無事で良かった!






 
ライルさんの家庭の事情12

ニールと刹那にとってライルと、オマケでビリー・カタギリが誘拐された所は小さな島だった事が判明
した。そこは世界に名立たるコーナー家が所有し、豪華な別荘がある。成る程、誘拐してきた彼らを隠
すには最適な場所といえる。問題は如何にしてその小島に上陸するかだ。海から馬鹿正直に近づいたと
ころで、迎撃されるのは目に見えている。それにあんまりモタモタしていると、ライル達の命が危ない。
「というわけで、囮と実行班に分けます」
スメラギが地図をモニターに出して、説明をする。
「まず実行班にはロックオン、刹那、グラハムさん、アレハレよ」
「あの・・・・スメラギさん、いい加減僕らのこと一緒くたにして呼ぶの辞めてもらえません?」
アレルヤからの抗議を、スメラギは綺麗さっぱりと海へ流した。肩を落とすアレルヤの頭を、よしよし
とばかりにハレルヤが撫でる。
「情報提供者はあの別荘にいて、それなりに混乱を引き起こしてくれるらしいから、少数精鋭で当たる」
「分かった、ミス・スメラギ」
「了解した」
ニールと刹那は殺る気満々で答えた。ちっくしょう、可愛いライルに手を出しててみろ、貴様の髪全部
引っこ抜いて束子にしてやる!となんともレベルの低い事を思っていた。
「私の方も、了解した」
金髪変態・・じゃなかったグラハムも頷く。ノリは異常としか言いようがないが、確かに腕は確かだし
頭も切れる。まあ有能な男だという事は分かった。
「しかし・・・姫ぇぇぇ、助けに来たぞぉ!とか言ってポーズを取るんじゃないだろうな」
ぽつんと呟いたニールに、グラハムはおや、とばかりに振り返った。
「何故分かる?きっと姫一号のカタギリも姫二号のライル君も喜んでくれるに違いない」
この男、ノリノリである。ひく、とニールの顔が引きつった。
「取りあえず姫一号のカタギリ教授に限定してくれ」
「そうだ、姫二号たるライルは俺がそれをやろう」
どさくさにまぎれて刹那がそのノリに、真顔で乗ってきた。
「違うだろっ!それは兄たる俺にこそ相応しいんだよ、刹那!」
「ちょっとそこのブラコンとホモと変態は黙っていなさい」
スメラギは勇者だった。そしてその勇者に外部の者であるグラハムですら、逆らえなかった。
「単独で囮をしてもらうわ、いいかしらティエリア?」
「了解した」
ティエリアを始めとするトレミーチームは、もう既に脱線しているニールと刹那とグラハムのとんちん
かんな発言に心奪われる事はなかった。順応性が高い連中だからだ。
「ラッセはリヒティと組んで囮になってちょうだい」
「うっす」
「分かった」
「フェルトはティエリア、クリスはラッセ達のフォローに当たって」
「はい」
「わっかりましたー」
短く作戦を伝え、スメラギは宣言した。
「さあ、ミッション開始よ!」


