世の中変人ばかりなのか






 
ライルさんの家庭の事情10


ニールと刹那がターミ○ーターをBGMに無駄に盛り上がっていた頃・・・・・・
ライルがいる金ぴか部屋のドアが開いた。はっとしてドアを見れば、若い男とそれに付き従う少年が入
って来た。若い男はわざとらしいまでの笑顔で、ライルに笑いかける。
「やあ、気分はどうかね?」
「眩しすぎて、卒倒しそうです」
うっかり本音が出た。だがその男はライルの答が気に入ったのか、はっはっはと上機嫌で笑った。
(髪と同じ色のカーキっぽい背広とはな・・・・趣味悪い)
そんな事をぼんやりと思う。営業は見た目で判断される事も多い、相手の服装や全体像を見る癖はつい
ている。金持ちのボンボンといったところか・・・・そういえばビリーも確かに金持ちのボンボン出身
だった。どこか能天気っぽい雰囲気が似ている、とライルは密かに思う。若い男の方に注目していた為
付き従う少年の、ライルを値踏みするような視線には気がつかなかった。
「面白い男だな。流石はロックオン・ストラトスだ」
「ロック・・・・は?」
そういえばあの誘拐犯達も、自分の事をそう呼んでいたと思い出す。ろっくおん・すとらとす?なにそ
れ、人の名前なのか???ライルの頭の中はぐるぐると回る。
「どうしたね、ロックオン・ストラトス。名スナイパーとして有名な君に会えて嬉しい、と思っている
 んだがね」
ライルの困惑もなんのその、男はとうとうと喋りかける。スナイパー?俺はただの会社員だけど・・・。
「あの・・・・・」
「なんだね」
「人違いですよ・・・。俺はロックオンなんて名前じゃありません。ただの会社員です」
一瞬、場が沈黙した。が、いきなり両頬を手で挟まれて目を白黒させる。
「ここまで資料と同じ顔をしていて、別人だと!?リボンズ」
「はい、アレハンドロ・コーナー様」
すっ、とライルの顔の前にデータが映される。それは『ロックオン・ストラトス』のデータだった。そ
の人物の写真を見て、ライルは腰を抜かすほど驚いた。
「に、兄さんっ!?」
確かにそれは兄の写真だった。
(そういえば・・・)
兄が珍しく知人を誘って(本当は押し切られた)酒盛りをしている時、あの美女は兄をこう呼んでいた
じゃないかと今更のように思い出す。
『あら、邪魔しないでよ、ロックオン』
あの時はかなりの美女に凝視されてそれどころではなかったし、刹那絡みでその後も思い出す余裕もな
かった。
「兄さん・・・成る程、双子の兄弟というわけか」
幾分肩を落として、その男は言った。しかしライルとしても肩を落とされる道理はない。思わずむっと
した。
「兄さんは何者なんだ?知っているなら教えてくれ」
「そうか、君には何も話していないという事か」
ふむ、と男は面白そうにライルを見つめる。
「なら簡単に言う。君の兄は世界でも名立たる諜報機関に属する、凄腕のスナイパーだ」
「諜報機関だって・・・・・?」
兄がカタギではない職業についていたのは知っている。だが、そんな機関に所属していようとは・・・。
しかもスナイパー?ということは人を殺した事があるということなのか。ライルはぶるりと震えた。自
分はそんな事も知らず、兄にずっと甘えてきたとは。
(俺の学費と医療費の為に・・・)
兄に嫌悪感など湧かなかった。あるのは罪悪感だ。俯いて考えに浸るライルを見てどう思ったのか、そ
の男は少年を促して去ろうとする。
「待て!・・・・俺をどうするつもりだ?」
男は振り返った。
「さてどうしようかな。君自身には価値がないからな」
それは殺される可能性が高い言葉だった。だが
「それは賛成しかねます」
緑色の髪をした少年が、口を挟んできた。
「おや、どうしてかね?」
「彼自身には価値がなくとも、あのロックオン・ストラトスの動きを封じるには一番だと思います。そ
 れに今、処分してしまえばきっとカタギリ教授も協力しなくなるでしょう」
「なるほど」
ライルはふと気がついた。この少年はライルに情報をもたらしているのだ。つまりビリー・カタギリは
自分の身の安全を条件に、協力している。そしてどうも兄の所属している機関とやらが、動き出してい
るのだと。
(アレハンドロ・コーナー?)
先程あの少年がわざわざフルネームで言っていた。
アレハンドロ・コーナー、と。
(コーナー家といえば、王家に匹敵するほどの資産家だ。成る程、この金ぴか趣味はそういう事か)
状況判断をする為に黙り込むライルをさり気なく見て、少年は微笑んだ。
「わかったよ、リボンズ。彼の処分は当分見送ろう」
「有難うございます。さっそくですが、彼に監視をつけたいと思うのですが」
「監視?いつも早いね。良いだろう、許可しよう」
「分かりました。アニュー、入って来てくれ」
金ぴかドアが開いて、一人の女性が入ってきた。
(!結構・・・・好みかも・・・)
呑気にライルは思った。
「初めまして、アニュー・リターナーといいます。これから貴方のお世話をさせていただきます」
その女性は柔らかく微笑んで、ライルに右手を差し出した。


