いつもと変らない、そんな生活




ライルさんの家庭の事情13


無事救出されてからが、大変だった。まずは事情聴取から始まり実況検分やらをもやらされて、会社ど
ころか家にすら満足に帰れない。ライルは目を回す勢いだった。しかしやっと報告ができたという事で
お役御免に。


久々にゆっくり家に帰ると、兄が待っていてくれた。救出後は兄の方もレポート等で忙しかったらしく
顔を合わせてはいなかった。もちろん、刹那もだ。連れ回されるライルに二人とも同行する事を願った
らしいが、断られていたらしい。
「お帰り、ライル」
「ただいま」
なんでもない挨拶が、素直に嬉しい。
「あれ、刹那は?」
確かメールで刹那から、今日家に帰るというメッセージが届いたはずなのだが。
「んー、ミス・スメラギにどっか攫われていった」
「ああ・・・・あの人ね」
同僚だと思っていたら、兄の上司だった美女。悪い人ではないのだが拘留されている間に、色々と遊ば
れたので素直に見れなくなってしまった。なまじ頭が良い人なので、ライルには太刀打ちが出来なかっ
た。
「本当はなにか作りたかったんだけどさ・・・・」
テーブルには買ってきた食事が並んでいた。
「良いよ、兄さんだって疲れてんだしさ」
それはライルの本心だ。なんだかスメラギに余計な仕事も押し付けられていたらしい、と刹那に聞いて
いたからだった。
食事を済ませて彼らはベット替わりにも使っているソファに座った。ニールの手が、ライルの頬を撫で
る。
「でも本当に・・・・良かった。お前が無事で」
「うん、心配かけてごめん」
「ライルが謝る事ないだろ?ありゃコーナーの御曹司が悪いんだから」
「だけどさ、心配かけたのは本当だし」
一旦、会話が切れた。ニールはライルから手を引っ込め、真剣な眼差しでライルを見つめる。
「あいつらに聞いたんだろ?俺の仕事」
ニールにしてみれば自分の仕事を知ったはずのライルが、今迄と同じように接してくれるのが嬉しい反
面怖い。きっとこのまま知らん顔をしていれば、何もなかったように生活ができるだろう。だがどうし
てもライルの本心が知りたかった。営業マンである弟は、本心を隠すのは上手いのだ。繕う事に長けて
いると言っても良い。からかい等にはどうしても本心を隠せないのだが、本当の事に関しては全く悟ら
せない。
「聞いたよ、兄さんがスナイパーとして組織に所属しているって事は」
「そうか・・・・・。俺が・・・・・怖いか?」
なんとか声の震えは抑えられた。ここで声を震わせてしまえば、ライルはニールに気を使って思っても
いない事を言うに違いない。だが・・・・・怖い。自分から離れてしまうかもしれない、という可能性
はいつだってニールを恐怖のどん底に落としてきたのだ。
「ん〜〜〜〜怖くはないよ。だって兄さんは俺の為に、手を染めてしまったわけだし・・・」
「ライル・・・・」
「そりゃ俺だって、気づいてはいたさ。どうも普通の職業じゃなさそうってことぐらい」
「え?そうなの?」
「当たり前だろ?十代の兄さんがあんな大金、稼げるわけないじゃん。可能性としてはそっちの方が高
 いだろ」
・・・・・ちょっと思ってもみない展開になってきた。
「だから聞いた時に最初に感じたのは、罪悪感だったよ。そんな事も知らないで、ずっと兄さんに甘え
 てきたのかって。自己嫌悪ってやつかな・・・?」
「そんなことない!俺が望んでした事なんだから、ライルがそんな事気にしなくていいんだ」
プッとライルが吹きだした。
「なんだよー、兄ちゃんが真剣に言ってるのに」
「ごめんごめん。きっと兄さんはそう言うだろうな、って思ってたら本当に言うからさ」
「ライル・・・・・・」
「でもさ、まさか刹那もお仲間だなんて思わなかったよ」