というわけで、早速だが実行班はいきなり別荘への侵入に成功した。細かい事は気にしない。書いてい
る奴が細かいミッションなど書けるわけがなかった。
別荘にからの協力者はかなり優れているらしい。実行班の端末に突入と同時に見取り図を寄越したのだ。
「ん?」
ニールはその見取り図を見て、違和感を感じた。ある地点に赤い点滅があったからだ。刹那のを見たが
そんな点滅はない。アレハレも同様だ。グラハムはちゃっかり姿を消していた。多分単独でカタギリを
救出に行ったんだろう。とリあえずニールは刹那とアレハレに指示を出して、自分は赤い点滅がある地
点へ急いだ。銃撃戦になるが伊達にロックオンと名乗ってはいない。次々に蹴散らしてその地点へ急ぐ。
『早く、彼を救い出して!』
いつの間にか赤い点滅の横に、そんな文字が浮かび上がっている。
(ライルが・・・・・此処にいるんだ!)
ニールのテンションが馬鹿みたいに急上昇。最早ちんたら銃を撃ってくる輩など、敵ではなかった。
「ラアアアァァァイルゥゥゥゥウ〜〜〜、兄ちゃんが今行くぞぉぉぉぉ!」
どうも少しの間だけだったのだが、グラハムの影響があったようだ。
「は〜〜〜はっはっは!邪魔する奴ぁ、お仕置きじゃあああ!!」
何言ってんだかわかんない状態に陥る。反撃を試みていた連中が、その変態さ加減に恐怖を覚えて逃走
しても罪はないだろう。それぐらい恐ろしかった。・・・・・因みに真面目に掃討していたのは刹那と
アレハレで、グラハムはニールとはまた違った意味で変態さを惜しげもなくさらけ出し、別荘の連中を
恐怖のどん底に叩き落したのであった。
「あれ?」
どうみても壁。
どっから見ても、壁。
どっちをむいても壁。
お前はキャプテン・フーチャ○か(分からない人はスルーするように、いいですね!)しかし赤い点滅
は確かに此処の壁の向こう側にある。まあなんだ、隠し扉ってわけだ。
「ええい、まどろっこしい!壊すぜ!」
小型爆弾をセットして、壁を壊すとその中は金ぴかの部屋だった。
「うぉ、まぶしっ!」
金のベットに(なんとシーツ類まで金色)金の壁、金の床に金の調度品。ニールは眩暈がした。こんな
目への暴力としかいえない場所に、ライルは閉じ込められていたのかよと思ったが、肝心の本人がいな
い。きょろきょろと辺りを見回し、ニールは叫んだ。
「ライル!迎えに来たぞ!」


その声は確実にシャワー室で震えるライルに届いた。ドアが爆破され(内側から見たらドアだった)て
それこそ生きた心地もしない。
「ライル!迎えに来たぞ!」
はっとして顔を上げる。それは間違いなく兄の声だった。開錠するのももどかしく、転がるようにシャ
ワー室から飛び出す。
「兄さん!」
そこには紛れもない、兄の姿。
「ライル!」
ライルはニールに抱きついた。ライルの身体をニールがしっかりと受け止める。
「ライル・・・良かった、無事で良かった・・・・」
「兄さん、もう会えないかと思ったよ・・・・」
安心したのか、ライルの膝が笑って立てなくなる。しゃがみ込むライルを守るかのように、ニールはそ
の身体を腕で包み込む。ニールの胸にコツンと頭を寄せて、ライルは呟いた。
「でも良く此処がわかったね」
「ん、此処に俺を誘導してくれた奴がいるんだよ。赤い点滅があってさ。ほら」
だがニールの見せてくれた見取り図にはもう、赤い点滅はなかった。
「あれ?消えちまったよ、どーなってんだ?」
兄が首を盛んに捻るが、ライルには心当たりがあった。
(アニュー、君が兄さんを導いてくれたんだな)
必ず守る、そう言ったアニューの笑顔が蘇る。彼女はどうしただろう、上手く逃げてくれればいいとラ
イルは思う。例えあちらからしてみれば単なる監視役だったかもしれないが、ライルは彼女がいてくれ
たお陰で、今こうやって兄と再会できたのだから。
「立てるか?」
「え、ああ・・・・うん。なんとかね」
とはいえ実際はニールにもたれかかるようにしか立てなかった。
「情けねぇの、俺って」
「そんな事ないさ、普通の反応だよ」
「守られてばっかりだ」
そう言って唇を尖らすライルに、ニールは笑って額に唇を寄せた。
「いいの、ライルは守られてて。俺がそうしたいんだからさ」
「ううう、納得いかん」
「納得しなくていいから」
笑いながら言う兄を、睨みつけてライルは今度は頬を膨らませた。


