必ず救う






 
A BLETILLA5



ふと目を覚ますと、刹那は知らない部屋のベットに寝ていた。
「?」
起き上がろうとすると、身体中がズキリと痛みを伝えてくる。
(俺はどうして・・・・・・)
考え込み、はっと顔を上げる。
(ライルっ!)
奪われた刹那の特別な存在。目の前で嘆きながら堕天使になってしまった、ケルディム。しかし刹那に
止めをさそうとするアリーから、刹那を守り消えていった彼。最後に見た瞳には悲しみが溢れていた。
(いや、まだだ。ライルはまだ堕天使にはなっていない。ならなにか方法があるはずだ。ライルを救う
 方法が)
考えに沈む。その時だ、急に部屋のドアが開いて誰かが入って来た。
「誰だっ!」
荒む心のままに叫ぶと、その人物は一瞬止まった。
「落ち着きなさいよ、別にあなたを害そうというわけではないわ」
視線の先には茶色のくせ毛をもつ女性が立っていた。背にしているのは4枚の翼。ライルと同じくケル
ディムだ。
「目が覚めたのね」
「アンタが俺を助けてくれたのか」
「スメラギ・李・ノリエガよ。刹那・F・セイエイ君?」
いたずらっぽく笑って、スメラギと名乗った女性は軽くウィンクをした。
「スメラギ・・・・?あの天才戦術予報士の?」
彼女の名前は天界どころか堕天使にまでも轟いている。もう1人の戦術予報士のカティ・マネキンと同
様に。カティの場合はセラフィムであるが。
「あら、おだてても何も出ないわよ。天才って言われてもね・・・・・」
苦笑しながら彼女は刹那の寝ているベットの傍に置いてあった椅子に腰かける。
「さて分かっていると思うけど、事情を聞かせてちょうだい。本当はセラフィムのティエリアが事情聴
 取をするはずだったんだけど、あの結界が壊されてライルが堕天してしまった事に怒っているの。だ
 から私が代わりに・・・ね」
「あんた、ライルを覚えているのか?ライルは記憶を取らなかったのか」
天界の中で自分しかライルの存在を知らないと思っていた刹那は、意外な気持ちで訊ねた。彼女は肩を
軽くすくめる。
「ええ、私はニールほど懸命になれなかったから・・・・」
「アンタ、ライルとはどういう関係だ?」
「幼馴染よ、彼らのね。って、貴方が私に訊いてどうするのよ。話してもらうわ、中でライルに何があ
 ったかを」
目線がきつくなる。刹那は分かった、と答えて自分が覚えている限りの事を話しだした。



「そう、そういう事・・・・・・・。ライル・・・・・あんなに堕天するのを嫌がっていたのに」
スメラギは耐えられない、という顔をして溜息をついた。
「すまない、俺のせいで」
「貴方のせいではないわ。アリーの侵入をキャッチできなかったこちらにも非があるから」
「・・・・・・・・・・・」
「確認させて」
「?」
「貴方、ライルは完全には堕天していないって言ってたわよね。それは本当なの?」
「間違いない」
初めて見たライルの瞳はニールと同じ緑色だった。だがその瞳にはニールの瞳にはない、複雑な感情が
見え隠れしていた。あれは完全に堕天した者が宿すものではない。刹那は最前線で戦っている為、上位
の天使達よりは堕天使と相まみえる機会が多い。その中であのような瞳をしている者はいなかった。
「なにか、策でもあるのか?」
黙り込んだスメラギに訊くが、なんともいえない表情を返される。
「分からないわ。あのニールがあれだけ調べても、解決法は見つからなかった」
ふと刹那は思いついてスメラギに言った。
「フォール・ダウンは昔から天界の問題でもあったんだろう?何故、解決方法が見つからない?」
スメラギが弾かれたように顔を上げた。
「無いのよね・・・・。何故か。これだけの長い時間があれば、その方法があってもおかしくはない」
今度は拳を口に当てて、なにやらぶつぶつ言いだす。あまりの変容ぶりに刹那は黙り込んだ。暫くなに
やら言っていたが、やがて顔を上げて笑った。
「面白い子ね、気にいったわ」
スメラギに気に入られても、刹那にしてみれば別に有難くもなんともない。早くなんらかの方法を探し
だしてライルを救ってやりたかった。
「邪魔をした、俺は帰る」
まだ痛みを訴える身体を無視して、刹那はベットから降りようとする。それをスメラギが止めた。
「止めときなさい、貴方は生きているのが不思議なくらいの重傷だったんだから」
「しかしライルがきっと待っている。こんな処でのんびりとはしていられない」
暫く押し問答が続いたが
「えい」
というスメラギの声とチョップで刹那は撃沈する事となる。
「ほら、御覧なさいな。傷が治るまで此処にいなさい。此処は私の家なんだからおかまいなく」
スメラギは笑って、部屋を出て行った。


「彼の様子はどうだ?」
スメラギが廊下へ出た途端、ティエリアに捕まった。神経質な顔をして、スメラギを睨んでいる。ああ
まだ怒ってんのね、とスメラギは溜息をついた。
「まだまだ療養が必要ね。大体の話は聞いてきたわ」
「そうか、カティも来ている。話を聞かせてもらおう」
「あら、彼女まで来ているの」
とぼけるとティエリアが今度は溜息をついた。
「当たり前だ。天界にいるケルディムが堕天したのは、大問題だからな。しかもライルはケルディムで
 もトップクラスだ。敵になると、今後の話もしなければならない」
「分かったわ、じゃ、応接室に来て頂戴」
「了解した」
勝手知ったるスメラギの家を闊歩して行くティエリアの後を、スメラギは大人しく着いて行った。


