ねこたちとみっしょん
ねこねこ こねこ10
ニールが遠征に出かけた後、予定通りミッションは敢行された。ライルの任務はチームユニオンの狙撃
によるフォローだ。ライルの視線の先には激しい銃撃戦になっている。その周りをバレないように猫の
姿になったり人間形態になったりして上手く場をひっ掻きまわしている、2匹というか2人の姿。
「やれやれ、期待以上だったな」
ライルはぽつりと呟く。その背後にはライルが狙撃に集中できるように黒猫が周りを見回していた。刹
那の猫としての能力をもってして、敵の襲撃等をいち早く察知する為でもある。
流石に2匹も黒猫連れて行ってミッション参加と言っても許されないだろう、と腹を括って上司である
カティ・マネキンに進言したのだが、彼女はあっさりとOKを出して来た。これにはライルも面食らう。
こんな非常識な上司ではなかったはずだが・・・・・。そう思ったのが顔に出ていたらしく、聡明な彼
女はライルの心中を直ぐに察したらしい。
「お前が使えると思ったからこそ連れて来たのだろう?実際その刹那とやらは良くやっているというで
はないか」
結局猫3匹連れてとぼとぼと仕事場に戻ったわけだが、同僚達だけならまだしもユニオン連中にも大喜
びされてしまって、ライルは複雑だ。
「俺、猫使いとか思われてんじゃなかろーか」
と思うわけだが、ライルは知らない。「猫使い」どころか「猫の宅急便」と呼ばれている事を。黒猫を
侍らせているのが昔の名作アニメを彷彿とさせる事からこの呼び名がついたらしい。
狙撃に集中するライルの後ろで、刹那は耳をピンと立てて集中する。ここへ至る階段を上がって来る足
音を捕えたからだ。そろそろとライルから離れてドアに近づく。ゆっくりとノブが回り音も無くドアが
開く。ライルは気がついてはいない。それは侵入者も同じ事。気配を消した刹那に気がついてはいない。
侵入者が1歩前に歩を進めた時を見計らって、刹那は飛びかかった。狙うのは目だ。思いもしない襲撃
に侵入者が目を見張った時、刹那の爪は確実にその者の目にヒットする。
「ぎゃあああああ!」
たまらず悲鳴を上げる侵入者。してやったりと思った時、刹那の目に映ったのは目を潰された侵入者の
後ろからまっすぐに刹那に向けられた銃口。飛びかかった後で床に降りる最中なので、避けられない!
消音されているらしい銃口が少し揺れたのを見た後、刹那の小さな体は弾け飛んだ。腹の辺りが熱い。
どくどくと血が流れていくのを感じる。薄れゆく意識の中で最後に見たのは「刹那!」と悲惨な悲鳴を
あげる大事な相手の声だった。
「ぎゃああああ!」
という悲鳴に振り返ったライルの目の前で、刹那の小さな体が後ろに弾けた。撃たれたのだ。頭の中が
真っ白になりライルは刹那に走り寄った。
「刹那!刹那!」
任務も役割も忘れてライルは血まみれの刹那を抱き上げた。ぐったりとして刹那は動かない。だがそん
な動揺の中でもライルの耳はサイレンサーが自分に銃口を向けた事を察する。咄嗟に刹那を左腕で抱え
て右で銃を取出し引き金を引いた。目を押さえて転がりまわっている男は害が無いので無視した。
「刹那!刹那しっかりしてくれ!」
猫である刹那にとって少量の出血であっても致命傷になる。体が小さいからだ。おろおろとするライル
の背後に同じタイミングで2人の人間が飛び込んできた。アレルヤとハレルヤだ。弟である刹那の異変
を察したのだろうか?だがライルはそんな疑問すら感じる余裕も無い。
「アレルヤ、ハレルヤ!刹那が!刹那が!」
訴えたい事は沢山あるのに、言葉が出てこない。自分の手が刹那の血で赤くなっていく。恐れていた現
