反撃と終末






 
ヴァンパイア11


始祖殺害犯であるライルが死亡したという発表がなされてから約1ヶ月後、アレハンドロは盛大に始祖
の追悼式を敢行した。この1ヶ月の間、ライルの生存の可能性を考え密かに調査をしていたのだが、彼
の死亡は間違いないという結論が下されたからだ。この追悼式で指揮を取り、他の候補者達に自分の存
在をアピールするには良い機会だった。すでに始祖殺害犯を追いかけ処罰したアレハンドロの手腕は高
く評価されていた。この時、彼は自らが始祖になり順風な人生を送る事を確信していただろう。
「さて、我らが敬愛する始祖エイフマンが殺害され、その実行犯であるライルが死という処罰を受けて
 から1ヶ月が過ぎようとしています。始祖を殺害するという例の無い惨い事件が起きてから、我々は
 悲しみに満ちていました。しかし我々は進んで行かねばなりません。始祖の為に、そして我々ヴァン
 パイアの世界の為に」
アレハンドロの自信に満ちた演説は、参加者(主に聖域に暮らす者達)の耳に心地よく響いて行く。彼
の最大の武器は魔術ではなく、話術だった。盛大な拍手が鳴り響き、アレハンドロは笑った。しかし、
そこで彼にとっては思いもよらぬハプニングが起こった。身の破滅を齎すハプニングを。

「しかし・・・・真実を知らねばならないだろう、アレハンドロ閣下」
舞台の端から現れたのは、セルゲイ教官とカティ教官だった。突然の割り込みに、アレハンドロの眉が
不機嫌に歪んだ。
「どういう事ですか、セルゲイ教官?」
「我々は真実を知っている。そしてそれを今日、皆にも知ってもらう為に此処に来た。入ってくれ」
恐る恐るという感じで同じく舞台の端から現れた者に、驚きの声が上がる。死んだはずの始祖殺害犯で
あるライルが使い魔の刹那と共に、現れたからだ。アレハンドロの顔が驚愕に歪む。
「嘘だ、死んだと聞いている!『天命のタブレット』も私の手に!」
そう叫んでかざした『天命のタブレット』は、さらさらとまるで砂のように崩れておちた。
「我々が作った紛い物だよ、アレハンドロ閣下。そして上手く始末したはずのライルも、我々の作った
 紛い物・・・・という事だ」
カティ教官がニヤリと笑って、勝ち誇る。だが此処で一気に落ちるほど、アレハンドロは愚かではなか
った。
「成程、あなた方は殺害犯を隠匿し、我々を欺いたという事ですか。それは酷い裏切りではありません
 かね?」
「それが・・・・そうでもないんだ」
のんびりとした声が響く。顔を出したのは始祖エイフマンの助手でもあったビリーだった。流石にアレ
ハンドロの顔色が悪くなる。
「ええと、どうも始祖エイフマンの助手のビリーです。僕がこの件で最初に不審に思ったのは、警備兵
 達の用意周到ぶりでした。僕が始祖が死んでいる処を見たのは、殺害後ほとんど直ぐでした。なのに
 誰も呼んでいないのに、警備兵達はなだれ込んできたのです。しかも明らかにライルを狙って魔術を
 発動させている者もいた。本来ならその現場に踏み込んでも、一瞬は茫然とするはずなんです」
そう言って刹那を指した。
「彼のようにね」
ざわ、と会場がざわめく。刹那は自らの失態を言われていると思ったのか、少しふてくされてしまった。
ライルは苦笑し、ぽんぽんと刹那の頭を軽く叩く。むっとした表情のまま、刹那はライルに身を寄せて
くる。勿論、周囲に目を配りながらだ。ライルは不思議な気持ちで、教官達を見る。話題の中心は紛れ
もなく自分なのだが、真相は実は未だに話してもらってはいない。