「そういう事か」
カティ・マネキンは眉間に皺を寄せて呟いた。ティエリアも同様だ。
「本来、堕天した時点で消滅させる事になっているのを、止めた弊害だな」
そう、本来堕天使となった時点で殺すというのが天界でもルールだ。部隊を預かる上位天使達にしてみ
れば、部下の天使達が殺されるのを避けねばならない。しかしライルは特例として天界に留まる事が認
められたのだ。その判断を下したのは天使達ではない。俗に言う創造主たる神が認めたのだ。天使はそ
の決断に異を唱える事は許されない。一体なんの為にそういう特例が認められたのかは、誰にも分から
ない。
「今後の対策を練っておこう。いくら完全に堕天になっていなくとも、彼が戦場に出てきたら迎えうた
 ねばならないからな」
カティの言葉にティエリアもスメラギも頷く。
「あの刹那って子、どうするの?」
スメラギの質問にカティはこれまた難しい顔をした。
「まだ決めかねている。口止めはしなければならないが・・・・」
「ならあの子、私の部下に頂戴」
スメラギの申し出に、カティとティエリアは目を丸くする。スメラギは過去に大事な存在を失ってから
部下、というものを持つのを嫌がっていたからだ。今の彼女の立場はカティの副官という事になってお
り、カティの戦術に意見を言ったりする所謂閑職というやつだった。その彼女が刹那というエクシアク
ラスの刹那という少年を欲しがっている。彼女ならもっと高い地位の天使を部下にする事も可能だとい
うのに・・・・・。
「珍しいですね、貴女がそんな事を言うなんて」
「そうね、自分でもちょっと驚いているわ。でも・・・なんというか、面白い子なのよ。だから手元に
 置いておきたいの。カティ、貴女から刹那の部隊の上司に掛け合ってもらえないかしら・・・?」
スメラギは滅多にお願い事をしない。そんな彼女が此処まで言うのだ、カティは快くその申し出を引き
受けた。

カティ・マネキンという天界での最高クラスの戦術予報士に掛けあわされ、しかも天才と名高いスメラ
ギ・李・ノリエガが引きぬくという事実に、刹那の部隊の上司は1も2もなくその事を了承した。彼女
の家で療養していた刹那は、外に出てから自分が有名人になっている事に驚く事になるのだった。


やっと傷が治った刹那は、スメラギ直属の部下になったと本人から教えられて驚愕した。
「何故、俺なんだ?」
尤もな質問に、スネラギは顔を寄せて真剣な顔をして囁いた。
「誰も疑問にも思わなかった。ニールは方法が見つからないとは言っていたけれど、何故その方法がな
 いのか、とは気が付かなかった。此処まで莫大な時間と大勢の天使が堕天しているにも関わらずね。
 私は貴方に言われるまで根本的な解決法がないという事に、違和感を持っていなかった。ちょっと自
 分でもショックだったわ。だから貴方を応援してみようと思ったの。1人では動けないでしょ?私が
 貴方の後ろ盾になってあげる」
確かにそうだ。エクシアは戦う為に生れたクラスと言っても過言ではない。部隊で動くので、1人のス
タンドプレーは許されない。部隊をバラバラにする恐れがあるからだ。それにライルはケルディムクラ
スだ。戦場には滅多に出てこないだろう。つまりこのままだとライルとの接触すら危ういのだ。この抜
擢は刹那にとっても有難いものと言える。
「そうか・・・・礼を言う」
素直に頭を下げる刹那を優しい笑みで見つめ、メモを差し出した。
「?これは?」
そのメモには場所と-------天使の名前だろう---------アレルヤ・ハプティズムと書いてある。
「最初の指令よ。そこに行って、アレルヤに会いなさい。そして全てを話すのよ。きっと貴方の力にな
 ってくれる。あとコレ渡しとくわね」
そう言って渡されたのは紋章が刻まれたレリース。
「それを見せれば私からのお願い事と分かって貰えるはずよ。お願いね」
「分かった」
刹那はもう1度頭を下げて、スメラギの家から出て行った。


「そうだ、此処に行く前にニールの処へ礼を言いに行くか」
ニールが渡してくれた護符のおかげで、刹那は生き延びたともいえる。きっとスメラギの家で療養する
事になったのも知っているだろう(ニールの情報網はそれは凄いモノなのだ)心配をかけたはずだ。刹
那はそう思い立ち、ニールの家の方へ足を向けた。



★刹那、スメラギの家で療養するの巻。無論、世話はスメラギさんではなく使用人(いや使用天使?)  がしています。母性らしきものあんまりスメラギさんに感じなかったので。ティエリアはライルの結  界を作った中心天使です。なので余計結界が破られて怒ってます。結界が破られた原因の1つは刹那  が何度も行ったり来たりしていたから。結界に何度も入っていたので心持、効力が弱くなっていたの  です。しかしアリーだったからこそ破れたレベルなので、普通クラスの堕天使には破れるものではな  かったのです。   戻る