お、おれの弟が!






 
ライルさんの家庭の事情4


出張から疲れ果てて帰って来たライルは、早々にシャワーを浴びて眠りたかった。そして自室の扉を開
けると、そこは宴会場だった。
「?」
思わずドアを閉める。はて、自分は部屋を間違えたのだろうか?まじまじと部屋番号を見てみるが、や
はり間違ったわけでもなさそうだ。と、ドアが開いた。
「な〜にやってんだよvおかえり!兄ちゃん、心待ちにしてたよ!」
ヘべれけ状態の兄が、顔を出す。相当酔っている兄を見て、ライルの顔が青褪めた。ぐいぐいと有無を
言わさずに部屋に引っ張り込まれる。咽るような酒の匂いが充満していた。
「あら、そっくりじゃない。どなた?」
かなりの美女が酒の入ったコップを持ったまま、振り返る。その美女と野郎が五人、可愛らしい女性が
一人という混成軍団がいた。ライルは目を白黒させる。兄は今迄自分の知らない知り合いを、部屋に上
げた事がないからだ。
「えへへ〜、俺の最愛の弟だよ!」
固まるライルの肩をぐい、と引き寄せて上機嫌の兄が言う。するとさっきの美女がおもむろに立ち上が
りライルの顔を興味津々といった風に、覗き込む。ライルも健全な男である。かなりの美女に顔をしげ
しげと眺められれば、顔だって赤くなる。すると彼女はあはは、と笑った。
「可愛い〜。ねー弟君、私とちゅうしようか?」
「は?え?」
「私はスメラギ・李・ノリエガよ。よ・ろ・し・くvん〜v」
スメラギ、と名乗った美女の顔が近づいてくる。しかしその唇がライルの唇に触れる前に、ぐいと兄に
引き寄せられた。
「?兄さん?」
「あら、邪魔しないでよ、ロックオン」
ロックオン?なにそれ人名?とライルは思ったが、それよりも兄の腕が自分に絡みついて離れない事が
問題だ。
「ちょ、兄さん。離してよ!」
もがくが、兄の腕は頑として離れない。ライルはクラゲに捕まったお魚さんの気持ちが分かったような
気がした。もがくライルを見て、兄がニコーと笑う。
「だ〜め、こいつにチューしていいのは俺だけだから」
「ちょっと、兄さん!?」
ぐい、と引き寄せられて哀れ、ライルの唇は他人の前で実兄の唇で塞がれた。とたんにおおーっという
感心したような声が複数上がった。飲んでもないのに口の中に、酒の味が広がっていく。ライルも弱い
方ではないが、くたくたに疲れている時にはキツイものだ。
「もがー」
色気もへったくれもない声を出して、ライルはもがく。やっと兄の顔を離すと、他の知らない面々がに
やにやと笑いながらこちらを見ていた。
「あらま、情熱的ねv良いもの見せてもらったわ〜v」
ライルは居心地が悪い。当然だ、一体なんの因果でこんな事になってんだと心の中で愚痴る。兄である
ニールも弱い方ではないのだが、どうも集中攻撃にあって撃沈寸前であるらしい。こういう状態になる
とスキンシップが過激になるので、ライルとしては好ましくない。ファーストキスがこっそり隠れて飲
んだワインで前後不覚に酔っ払った兄だったなんて、ライルからしてみれば泣きたくなるような出来事
である。
(まずい、なんとか此処から逃げなくては)
これ以上、知らない人の前で(しかも美女がいるのに!)玩具にされてはたまらない。ライルは疲労で
ぼんやりしていた頭を、必死で動かし始めた。


やっと誰にも気が付かれずに、ライルは自室からの脱出に成功した。が、着の身着のままで財布すら部
屋に置いて来た鞄の中に入っている(だからニールも安心して見逃している)せっかくゆっくり寝たか
ったのに、これからどうしよう?とライルは途方に暮れた。すると・・・
「ライル」
小さな声で呼ばれて振り向けば、そこには刹那が立っていた。
「刹那、どうして?」
すると刹那は眉を寄せ、困った顔をした(が、それは微妙な変化だ)
「酔っ払いの相手は得意じゃない」
「あ・・・・成る程、刹那はまだ16だもんね」
「年齢的に敵っていても、あんな状態の連中の相手はしたくない」
「それは同感だ」
あの美女に刹那が玩具にされるだろう事は、ライルにも分かっていた。
「で、どうした?」
「迎えに来た」 
「俺を迎えに?」
刹那は頷く。
「あの騒動は暫くは終わらない。だからホテルを取ったから、ライルもそっちの方が良いと思って」
「ホテル?でも俺、財布置いて来た」
「問題ない、俺が払う」
「それは駄目だよ、あとで払うから」
そう言っても刹那は首を横に振った。
「いつもこの部屋でいさせてもらっているから、気にしなくてもいい」
しかし刹那はキチンと家賃を含む生活費を入れている。年上としても、譲りたくなかった。が、刹那が
まっすぐ見つめてくる。ライルはこの目に弱かった。渋々、折れる。
「分かったよ、世話になるな」
そう言うと刹那は薄く笑って
「気にするな」
と答えてきた。


