ねことはっぴーえんど






 
ねこねこ こねこ11


ねこねこ こねこ
このねこ どこのこ?


ねこねこ こねこ
くろい けなみの

ねこねこ こねこ
あかい ひとみの


ねこねこ こねこ
ひとにこいした


ねこねこ こねこ
このねこ どこのこ?


ライルはぼーっとしながら立ちすくんでいた。見降ろす下には『人間用』の治療ポッド。しかしそこに
収納されているのは人間ではなく、1匹の黒い猫だった。
「刹那・・・・・」
ミッションを終えた後、アレルヤからの連絡でライルはこの治療室にやって来た。刹那は無事山を越え
ていると聞いてその場にへたり込む。しかしあれだけの怪我、どうやって治ったのか。そう小声でアレ
ルヤに訊くと彼は荒技を使った、と苦笑を返した。


アレルヤは刹那を強制的に人間形態にさせたのだ。偶然にも負傷した日は満月の1歩手前だったから、
ひょっとしたらと思いついたらしい。しかしそれは1種の賭けでもあった。刹那はもうすぐとはいえ自
由に変身できる18歳を迎える。だが今の時点ではまだその変化は起きていない。体の準備が出来てい
ない、と言うべきだろうか。だからアレルヤが強制的に刹那を変身させた時、運が悪ければそのまま死
んでもおかしくはなかった。流石にアレルヤも迷ったのだが、決意をさせたのは満月の1歩手前だとい
う事実だった。

結果は良い方に転がった。猫の体よりも大きい体になったので、それなりに耐久力がでたのだ。そして
そのまま知らん顔をして、救護チームに駆けこんだという。更に刹那にとってラッキーだったのは、ラ
イルの上司であるカティ・マネキンがすぐさま治療ポッドに入れる事を指示してくれた事であろう。刹
那という名前をアレルヤは堂々と言っていたので、聡い彼女にはその正体が分かっていただろうに。そ
れに関してはアレルヤにも良く分からないらしい。とにかく言われるままポッドに入れ、少しするとそ
のポッドは人気の無いひっそりとした場所へ移されていたらしい。その判断は正しく、刹那は少し時間
がたった時、猫の姿に戻ってしまったのだから。


「良かった、刹那が助かって」
心からそう思う。その時だ。
「どうだ、様子は」
やって来たのはライルの上司であるカティ・マネキン。ピシと背筋を伸ばして迎えるライルを一瞥した
後、ポッドの中を覗き込んだ。
「後少しで此処から出れそうだな」
「はい、有難うございます。すみません、訊きたい事が・・・・」
「何だ」
「何故刹那を迅速に治療ポッドに入れてくれたのでしょうか?いくら人間形態とはいえ、名前で貴女に
 はすぐ正体が分かったと思うのですが」
「なんだ、そんな事か」
カティは1つ溜息をつくと、珍しくニヤリと笑った。
「ウチにもいる。犬のような猫人族がな」
「え?」
つまりカティには最初から刹那の正体など、分かり切っていたのだ。だからこそ、ライルがミッション
直前に連れて来たアレルヤとハレルヤも素直に参加させたのだろう。それにしても意外だった、堅物と
評判の彼女がファンタジー極まりない猫人族を傍に置いているなど。
「大事にしろ、ライル」
ぽん、と肩を叩いてカティは退出していった。後には眠る刹那と呆然としたライルのみが部屋に残され
たのだった。


「良かった、無事で」
「助かった、アレルヤ」
「いや、僕も相当無茶したからね。刹那に負担が行っていないか心配だったんだ」
「大丈夫だ」
「そう・・・・・で、願いは叶ったようだね、刹那?」
にこりと笑うアレルヤの前にはめでたく18歳を迎えて自由に変身できるようになった刹那。さっそく
人間形態でやって来たらしい。その横にはぴたりと寄り添うライルの姿。その雰囲気だけで、2人の仲
が進展したのが分かる。こくん、とどこか柔らかい表情で頷く弟の姿にアレルヤは微笑んだ。
「俺からも礼を言うよ、アレルヤ」
実は刹那への問い掛けは小声でされた為、ライルは気がつかなかったようだ。
「いいえ、僕は単に弟を助けたかっただけですよ」
「でも結果的には俺も助かったし・・・・」
いえいえ、とどこまでも謙虚にアレルヤは首を横に振った。
「とにかく、刹那をお願いしますね」
「ああ」
頬が赤くなったという事は、アレルヤの意図を性格に感じ取ったからだろう。短く返事をしてライルは
ソッポを向いた。


