はーるよ、来い




変態来襲・・おまけ


さて前回、スメラギが度肝を抜かれた悔しさにあっさりと金髪変態の強襲を押し返して、黒く笑ってい
た頃、刹那は必死でトレミー中を走り回っていた。無論、無意味に走っていたわけではない。金髪変態
のデリカシーの無い言葉によって、不機嫌オーラを隠しもせずに退室した刹那の春であるライル・ディ
ランディを探していたのである。きっといると決めつけていたライルの自室にも、ひょっとしたらと思
っていた刹那の自室にも、その姿は無かった。それからは展望室やらブリッジやらを探したのだが、当
の本人は見つからなかった。

あの金髪変態、覚えていろ。俺の春が過ぎ去ってしまったら、今度こそ容赦なく叩き落してくれるっ!

と心の中で叫んだ刹那は「話しあいによる解決」等、さっぱりと忘れていた。まぁ、人間そんなもんだ。
BGMに「探し物はなんですか〜」という過去日本で流行ったという曲が欲しい処だったが、必死で探
している時に「それより僕と踊りませんか〜」と言われたら心底腹がたつだろうと思われた。いや、絶
対そうだと思う。
ひょっとして「あの」クラウス・グラードの処へ家出ならぬ船出でもしたかと思ったが、小型艇が使わ
れた形跡は無かった。クラウス・グラードは嫌味な程良い奴なのだが、ライルが無条件で懐いている事
が、刹那には気に入らない。ついでにニールもクラウスは気に入らない。やっぱりライルが無条件に懐
いている事が、身震いするほど悔しいらしい。気の毒なのはクラウスだろうが。ライルの面倒を何気な
くせっせと見ていたのだから懐かれても当然なのだが、ホモとブラコンはそれが気に入らないという困
った状況だった。
(ライルッ!浮気は許さん!)
刹那の思い浮かべるライルの浮気相手は勿論、クラウスだ。が、あくまでイメージです。あくまでね。
そんなこんなで走りまわりつかれて廊下で立ち止まって息弾ませている時だった。
「あれ?刹那、何してんだ?そんなトコで」
能天気にも探している春がやって来た。さっきまでの不機嫌オーラは何処へやら、目を丸くしてキョト
ンとした表情で首を傾げている。流石の電波、刹那も言葉を失った。なんだ、なにがあったライル?と
思ったわけだが、それをストレートに言ってしまえばまたへそを曲げかねない。しかしライルは刹那の
言葉を待っているらしく、首を傾げたままのポーズで突っ立っている。
「・・・・・お前を探していたんだ」
カーブのような変化球をやっぱり投げれなかった刹那は、これまた違う方向でストレートを投げた。
「俺を?」
「ああ。あんな不機嫌オーラのまま退室されれば、気になるだろう?」
そう伝えれば困った顔をして、ぽりぽりと頭をかく。
「・・・悪かったよ」
一応、不機嫌オーラで周囲に迷惑をかけた自覚はあるらしい。
「しかしドコにいたんだ?自室にも俺の部屋にもいなかったし、色々探し回った」
「ああ・・・・悪い。自分でも不機嫌オーラが止められなくてさ、兄さんが1番とばっちりを食らって
 たから、一旦は自室に帰ったんだよ」
「いなかったぞ」
「うん。自室でじっとしてたら、更にイライラしたからちょっと気晴らしにトレミー内をうろうろして
 いたんだよ」
つまり両者共に常に動きまわっていた為に、出会えなかったという事だ。
「で・・・・あの人どうしたんだ?」
「あの人?」
「グラハム・エーカー」
「ああ、なんかあからさまにうんくさいタイミングで連絡が来て、基地に帰ったぞ。あの変態、基地で
 たっぷりお灸でもすえられると良いだろう」
そのうんくさいタイミングはスメラギが作り出し、なおかつ貸しとしている事実が後日横たわっている
のだが、今のタイミングでは全く知らない刹那が答えると、ライルがほっとしたように息を吐き出した。
