ねことであう
ねこねこ こねこ
ねこねこ こねこ
このねこ どこのこ?
ねこねこ こねこ
くろい けなみの
ねこねこ こねこ
あかい ひとみの
ねこねこ こねこ
このねこ どこのこ?
「ん?」
足元に違和感を感じて、ライル・ディランディは足を止めた。足元にはじゃれつく黒い子猫の姿。猫嫌
いでもなければ、なかなかに嬉しい場面でもある。そしてライルは猫は嫌いではない。どっちかという
と好きだ。思わず鞄を置いてその子猫を抱きあげた。
「へぇ・・・・珍しい瞳の色だな、お前」
黒い子猫の瞳は赤かった。そう指摘するとまるで返事をするかのように、にゃーんと鳴く。余りのタイ
ミングの良さに、ライルは吹き出した。対して子猫は澄ました顔をしている。笑顔のまま子猫を降ろそ
うとすると、嫌がるようにライルの手にしがみつく。
「なに、俺ひょっとしてご指名受けてんのか?」
そう尋ねると、又してもにゃーんと鳴く。
「でも困ったなぁ。確かに家は一軒家だからペットOKだけど、家に誰もいない事も多いし」
誰もいない家はこの子猫とて寂しかろうと思う。が、やっぱり子猫はライルの手にそれこそ爪を立てん
ばかりにしがみついている。こうなると離せないのがまぁ、人情というものであろう。
「分かった、だったら俺ん家の猫になるかい?」
にゃーんという返事が返って来る。分かって返事しているのか偶然なのかは分からないが、実にタイミ
ング良く返事をするこの子猫が気に入った。
「ほら、此処が俺ん家だよ」
懐に子猫を隠して店でキャットフードを買い求めてから、帰宅した。子猫はひょい、とライルの腕から
降りるとちょこちょこと歩きまわる。その間に服を着替えてミルクを少し暖めてから、テキトーに選ん
だ皿に入れてやる。良い匂いに気が付いたのか、子猫が小走りでやってきてにゃーにゃーと急かすよう
に鳴く。
「はいはい、分かったってば。ほい」
下に皿を置いてやると顔突っ込む勢いで飲みだした。お腹が減っていたらしい。それを眺めながらソフ
ァに座り、端末を取り出す。1人だった為、面倒くさいので夕食は外ですまして来たのだ。
「兄さんに報告しなきゃな・・・・て名前付けてねーか」
子猫はミルクを飲み終わったらしく、当然のような顔をしてライルの座るソファに飛び上がった。子猫
の赤い目とライルの緑の目が合う。その途端、ライルにはピンとくるものがあった。
「せつな・・・・・・。そうだ刹那、良い名前じゃん!」
なんの確証も無く良い名前だと思う。
「お前、刹那で良いか?」
そう尋ねればこれまたにゃーんと鳴く。態度から見ても納得のようだ。
「刹那」
試しに呼んでみれば、ライルの顔をじっと見つめる子猫。これで決まり。
「よっしゃ、事後承諾になるけど兄さんに報告報告っと」
ライルは兄と2人暮らしなのだ。
ライルの双子の兄であるニール・ディランディはスポーツ射撃の天才として、世界中に名を馳せている。
今回も国際試合で長期に渡って家を留守にしているのだ。
『子猫飼い始めました』
という短すぎる文言と共に、刹那の写真を(撮る時に刹那がおすましポーズを取ってライルは大喜び)
添付して送る。国が違えば時間も違う。本当はキチンと電話したいのだが、向こうが就寝中だったり、
打ち合わせの最中だったりするとマズイので、いつもメールにしていた。が、今回は時間的にも良い時
だったのか、兄からは直ぐにメールが返って来た。
『可愛いじゃんか!帰ったら抱っこさせてくれな!』
という大分テンション上がった感じで。これなら兄の了承も取ったも同然だ。刹那は晴れてディランデ
ィ家の猫となったのである。
次の日、ライルは刹那に小さな鈴付の赤い首輪を買って来た。男の子に赤、というのはなんだか違う気
もしたのだが、刹那の赤い瞳と同じ色合いだったのでこれに決めた。案の定、刹那に良く似合う。刹那
も気に入ったのか、あっちにチョロチョロこっちにチョロチョロして鈴をわざと鳴らしたりして楽しん
でいるようだ。
休日、ライルは一発奮起して玄関の扉の下に小さな刹那用の出入り口を作った。無論、兄の同意も得て
いる。
「お前の家でもあるんだから、別に訊いて来なくても良いよ」
と兄は言うが、此処は兄の家でもあるのだ。共同使用する処を同意無くいじることは出来なかった。と
いうか、兄だってそういった事をいちいちライルに訊いてくるのに。
家に帰って来ると刹那がお出迎えをしてくれる。凄い時は家から出て外でライルが帰ってくるのを待っ
ていてくれる。ソファでくつろげば刹那が当たり前のような顔をして膝に乗って甘えてくる。ベットに
寝ると刹那が布団の中に入ってくる。しかし夜中の間に暑くなるのか、朝はライルの頬に背中をぴたり
と当てて寝ていたりする。ライルが完全に寝ていると何もしてこないようだが、少しでも起きている事
が分かると肉球で頬をぴたぴた叩いたり、ライルの顔をざらざらとした舌で舐めてきたり。朝出かける
時も、必ずお見送りをしてくれる。こんな生活なのでライルはたちまち猫バカに。仕事先で刹那の話を
するので、猫好きの人と知り合いになれたりもした。そして毎日、兄に『今日の刹那』と題して添付付
メールを送っていた。兄も刹那をいたく気に入ったらしく、ライルが仕事でメールを出すのを忘れてい
ると催促のメールが入ってきたりもした。
生活の中心に刹那がいる状態だ。
ライルは毎日が楽しい。仕事で嫌な気分になっていても、刹那が癒してくれるからだ。どこまで人の言
葉を理解しているのか分からないが、刹那相手に愚痴る事もある。そんな時はあの赤い目でじっとライ
ルを見つめ、タイミング良く返事を返してくれたりもするのだ。
いや〜猫って本当にいいものですね。
ライルはしみじみそう思っていた。
しかし
あんな事になるなんて!
待て次号!
★何が起こったのかは次回のお楽しみという事で、乞うご期待(土下座しながら)私は猫飼った事はな
いんですが、故愛犬ロンを飼った時は見事に犬バカになりましたとも!
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