ガンバレ、ガンバレ
愛と青春となにかの旅立ち
ELSとの戦いっちゅーか不毛な対話は終わった。ELS達は是非母星に来て自分達のリーダーに会っ
て欲しい、と量子ジャンプを開いた。
「少し待って欲しい」
「どうした、刹那?なにかあるのか?」
不思議そうに訊いて来るティエリアに重々しく刹那は頷いた。そのままELS玉ねぎから外へ飛び出し
た刹那の操るクアンタは、真っ直ぐにある場所を目指していた。その目指す先。ティエリアは納得した
ように、頷いた。目の前には大破した緑のガンダム、サバーニャが浮かんでいる。そしてその近くには
オレンジ色と青色を従えた緑のパイロットスーツが浮かんでいた。迫りくるクアンタに首を傾げている
その姿を確実に捕え、実際にクアンタの右手でむんずと掴んだ。
「何すんだ!刹那ぁ!」
じたんばたんと暴れる緑色のパイロットスーツの中身であるライルをそのままにしておき、刹那はトレ
ミーとの通信を繋いだ。ぱっ、と直ぐにスメラギの姿が映る。
「あら、どうしたの刹那」
「ライルを連れて行って来る」
そう言うと彼女は一瞬目を丸くした後
「そう・・・とうとうこの日が来たのね」
「ああ」
画面の中でバイザーを閉めている癖に涙を拭う素振りをするスメラギ。
「この日ってなんだよ!?」
ライルには流石に画面は分からないが、音声は拾っている。なにやら恐ろしい気がして叫ぶ。
「あら、愛と青春となにかの旅立ちじゃないvいや〜ね」
「この歳になって青春とかあり得ねーから!それと1番重要な気がするが『なにか』ってなんだよ!」
「情熱のフラメンコだな」
「あらま、ステキねぇ」
「お前が口出すと余計に話がこじれるから、黙っていろ!刹那!」
「あ、そうそう『愛』は否定しないのね」
「え?あ、そういうわけじゃ・・・・」
「当たり前だ。俺達は愛し合ってラブラブの塊だぞ」
「だから黙ってろ!!」
不毛すぎる会話の間クアンタはむすんでひらいてをして、ライルのキャッチ&リリース&キャッチ(結
局捕まる)が行われていた。
「仕方ない、ティエリア『あれ』を出すぞ」
「了解だ。日の目を見る事ができるとはな・・・・。ぽちっとな」
クアンタの背中がくわわわ〜んと開き、そこから沢山のケーブルが現れる。そのケーブルにはご丁寧に
も1本1本先に円柱みたいな物が付いていた。
「・・・・・なんだ、これ?」
「幸せを呼ぶGNカンカンだ」
「なんでも『GN』を付けりゃ良いってもんじゃねーぞ!」
そう、つまり新婚旅行に行く時に車にカンカン付けていくのと同じものだったのだ。刹那はELS母星
に行く旅を「新婚旅行」と捕えたのだ。これにはライルも驚愕する。自分はフツーの人間なのだ。何が
悲しくて野郎と果てしなき大宇宙を新婚せねばならんのか、と悲しくなる。
「待っててやるから、お前らだけで行って来い!」
「それは出来ない」
「なんで」
「脚本家によると、この後新たなマイスターを迎えてCBの活動は続くらしい。そんな事になったら、
お前が食われるだろうが」
「なんで俺が食われる立場なんだよ。そんな物好きはお前以外、いねーよ!それに俺は男を食う趣味は
ありませんーだ!女だったとしてもアニューがいるわけだし」
「信用ならん」
ライルの言葉を刹那はばっさりと切り捨てた。その隣でティエリアが重々しく頷き、画面に映るスメラ
ギも頷く。
「なんだよ、それ!?」
「お前は寂しがり屋だからな。俺のように情熱的に迫られたら、うっかりOKを出しかねん」
「・・・・・・・」
「そんなに俺との新婚旅行が嫌か」
「嫌だ」
即答され、ふぅと刹那は溜息を1つついた。つきたいのはこっちの方だとライルは心の中で愚痴る。
「分かった、M78星雲に寄ってやる」
「誰も頼んでねーよ」
「どうも俺はそこでセブンの息子になるらしいしな」
「そりゃ、中の人だろうが!お前、ガンダム以外でもウルトラマンにもなる気かっ!」
「夢は大きい方がいいらしいぞ?」
「方向性が間違っていれば、台無しだろうが!」
「大丈夫だ『なにも怖くない』と石川さんも歌っている」
「子熊の死亡や絶望の戦場でそう歌われても、説得力がまったくないだろうが!」
わーのわーの大騒ぎになってしまい、朗らかに旅立とうという雰囲気ではない。刹那がライルを連れて
行きたいという気持ちもわかるのだが、行きたくないというライルの気持ちも分かる為にスメラギを除
くトレミークルーは沈黙を守った。というか守らなければやってらんない状態である。結局は痴話喧嘩
みたいなものだから、見守る方も早く話を纏めて欲しいのだった。