アレハンドロ・コーナーはビリー・カタギリ教授に何をさせていたかというと・・・・
「歌って踊れる、大日如来像?」
クリスが呆れた声を出した。
「そうなのよ、そしてその顔は自分だったそうよ」
「・・・・・悪趣味」
フェルトのその一言は大正解だった。つまり自分の顔をした有難い大日如来像を作り、なにかに使うつ
もりだったらしい。
「それなら正式にビリー教授に頼めば済む話じゃないですか」
クリスの疑問ももっともだ。
「う〜ん、それがやんわり断られちゃったらしいのよ。まだ済んでないものがあるから一年半待ちと言
 われたらしいわよ」
「それで誘拐ですか!?」
「・・・・・・信じられない」
「本当ね、金持ちってわかんないわ〜」
スメラギは苦笑して、周りを見回す。


因みに別荘の情報をリークしたのは、驚いた事にトレミーチーム以上に優秀だと言われているイノベイ
ターチームだった。アレハンドロのビリー教授の誘拐計画を知って、リーダー自らその側近役を演じて
みせた。誘拐前になんとかできなかったのかという意見もあるが、相手が相手だ。何もしていないのに
逮捕等できようもない。なので実際に動くまで、ほったらかしていたらしい。そこら辺はちょっと変っ
ているのだが・・・。予想に反して誘拐されてきたライルの延命をし、監視役と称してライルに危害が
及ばないように取り計らっていた。実際、ライルの知らないところでアレハンドロが彼を始末しようと
して、アニューやリヴァイブのさり気ない妨害によって失敗している。このままではライルの命が危な
いと察知したアニューが、もう少し様子を見ようとしてしていたリボンズに願い出て、今回の救出劇に
なったのだった。

それから忘れてならないのが、愛すべき変態グラハム・エーカーだ。なんとビリーの前で、本当に
「姫ぇぇぇ、助けに来たぞぉぉぉぉ〜!」
と叫んで、周りの人間の度肝を抜いたのだった。それに対してビリーはあっさりと笑った。
「まったく、遅いよ。姫だっていうなら、もう少し早く救出に来て欲しかったね?」
とコメントをして、更に度肝を抜いたのだった。
「分かった、お詫びに姫抱っこしようか」
「ゴメンだよ、さあ早く帰ろうよ」
振り向いたビリーはグラハムがある一点を見つめている事に気づいて、まずいと首をすくめた。
「君という人は・・・・・・」
「あ、あははははは・・・・」
「又しても、食事をコーヒーとドーナッツにしていたな!」
グラハムの目線の先にあったのは、テーブルに乗せられた中途半端に量の少ないコーヒーと、齧りかけ
のドーナッツだった。グラハムはいきなりひっくり返っている運の悪い者を起こして、力説を始めた。
「私が苦労して、やっとまともな食生活に戻したというのに、元の木阿弥じゃないか!どう責任取って
 くれるのだ!?」
「うえええええ・・・・すいません」
グラハムはぱっと手を離して、その者を床に落っことしてビリーの前に仁王立ちになる。
「いいだろう、私は我慢弱いが姫の為なら、地道に君の食生活を改善していこう」
「えー・・・・・」
「異論は認めん。帰るぞ、カタギリ。まずはレストランに行くぞ」
のしのしと歩いていくグラハムと、名残惜しそうにドーナッツを振り返ってその後に続いてビリーはそ
の場を去っていった。これ以降、グラハムは裏の道の連中に迷人として崇め奉られる事になったのだ。
しかしビリーを誘拐しようとする組織は、段々減っていっているらしい。グラハムとしては護衛の任務
は終わったといえるが、未だに同居している。曰く、目を離すとまた食事に手を抜くからだそうだ。




★というわけで、あっさりと救出劇が行われました。細かい事は気にしない。せっちゃんの存在感がち  とうすーーーーーーーいですが、これも気にしないように。どっちかというとニルライかもしれない  と思う今日この頃(こらーっ) 戻る