らぶらぶえんど?




貴様という奴4


刹那が神をも殺せるかもしれんというレベルの殺気でフラッグに乗り込んだその頃、ライルは相変わら
ず縄に縛られたままグラハム達の船に乗せられていた。
「良いから早くトレミーに戻してくれよ!帰れなくなるだろ!」
そんな怒気を孕んだライルの言葉に、グラハムがふむと頷いた。
「喜ぶが良い、少年の伴侶」
「伴侶じゃねーっつてんだろ、つかこの状況で何をどう喜べば良いんだよ!」
「少年は記憶を取り戻したらしいぞ」
「え?ホント?」
「ああ、君を小粋に小脇に抱えて去る際に、伴侶の名前を呼んでいたからな」
「貴様・・・・俺の名前知っときながら、伴侶って呼んでやがったのか」
カタギリとは良く分からないままお茶した事があるので、多分その時に自分の本名を彼から聞いている
可能性は高い。しかしなら何故本名を呼ばないのか、とライルは歯ぎしりする。しかしあれだけ執着し
ている刹那も相変わらず『少年』呼ばわりだ。刹那曰く、ちゃんとコードネームをグラハムは知ってい
るらしい。というかですな、小粋に小脇に抱えられた事実は良いのか、ライル。突っ込む処は名前だけ
なのか、ライル。

「そこまでだ」
いつの間にか刹那がどぉぉぉぉんという凄まじい効果音と共に、目の前で仁王立ちしていた。殺気が恐
ろしい。
「おや、早かったな。流石少年だ」
「どう流石なのかさっぱり分からんが、ライルを返してもらおう」
ずい、と右手を差し出す。
「大体、俺よりも先にライルを縄で縛るなど、不届き千番!ライルを縄で縛って良いのは俺だけだ」
「そんなの許した覚えはなーーーい!」
思わず叫んだライルに刹那は動揺すらせずに、やっぱり凄い殺気と共に突っ立っていた。
「俺はマンネリを打破すべく、赤い荒縄で斬新かつ勇壮な縛りを日々努力と研究をして・・・」
すぱーん!
ライルが何か言う前に、刹那の頭が景気良くはたかれた。
「俺の弟になんつー破廉恥をしようとしてやがりますか、お前は」
「兄さん!・・・・ってその手に握り締めたスリッパは何処から?」
「ん?なんか格納庫にスリッパとかハリセンとかが常備してあったぞ、此処」
「あ、それ僕のグラハム突っ込み装備だ」
確かにグラハムの言動は思わず突っ込みたくなる場合がほとんどだ。しかしそれは長い時間一緒にいる
せいで色々と麻痺し、克服したのかとライルは思っていた。いやビリーの白いタキシードとか、凄いセ
ンスで、ライルは色々と突っ込みたくなった事はあった。
「何をする、ニール。俺はただ他人には黙っていた努力を披露しただけだというのに、何故はたかれな
 ければならんのだ」
多分、刹那としては壮大なプロジェクトを披露したというだけなのだろう。思いっきり方向が明後日の
方を向いているのは、いつもの事としか言えなかった。
「もう少しライルを大事にするステキプロジェクトを披露しなさい、お前は」
そして常識的に育ったはずなのに、CBに入った影響からかやっぱりどこか微妙におかしな方向を向い
いるニール。流石刹那のお世話係!
「・・・・・何か今、すっごく捻り殺したくなるような言葉を感じたんだが」
気のせい、気のせい。
「いい加減、俺を縄から解放してくんねぇ?」
なんだかこのままだと実兄と旦那の大ボケ漫才を延々を聞かされそうな嫌な予感がして、ライルはそう
のたまった。無論、解放されたらさっさと逃げ出す事となろう。しかし縄からは解放されなかったが、
思いもよらない方法でグラハムの小脇から逃げだせた。・・・・・・つーのも、グラハムがライルをい
きなし刹那の方へぶん投げたから。ニールと絶望的な突っ込みをしていた刹那は気が付かず、まともに
ライルがぶつかって吹っ飛んだ。が、自分だけ吹っ飛んでたまるかと思ったのか、思いっきしニールを
巻き込んで床に転がった。
「伴侶は返したぞ、少年!また会おう!」
嘘爽やかな表情をして、グラハムはビリーを伴って操縦室へ消えた。ライルにしても刹那にしてもそし
てニールにしても、もう此処には用は無い。あたふたと格納庫にある刹那専用フラッグに乗り込む。
で、此処でもひと揉めした。いやマッサージじゃなくてだな。
「ライル!兄ちゃんと一緒にサブコクピットにお乗りなさい!荒縄大魔王と共にいると、荒縄でオブジ
 ェにされますからね!」
「何を言う。伴侶なるもの、夫と共にコクピットに乗るのは必然だろう」
縄からようやく解放されたライルは揉めている2人を残してさっさとコクピットへ乗り込み、ハッチを
締めようとした。
「ちょ、兄ちゃん置いていかないでライルー!!」
「お前がおかしな事を言うからだぞ!」
「なんでそうなる?弟を縄のオブジェから救い出そうとするのが、何故おかしな事!?」
「ライルの赤い荒縄を他の奴に見せるわけなかろう!俺の距離だ!」
「距離ってーーっ!?」
なんのかんの言って、息が合うお2人。まぁ結局刹那が強引にコクピットに侵入する事によって、なん
とかトレミーに戻れたのだった。


「そういえば記憶退化は治ったんだな、刹那」
ベットの中でそう呟くライルの髪を刹那は撫でた。荒縄はまだ出番ではなさそうだった。
「お前がこの前なんだかマンネリだなーとか呟くから、記憶が無くなったら少しはマンネリから脱出で
 きるかも、と思っていたらまんまとそうなってただけだ」
えらい器用だな。流石純粋種といったところか。ますますなりたかないわい。しかしライルの顔が微妙
に赤くなっていく。どうも刹那が自分との関係をリフレッシュしようとした事に、嬉しくなったらしい。
「そ、そうか・・・。でも昔の刹那を俺とミレイナだけ知らないからさ、ちょっと嬉しかったかなーと
 は思うけど」
自分を忘れ去られてスネた事は忘却の彼方らしい。
「昔の俺の方が良かったか?」
「いんや、今の方が良いよ。今更ながら兄さんは偉大だったと思わざるを得ないわ」
あんな面倒くさい刹那だけでなく、更に面倒くさいティエリアや更なるうわばみっぷりを発揮していた
スメラギと本当に自分はその時にいなくて良かった、とライルは真に感謝していたのである。

そんなこんなで又してもトレミー随一のバカップルが復活したのであった。


★というわけで、兄さんの偉業を称えるお話でした(嘘付け)お疲れ様! 戻る