ふと、兄の事を思い出した。ライルがなんとか傷を癒し、目を覚ますと兄は安心したように笑って人間
界に帰って行った。
「今度はゆっくりと、話そうライル。沢山、話したい事あるからさ」
「うん、俺もそうしたい」
「んじゃ、またな」
「うん。また」
今回の騒動では両親は元より、兄にも大分迷惑をかけてしまった。そのお詫びも兼ねて、兄を訪問する
事にしていた。そしてその時を楽しみにしている。

舞台ではまだビリーや教官達とアレハンドロの口論が続いていた。流石に話術に長けた男である。これ
だけの疑念を突き付けられても、アレハンドロはとぼけている。正直、ライルは感心した。埒が明かな
いと思ったのだろう、カティ教官があのハロとかいう球体を出してきた。ビリーがそのハロに説明をつ
ける。
「これは機械に興味を持たれていた始祖が、作ったものです。名前はハロ」
「ハロ、ハロ」
ハロが可愛らしく自己紹介をしている。始祖エイフマンが人間界で流行っている機械というものに興味
を持ち、なにかと発明しているのは有名な話だ。
「そして今回の事件の真実を、みなさんに教えてくれますよ」
ビリーはそう言って、カティ教官とハロに合図を送った。
「ハロ」
「リョーカイ、リョーカイ」
ハロの目(といって良いのだろうか)からピカリと光が発せられて、丁度天井がスクリーンのようにな
った。ライルはドクンと心臓が高まった。自分でも知らない事実が、披露されようとしている。すり寄
っている刹那の身体を、無意識に抱きしめた。刹那も抱き返してくる。


映された場面はライルも覚えている。始祖に呼ばれて話しだした時だった。ヴィ・・・・・ンという耳
に不快な音が聞こえた後、始祖とライルは赤い膜に覆われたような状態になった。その途端、両者共に
動きを止めたのだ。
違う。
止まったのは時間だ。
(時間停止!?)
それはかつて誰も成し遂げる事の出来なかった、時間そのものを停止させる魔術。場面は次に進んでい
く。赤い髪の獰猛そうな人間の男が入って来て、ニヤリと笑うと始祖の前に回りナイフを突き立てたの
だ。会場からも悲鳴が上がった。そのまま男は出て行ってしまう。膜が薄くなり動けるようになったら
しい始祖が、血を吹き出しながらまだ術の解けないライルに近寄り自分の身体から『天命のタブレット』
をはぎ取り、ライルの身体に宿したのだ。
(始祖・・・・)
『天命のタブレット』をアレハンドロに奪われない為に、始祖はライルに託したのだ。そして倒れ込む。
その途端、刹那が飛びこんできた。唖然として目の前の惨状を見ている。そこへビリーが、そして警備
兵がなだれ込んできて、刹那はライルを抱えて飛びだした。


「ご覧になられましたね、皆さん。これが始祖暗殺の真相です」
カティ教官が厳かに言う。会場は静まり返っている。
「だとしても、それを私が指示したという証拠はありませんよ」
アレハンドロが若干顔を引きつらせながら、反論してくる。確かに実行犯がアレハンドロであれば証拠
になるが、実際始祖を殺したのは見も知らない男だ。しかしカティ教官もセルゲイ教官も動じなかった。
「証拠はあります」
またしても違う声がした。今度は女の声。彼女は舞台ではなく舞台前に現れた。
「スメラギ・・・・・」
信じられないようにアレハンドロが呟く。
「私は今まで彼の城に閉じ込められてきましたが、先ほど教官達によって救出されました。それから」
ぽう、と光の珠が彼女の手に浮かび上がる。珠の中に浮かび上がるのは1本のナイフだった。
「これはアレハンドロ閣下の家に伝わる、ヴァンパイア殺しのナイフですね?」
アレハンドロが息をつめた。スメラギはその珠をぽい、と近くにいたヴァンパイアに投げた。
「どうです?誰の気配がしますか?」
周囲のヴァンパイア達も寄って来て、そのナイフを凝視する。
「始祖の気配だ」
「ああ・・・・間違いない」
「じゃあ・・・本当に?」
「う、嘘だ!それは盗まれたもので・・・っ!」
うろたえて叫ぶアレハンドロに、スメラギは笑った。
「そうですか?随分と厳重に保管してありましたよ?・・・誰にも見つからないように、厳重に」
ヴァンパイア達の疑いの目が、アレハンドロに突き刺さる。先程まで絶頂にいた彼は、たやすくそこか
ら引きづり下ろされた。
「なら、話はこちらで聞こう。アレハンドロ」
セルゲイ教官に促され、がっくりと肩を落としたアレハンドロであったが・・・。

