ねことへんなやつ






 
ねこねこ こねこ6


上司であるカティ・マネキンに呼び出されたライルは、驚くぐらいに肩を落として帰って来た。仕事場
に来ていた刹那は、その様子に目を見張った。力無く座ったライルの膝に飛び乗り、にゃ〜んと一声。
それだけでライルには通じるようになっていた。案の定ライルは困った顔をして、のろのろと刹那の背
に手を伸ばして、さする。
「刹那、ちょっと個人的に困った事になったんだよ。気が進まねぇ・・・」
ライルがこんな事を言うのは珍しい。一体、何があったんだと見つめる。
「実はさ、今度ユニオン領から来る『フラッグファイター』チームにレンタルされる事になったんだ」
ライルが案件によっては他の陣営から派遣されてくるチームと行動をする事は多々ある。だがこんな弱
気な事は言った事は無い。
「優秀な奴らだよ、それは本当だ。でもなぁ・・・ノリについて行けないんだよ。お前もその内分かる
 と思うけどさ」

だって、お前もメンバーに入ってたし。

猫を正式メンバーに連ねるというのも変な話ではあるが、ライルが刹那を連れて任務についているとい
うのは、ライルの周囲では有名だった。
「はぁ・・・・・嫌だなぁ・・・・・」
溜息をつくライルを、刹那は心配げに見上げた。


刹那と一緒なのでパブに入って酒と食事というわけにもいかないので、ライルは適当にスーパーで総菜
を買って帰る。
「お帰り〜」
出迎えたのは双子の兄。
「ただいま」
「なんだ、外で食べて来なかったのか?」
「うん、刹那がお迎えに来てくれてたからさ、パブとか入れないだろ?」
「そりゃそうだ」
「兄さんは?」
「俺はもう外で済ませた」
一通り会話した後、総菜をレンジに放りこんでからライルは自分の部屋に入って行く。刹那はぴょい、
とソファに飛び上がる。弾力が刹那の好みにぴったり合うお気に入りのソファーだった。ニールは冷蔵
庫を開けて何かを取り出している。どうもビールらしい。因みに兄弟共に結構強い。温められた総菜が
良い匂いを発し出した頃、ライルはラフな格好で部屋から出て来た。総菜をソファー前のテーブルに置
いて、刹那の乗ったソファーに座る。刹那は当然のようにライルの膝に座る。そこは1番のお気に入り
の特等席。たまにライルが総菜をこぼして不愉快な目にあう事もあるが、おおむね刹那は満足だった。
「なーんかうかない顔してるなぁ・・・・。どうした?」
ビールの入ったグラスをライルに手渡しながらニールが尋ねて来る。ライルはサンキュ、と言ってそれ
を受け取り口に運ぶ。ニールも同じビールの入ったグラスを持ったまま、ライルの隣に座った。
「兄さん覚えてる?前にユニオンから来た連中の事」
そう切り出して刹那をギックリとさせた。しかしニールは苦笑を浮かべたのみ。
「ああ・・・・確かプレゼンが成功した途端に押し倒されたってやつ?」

なんですと?

刹那の耳がピーーーンととがった。そんなうらやま・・・・いやいや不埒な事を!?しかし満月になる
度に自分がライルの上にのしかかってちゅぅを連発するのは知らん顔である。というかそういう特権は
自分だけだと思っていたのだ。これはライバル出現?
「いやあれ、押し倒されたっていうよりは感激の抱擁をしようとして勢いがつきすぎて、俺が吹っ飛ん
 だ・・・て感じだったなー。一応さ、これでも普通よりは鍛えてるつもりだったから微妙にショック
 だったよな」
「んでそいつ、ひょっとしてまた来る訳?」
「正解。それ以上に普通が変なノリだから、ついて行くのも一苦労っつーかさ・・・」
「大丈夫だ、もしそいつが変な真似したら俺が狙い撃ってやるから」
とにこやかに微笑んだニールの目は笑っていなかった。どちらもブラコンではあるが、度はニールの方
が凄まじい。ほっておいたら本当に狙撃しに来るかもしれない。
「兄さんが言うと冗談に聞こえないよ」
「いんや、大マジ」
やっぱり顔は笑っているが、目は笑ってはいなかった。ニールがこれほどまでに怖いと感じた事は無か
ったと刹那はシミジミ思う。これでは自分がライルを嫁さんに迎えるのは苦労がありそうだ、とも。


