刹那も苦戦




変態来襲


「久し振りだな、少年!」
「ええい、いつまで俺を少年と呼ぶつもりだ貴様っっ!!」
ある日のトレミーブリーフィングルームに、のー天気な声と罵声が飛び交っていた。見守るトレミーク
ルーの視線の先には、抱きつこうとしている金髪変態と押し返そうとする黒髪電波が互角な戦いを繰り
広げていた。

いきなりトレミーを強襲してきた金髪変態の名をグラハム・エーカーという。

「久し振りにお互い(自機MS)への愛を、存分に語り合おうではないか少年!」
「少年と言うなというに!何故貴様と愛を語りあわねばならんのだ!」
戦いはデットヒートを迎えていた。刹那が頑なにグラハムを押し戻そうとしているには訳がある。

わけその1
刹那は子供扱いを嫌う傾向があるが、最近それが強くなってきているのだ。8歳も年上を恋人に選ぶと
いう選択をした彼は、とにかく恋人の前では大人ぶりたいのだ。その恋人張本人が割とやんちゃな性格
であるので、そんなに大人ぶらなくても良いと思われていたりする。だがイノベイター様も恋をすれば
ただの人間。カッコつけたいのだ。

わけその2
割と嫉妬とかしない刹那の恋人が、グラハムに関してはかなりジェラシーして不機嫌になるからだ。

そう・・・・・今も。

「つれないな、少年!」
「抱きつこうとするな!ホモかお前は!」
いや、ホモはお前だろ?というトレミー謹製心の突っ込みが入ったが、幸い刹那には感じられてはいな
いようだ。

一方その頃、ニールは恐怖のどん底にいた。笑顔ではあるが顔面蒼白、滝のような汗、涙目。膝も盛大
に笑っている。その原因、それはニールの横から発せられる濃ゆい不機嫌オーラ。
ダーダン、ダーダン
お約束の「ジョーズのテーマ」が脳裏を走るのだが、何故か曲のペースを上げるとドヴォルザークの
「新世界」になってしまうニールだった。・・・・ってそれは私だ。
(あああああ〜助けて、父さん、母さん、エイミー!)
今は亡き愛しい家族に助けを求めてみたが、脳裏で川の向こうの素晴らしい花畑で軽やかな笑顔と共に
手を振っている姿しか思い浮かばなかった。
(助けて、オビワン!)
今度は違う方向で助けを求めたようだが、此処に当の本人が来たらライルを成敗しかねないと思われる。
それだけライルの不機嫌オーラはおっとろしいモノだったのだ。それを間近で受けるニールは溜まらな
い。
「あ・・・あの、弟さん。その・・・・落ち着いて下さいね?」
恐る恐る声を掛ければ、ライルは笑顔でニールに振り向いた。
「何言ってんだよ、兄さん。俺は落ち着いてるよ?」
言葉とは裏腹に、ただでさえ濃ゆいオーラの濃さが3割増しになった。ゴォォォォ!とオーラに晒され
る気の毒なニール。それでも何とかしようと涙ぐましい努力を忘れないのは、流石と言わざるを得なか
った。しかしライルは突然歩き出す。
「お、おい。何処に行くんだ?」
ニールの呼び掛けにも答えずにライルはスタスタとドアに近づき、その向こうに姿を消した。濃ゆい不
機嫌オーラの圧迫感が無くなったトレミークルーは思わずほっと肩の力を抜いた。が・・・・
「俺の春がーーーっっ!!」
刹那の悲鳴が響き渡った。