パン

炸裂音がしてアレハンドロは、その場に倒れ伏した。その額には穴があき、そこから血が滂沱のように
吹き出していた。唖然とする中、刹那は見た。始祖を殺害した男が、いやらしい笑みを浮かべて銃を持
ち挙げて笑うのを。刹那と目が合うと、楽しそうに笑う。背筋に悪寒がはしった。が、そのまま男は踵
をかえしていなくなる。全て一瞬の間だった。


それから・・・・・・・
『天命のタブレット』を身に宿しているとはいえ、ライルは始祖になる事を断固辞退した。教官達も世
間もうら若いライルを始祖にするのは良くない、と思っているのだろう。それにライルはハーフなのだ。
賛成派と反対派が小さな小競り合いを起こしたようだったが、それも直ぐに終結した。しばらくは聖域
全体でやっていこうという事になったからだ。ライルは両親に連絡を取り、ようやく会う事が出来た。
父も母も泣いてライルに縋った。そして刹那にも抱きついた。ライルを守ってくれて有難う、と。母な
どは感極まりすぎて、刹那を圧死させるところだった。勿論、それから兄にも連絡を取ったのだが、な
んでも気になる事があって、忙しいからまた今度という返事がきてがっかりする。しかしこれでもう、
なんの憂いもなく会えるのだから良いか、とライルは思った。


「よう、大将。あの男はお望み通り消して来たぜ」
あの赤い髪の男がそう報告する。
「ご苦労だったね」
薄い笑いを浮かべる少年に。その少年にまた別の少年が声をかける。
「とはいえ、せっかくヴァンパイア同士・・ひいてはヴァンパイアと人間達との戦争になるはずだった
 のに残念だね、リボンズ」
「まあ、良いさ。付け入る機会はいくらでもあるからね。リジェネ」
そう言って、リボンズと呼ばれた少年は、反対の方にいた少年と少女に語りかける。
「どうも情報漏えいがあったようなんだよ。一体、どこから流れたんだろうね。アニュー、ティエリア」
「さあ、知らないな」
「私も」
「そうかい」
そう言って更に彼は笑った。
「そういう事にしておこうか」
2人は不機嫌そうに眉を顰めた。
「でも彼の兄がなにやら嗅ぎまわっているようだけど?」
リジェネが再度、話しかける。
「問題ないさ、僕らの存在を暴露してもね」
「そうだね」
「そう、もう人間もヴァンパイアもこの世界には必要ないものなんだ。新たにこの世界に生み出された
 僕達・・・・・新たな知的生命体であるイノベイターがいるのだから」
残酷で無邪気な少年の言葉に、空気が震えた・・・・・・。



                                                               To Be Conteinue?


★お付き合い有難うございました!1ビットの頭ではこういう展開しかできませんでした・・・。え、  これで終わり?と思われるかもしれませんが、最初からこういう終わりにしようと思っていましたの  で・・・・・。ライルの件も解消したし。あと兄さんは単独では動いてません。スメラギさんとタッ  グを組んでます。あー、ライルがヴァンパイアだった必要性あるの?と思ってはいけません。いけま  せんとも! 戻る