ライルが現れた女性に鼻の下を微妙に伸ばしていた頃、兄のニールは不機嫌のてっぺんを突破していた。
原因はスメラギが特別ゲストだと紹介した男だ。
「今回の作戦に加わる、グラハム・エーカー氏よ」
「初にお目にかかる。今回無理を言って参加させてもらうことになった。宜しく頼む」
クリスがいい男じゃない?と声を弾ませ、それを聞いたリヒティが慌てている。だがニールにはやたら
と派手な顔つきのその男に、怒りを感じていた。彼がキチンと任務を果たしていれば、ライルは誘拐さ
れずにすんだのにと。そんな不機嫌絶好調のニールの方をむいて、この男はこう言ったのだ。
「おや、姫!誘拐されたと聞いて心配していたが、無事だったのか」
「誰が姫だっ!」
思わず飛び掛ろうとしたニールを、咄嗟にアレルヤとハレルヤが止める。
「離せ、ライルが誘拐されているというのに、能天気にっ!」
必死の形相にアレルヤが一瞬引いた。元々彼は穏やかな雰囲気を好む。こういう激しい感情は苦手なの
だ。その一瞬に束縛を振り解こうとしたが、ハレルヤが慌てて羽交い絞めにする。
「姫ではないのか」
「おい、お前!あんまりコイツを刺激すんな!」
流石にハレルヤが声を荒げる。体格は同じぐらいだ、そんな相手に全力で暴れられれば流石のハレルヤ
もいつまで拘束できるかわかったものではない。
「それはすまなかった。ライル君とそっくりだったのでね」
「・・・・・アンタ、俺の弟と知り合いなのか?」
そう問えば、大きい緑色の瞳をパチパチとさせる。
「聞いてないのかね、ライル君はカタギリの担当だよ」
「なんだって!?」
聞いていない、というかニールは自分の仕事が後ろめたい為にライルの仕事の内容は聞いたことがない。
せいぜいライルからは仕事の愚痴を聞かされるぐらいで。なんで誘拐され名人の担当になっているのか
分からない。
「なんだか我が親友たるカタギリが彼と気が合ってね、良く来ていたよ。私もその時に知り合った。彼
 は優秀な良い子だね」
「当たり前だ、俺の弟だぞ!・・・・・アンタ、俺の弟を姫なんて呼んでるのか」
「・・・・・ライルが嫌がりそうだ」
それまで黙っていた刹那が口を挟んできた。
「しかし納得できる」
するのか。
「おお、少年。君とは気が合いそうだな」
「嬉しくない」
相変らず刹那は直球だった。だがグラハムは刹那のストレートな態度が気に入ったようだ。
「とはいえ、最初は遊び半分だったのだがね。姫一号はもちろん我が親友のカタギリだ」
なにがモチロンなんだ、とその場の全員が思った。
「あの髪型が、姫っぽいからな。ライル君は可愛らしかったので、呼びだしたんだが反応がこう、面白
 くてね」
「・・・・・・分かる気がする」
ニールが呻く。本人は華麗にスルーしているつもりのようだが、実は如実に「なんなんだよ、もう」と
いう態度があからさまに出ているのだ。ニール自身もそんなライルが可愛くてちょっかいをかけた挙句
(心理的に)遠くに去られるという経験がザラにあるのだった。
「純白のウェディングドレスが似合いそうだと言った時の顔が・・・・」
その時のライルの表情を思い出したのだろう、グラハムがおかしそうに笑う。きっとドン引きな顔だっ
たんだろう、と簡単に想像できるニールだった。伊達に兄貴はしていない。
「似合うな」
と刹那。
「ああ・・・・その通りだ」
とニール。本気かお前ら。グラハムは同意者がいてくれたとばかりに大喜びである。刹那もニールもそ
の姿を想像して、うっとり・・・の世界である。この事が後日グラハム経由でライルにバレ、家出され
るはめとなるのだが、この時点では知りようもない。
「しかし・・・俺の知らないライルを知っている奴に会うと、なんだか不愉快だな」
「なにをいう、君こそライル君の知らない姿を持っているだろう?」
「なに・・・?」
それまでのふんわかムードが一変した。しかしグラハムはニールをまっすぐに見て、容赦なくこう言い
放ったのだった。
「君の仕事としての正体を、きっと今頃ライル君は知ったはずだ。彼が攫われる一因となったのは、君
 と勘違いされていた可能性が大きい」
「俺のせいだっていうのか!ライルが・・・・あいつが攫われたのは!」
「そうだ」
「!」
「君には酷な話だが、ロックオン・ストラトスでないと分かった時点で殺される可能性も大きい。・・
 ・・・・カタギリと違ってな」
確かにそうだ、カタギリ教授はその才能を見込まれているからまず殺されない。だがライルは単なる一
般人だ。考えたくない。
「だがカタギリがライル君の身の安全と引き換えに条件を飲んでいるだろう」
「何故そう思える?」
「簡単だ。カタギリがそういう男だからだよ。そして何を求められたかは分からんが、時間稼ぎをして
 いるはずだ。誘拐され名人は伊達ではない、という事だよ」
「・・・・・・・・・・・」
「救出後、君はライル君に拒否されるかもしれないな。人を殺すという事を、一般人が受け入れる事は
 難しい」
「分かっている・・・・・」
ニールの声が低くなる。だがこの仕事のお陰でライルの学費や医療費を調達できたのだ。それに関して
は後悔などするはずもない。だがライルに知られたくなかった。
「ロックオン」
刹那が呼ぶ。
「今はライルの救出だけを考えろ。その後の事はその時に考えればいい」
ニールはそれには答えず、部屋から出ようとする。
「何処へ行く」
「外の空気でも吸ってくるよ」
そう言って部屋から出て行くニールの背中は、今迄見たこともないくらい小さく見えた。


★ライルはのー天気気味ですが、兄さんはシリアスモードです。せっちゃんも、どっきりしたはず。そ  れにしても、グラハムは書きやすいなあ(笑) 戻る