ねことぞうしょく






 
ねこねこ こねこ8


今日も今日とて大ミッションの為のミーティングやグラハムのとんでも発言で忙しかったライルは、疲
弊して家に帰って来た。
「ただいま〜」
いつもはゆったりとしている兄が、大急ぎで玄関に走って来る。
「大変だ!ライル!」
「どうしたんだよ、兄さん」
ニールは非常に慌てた風に、叫んだ。
「刹那が増殖した!」
と。
「は!?増殖?」
刹那が普通の猫では無い事は知っているが、増殖するとは聞いていない。兄の後ろについてリビングに
入ると、ソファの上で右から目の色が金・赤・銀のそっくりな黒猫が鎮座ましていたのである。流石に
これにはライルも驚いた。
「なにこれ、どーなってんの!?」
「俺が訊きたいわ!」
ライルの叫びにニールが叫び返す。人間達の大慌てを面白そうに見ている猫と、困惑しきりの猫と、ち
ょっと申し訳なさそうに見ている猫。刹那がふつーの猫ではない事は知っているが、増殖するとは聞い
てない。だがふと思ったのだ。
「ひょっとして・・・兄弟?」
そう呟けばなんと3匹同時に「にゃ〜ん」と鳴いた。見慣れぬ2匹はどうでもいいとして、刹那が鳴い
たという事は、ライルの呟きが事実であるという事だ。刹那が肯定の時にしか返事をしない事はニール
も知っている。まじまじと3匹を見てから、ふぅん?と首を傾げている。
(後でちゃんと説明してもらうからな、刹那!)
睨みつけると刹那は困惑したように、ライルから顔を背けた。


