男か女か






 
らいる1/2


学校での清掃の時間、数人の男子学生達がふざけて水の掛けあいっこをしていた。そしてその矛先は1
人で黙々と掃除しているある男子学生に向かう。
「お〜い、ライル!」
振り向いたライルと呼ばれた学生に、思いっきり水を掛ける。言うまでも無く掛けた学生達はびしょ濡
れだった。これも悪ふざけの延長。荒い交流。事実ライルとこの学生達は仲が良かった。と、1人がな
にか違和感を覚えたようだった。
「お前・・・・・?」
その言葉が終わらないうちに凄まじい音と共に、土煙を上げて誰かが走って来る。
「こら〜〜〜〜!!!お前ら、ライルになにしてんだよ!」
「うわっ超ブラコンだ!」
そう此方に向かって疾走しているのは、ライルの双子の兄であるニールだった。この2人の仲の良さは
有名ではあったが、弟を溺愛するニールは「超ブラコン」の称号を欲しいままにしてきた。怒涛の勢い
でライルに駆け寄ったニールは、制服の上着を掛ける。
「お前らっ!ライルが風邪ひいたらどうしてくれんだよっ!」
と1言言ってから、ライルの顔を覗きこむ仕草をした。
「大丈夫か、ライル?ほら拭いてやるからこっちへ来い」
上着越しにライルが頷いたのが分かった。そのままニールはライルを抱え込むようにしてその場を去っ
て行った。ライルに水をかけてからニールに退場するまでの間、1分間。
「・・・相変わらずのブラコン振りだな、ニールの奴」
「ああ・・・・・」
「つかこの暑いのにどうして上着着てたんだ?ニール」
「さぁなぁ・・・・。でも俺、ちょっとライルに同情するな。兄弟仲良いってのは良い事なんだけどさ。
 ああも過保護にされちゃあね」
「同感。俺だったら反抗するな」
そう会話しながら去って行く双子の後ろ姿を見送った彼らに、先程の違和感は消えていた。


ニールが連れて行った処は学校の裏庭にある茂み。そこまで来ると周りをキョロキョロと見回した後に
ライルを覗きこむような形で声を掛けた。
「もう良いぞ、ライル」
「うん」
答えた声は高かった。そのままニールが上着を取ると、そこにはニールに似た美少女の姿が。
「助かったよ、兄さん」
そう言って笑うのは『ライル』である事は間違いないのだが。
「ゴメン。また俺のせいで兄さん『超ブラコン』って言われちゃうな」
「気にすんな、ホントの事なんだし」
「でも、俺がこんな体質じゃなかったら・・・・」
そう言うライルにニールは微笑みかけた。
「ライルは何も悪くないだろう?」
「うん・・・・まぁ・・・・」
「そうさ、悪いのはぜーーーんぶイオリア・シュヘンベルクの爺のせいなんだ!!」
ニールの絶叫が響き渡った。


小学生の頃、両親と妹が交通事故でこの世を去った。残されて途方に暮れる双子を引き取ろうとしてく
れた親戚もちゃんといたのは事実だ。しかし父親と交流があったという『イオリア・シュヘンベルク』
という老人が現れて、彼らの後見人になると宣言したのだ。このイオリアという人物は偏屈ではあるが
大変優秀な学者として世界に名を馳せていたらしい。親戚の中にはこんな偏屈爺に大事な子供を託して
良いのかと心配する声も聞かれたのだが、結局のところ2人を同時に引き取れる人物がその爺しかいな
かった為、渋々という形で預けられたのだ。周囲の心配も他に、それから何不自由なく生活していた彼
らだった。

異変が起こったのは、中学2年の夏。彼らは冷蔵庫にあったジュースを飲み、パンツ一丁で水の掛けあ
いっこをして遊んでいた。先にその異変に気がついたのはニールだ。ぽかん、と口を開けて目もついで
に開けて、固まったのだ。指はライルの胸辺りを指したまま。疑問に思ったライルが自分の胸を見てみ
るとそこには膨らみが存在していた。驚いて股間をさわってみると、息子さんが消滅していた。これに
はライルも目を回さんばかりに驚いた。
「ど・・・どうしよう、兄さん。胸があって下が無い・・・・・・」
ライルに訴えかけられた事で正気に一応戻ったのだろう。ニールがぎくしゃくと動く。
「ライル・・・・・ちょっと確かめさせてもらって良いか・・・・?」
混乱からまだ抜け出していないような顔で、ニールはぽつりと呟いた。ライルも困惑からまだ抜け出せ
ないまま、頷く。ライルの了承を得たのでニールは恐々と胸の膨らみを掴んだ。
「・・・・・・本物だ」
ライルとしても胸を掴まれた感覚があったので、神経が通っているといういらん事が分かった。それか
らニールはひょい、とライルの股間にぺしりと触って来た。まじまじと自分の手の平を見る。
「ホントだ・・・。ライルのが無くなってる・・・・」
「どうしよう・・・俺の身体、どうなっちゃったの??」
ライルに半べそで言われて、ニールの兄貴回路が復活。こんな事する人物は1人しか思いうかばない。
その次の瞬間、ニールの頭を支配したのは怒りだった。むんずとライルの手を掴み
「イイイイィィィオリアァァァァァ・シュヘンベルクゥゥゥゥ!!!!!」
と叫びながら後見人の部屋へ走った。

