ねことねこのきょうだい






 
ねこねこ こねこ7


グラハム率いる『フラッグファイター』と出会ってからというもの、彼の行動に度肝を抜かれる事はそ
れなりにあったが、打ち合わせは真剣に行われていた。そこから見える今回のミッションの規模の大き
さに、刹那は驚かされる。ユニオン領から派遣されてきているのは彼らだけではない。相当の人数がこ
のミッションに関わって来ているのである。自分達もその大掛かりなミッションの1部に過ぎない。流
石に刹那も不安を覚えていた。


満月の夜、人間に変身した刹那はいつも通りライルにちぅをしようとして圧し掛かる。顔中にちぅはさ
れるものの、それ以上の被害は無いのでライルは刹那の好きにさせてくれるようになっていた。いつも
は苦笑を浮かべているのに、この時は真剣な顔つきで刹那を見て口を開いた。
「刹那さぁ・・・今回のミッションは別に抜けても良いぞ?」
「何故だ」
「俺もこの仕事長いけどさ、今回みたいな大掛かりなのは初めてなんだ。お前がビビるのも無理はない。
 だから・・・・」
「嫌だ」
「刹那」
「俺は降りる気はない」
言い切るとライルは非常に複雑そうに顔を歪めた。
「死ぬかもしれないんだぞ?」
「死なないから良い」
一瞬ライルが絶句したが何か言おうとした唇を刹那は自分の唇で遮った。


そんな事を考えていながら歩いていたからだろうか。いつもならすぐ分かる気配を見逃した。
ドコォ!
刹那の身体は気持ち良いぐらい綺麗に吹っ飛んだ。しかしそこはやはり猫人族。空中で体勢を立て直し
て、無事に着地する。目の前には予想通りの猫人族が呆れた顔で立っていた。
「んだぁ?まともに食らいやがって」
面白くなさそうに言うその黒い猫の瞳は金色。
刹那の兄その2、ハレルヤだ。
「大丈夫かい!?刹那!」
慌てて走って来る黒猫の瞳は銀色。
刹那の兄その1、アレルヤだ。刹那をハレルヤから庇うように立ったアレルヤはハレルヤに厳しい目を
向ける。
「ハレルヤ!刹那が着地に成功したから良かったものの、壁に激突してたら大怪我するよ!」
ふん、と鼻を鳴らしてハレルヤがそっぽを向く。
「良い。油断してた俺が悪い」
ハレルヤにしてみれば挨拶のようなものなのだ。刹那もいつもなら余裕でかわすのだが、大きなミッシ
ョンの事を考えてぼぅっとしていた。それはハレルヤにも予想外だっただろう。刹那が吹っ飛んだ瞬間
見えたハレルヤの顔は驚愕に歪んでいた。
「でも刹那・・・・・」
心配そうに覗きこむアレルヤに、刹那は頷いて見せた。アレルヤにしてもいつも刹那が余裕でかわして
いたから、まともに食らったのは予想外だったはずだ。そう思うと刹那は恥ずかしくなった。
「早く行こう。姉さんが待ってる」
なんのかんの言いながらこの場にいる3人は全員姉には弱い。此処でもめていつまでも姿を現さなかっ
たら彼女は悲しむだろう。それは誰も望んではいない。気がつくと刹那はアレルヤとハレルヤに挟まれ
ていた。彼らなりに何かあったら刹那を守る気でいるのだ。


「そんな危険な事をするというの、刹那?」
猫人族の集会場の片隅に固まる黒猫4匹は素晴らしく目立っていたが、当の本猫達は気がつかないよう
だった。特に姉のマリナは気が気ではない。可愛い大切な末っ子の刹那が、そんな大きなミッションに
参加するだなんて、心配しない方がおかしい。
「ライルもいるし、腕の立つ変態達(フラッグファイターの事らしい)もいる。心配はいらない」
「でも・・・・・」
それでも心配、とマリナは目を潤ませた。刹那は慌てるが、マリナを安心させる言葉が思いつかない。
「心配いらねーって、姉貴」
「でもハレルヤ・・・・」
「俺様が刹那について行ってやるよ。なら安心だろう?」
ハレルヤがそう答えればアレルヤも刹那もそしてマリナも固まった。
「なに言ってるの、ハレルヤ?貴方、笑えない冗談は止めて」
「大マジだぜ、姉貴?」
「しょうがないなぁ・・・・」
溜息つきつつまんざらでもない顔でアレルヤが言う。
「ハレルヤだけじゃ心配だからね。僕も行こう」
「アレルヤ!貴方まで!」
マリナが飛び上がらんばかりに驚くが、アレルヤはニッコリと笑った。その間、当の刹那は固まったま
まの状態を保っていた。
「だってハレルヤの暴走を止めれるのは姉さんか僕だけだもの。大丈夫、心配いらないよ。それに僕達
 はいざとなれば自由に人間形態にもなれる」
マリナはオロオロと弟達を見回す。
「有難いが、危険も大きい。その申し出は辞退させてもらう」
刹那の言葉が響く。刹那にしてももし兄達がこのミッションに参加して最悪死んでしまったら、立ち直
れない。姉もそうだが兄達にも生きる世界がある。刹那はライルを追いかけて飛び出して行ったのだ。
正直な話、刹那に覚悟はできていた。だがハンッとハレルヤに一蹴される。
「今日のお前みてーにボケてなんかねーぜ?大体そんな偉そうな口は俺様に1度でも勝ってから言うん
 だな!」
その言葉に刹那は詰まった。そう、刹那は産まれてこのかたハレルヤに勝ったためしが無い。アレルヤ
に勝った事はあるが、それはアレルヤが手を抜いてくれていたという事は知っていた。アレルヤは嘘が
本当に下手くそなのだ。そしてアレルヤとハレルヤは互角の勝負が出来る。つまり刹那よりも色々と強
いわけだ。
「貴方達・・・・・・」
マリナの悲しそうな声にアレルヤは困ったような顔をして微笑む。
「大丈夫、刹那は死なせないよ。そして僕もハレルヤも絶対に姉さんの処に帰って来るから」
アレルヤの言葉にハレルヤが頷く。こうなってしまえば兄達の意志は揺るがないだろう。特にアレルヤ
は。
「分かったわ・・・・。だけど必ず無事で帰って来てね」
流石は姉。弟達の決意を知ると、説得は無理と感じて譲歩してくれた。話は綺麗に纏まったわけだが、
刹那はずーーーーっと無視されっぱなし。刹那は溜息をつく。
「ま、コイツがお熱だっていう野郎もしっかりと品定めしてやっからさ!」
ハレルヤはどこか楽しそうだった。もう、とアレルヤが笑う。否定しない処を見るとアレルヤも彼・・
・・・ライルに興味深々なのだろう。
「ライルは見世物じゃない」
面白くなくてそう口答えをすれば、ハレルヤが上機嫌で笑った。


猫人族としての問題は解決したわけだが・・・・・・問題は

(ライル・・・・いや参加を認められれば良いけどな)

これが大問題の様な気がした。


★猫人族兄弟揃い踏みでございます。なんのかんの言っても、アレハレにしても刹那が心配なのです。  特にハレルヤは事が終わるまでじっと待っているのが苦手。待つぐらいなら進め!進め!の精神なの  です。アレルヤもそんな感じ。そして1番頑固なのです。 戻る