安心する




あったかい




「というわけで、ミッション終了だ。スメラギさん」
「お疲れ様」
あるミッションを1人で受け持っていたライルは首尾よく厄介事を片付けた後、スメラギに報告を入れ
ていた。
「そんで他の奴らは?」
連動するミッションではないがニールはラッセと、刹那は1人で別のミッションに駆り出されていた。
「ニールとラッセはもうトレミーに帰る為に、宇宙ステーションに移動しているわよ」
「そっか、流石だな。で、刹那の方は?」
「珍しい事にまだ手こずっているようよ」
刹那はミッションでアザディスタンに行っている。かの国はマリナ・イスマイールを頂点として、徐々
に復興しつつあるが、やはりそれを快く思わない者もいる。特にあの地域での女性の地位は低いのだ。
不安要素は呆れるぐらい、たっぷりとあった。今回は反対派の中の過激派が暗躍しているようなので、
刹那たっての願いで派遣されているのだった。何事に対しても手際良くやり遂げる刹那ではあったが、
今回は思うように行かないということらしい。ライルはちょっとがっかりした。刹那の手際にではない。
そう易々とう上手くいかない時だって多々あるのだ。別の理由でがっかりしていたその時だ。
「ま、貴方があっちに着く頃には終わってるでしょ」
ぎょっとして画面を見ると、人の悪い笑顔でライルを見つめている。全くこの人の洞察力には叶わない。
「流石、戦術予報士だな。すべてお見通し?」
「まぁね。でもゆっくりしてらっしゃいな、時間的に余裕はあるし。もし緊急時にはニールをこき使う
 から安心しなさい」
「兄さんが気の毒すぎる・・・・」
真顔で呟けば、彼女がけらけらと笑う。自分たちが帰るまで、せめて何事もないようにとライルは祈っ
た。だってコトが起きればニールがスメラギによってこき使われる事は確実だから。


ライルがアザディスタンに着いたのはスメラギに連絡を入れた次の日。刹那には何も知らせていはいな
かった。というのもいきなり行って、刹那の驚く顔が見たかったからだ。刹那はキング・オブ・仏頂面
である。無論、付き合っていれば仏頂面ではあるがチョコチョコと表情が変わる事は分かっている。だ
が傍から見ればやっぱり仏頂面にしか見えないのだ。特に刹那の驚く顔というのをライルは見た事がな
い。自分は刹那のどえらい行動や言動に心底驚いたりするのだが(その度にニールが濡れ衣を着せられ
ていた)自分ばかりでは面白くない。ライルの心情などお見通しのスメラギが、刹那にライルの来訪を
伝えているわけがない。つまり今なら刹那の驚く姿を拝む、絶好のチャンスというわけだ。
ところが
神様というのは意地悪なもので、ライルの予想に反して刹那はアジトにはいなかった。拍子抜けをして
ライルは買い込んできた食料を乱雑にテーブルに置いて、ベットの上に座り込んだ。
「なーんだ、失敗かよ」
初っ端でしかチャンスが無かったのに、これはないわーとライルは肩を落とした。が、直ぐに考え直す。
ならアジトに帰ってきた刹那を出迎えて驚かせれば良い、と。目的は刹那の驚く姿や顔なのだから、別
にそれでも良いだろう。
「早く帰ってこいよ、刹那ぁ」
ぽてん、とベットにライルは倒れ込んだ。ベットは冷たく、素っ気ない。しかしミッション終了後とい
うこともあり、ライルは自分で思っていた以上に疲れていたのだと気づいた。疲れているからこそ、刹
那に会いたかったのだと。
(疲労回復のチョコレートかよ、まったく)
自分のやけに女々しい表現に苦笑したまま、ライルの瞼は閉じられていった。


気配を感じた。
敵か味方かもわからない。
わからないなりにライルはぼやけた意識のまま、懐から銃を取りだして気配に銃口を向けた。目が開か
ないままで。しかし引き金は引けなかった。何故引けないのかはわからない。だがとにかく銃を気配に
向けるだけで精一杯だった。
ふいに
銃を握る手が暖かさに包まれた。その心地よさに心が傾いたところで、ゆっくりと銃がライルの手から
取られた。だが銃を取られた事に対する恐怖や不安はなかった。それは自分の手を包む暖かさが原因な
のだとライルはぼんやりと考えた。その暖かさが手から離れたが、今度は全身が包まれた。
心地良い。
その心地良さに満足しながら、ライルの意識は再び闇に沈んでいった。