「おや、ライルに効果があったか」
飛び込んできた双子を見たイオリアの最初の言葉がそれだった。
「ふむ、同じ遺伝子ながらやはり個体差があるという事か・・・・」
ぶつぶつ言いながらなにやらパソに打ちこんでいく。その姿にブチ切れたのは当然、ニールだ。
「どういう事なのか説明しろ!!ライルが女の子になっちゃってるじゃないか!」
ニールの叫びに(ライルはニールの後ろに隠れていた)イオリアがこちらを向く。
「ま・・・まさか、この実験の為に俺達を引き取ったのか?」
ニールの言葉に、ライルもビクリと体を震わせる。あり得ない事ではない。しかしそう言われた当のイ
オリアは目をぱちぱちとさせただけだった。
「いや、もしそうならもっと早い段階で試しただろう」
イオリアの説明曰く、ある日突然薬によって性転換ができるかどうかというアイデアが浮かんだらしい。
無駄に天才なのでそんなに苦労せずに薬は完成したのだが、試すものがない。あくまで人間の遺伝子の
みに反応するように作ってあったので、冷蔵庫に入れてあったジュースにこれまた思いつきで入れてみ
たらしい。一応ディランディ兄弟に注意だけしとくか、と思ったらしいがあっさり忘れ果ててしまった
そうな。
「忘れんな!そんな大事な事!」
「いや弟だけではなく、妹もできたと思えば良い」
あんまりと言えばあんまりな言い草にニールの怒りのテンションは超一撃状態。
「俺の妹はエイミーだけだ!!んで弟はライルだけだーーっっ!!」
「そ・・・それじゃ、俺はもう男には戻れないの?」
ライルのうろたえまくった声がする。ニールがはっとして振り向けば、もう泣く寸前のライルの姿。
「いや、戻れる」
あまりにあっさり言われたので、一瞬聞き間違ったかと思うぐらいだった。イオリアはライルにおいで
おいでをする。ライルがおっかなびっくりイオリアに近寄った。イオリアが出して来たのは水筒だった。
「これはお湯をかければ元に戻る。ああ、熱湯はライルが火傷するから止めておくが良い。ぬるま湯で
 大丈夫だ」
そう言ってライルの頭にちろちろとぬるま湯を流すと、あっという間にライルの胸は無くなり息子さん
は復活をした。
「これで一件落着だな」
「いや俺、水かぶっても女にならない体に戻りたいんだけど・・・・」
ライルの提案はどう見てもイオリアの耳の右から左へ流された。此処にニールも加わって、元に戻る薬
を作るように頼んだわけだが、現在高校2年生。一向に完成したとは言われない。多分、他の研究に没
頭して忘れ果ててると思われる。イオリア程の天才ではないが秀才である爺の友人のE.A.レイにこ
との顛末を話して解決策を求めたのだが、どうも彼では上手くいかなかったらしい。彼の提案にはイオ
リアも耳を傾ける事も多いので、提案してもらうように頼み、実際してくれたようなのだが事態は未だ
に遅々として進んではいなかった。

なのでライル・ニール共々ぬるま湯の入った水筒を携帯するようになったのだ。この体質になってから
何故かライルは水難に合う事が多くなってしまったからだ。さっきみたいに。