「はっはっは、いきなり積極的になったな。嬉しい限りだ、少年」
その言葉に再びトレミークルーが見たのは積極的ではなく、どう見ても「テメエ、ツラ貸せやコラァ」
の状態で胸倉掴み上げている刹那の姿だった。
「黙れ、貴様一体何回俺の春を氷河時代にさせるつもりだ!」
しかしそう言われたグラハムはキョトンと目を丸くさせ、刹那がことさら悔しい思いをする事となった。
「まあ、そんな事はともかくお互い(自機MS)への愛を存分に語り合おうではないか!」
グラハムの主張が、スタート地点へ戻った。
「やかましい!キチンとカッコ内の言葉を口に出して言わんか!誤解される俺の立場はどうしてくれる」
「立場が無ければ、座るが良い。少年」
「そーゆー問題ではない。3回も俺の春を凍結させようとしおってからに・・・・」
最初はスメラギの恐るべき姦計にうっかり乗せられて、今と同じようにカッコ内の台詞を抜いたグラハ
ムの台詞により、ライルがその場から立ち去った。テロリストの分際で刹那は基地内を走り回ってライ
ルを探したのだがいない。ふと思い立って00に帰ってみれば、不機嫌だが刹那が自分を助けに来てく
れたという刹那の行動がなんとか破局から救ってくれた。
次は去年の誕生日に特大すぎる花束をパーティで贈るはずが、何故か嗅ぎつけられて大幅に遅刻してし
まい、肝を冷やした。まぁこれもなんとか破局から救ってくれた。
そして今回、事もあろうにディランディ兄弟お誕生日おめでとうすぺさるに、いきなり乗りこんで来て
しまったのだ。スメラギも相当驚いていた処を見ると、彼女は無罪らしい。しかも前2回は刹那がライ
ルの為に何か行動を起こした後だったから良かったものの、今回は何もプラスになる事をしていないの
だ。当たり前だ、誰がテロリストの艦に単身乗り込んでくる馬鹿がいるというのだ。いや、いたわけだ
が。刹那は珍しく怒髪天なのだがいかんせん、相手が変態である。なかなか怒りが通じない。というか
何故こんなにも話が通じないのだ、と刹那は電波な自分は取りあえず置いといて悲しくなる。これなら
まだリボンズの方が話が通じるのではないか?と。引き合いに出されたリボンズはたまらんだろうが。
取りあえずこんな処で変態と揉み合いしている場合ではない。どうするか、と刹那が悩んだ時に、変態
の端末が昔の某歌手が歌う「恨みます」を流し始めた。なんつー着メロにしてやがる、変態!端末を開
ながら、グラハムはポツリと呟いた。
「おお、狼煙が」
いつの時代だ。
「おや、こんな処にいたのかいグラハム」
画面には異常にひょろ長い眼鏡ポニテの姿が。
「おおカタギリ、どうした」
「うん、是非君に試して欲しいシステムが出来たんだけど」
「なんと!それは僥倖!直ぐに帰る」
「待ってるよ」
あっという間に話が纏まった。グラハムはいそいそと端末をしまい込み、嘘爽やかな笑顔を刹那に向け
て、シュタッと手を上げる。
「残念だがお互い(自機MS)への愛を語るのはまた今度だな、少年」
「はよ帰れ」
「名残惜しいが、又来る」
「来るな」
「さらば!」←まだブシドーが顕在らしい。
そう言ってグラハムは来た時と同じように唐突に帰って行った。思わず更に肩の力を抜くトレミークル
ーに罪は無いだろう。刹那も同じように肩の力を抜いたのだが、急に硬直した。
「しまった!俺の春がっっ!」
そう叫んでさっさと退場してしまう。そりゃ、はよせんと春が過ぎ去ってしまうから刹那も必死だ。
「タイミング良く連絡が来て助かったな・・・・」
ラッセが呟くとスメラギがニヤリと笑う。そして自身の端末の記録を出して見せた。
「スメラギさんが連絡していたんですね・・・・。いつの間に」
フェルトが感心したように呟く。そういえば不気味なぐらい静かだった事に、その場にいた全員が気が
付いた。
「さっきね、会話だとバレるからメールでね」
「流石スメラギさんですぅ」
素直な称賛ににっこりと笑って、スメラギは胸を張った。
「だってこの私が度肝抜かれたのよ?このぐらいしても良いでしょ」
笑っているがいきなり乗りこまれたのは、戦術予想士にしてみれば大変な屈辱ものだったらしい。こっ
そりとビリー・カタギリへ事情をメールし、どうにかしてと対応をほん投げたのだ。当然システムなん
ぞ出来あがっていない。これから突貫工事でフラッグになんらかの「おしおきだべぇ〜システム」を作
るらしい。案外余裕だな、ユニオン。
「刹那には貸しが1つ出来たわねv」
転んでもタダどころか1億はふんだくりそーなスメラギがにっこりと笑い、クルーは刹那の未来に黒い
影を見たのだった。



★突貫工事なのはこの話ですね(白状)まーどっちみち此処は刹ライなので、なんやかんやあってちゃ  んと元のさやに戻ります。ライルが何故グラハムの刹那への特攻にジェラシーするかというと、後ろ  めたい「年上」+「同性」の問題が同じなのに積極的だから、羨ましいというのもあるのです。グラ  ハムは別に刹那に恋している訳でもなく、単に自機MSを愛している同士として見ているのですが、  余りの積極性に当のライルのみ勘違いをしておるのです。正に恋は盲目(そうか?) 戻る