そうして運命の時がやってきた。ライルは招集されて渋々立ち上がる。周りの同僚達が口々に「ファイ
ト!」とか言っていた。どうも変なノリの奴らは有名であるらしい。


「やあ!久し振りだ!ジーン1!」
無駄に声を良く響かせる人物。部屋にいたのは上司のカティ・マネキンと(なんだか面白がっているよ
うに見える)服装は地味だがやたらと金髪碧眼で派手な男が1人。その後ろには妙に細長い体躯と細い
ポニーテールを揺らす眼鏡の男、横には神経質そうなも一人眼鏡の男と赤毛のドレットヘアの男がいた。
「はぁ・・・・お久し振りで」
答えるライルの声は既に逃げ腰だった。カティがくっくと笑っている。
「ほぅ、これが噂の優秀なパートナーだな」
言うが早いがライルの腕に抱かれていた刹那を神がかった早さでひょい、と両手で持ち上げる。あまり
の事に刹那もライルも反応ができない。
「成程、賢そうな猫だな」
その声に刹那は我に返った。冗談じゃない、刹那は元々触られる事が好きではない。刹那を無条件で触
れられるのはライルとニールだけだ。最近は妙に押されてライルの同僚のクリスティナに撫で撫でされ
る事も多くなってきたが。刹那は牙を剥いた。シャーッ!という威嚇をした後、その無礼な男の顔めが
けて前足を振り上げ爪を出す。正にその爪の出た前足を降ろそうとした時だった。
「止めろ!刹那!」
ライルの鋭い声に、瞬時に爪をひっこめた。だが勢いづいた前足は止まらない。結果足先でその男の頬
を撫でる事になってしまう。
「これは失礼。なにか気に障った事をしてしまったのかな?私は」
いけしゃあしゃあとほざくその男に、ポニーテールの男がのんびりと声をかける。
「君がいきなり抱っこしたからじゃないかな?」
正解。
「そうか、それはすまなかったな」
あっけなく刹那はライルに戻される。ライルが『苦手』とする意味が少しだけ分かった気がする。この
前触れも無い突拍子もない行動は確かに度肝を抜かれるだろう。事実刹那は度肝を抜かれた。悔しい。
そしてライルの腕の中でほっとした後、その男のドアップが迫って尻尾が固まった。
「私はグラハム・エーカーと言う。宜しく、猫君」
自己紹介を終えた後、くるりと仲間の方を見て「猫君に自己紹介をしたまえ」とか言い出した。流石に
渋る彼らは「今回の編成にはこの猫君も含まれているからな」という催促の言葉にのろのろと神経質そ
うな男が歩み寄る。
「俺はハワード・メイスンだ、宜しく」
「俺はダリル・ダッジだ」
「僕はビリー・カタギリだよ。グラハムのやんちゃは許してやってね」

許したくなかった。

今回の案件は御約束の麻薬関係だった。しかも投薬して多大なストレスを与えると、意のままに動くと
いうなかなかに厄介なシロモノらしい。ユニオン領から端を喫したものではあるが、どうもその麻薬の
製造がこの国で行われているらしい。真剣な打ち合わせの後、ライルは「親睦会」に引きずっていかれ
たのだった。


先に刹那が家に帰ると、ニールが珍しく水を飲んでいた。いつもは軽くビールぐらいを飲むのであるが。
きょとんとして見上げると、刹那の目線に気がついたのだろう。苦笑する。
「多分ライルの奴、現実逃避を図って酒をがぶ飲みすると思うんだよ。だからあいつから連絡来たら、
 お迎えしてやんなきゃならんからな」
その予想は見事に的中。ライルから「酔った」と1言メールが来たのである。そのメールを受信した途
端ニールはいそいそとジャケットを羽織り刹那に「お留守番頼むな」と言い残し、どこか嬉しそうに出
て行った。



★麻薬の元ネタはバナナ魚です。あれ色々カルチャーショックな漫画じゃった・・・。クリスは割と好  きなキャラです。なのでそれなりに扱いは良い(笑) 戻る