「んだぁ、結局突っ込んだのか刹那」
「ああ」
「何、恐ろしい会話を平然と交わしてんだお前らっ!」
「事実を確認しただけだろーが」
「そうだな」
「だとしてもあけすけに言うな!」
アレルヤと違ってハレルヤは直球な男である。それはこの場合でも健在であった。が、その直球を受け
止めてケロリと肯定する刹那も凄いと思う。慣れとは恐ろしいものですね。赤くなって喚くライルを刹
那は不思議そうに、ハレルヤは面白そうに見る。これから面白くなってきそうだ、とハレルヤは心の中
で思う。


「初めまして、姉のマリナです」
最後に刹那が紹介したのがマリナだった。マリナの挨拶にライルは答を返さなかった。嫌な予感がして
刹那がライルの方を向くと、予想通り顔を赤くしてポカーンとしている表情がそこにあった。
(やはりな)
姉に会った者は誰もが同じ反応をするのである。それは絶世の美女と猫人族の中でも名高い存在だから。
刹那や兄2人は贅沢にも絶世の美女を見慣れている為なんとも思わないのだが、やはり初対面のライル
から見たら眩しい存在なのだろう。その反応は仕方がないとはいえ、やはり面白くない。脇を小突くと
はっと我に返ったらしい。
「あ・・・・すみません。初めましてライル・ディランディといいます」
「弟達がお世話になったそうですね、お礼を申し上げます」
「いえ・・・・あの・・・・・」
此処にハレルヤがいたならばきっと世話したのはこいつじゃなくて、俺達だとぐらい言いそうだ。マリ
ナはにっこりと笑う。ボンッという音をたてて・・・・と言っても過言じゃないくらい唐突に更に顔を赤
くするライル。
「いでぇ!」
刹那が思いっきりライルの足を踵で踏みつけたのだ。
「なにすんだ、せつなぁ〜!!!」
「そうよ、刹那。パートナーは大事にしなさいね」
嫉妬から思わず出た行動ではあったが、刹那もマリナには弱い。渋々、うんと頷いた。


挨拶回りの帰途、ライルの端末が鳴った。出ればブラコン兄のニールからのメール。
「そういえばニールはいつ帰って来るんだ?」
「ああ・・・あと4日だな」
「そうか。で、いつ俺の事を正式に紹介してくれるんだ?」
刹那にしてみれば自分の親族は全部紹介し終わっているのだ。ニールは猫の刹那しか知らないので、や
はりきちんと挨拶すべきだと思う。しかし
「いや、兄さんが自力で気がつくまでそっとしておいてやろうと思っている」
ライルはそう言った。
「お前は本当にニール相手には秘密主義だな」
溜息と共にそう言ってやるが、ライルはどこ吹く風。
「そうでもねぇさ」
「そうか?仕事は秘密じゃないか」
「あ、秘密にしてんのは刹那の他にはそれだけだろ?だから秘密主義じゃない」
それが最大の秘密だと思うが、ここで言い合いをするつもりはない。と、ライルがすり、と刹那に甘え
るように擦り寄って来る。
「まったく、俺よりもお前の方が猫のようだな」
刹那の口元が緩んだ。



★お疲れさまでした。吊り橋効果にてめでたく刹ライとなりましたよ!その過程を書けと言われそうで  すが、色々考えていたら恥ずかしくって床をゴロゴロしたくなったのでとても書けませんでした。え  え、小心者ですので。カティのトコにいる猫人族は、まぁお分かりですね。 戻る