俺は大人になったぞ、ガンダム!(意味不明)






 
ライルさんの家庭の事情5

ドドドドドドド・・・・・
高級ホテルの廊下に響き渡る騒音に、刹那は目を覚ました。立派な絨毯が敷き詰められているはずの廊
下だったはずだが、実際問題として騒音は響き渡っている。
(来たか)
大体の目安はついている。騒動になってライルの目が覚めるのを避けたかった刹那は、彼の耳に予め用
意していた耳栓を詰めた。と同時に凄まじい音と共に、廊下と部屋を繋ぐ第一ドアが開いたのが分かっ
た。そのままどすどすという凄まじい足音は、寝室に直行している。
バターーン
予想通り、そこにはライルに偉大なる愛情を注ぎ尽くしている兄のニールが肩をいからせて立っていた。
その表情はいつもの彼からは想像も出来ない、憎悪に滾った顔をしている。刹那はゆっくりと身体を起
こした。布団がさらりと落ち、刹那のまだ発展途上の身体が現れる。その刹那を見て、毒気を抜かれた
ようにニールは目を丸くした。その表情のまま、すすすす・・・とライルの傍にやって来て、恐る恐る
布団をゆっくりと捲る。驚愕に丸くなった目をさらに見開いて、ニールはその場にへなへなと座り込ん
でしまった。
「そ・・・・そんな・・・・ライルが・・・俺の大事な最愛の可愛い弟が・・・」
自分には兄弟がいないから良く分からないが、それでも弟をこんなに盛大な枕詞で飾る人間も珍しいと
刹那はのんびりと思った。素っ裸なので脱ぎ捨てた自分のバスローブを着て、ニールに退室を促す。こ
のままではライルが起きかねないからだ。


「刹那、どういう事だ。何故ライルに手を出した」
地獄の底から響き渡るような声で、ニールは刹那に詰め寄った。
「手を出す気はなかった」
「だが実際に、手を出しているじゃないか」
「それについては申し開きも無い。本能に凌駕された」
「や・・・・そんな生々しい」
「だが抵抗はされなかった。これはライルの答だと、俺は思っている」
「・・・・せっちゃん!!」
ニールは普通の怒りレベルを通り越すと何故か刹那を「せっちゃん」と呼ぶ。つまりそれだけ怒りが大
きいという事。だが起こった事に対しては、無かった事には出来ない。それこそライルに失礼だと刹那
は生真面目に思う。
「元はと言えば、ライルが疲れて帰ってくるというのに、盛大に宴会を開いたお前が悪いだろ」
「俺のせいかよ!」
「実際問題として、ライルは困っていた」
「ううう〜〜〜」
ニールとしてもそれは分かっていたに違いない。だがチーム全体に言えるのだが、スメラギの押しに抗
える者はいない。スメラギとしても悪意は無かった。そんな事を考える御仁ではない。もし狙ったので
あれば、ニールはもっと酷い目に合っていた筈だ。
つまりは色々な条件が重なり、その結果として刹那はライルに手を出してしまった。最後に至るまでは
純粋にライルの為を思っていたから。刹那自身、このような結果になるとは思ってもみなかったのだか
ら。それに対しては、責められれば謝罪するしかない。謝罪しても事実は消えないが、それでも誠意を
もってあたるしかない。ニールが憎悪と後悔の入り混じった表情をして、呻いている。刹那という人物
を誰よりも理解しているのはニールだ。
「前にも言った、ロックオン」
「あー・・・?」
「俺は責任を持って、ライル・ディランディを幸せにする」
ごくごく糞真面目に、刹那は目の前の男にそう言い放った。


困ったのはニールである。まさかスメラギの猛攻に耐え切れず宴会場を提供して、しかも酔い潰されて
しまったツケが弟に降りかかろうとは。ニールにも非がある。どこか油断していたのだ。自分がいれば
ライルはあの部屋にいてくれると。それはライルに対する甘えでもあったかもしれない。だが自分が同
じ立場なら、やはり閉口して逃げてしまうだろう。
朝、ごろ寝から覚醒して周りを見回せば、ライルの姿が無かった。慌てて見回すと、ライルが普段から
仕事で持ち歩いている鞄が、床に転がっている。中を見れば財布が残っていた。財布も無く着の身着の
まま消えた弟。だが同時に同居人の姿が無かったのに気がついた。そいえばスメラギが
「はーい、未成年は駄目で〜す」
と珍しく移動を渋る刹那を、強引に追っ払っていた。刹那は大体の場合、聞き訳が良い。あまりに良す
ぎて心配になる事もしばしばある。だからあの時の刹那は、ライルが疲れて帰ってくる事を心配してい
た。それなのにその場のノリで移動させたのは自分でもある。しかもライルの存在を自分の仕事仲間に
知らせてしまった。刹那は頑として言わなかったのにも関わらず、だ。口が軽いメンバーではない。む
しろ信用に値する者達ではある。だが情報は漏らせば思いもかけない場所から、流れていく。そう考え
ると、ニールに頭ごなしに刹那を怒る資格は無い。見れば刹那は淡々としている。だがその目には強い
意思が垣間見れる。発言した内容に、嘘は無いだろう。だが自分としても、はいそーですか、なら弟を
宜しくお願いしますと言って、ライルの手を離したくは無い。そんなに簡単に手を離せるほど、大人で
はないのだ。ずっと離さず握っていた弟の手。いつかは他の女性に手を差し伸べるだろうが、それでも
もう片方の手は自分が握っていると思っている。そう、女性なら少しは諦めもつく。が、そのお相手が
自分達より八つも年下の、あどけなさがまったく抜けていない少年なら話は別だ。ライルだけではない
刹那の人生もおかしくなったら・・・と思うニールは矢張り兄属性なのだろう。刹那の幼さを考えると
とても容認する気にはなれない。それなら自分がライルと一生くっついている方が、まだ双方にとって
幸せではないかとも思う。