「俺がこの体質を引き受けていれば良かったんだけど・・・」
弟が水に怯える人生をこの先もしていかなければならないかもしれない、という事を考えるとニールは
ライルが不憫でならなかった。
「それは俺が困る」
「なんで」
「だって俺、兄さんみたいに完璧にフォローできる自信ないし」
実はニールから見ればライルのフォローに失敗した事は多々あるのだが、ライルは気がつかない様子だ
った。まぁ・・・弟の手前、格好良いい兄貴を演じたいお年頃ではある。ニールはそう思いつつ、持参
の水筒を開けてライルの頭の上に掲げ、正にぬるま湯を掛けようとした瞬間。ガサゴソと茂みが揺れて
意外な人物が顔を出した。
「刹那・・・・?」
それは中等部2年の刹那・F・セイエイだった。ある授業で一緒になったニールが刹那を気に入って、
なにかと世話を焼いている。無論、ライルも面識があったし会話もニール程ではないがしている。その
刹那が目の前に立っている。ニールは水筒をちょっと傾けた状態で固まった。ライルも然り。
「その女子はライルだな?」
確信に満ちた声で刹那が言う。咄嗟にニールは口が動いた。
「残念!こいつは俺の妹のエイミーだよ」
俗に言う女ライルを見てしまった者に、ニールはそう言っている。ライルも勿論その案に乗っかってい
るわけだ。だが刹那は怯まない。
「さっき偶然だが見えた。水がかかった瞬間、ライルが女になった処を」
刹那の視力は脅威の5.0だった。だがニールは頭の回転をフルに動かした。此処でバレるわけにはい
かない。だが・・・・ライルは兄の手から水筒を取って、自分の頭に勢いよく中身をぶちまけた。ライ
ルはたちまち、男に戻った。皮肉気な表情で刹那を見てニヤリと笑う。
「そうだ、俺はライルだ。で、それがどうしたって?俺を脅すつもりか?言っとくが兄さんを脅したら
 許さないからな」
「ライル・・・・(うるっ)」
しかし刹那の答えはライルにもニールにも予想外だった。きょとんと目を丸くした後、少し拗ねるよう
な表情で双子を見る。
「そんなチャンスを潰す事はしない」
「え?チャンス?」
ライルの疑問に、無駄に重々しく頷く。
「俺は常々ライルを嫁にしたいと思ってきた。だがライルは男だから嫁にはできないし、と思っていた
 んだからな。女にもなれるなら嫁になってもらえるし、俺の子供も産んでもらえる」
「お前っっ!俺の可愛い弟にそんな不埒で壮大な計画を模索しておったのか!」
「そうだ」
「真顔で肯定すんな!嫁になんかやりません!」
「貰う」
「あげません!!」
「絶対に貰う」
「ぜーーーーったいあげません!!」
ぎゃぁぎゃぁと騒ぐ刹那とニールの言葉の合間にライルの声がした。
「いいぜ」
「はい?」
意外な言葉に返事をしたのはニールの方だった。ライルが面白そうに笑って、刹那を見つめている。
「ちょ、ライル。なに言ってんのー!?」
ニールの悲鳴はさっぱりと無視された。
「ただし・・・・」
「?」
「俺を惚れさす事が出来れば・・・だ。どうだ?」
「させる」
刹那の返事は早かった。ニールは大急ぎでライルの耳元に口を寄せる。
「なに言ってんだ、ライル!?」
そう囁けばライルはあははと笑った。
「大丈夫だって!兄さんだって俺が女の子好きなの知ってんだろ?誰がこんな鼻たれ小僧に惚れるかっ
 ての」
「そりゃ知ってるけど・・・・・」
「さぁて掃除もさぼれたし、そろそろ教室に戻ろうぜ兄さん」
ライルに促されて後をついて行ったニールは、きょろりと刹那を振り返った。
「俺はやる・・・・」
刹那は炎を燃え上がらせて、ガッツポーズを取っていた。多分、彼の頭の中ではもうウエディングベル
が鳴っているだろう事は悲しいくらい想像できた。

(どうなっちまうんだ・・・これから)
秘密は守れたけど、不安に苛まれるニールだった。



★ここの刹那は健全な少年ですので、女ライルの背中越しに乳揉むぐらいはやる(真顔)こういう時、  女性なら悲鳴を上げるところですが、中身が男性の時ってどうなんでしょうね。個人的にはケロリと  していると思うんですが。息子さんタッチは悲鳴を上げるかもしれません。そしてここのサイトは刹  ライですので、こんな事言ってますが段々刹那に惹かれていって以下略。兄さん大慌てして以下略。  因みに双子共々女体化をどうにか治したいので、バイオ関係に就職希望です。因みに女性とのキス千  人切りを目指しているらしい九鬼とかいう人はグラハムです。当然狙うはエイミー(女ライル)の唇。  刹那もぬるま湯の水筒を持参しつつ、将来の嫁の唇を守るのです。 戻る