ニールに支えられて外に出てきたライルを見た途端、刹那は持っていた銃をアレルヤに向けて放り投げ
ライルに抱きついてきたのだ。その時のライルの動転ぶりは凄かった。
「せ・・・刹那ぁ!?なんで此処にいるんだ!?」
「俺はニールと同じチームに属している。此処にいるのは当たり前だ」
「はあ!?」
救いを求めるかのように振り向くライルに、ニールは頷いて見せた。ライルは丸く開いた目をぱちぱち
とさせ、自分にしがみつく刹那を見る。
「無事で良かった、ライル」
「って、ちょっと待て。兄さんと刹那って元々、知り合い?」
「あー、うん」
いきなりの展開に噛み付こうとしたライルを止めたのは、アレルヤだった。
「兄弟喧嘩はそこまで。お迎えの飛行機が来ているので、そこでまた喧嘩でもして下さい」
「アレルヤ・・・・なんつー言い方を」
「アレルヤ、ライルと一緒に俺も行く」
そう刹那がしがみついたまま、アレルヤに言った。本来はこういった我侭は許されないのだが、刹那の
珍しい情熱的な行動にアレルヤはすっかり感動していた。
「良いよ、じゃあ後は僕とハレルヤでなんとかするよ」
そう言って快く送り出してくれたアレルヤは、この後ハレルヤに散々ぶーたれられる事となった。


「で、じゃあ刹那が俺の所に転がり込んできたのは、兄さんの仕業だったのか」
「いや、俺そこまで刹那に言ってない」
「俺はニールに、お前を監視しろと言われていた」
「見守れと言え!」
「それで?」
ライルのニールを見る目がブリザードっていて、ニールは小さくなるが刹那は動じなかった。
「最初は遠くから監視するだけだったが、余りにも目が離せなくて転がり込んだ」
「いつから監視してたんだよ」
「転がり込む一ヶ月ぐらい前」
「・・・・俺が転勤してすぐじゃねーか・・・」
じろり、とニールを睨む。気の毒なニールは益々小さくなっていった。確かにニールはライルに対して
だけ異常に心配性だが、此処まではと思っていなかった。出された条件のメールや電話もキチンと欠か
さずしていたというのに。
「俺ってそこまで兄さんに信用されていないのか」
「だが」
刹那がニールへの愚痴を遮った。
「俺はお前に会えた。感謝している」
「刹那・・・・」
余りにもストレートな刹那の言葉に、ライルの頬が赤くなる。当然、面白くないのはニールだ。いきな
り話題の中心から蚊帳の外に出されたのだ、無理もないだろう。しかも刹那とライルはニールそっちの
けで見詰め合っている。
「愚痴でも何でもいいから、俺を外すなっ!」
「あ・・・兄さん」
「邪魔をするな、ロックオン」
それからはライルを巡っての争奪戦が始まり、三人はクルーにこっぴどく怒られたのだった。


顔を見合わせて二人は、くすくすと笑う。
「有難う、兄さん。ずっと守ってくれて」
「良いんだ、俺はライルがいてくれれば、それで・・・・・」
「うん」
「俺も有難うって言わなきゃな」
「?なんでさ」
「俺の仕事、知っても拒絶しないでいてくれて」
「なんだ、そんな事か」
「そんな事って」
「確かに兄さんが殺した人の遺族の人には悪いけど、やっぱりさ、俺にとっての兄さんは兄さんだから」
「ライル・・・・・・兄ちゃんは感動している!」
「え?」
感極まったニールはライルにタックルする勢いで抱きついて、ライルをソファから落っことした。