奇妙な緊張感漂う刹那とニールは、寝室のドアが開いた事に気がついた。そこには刹那と同じくバスロ
ーブを纏った、ライルが目を擦って立っていた。
「せつなぁ・・・・なんだか周りの音が聞こえないんだけど・・」
気のせいか刹那の名前を呼ぶ声に、甘えが感じられる。硬直したニールとは対照的に、刹那はさっさと
ライルに近づき耳栓を外してやる。
「すまない、五月蝿かったら悪いと思って」
「あーそっか・・。って兄さん・・?なんで此処に・・・・?」
まだ完全には目が覚めていないらしい。どこかぼんやりとしたライルは、兄の目から見ても大変可愛い
らしかった。まあ・・・・胸元や足に赤い点々が無ければ、まだ冷静に見ていられるのではあるが。
(本当に頂かれてしまったのか、弟よ!)
ニールの心の葛藤は他の二人には通じない。寂しくなるニールだった。
「あとさ・・・・刹那」
「なんだ」
「なんか腹が痛いんだけど・・・」
「どうした?昨日は別に腹を壊すような物は、食べていないだろう?」
「うーん、そのはずなんだけど」
「せっちゃん!ちょっと来なさい!」
ニールは刹那を羽交い絞めにして、ずるずると部屋の隅っこに誘導する。
「あ、ライル。一応、トイレに行って来い」
「あ・・・・うん」
素直にライルはトイレに消える。
「どうした、ロックオン」
「あのな・・・せっちゃん。おまーは直にしたのか?」
「うん?」
「ええとなーんも着けずに、突っ込んだんか」
そのあからさまな言い様に、刹那はなんの事だか見当がついた。
「ああ。・・・まずかったのか?」
初めて刹那の表情に困惑が表れる。ニールは溜息をついた。
「まずいらしい。俺も良くは知らねーけど、そういう事すると腹を壊すらしい」
至極真面目な顔をして、刹那とニールは囁き合う。
「そうなのか。だが急だったので何らかの用意はしていなかった」
「用意してたら、狙い撃ったぞ。お前に下心がなかったのは、むかつくが良く分かる。だからしょうが
 ないから今回は不問にする。だけど金輪際するな、良いな?」
「嫌だ」
「せっちゃん!」
「ライルが嫌がるなら考える。だがそうでなければ、譲る気はない」
暖簾に腕押し、そんな諺がニールの頭をよぎった。頭を抱えたくなるのを必死で我慢し、ニールは懸命
に刹那を諭す。
「あのな、お前にはピンとこないかもしれんが八つも年下の餓鬼に押し倒されて、愉快になる男はいな
 いぞ」
「そうなのか?」
「俺だったら、絶対に嫌だ」
「だが仕方ないだろう。歳に関してはどうしようもできない。別に愉快になる必要も感じないが」
「愉快って、そーゆー意味で言ったんじゃねーよ!なんでそういうトコでボケんだ、お前は!」
「ボケた気はない。思ったままに言ったまでだ」
「ああああああ・・・・ドコで育て方間違ったんだろう」
とうとう我慢しきれずに頭を抱え蹲るニールに、刹那が首を傾げる。本来であれば「お前に育てられた
覚えは無い」とでも言うのだろうが、生憎と刹那はCBに関わってからはニールに育てられたといって
も過言ではない。人とのコミュニケーションの取り方などを、それは丁寧に教わったものだ。「基本は
笑顔」と言われたものの、なかなか表情が変ってくれず途方に暮れたのも良い思い出だ。しかしその代
わり稀に出る自分の笑顔が(とはいっても微笑程度だが)、かなりの破壊力を持っているという事を刹
那は知っている。


ニールにしてみれば可愛い弟分が、最愛の実弟と関係してしまうなんて許せない。
刹那にしてみれば尊敬する兄貴分が、溺愛している弟相手とはいえ自分の恋を阻む事が謎だ。
そして
・・・・・ライルは・・・・?


★一部下品になった事をお詫びいたします。ニールさんは刹那の今後も考えて心配しているのですが、  親の心子知らずでなかなか通じません(笑)ライルさんは腹痛以外は平気っぽいですが、これはせっ  ちゃんが身体的に子供である、という事でお察し下さい。ニールさんだったら、こうはいかない(笑) 戻る