ねことあにき






 
ねこねこ こねこ5


刹那はゆったりとソファでくつろいでいた。ニールとライルはそれぞれの仕事に行っていて此処にはい
ない。刹那はくつろぎながら考える。最初の目標としていたライルの信頼は大分貰えていると思う。そ
ろそろ次の段階に進みたいと思うのだが、このままでも良いかと思う自分がいる。ライルの危険な『仕
事』を手伝うようになってから、彼の苦労をまじまじと見て来た。だから彼の・・・ライルの苦労を少
しでも助けられたら、という気持ちの方が強くなっているのだ。ライルの事はずっと好きなままだが。


「ただいま〜」
呑気な声で帰ってきたのはニール・ディランディだった。刹那はにゃ〜んと返事をしてソファから降り
ニールを出迎える。
「お、刹那。ただいま」
嬉しそうに刹那に話しかけながら、ニールは自分の部屋に一旦入って行く。着替えてからリビングに出
てきて、刹那専用のお皿にキャットフードを盛り付けた。ライルは刹那が「猫人族」であると知ってか
らキャットフードを食べさせなくなった。刹那は別にコレでも構わないのだが、なんというか人でもあ
ると思うと食べさせたくないんだそうだ。ニールは勿論それを知らないので、ライルがいない時はこう
してキャットフードを出してくるのだ。ニール自身はライルの『仕事』があって彼の帰りが遅い時は、
常に外で食べてくる。なので今日も刹那が食べているのをソファから満足げに見つめていた。この双子
はどちらも寂しがりやな感があるが、ニールの方が寂しがり屋な気がする。ライルは本人いわく、薄情
らしい。

食べ終わってから刹那はニールの傍にピタリと寄り添って座った。ライルは時々『仕事』の時、刹那を
連れて行かない。それは同じタイミングで刹那とライルが帰って来ないと、兄に気が付かれるからだ。
刹那から見てもライルは本当に本来の『仕事』よりもニールにばれない為の工作に気を使っていると思
う。・・・・・・それこそ異常な程に。そこまでしなくても、と言った事もあるがライルに苦笑されて
終わっていた。実は今日もライルは『仕事』でいない。本当は刹那もついて行きたかったのだが、いつ
もライルの帰宅が遅い時に刹那も家に帰るのが遅ければ兄にバレるとライルに言われて3回に1回はこ
うやってニールと共にライルの帰宅を待っている。だが刹那の心の中は心配だらけだった。ライルが腕
ききなのは理解しているが、それでも万が一という事がある。もしなにか予想外の事態に遭遇していた
ら?怪我でも負っていたら?そう考えると正直落ち着いてはいられない。そんな思いに耽っている時だ
った。黙って刹那の背中を撫でていたニールがぽつり、と洩らしたのだ。
「なぁ刹那。ライルは俺の知らない処で危険な事してないか?」
ぎくり、と体を竦ませたがほとんど1人言に近かったらしく、ニールは気が付いたようには見えなかっ
た。首を持ち上げてニールを見上げる。ニールの顔は正面のTVに向けられているが、その瞳にはTV
の内容が映っているとは思えなかった。
「あいつ時々、怪我してるんだよな。隠して平気なフリしてっけど、どこか動きがぎこちなかったりさ。
 消毒液の匂いをさせてた事もあったよ」
そう呟きながらひょい、と自分の顔の前に刹那を上げる。
「お前、なにか知ってるのか?」
刹那は答えなかった。答える訳にはいかない。黙ってニールの目を見つめる事しかできなかった。
「・・・・やっぱ、なにも知らない?」
にゃ〜ん、と刹那は鳴いてみせた。刹那が肯定する時にしか返事をしない事はニールも知っている。す
ると困ったように笑った。
「そうだよな、猫のお前が知るわきゃないよな・・・・・」
刹那が「猫人族」である事を知っているのはライルだけだ。ニールは知らなくても良い事だから。ニー
ルは完全に刹那を「猫」だと思っている。まぁ、この姿で人間でもあるなんて思う訳もないだろう。力
無くニールは刹那を元の場所に戻したが、それ以上何かを訊いてくる事は無かった。だが刹那はライル
の異常なまでの警戒感を理解した。あれだけ気を使っているのに、ニールはなんとなくではあるがライ
ルに対して不安感を持っているのだ。それだけでも舌を巻く。ライルが帰ってきたら報告してやらねば
と刹那は思う。


結局夜遅くに『仕事』から帰って来たライルに、刹那はにゃーにゃー鳴きながらまとわりついた。ベッ
トに上がったライルに、端末を出すようジェスチャーをする。ライルは疲れているだろうに刹那の様子
になにかしらのものを感じたのだろう。さっさと端末を刹那の前に置く。刹那は器用にその端末のキー
を押して文章を作って行った。ニールが、ライルの『仕事』に関してなんらかの疑いを持っているとい
う事を伝える。その画面をライルはじっと見つめていた。やがて苦笑を浮かべる。
「ありがと刹那。やっぱ兄さんは侮れないなぁ・・・。消毒液の匂いとかも薄いやつにしてたりしてる
 んだけど」
カチカチと刹那は再度端末に文字を入力する。
「俺が一緒の時には怪我をするようなものはなかったと思うが?」
読み上げてからライルは刹那の背中を撫でた。
「うーん。時々はドンパチせざるを得ない時もあるんだよ。パートナーがドジ踏んだ時には早急に助け
 てやんないとマズイしな。つかそんな回数があったわけじゃねーんだけど」
つまりその少ない回数でニールはなにかしらを嗅ぎ取ったわけだ。とはいえニールは元々勘が良いのだ
が、対象がライルになるとその勘の良さが異常に上がるという事は刹那も良く知っている。いうなれば
ブラコン、という奴だ。ライルも割とブラコンではあるのだが。
「成程、つまり俺はお前にとっては優秀なパートナーというわけだな?」
改めてそう打ちこめば
「ああ、確かにその通りだな」
そう言って刹那を持ち上げ、その唇にちゅ、とキスを落とした。


★兄さん、ライルに不安を持つの巻。家族がもうライルしかいないというのもありますが、実はある事  件があって更にライルが危ない事になっていないか失わないか、心配なのです。それを良く分かって  いるからこそ、ライルも綿密にバレないようにしているのです。どちらも相手が大事で思いやってい  るから。 戻る