「そっか」
「ライル、勘違いするな。俺は金髪変態に気はないし、あっちもそう言った意味で俺の事考えているわ
 けじゃないぞ」
なんやかんやでうやむやにしていたのだが、此処ではっきりさせておく方が得策だと刹那は思ったのだ。
一々どーいうタイミングで強襲してくるか分からない相手に、その度に不機嫌オーラを醸し出されては
刹那も大変だからだ。なんせ「嫉妬」なんていう範囲からは軽く飛び越えての不機嫌オーラを出すから。
軽い「嫉妬」だったら良いのだが、どう贔屓目に見ても喜びの酒松竹梅を飲み干すようなオーラではな
い。
「そりゃ一応分かってるけどよ・・・・」
「一応がつくのか」
心外だと表情に出せば、ライルは苦笑を返した。
「だってあんなに積極的にお互いへの愛を語り合おう、とか言ってるじゃんか」
「それについても説明がある。「お互い」と「への愛」の間に「自機MS」という言葉が挟まっている
 んだ」
「・・・・・・・・は?」
目を丸くして固まるライルに、刹那はこれが普通の反応なんだろうなと思った。
「あいつはフラッグ馬鹿だからな。自分のMSについての愛を存分に語りたいらしい」
グラハムのあのノリについて行ける(しかし時々置いてかれる)ビリー・カタギリがそう言っていた。
禁断のアロウズ、ミスター・ブシドー時代に、アヘッドを基本にしていた頭部に無理やりフラッグ頭を
付けさせられたらしい。それがマスラオだったのだが、その頭部のフラッグ顔が戦死した部下、ダリル
ダッジの愛機だったと知って、刹那はうっかり同情してしまったのだ。それを何か勘違いしたらしく、
自分のMS萌に付き合える人材だと定義付けられてしまったらしい、というのが真相だ。
「でもお前だってガンダム馬鹿じゃんか」
ズバリと言われて、刹那は少し言葉に詰まった。確かに第1期の頃はそう呼ばれてもおかしくは無く、
実際ニールにもそう言われた。エクシアやダブルオーに愛着があるのは確かだが、あそこまで逝っちゃ
ってないというのが刹那の主張だったりする。傍から見たらどっちもどっちだろうが、それは傍から見
なければ分からない事でもある。
「それにさ、1期最終回で「この気持ち、まさしく愛だ」って迫られてたってスメラギさんが」
「流石に驚いて声、ひっくり返ったが何か」
思いだしたくもない恐ろしい思い出についつい傍若無人に答えたが、ライルは「ふぅん?」と意味あり
気に呟いただけだった。
「で、どうする。このままあの会場に帰るのか?」
金髪変態が去った事で、再びパーティーと言う名の飲み会が再開されているだろう事は火を見るよりも
明らかだった。しかしライルは首を横に振る。
「なんか帰りづらいから、良いよ。久々に刹那の部屋で飲もうかな」
帰りづらいのもあるだろうが、スメラギの這い寄る混沌レベルの酒飲ましから逃げられる絶好の機会を
逃したくないんだろう。しかし刹那としても2人っきりで飲むのも、悪くない選択だ。ただし、刹那は
牛乳だけどな!
「それは構わない、じゃあそうするか」
「うん」
お騒がせのほもっぷるは、仲良く並んで歩き出した。


次の日、ライルの分まで飲まされたニールは二日酔いで倒れていたのだった。


★一応、はっぴっぴえんどです。約1名はっぴっぴではない人が寝込んでいるようですが、お気になさ  らないで下さい。見えない処で沈没させられた金髪変態もいますが、お気になさりませんように。  ニールの看病をライルはあんまししません。というのもフェルトがしたがっているので、ちゃんと彼  女をたてているからです。フェルトが忙しい時のみ、ライルを筆頭にマイスターがやってきます。ち  なみにフェルトの自身への好意を知らないのはニールだけです。ありがちですね(笑) 戻る