実がそこにあった。その時だ。
「いい加減、しっかりしやがれ!」
という罵声と共に頬に衝撃が走った。よろよろと後ずさり手に刹那がいない事に気がつく。見れば刹那
はアレルヤに抱かれていた。痛みと共に急速にクリーンになっていく意識。ライルの表情から我に返っ
たと判断したハレルヤが鼻で笑う。
「もう、ハレルヤは乱暴なんだから。ライルさんが混乱したっておかしくないだろ?」
じろり、と銀の瞳でアレルヤがハレルヤを睨みつける。
「ハッ、我を忘れてぎゃーぎゃー騒ぐ奴が悪いだろうがよ」
ハレルヤは悪びれる事も無く言い放った。アレルヤがライルに近づく。
「ライルさん、大丈夫ですか?ごめんなさい、ハレルヤが・・・」
「いや、良いんだ。パニックになった俺が悪い」
「ほら見ろ」
「ハレルヤは黙っていて」
びしり、と言われてハレルヤが黙ったところをみると、ちょっとアレルヤに遠慮しているのかもしれな
い。
「刹那は僕が責任を持って預かります。貴方はミッションに戻って下さい」
「え・・・でも・・・・」
「大丈夫、刹那は僕達にとって大事な弟です。死なせはしません」
きっぱりと言い切ったアレルヤの瞳に強い意志を感じて、ライルは引き下がる事にした。猫人族の事は
やはり同じ猫人族に任せた方が良い。人間である自分には何が刹那に有効なのかも分かりはしないから
だ。
「分かった。刹那を頼む、アレルヤ」
「任せて下さい。ハレルヤはライルのフォローをしてね、宜しくね」
ハレルヤの反論を聞く事も無く、アレルヤは刹那を抱き抱えたままひょいと屋上から飛び降りた。
それをぼけーっと見ていたライルに投げて寄こされたのはライフルケース。慌てて受け取る。次は本体
が飛んでくるかとも思ったが、流石にデリケートな本体を放り投げる事はしなかったようだ。
「ほれ」
その代わり、と言っては何だが本体はぎゅうぎゅうと押し付けられてきた。無論、ケースを持っている
から受け取れない。分かっている癖にハレルヤは押し付けて来ているのだ。なんとか両方受け取ると、
突然体が浮いた。
「!?」
ライルは硬直した。そりゃそうだろう、ハレルヤはライルをあろうことか俗に言う「お姫様だっこ」を
していたのだから。
「おい!降ろせって!」
「うっせ。此処は相手に知られちまったからな、移動する。それにはチンタラ階段降りて登ってじゃ間
にあわねーんだよ」
その言葉と共に、ハレルヤは隣のビルの屋上に易々と飛び移る。流石、猫。着地する時の足音すら聞こ
えない。そのまま1つ2つと飛び移って行く。
「安心しろ」
「え?」
「刹那は大事な弟だ。アレルヤの奴がみすみす死なせるわけねぇ。あいつがなんとかする。だからおめ
ーは集中しろ」
すとん、と先程よりも大分離れたポイントでライルを降ろす。その時点で気持ちの切り替えが取り合え
ずできたのだろう。その表情は仕事をする者のものだった。
「んじゃ、背後は頼む」
「あいよ」
その会話を最後にライルはスコープを覗き、引き金を引いた。
そんなライルにほっとしながら、ハレルヤは周囲に気を散らした。
(刹那を死なせんなよ、アレルヤ。姉貴が悲しむからな)
刹那が大怪我をしたと聞いたら、あの心優しい姉の事だ。悲しむに決まっている。そして彼女が悲しむ
事を兄弟は誰も望んではいない。溜息を1つついて空を見上げればそこには満月の1歩手前の月の姿。
その月をハレルヤは睨みつけた。
★刹那、怪我を負う。アレハレが直ぐにやってきたのは、刹那の血の匂いを察したからです。ミッショ
ン内容は1ビットの脳みそでは書けませんでした。難しいよね、ホント。あと1つで終りです。
戻る