ライルが目を開けると、刹那の寝顔のドアップがあった。
「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
悲鳴を既のところで堪えたが、がばっと跳ね起きてしまった。
(あれ、なんで刹那が?・・・・・あ、俺あのまま寝ちまったのか)
刹那を驚かすつもりが、自分が驚くハメに陥るのだからライルとしても意気消沈せざるを得なかった。
しかも刹那が脱がしてくれたのだろう、ご丁寧にもアンダーシャツとパンツ一丁の姿。無論、靴も履い
などいない。
「起きたのか」
静かな声に目を向けると、刹那の赤い目とばっちり目があった。のそり、と刹那が起き上がる。
「おはよう」
「あ、ああ・・・おはよう」
「・・・・どうした?」
刹那が不思議そうに首を傾げた。無論、無表情のままで。
「いやさ・・・俺、刹那を驚かせるつもりだったのに」
可哀想なぐらい肩を落とすライルに、刹那は合点がいったという顔をした。
「安心しろ、流石に驚いた」
ようやくカタをつけてアジトに戻ってみれば、人の気配がした。緊張した侵入者にしては気配を消す素
振りがない。疑問に思いながら慎重に中に入ってみれば、ベットで寝こけているいるはずのない人物が
いたのだ。これには流石に驚いた。ミッション終了時に入れた連絡で他の者の進捗具合を訊けば
「全員、移動中よ」
という返事が返ってきたから、予想すらしていなかった。確かにスメラギは嘘を言ってはいないが、や
はりイノベイターに進化した今でも叶わない、と刹那は苦笑を漏らした。
「ちぇ、俺が刹那の驚いた顔見たかったのに・・・・」
ライルがぶつぶつ言うと刹那が顔を近づけ、さらには珍しい事に人の悪い笑みを浮かべた。
「見せてやらん」
「なんでだよ!」
それは刹那のプライドだ。周りには余裕を持って大人の対応をライルにしていると思われている刹那だ
が、彼なりに努力をしているのである。ライルにも子供っぽいところはあるが、やはり大人の男として
の態度をとることが多い(例外的に思っているのはライルは常日頃から可愛い一択のニールぐらいだろ
う)ただでさえ八歳も年上なのだ、その年月を埋めることはできない。ならせめてライルにはいつも余
裕を持って接していたいという、切実なプライドだ。周囲が思っている以上に、刹那はライルを繋ぎと
める事に必死なのだが、それを悟らせないところが刹那の凄いところだ。まぁなんだ、いきなり銃を向
られた時にも驚いたのだが、引き金を引く気配がなかった為その手から銃を取って傍に置く。ちょっと
ショックだったのは隠しておく。まだまだ自分に許していない所があるらしい、というのはやはり面白
くない。というのもカタロン時代にやはり寝ぼけて銃を取り出そうとしたらしいが、相手がクラウス・
グラードだったから取り出さなかったなんて話をシーリンから聞いた事があるからだ。
(俺はお前には負けない)
当のクラウスにしてみれば理不尽この上ないだろうが、仕方ない。そしてムカつく事にその感情がバレ
ても、きっと気にしないだろう。ココに刹那が目指す「大人」がいたりするのだが、誰もその事に気が
つく事はないだろう。
「・・・・・・腹へった」
むくれた表情のままライルが言うと、同時に二人の腹が鳴った。ライルは寝てしまって晩御飯を食いっ
ぱぐれていたし、刹那も動揺していた為にそのままライルに添い寝してしまったのだから仕方がないだ
ろう。
「なら食おう」
「ああ」
刹那がそう言えばライルも同意する。そして二人同時にベットから立ち上がった。


★はい、皆様千葉銘菓鯛せんべいを無事に吐かれましたでしょうか?私は砂糖の塊を吐いた気がします。  うちの刹那は初恋でもあるので、ライルに対して色んなことに必死だし可愛らしいプライドを持って  いるんですよ。気がつかれにくいですが、刹那はライルにバレなければ良いので気がつかれても気に  しないでしょうし、スメラギにはその努力も気がつかれていますしね。 戻る