ですが」
「うぅ・・・・・」
なるほど、おやっさんにサーベル装着できないかと訊いた時に、言葉を濁していた意味がわかった。そ
う申告した本人がいるのに(しかもサーベル装着は機能として入って無かったようだ)付けるわけもな
いか、と思った。

その時である。

「2人でなにケルちゃんの前で佇んでいる」
という刹那の言葉が背後からした。驚いて2人が振り向くと、そこには刹那の姿が。
「ライル、お腹の子の為にも安静が必要だぞ?」
「なにぃぃぃ!!誰との子なんだ!ライル」
「無論、オ」
「お前ら、俺が男だって事を忘れてもらっては困るな。別に孕んでません!」
刹那はライルのらばーだが、時々こうやって意味不明の大暴走をする時がある。だが本人は割と本気な
のが怖い。今も何故か不思議そうな顔をして、首を傾げた。
「そうなのか?」
「そうだ。兄さんもそこで蹲るのやめて。って、刹那お前今『ケルちゃん』と言ったか?糞真面目な顔
 のまま」
「ああ、ミレイナが言っていた。彼女は『ケルちゃん』と呼んでいるらしい」
「・・・・・・・・」
「まぁ・・・彼女らしい・・・んだろうな」
沈黙するライルとなんとかフォローしようとする健気なニールだった。ミレイナは可愛らしく頭も良く
性格も無邪気ではあるが、経験した世界がCBだけという狭い子だ。CBでは普通でも(武力介入とか)
世間ではそうではない場合も多いので、なるべくなら広い世界を知ってもらいたいという両者共に兄さ
ん根性丸出しの事を考えていたりする。
「しっかしケルちゃん・・・・・ね・・・・」
女の子の感性ってちょっと分かんないかも、とライルは呟いたのだった。

後日、サバーニャを『サバにゃん』とミレイナに呼ばれ、搭乗を躊躇うライルの姿があったという。


★サバにゃんは殿方も言ってるし、割と有名な呼び方?いまや「鯖猫」呼ばわりですが(実話)ガンプ  ラ宣伝部長はぬこ様なので、サバにゃんが猫属性だと被らないか?(なにが?)ケルちゃんという言  い方は結構好き。実際シールドビットたん含めて可愛いよ!(このロボット好きめ) 戻る