ホテルの部屋に来て、ライルは絶句した。寝室と寛ぐ部屋が別々にある。かなり良いホテルに案内され
た時も驚いたが、この部屋は所謂「スイートルーム」というものではなかろうか?
「ちょ、刹那・・・・凄い高い部屋だろ此処」
しかも寝室に置いてあるベットはツインではなく、キングサイズのダブルベット。ライルは眩暈を覚え
た。しかし刹那は淡々としている。
「心配ない、ここしか空いてなかった」
「でも料金が・・・・」
「もう払ったから大丈夫だ」
それよりも、と刹那は時計を指した。
「飯は?」
「もう食べたよ、刹那は?」
「俺も済ませた。ならシャワーを浴びて来ていいぞ」
はい、とご丁寧にもバスローブを渡してくれる。確かに疲れているし、自室に置いてあるベットで狭さ
に魘されながら寝なくても良いというのは、かなり有難い事だ。
「明日は仕事か?」
「いいや、明日は休みを取ったからゆっくりできる」
「そうか。俺も明日はオフだから、チェックアウトは急がなくて良いな」
「そうだね」
刹那に薦められるままに、シャワーを浴びる。貧乏性の自分には広いバスルームは落ち着かないが、そ
れでも心地が良い。そして先にベットに入ってうとうとしていると、刹那がごそごそと潜ってきた。か
なり広いベットなのに、自分にぴったり寄り添ってくる刹那が可笑しかった。刹那の体温は高い。その
体温にを感じながら、ライルは眠りに落ちていった。


刹那はぼんやりとライルを眺めていた。かなり疲れていたのだろう、その顔に疲労がありありと浮かん
でいる。それなのにロックオンはトレミーチームという自分も所属しているメンバーを部屋に招いて、
宴会をしていた。ライルは疲れて帰ってくる、だが自室は宴会場になっていては休めないだろうと考え
刹那は適当にホテルを選んだ。それが高級ホテルだったのだが、SPとしても活躍する事がある刹那に
とっては問題でもなかった。趣味らしきものを持たない刹那は、高額な給料を持て余していた。なので
ライルに喜んでもらう為に使う事に躊躇いはなかった。だが刹那の頭の中ではあくまでライルと一緒の
ベットで寝るのは当たり前だった為、ツインルームを選ぶ事すら思いつかなかった。せっかくだから、
ダブルベットの部屋・・・と思っていたところを勧められたのが、このスイートルームだった。ライル
は戸惑っていたが、それでも今は気持ち良さそうに寝ている。
だが
刹那は自分の感情が、嘗て無いほどに昂揚しているのを感じて戸惑う。遠くからライルに恋していた時
と変らない状態だったが、それでもあの頃とは比べ物にならないくらい興奮している自分がいる。
「?」
実は刹那には下心が全く無かった。純粋にライルに良かれ、と思った行動だったのだ。だが邪魔者はお
らず、恋する相手は腕の中。男として興奮するのは当たり前だ。感情に突き動かされてそっとライルの
頬に唇を寄せる。ロックオンがしているように。それから額・目蓋などにキスをする。そしてそっとラ
イルの唇にキスをした。生々しい感情が溢れてくる。こんな触れ合いでは我慢できなくなった。それで
も刹那は自制をかけながら、ゆっくりと行動する。バスローブのまま寝てしまったライルの胸元に手を
這わせ、帯を緩めて前を開く。自分とは違い、白人特有の真っ白な肌が現れる。刹那はゴクリ、と唾を
飲み込んだ。
そして
ライルの上に圧し掛かった。


(あれ、なんだろう)
なんだかくすぐったい。ライルは折角の熟睡からゆっくりと浮上させられて、少し面白くない。重い目
蓋を叱咤してゆっくり開ければ、そこには顔を昂揚させた刹那の顔。
(刹那・・?)
なにしてんだろう?とぼんやりと思う。何故刹那が自分の上にいるのかも、とんと分からない。ライル
は首を捻った。
(あれ?)
(なにが・・・どうなって・・・???)
(ん〜〜〜〜???)


チャララ〜ン←ファンファーレ
せつなは おとなになった!





★というわけで、せっちゃんは大人になられました。めでたいめでたい。しかし騒動はこれからだった  りして(笑)頑張れ、せっちゃん!負けるな兄さん!ちなみに部屋でへべれけになっていた面々は、  アレハレ、リヒティ、ラッセ、おやっさんと、クリスです。 戻る