何日かして、ライルはめでたく会社に復活。クラウスに鼻水つけられそうになるくらい、泣かれたので
あった。そして
「おや、いらっしゃい、ライル君」
「おお、姫!久し振りだ。元気そうで何よりだ」
ライルはカタギリ教授の元を訪れた。いつもと変らない二人を見ていると、あの事件が嘘のように思え
てくる。相変らずカタギリはのんびりしいて、グラハムはテンションが高かった。
「災難に巻き込んでしまって、申し訳なかったね」
「いえ、教授が俺を守ってくれたので気にしてません」
そう言うと、カタギリは目を丸くした。
「なんで知ってるの?」
「コーナー氏から聞きました。教授が俺の身の安全を条件に協力していると」
カタギリは照れたように、頭をかく。
「だって元は僕が原因だからね、そのぐらいはしとかないと・・・・」
か弱そうに見えて胆力があるのだろう、慣れとも言うかもしれない。
「しかし聞いてくれ、姫!」
ずぃ、といきなりグラハムのアップが現れてライルは面食らった。
「カタギリときたら誘拐されていた最中、ドーナツとコーヒーの生活に戻っていたのだよ!」
こんだけの事件で、アンタが問題にするのはそこかよ、とライルは心の中で愚痴った。
「私があれだけ苦労して普通の食事習慣を身につけようとしたのに、あの連中はそれを台無しにしてい
 たのだ!これが許される事ではないのだろう!」
カタギリを見ると、困った顔をしている。本当の事なのだろう、なんせカタギリは無類のドーナツ&コ
ーヒー好きなのだから。ライルとしては軽食であるならこれでも良いが流石に三食これは嫌だし、グラ
ハムの努力も知っているのでなんとも言えない。
「ま・・・・まぁ。今日の用事はなんだい?」
明らかに不自然な話の変えっぷりだが、取りあえずライルはそれに乗る事にした。グラハムの様子を見
ると、こってり絞られたのは間違いない。命の恩人でもあるし。
「そうそう、君の兄君に会ったよ」
「えっ?兄さんと?そんな事、言ってなかったなあ」
「顔はそっくりだが、姫ではなくあれは騎士だな。君という姫を守る為の」
「・・・・・・・」
「そういえば君には小さな騎士もいるようだな」
刹那の事らしい。
「モテモテじゃないか、姫。良かったな」
からかわれているのは分かっているが・・・・・・分かるからこそ腹立たしい。


そして
自宅のドアを開けると、そこには一人の女性が立っていた。
「久し振りね、ライル。会いたかった」
「アニュー!どうして?」
「言ったでしょ、きっと会いに行くって」
「会えて嬉しいよ、アニュー」
思わず抱きしめようとすると、後ろに引っ張られた。アニューもライルを抱きしめようとしていたらし
く、彼女の伸ばした腕からライルは後ずさった。
「な・・・なに?兄さん・・・刹那」
刹那は爛々と目を光らせアニューを睨みつけ、ニールは泣きそうな顔で両者共ライルの腕を引っ張って
いた。
「あら」
「ライルは俺の将来の嫁だ。手出しはさせない」
無駄に男らしい刹那。
「ライル〜、いつの間にそんな可愛い子とラブラブに!?兄ちゃん、寂しい」
しょんぼりのニール。
「あのさ、彼女作れって言ったの兄さんじゃん」
「そりゃそーだけど・・・・」
「初めての事じゃないだろ?」
「初耳だ、ロックオン。ライルには俺という存在がいるというのに、そんな世迷言を」
「フツー、兄として奨励するのは彼女の方だろ!?」
「じゃ、問題ないじゃん。手、離してよ、兄さん。刹那も」
「いやだ」
きっぱりと刹那。
「・・・・・・やだ」
駄々を捏ねる勢いのニール。埒が明かない、とは正しくこの事だろう。恐る恐るアニューを見ると、彼
女はにっこりと笑った。
「心配しないで、刹那。別に貴方からライルを取ろうとは思っていないわ」
「え!?そうなの?」
衝撃の告白にライルは驚いたが、アニューは悪戯っぽくウィンクをした。
「ただね・・・・女としての一番は貰うけどv」
アニューは逞しかった。そしてその逞しさにライルは、アニューにときめいた。しっかりしろ、男だろ
お前!
「むう、つじつまが合った」
「ええ!?そうなのか?そーいうもんなの、兄さん?」
「ええと・・・・」
「なに戸惑ってんだよ、刹那の育ての親だろ!」
「うん、だけど最近ライル絡みでは良く理解できなくなってきたんだよなー」
というわけで、アニューはめでたくライルとの交際を勝ち取って行ったのだった。


朝、起きて会社に行ってクラウスと話して
昼、仕事でカタギリ教授とグラハムの所に行ってからかわれて
夜、家に帰って兄と刹那の猛攻にさらされたり
休日はアニューとデートしたり(尾行二名付)
時々スメラギに玩具にされて


そんな感じで過ぎていく、ライルさんの家庭の事情。



★というわけで、お終いです。お付き合い下さいまして有難うございました。どこら辺が家庭の事情な  のか書いてる本人もさっぱり分からなくなりました(おい!)微妙な刹ライ・ニルライ・アニュライ  になってます。クラウスさんごめんなさい。一応、アダ〜ルトな意味ではせっちゃんが一歩リードで  すがアニューがね(笑) 戻る