「んで?なんでこんな事になってるんだ刹那」
自室に猫トリオと共に入った後、ベットの上に座りジロリと睨むと心なしか小さくなる刹那に向かって
端末を差し出した。刹那が器用にそのキーボードを打とうとした時。
「まったく、細けぇ野郎だな」
蓮っ葉な言い方に驚いて声の方を見ると、そこには黒髪金目の長身の男の姿が。
「誰だ、テメエ」
「ハレルヤ様だ。今回面白い事に弟が首突っ込んでやがったんでな。参加してやったんだ」
「?なんの事だ?」
「どんぱちやろうってんだろ?混ぜろよ、俺様も」
「はぁ〜〜!?」
彼の言う弟とはやはり刹那に間違いないだろう。という事はこの不遜な男は猫人族という事だ。しかし
「あれ?猫人族って満月じゃないと変身できないんじゃなかったっけ?」
その言葉に目を丸くしたのはハレルヤの方だった。次の瞬間、ぶーっと吹き出す。
「残念だな!刹那から聞いてないのかよ!?俺達はある歳になったら自由に変身できんだよ」
そういえば最初の変身でそんな事を聞いていた気もする。が、あの時は気が動転していたんだし覚えて
なくても無理は無いだろうと思う。ライルが何か言おうとして口を開いた時だった。
「もう駄目だよハレルヤ。ライルさんは普通の人なんだから、猫人族の事分からなくったって仕方ない
 だろう?」
気がつけばハレルヤと同じ容姿の男の姿。違うのは瞳の色が優しい銀色だという事。アレルヤはライル
に向いて、ペコリと頭を下げた。
「あ、僕アレルヤと言います。弟が失礼しました。今回、無理言って申し訳ないんですが、僕らも今度
 の作戦に参加させて欲しいんです」
「・・・・・・なんで」
「やはり刹那が心配なんです。僕らにとって大切な弟ですし、止めるように説得したんですがどうして
 もあなたの傍を離れたくないらしく、聞いてもらえなかったので」
ちらりと刹那を見るとあさっての方向を向いて沈黙している。アレルヤという猫人族の言ってる事が正
しいという事は分かった。
「だけど作戦に参加できるかどうかは俺の一存じゃ決められないぞ」
刹那を連れて行っているせいで最近職場ではスナイパーではなく『猫使い』という不本意な呼ばれ方を
されているのである。ここであと2匹作戦に加えてくれと言ったところで、上司であるカティ・マネキ
ンも流石にダメ出しをしてくるだろう。まぁ黒猫3匹勢揃いで職場に行けば、女性陣には喜ばれるだろ
うが。クリスティナとか。彼女は刹那の威嚇もなんのその、ちょっかいを出し続けとうとう『刹那への
お触り権』(本人談)を獲得した恐るべき女性なのだ。クリスティナはライルから見ても可愛い女性な
ので彼女に頬ずりされているのをちょっとだけ羨ましいと思った事もある。・・・・ちょっとだけね。
本当は長女のマリナがこの猫人族兄弟にはいるのだがライルは知らないし、知る必要もない。刹那との
仲がお進みあそばせば「ご挨拶に伺う」為にライルの前に現れるかもしれないが。
「そこをなんとか」
「け、なっさけねーの。猫2匹加える事もできないんかよ!?」
「あ・の・な・・・普通こういう作戦行動に犬を使う事はあっても、猫は使わんだろうが」
至極当然の事を言ってライルが生意気な口をきくハレルヤに反論する。
「あ、僕らは人間→猫形態は自由に出来ますので、臨機応変に対応できますよ」
にこやかに笑いながら、アレルヤはハレルヤ以上に押しが強かった。
「そうそう、まーだ人形態になれない奴よりも役に立つと思うぜ?」
刹那がむっとするのが分かった。
「おっと」
「あ」
ハレルヤとアレルヤは同時にそう呟いて、ぱっと猫に戻る。しかもハレルヤは事態について行けなくて
ぽかーんとしていたライルの胸辺りに思いっきり体当たりを敢行。不意をつかれたのでライルは成す術
もなくベットに仰向けに倒れ込んだ。その瞬間、刹那がハレルヤに飛びかかる。その時。
「ライル〜?入るぞ?」
ニールの声がして部屋に入って来ると「あれ?」と言って周囲を見回す。
「ど・・・どうしたんだい?兄さん」
ハレルヤと刹那が胸の上にいるので圧迫感に襲われたライルが、息も絶え絶えに尋ねるとニールは首を
捻った。
「いや、お前の部屋から誰かかの声が聞こえたからさ・・・・。でも誰もいないな。俺の勘違いか?」
多分ハレルヤとアレルヤとの会話が聞こえてしまったのだろう。成程、その気配を感じて彼らは猫に戻
ったわけだ。しかし・・・
「重い!どけって!」
わたわたするとニールがハレルヤと刹那をどかしてくれる。
「ライルの声がちょっと慌てたようだったから心配したんだが、なんだ猫に押し倒されたのか」
「うん。刹那とこの猫が暴れてさ・・・・・」
ハレルヤに至ってはライルが説明しやすいようにしてくれていたようだ。
「ごめん、兄さん。明日から大会で暫く海外なのに」
「良いって」
「あー、だけどちゃんと優勝して来いよ。期待してるからな」
「りょーかい」
じゃあ、俺寝るな?と言い残してニールは退場。ライルも刹那も思わず溜息をつくが、刹那の兄達は澄
ました顔をしていた。なかなかに策士であり、機転もききそうだ。
「へぇ〜、お前の兄貴は明日から『遠征』かよ?」
あっさりと再び人間形態になったハレルヤが含みを持たせて、ライルに笑いかける。ライルはそれに対
してニヤリ、と笑っただけだった。それにしても猫3匹引き連れて(カティ・マネキンが許すならでは
あるが)ミッション敢行かとライルは天を仰いだ。
「ホント、俺『猫使い』って職業に書かなきゃいけない日も近いかも」
ライルはなにか諦めと共に、覚悟を決めたのだった。


そして


あっさり上司のカティ・マネキンが猫2匹の増員を許したので、ライルは人生最大の驚きに包まれたの
だった。


★猫3匹揃い踏み。きっと目の色が違うだけの黒猫が3匹揃ったら壮観だと思います。今回は珍しく、  アレハレが頑張っております。 戻る