その思いが通じたのだろうか?刹那は突然クアンタのコクピットを開き、ライルを転がりこませたのだ。
はっと気が付けば刹那に横抱きにされている三十路オーバー。慌てるライルのバイザーに自分のバイザ
ーをこつんと当てる。
「俺はお前と一緒にいたい。だが、お前は違うのか・・・?」
どこか寂しげに呟かれてライルが慌てる。
「や、そんな事ないけど・・・・。俺だって一緒にいたいけど・・・・」
顔を離そうとしても(バイザー越しだが)刹那がぎっちりと肩とかに手を回している為に動けない。
「だったら俺の傍にいてくれ、ライル」
「え・・・えっと・・・・」
出た、刹那の必殺技。
言葉のデッドボール
必殺技とは必ず相手を殺す技だからこそ、必殺技なのだ。殺すのは本人だったり心だったり。ライルは
直球の言葉に弱い。そんな直球をばかすか当てられたら、崩壊するのは時間の問題だ。刹那もそれは心
得ているもんで、次々とデットボールを発生させている。みるみるライルの鼻息が大人しくなってきた。
そうやってデッドボール投げている間にも、刹那はライルから目を離さず、手で肩や背中をさすさすと
宥めるように擦っている。それは傍から見れば、気性の荒い動物を手なずける調教師のようだったとい
う。段々ライルが折れる展開になって参った。
「確かに小うるさい小姑が付いて来るが、気にしなくても良い」
「それは僕の事か、刹那(怒)」
ティエリアが額に怒りマークを付けて文句を言うが、刹那はさっぱりと無視した。というかライルから
目を離せば上手くその気にさせているのに、正気に戻られるからだ。ライルは割とそういう処がドライ
なのである。どっかのガンダムじゃないよ。
「で・・・でもせつな・・・・」
刹那をひらがなで呼び出した事で大分デレた事が分かる。ここで刹那は最後の仕上げにかかる。さっと
自分とライルのバイザーを上げて、ぶっちゅとしたのである。
ぶっちゅは割と長い間続いた。ティエリアなどは暇を持て余してヴェーダから引っ張ってきた、ぷよぷ
よに熱中。
すぽん、と口を離すと刹那はこれまたさっとバイザーを下げて操縦桿を握り締めた。ライルはぼぅっと
している今がチャンスなのである。伊達に長く付き合ってはいない。
「クアンタ、刹那・F・セイエイ、ロックオン・ストラトス。新婚旅行に向かう!」
「お土産宜しくね〜」
「了解。ELSまんじゅうでも買って来る」
「あら〜、お酒の方が良いのに〜」
呑気なスメラギの声が、ライルを少しだけ正気に戻した。というのもライルは散々スメラギに遊ばれて
いたから、本能的に声がすると緊張するらしい。
「おい!ちょっと待て!」
ライルの叫びも虚しく、目の前に新たに量子ジャンプが覗く。クアンタはその中に突入した。
「助けて〜〜!キャプテン・ハーロック!!」
というライルの悲鳴を残して。刹那の
「浮気は許さん。誰だそれは」
という文句が小さく聞こえて来てから、ぷつりと通信は途絶えた。トレミークルーはやれやれと肩の力
を抜いた。
「やっと終わったな。腹が減ったから、早く帰ろうぜ」
ラッセが言うと
「そうね〜、私も今日は浴びるほどお酒を飲みたいわ」
とスメラギが伸びをしながら答える。
「駄目ですよ、スメラギさん!お酒は程々に!」
フェルトが窘め
「わーい、今日のご飯はハンバーグが良いですぅ」
とミレイナが喜ぶ。
「さ、あのバカップルがなんのかんのとしていた時にガンダム他の回収も終わったし、さっさと帰りま
しょう」
「ス、スメラギさん・・・僕ら『他』なんですか・・・?」
控えめな抗議をスメラギはばっちりと太平洋へと流した。
のこのこ帰って行くトレミーに連邦軍の面々が
「馬鹿やろーー!!後始末も手伝っていかんかぁ!!」
と叫んでいたのだった。後始末、大変。
一方その頃、あの世では・・・・
「ぎゃああああ!!ライルが水金地火木土天海冥の外に飛び出した〜〜!!現世TVでは追いつきませ
んよ!」
「落ち着いて、お義兄さん!冥王星は惑星から外れていますから、正しくは水金地火木土天海です!」
無駄に冷静なアニュー・リターナーだった。
★アンケートで1位だったバカップルだったのですが、如何だったでしょうか?いつもとノリが変わら
ないのは見逃して下さい。水金地火木土天海冥は私の周りでも流行っていた歌だったのですが、ドコ
が元ネタ?と思っていましたら近年分かりました。「ゴッドシグマ」というロボットアニメのEDだ
ったそうです。観た覚えがないのですが、やっぱり観てたのかなー?
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