プロローグ






 
世界の終わりの音を聴く1


優雅な一室で、リボンズ・アルマークは報告を静かに聞いていた。
「そうか、超兵であるソーマ・ピーリスが死亡したか」
事実のみを口にして、彼は冷たく微笑んだ。
「別に、いいんじゃない?どうせ出来そこないなわけだし」
ガンダムマイスターの1人であるティエリア・アーデと同じ顔をした人物は、興味なさそうにリボンズ
に言う。イノベイターであり、事実上地球圏の実権を握っている彼らにとって、旧人革連の強化人間で
ある超兵が抜けたところで、痛くも痒くもない。
「でもそろそろアロウズ部隊員の補充をしておこうかな」
「なら俺が行こうか、大将?」
リボンズが座っているソファの後ろに立っている赤い髪と顎鬚が特徴的な好戦的な笑みを浮かべて、提
案を出してくる。

アリー・アル・サーシェス

実力は既に証明済みだ。それに身体の半分を消し墨にした、ロックオン・ストラトスに復讐したがって
いる。だがリボンズは首を横に振った。
「いや、君は僕達の切り札の1つだ。切り札は早々に切るものではないよ」
言外にその提案を撥ね退ける。一瞬、アリーはつまらなそうにリボンズを見たが、肩をひょいと竦めた。
「わかったよ、スポンサーはアンタだ。その指示には従うさ」
そう言って、背を向けて部屋から去って行く。ティエリアと同じ顔をしたイノベイター、リジェネがそ
の後ろ姿をおかしそうに見つめる。
ふとアリーは廊下の向こう側から歩いて来る男に気がついた。口の端を思わず上げ、その表情のままに
すれ違う。その男は廊下の先しか見ていないようだった。その顔からは緊張が見え隠れする。
「ほう・・・・。こっちの切り札を出す気か、大将。あの野郎がどんな顔するか見ものだな」
そのままくつくつと笑いながら、アリーは男が来た方向に歩み去った。


「随分、彼を買っているんだねリボンズ」
「そう見えるかい?だけど彼は人間という枠を超えてしまっているからね」
そこまで言ってから、リボンズは彼の前に立っているイノベイターであるリヴァイブ・リバイバルに目
を向ける。
「リヴァイブ、君にはアロウズに所属してもらう」
「私が・・・・・アロウズに・・・・ですか?」
「そうだよ。なにか不満かい?」
リヴァイブは「いいえ」と首を横に振った。
「わかりました、乗機はガデッサで良いのでしょうか?」
「ああ。・・・・・・それと」
リボンズの後ろに誰かが立った。その姿を認めたリジェネは薄く笑い、リヴァイブはハッとした顔をし
てその人物に注目する。
「彼も今回、君と一緒にアロウズへ所属してもらう事になった。彼へのフォローも頼むよ」
「宜しく、お願いします」
その人物は、リヴァイブに深々と頭を下げた。リヴァイブがなんともいえない顔をして、リボンズの顔
と彼の顔を交互に見つめた。
「行けるかい?」
リボンズが彼に尋ねると、こくんと頷く。
「行けます」
「そうかい、仇が取れるように僕も祈っているよ。活躍を期待する」
「はい、有難うございます」
「そうそう、君の乗機は今のところジンクスだけど、新しくロールアウトするMSを君専用にするつも
 りだから」
「なにからなにまで、有難うございます。期待に添えるよう、努力します」
「なら、準備に入ってくれ」
「はい」
リヴァイブに促され、彼は共に部屋に背を向けた。リボンズとリジェネの口元に浮かんだ冷笑を、彼も
リヴァイブも見る事はなかった。


リヴァイブは後ろを歩いている彼に、向き直った。
「出発は明日の08:00です。遅れないように」
「はい」
リヴァイブよりも長身ではあるが、どこか幼い仕草で彼は頷いた。そしてリヴァイブに一礼をすると、
そのまま廊下を歩き去っていく。その後ろ姿を、リヴァイブは複雑な表情で見送った。
「悪趣味だな・・・・・」
ぽつん、と呟いてそのまま自室に入って行く。


彼は高揚する気持ちを抑えきれずにいた。
(とうとうチャンスがやってきたよ)
あの日から、彼はリボンズに救われて力を与えられて、訓練と実戦を繰り返してきた。全てはこの為。
(俺は許さない。父さん、母さん、エイミーを殺した『ソレスタル・ビーイング』を)


あの日、空を無慈悲に駆け抜けていったガンダムを・・・・許しはしない。


そして恩返しをするのだ、無念を残して死んでいったアレハンドロ・コーナーに。そして自分を全力で
サポートしてくれた、リボンズの為に。テロリストであるソレスタル・ビーイングなど、滅んでしまえ
ば良いのだ。自分から全ての家族を奪った、彼らなど。その為に辛い訓練にも必死で耐え、実戦では死
にかけた事もある。実戦の相手は反政府組織としては最大勢力の、カタロンだった。型落ちの旧式を使
う彼らが相手ならば楽勝かと思えば、随分と痛い目にあった。しかしスキルは上達している。痛い目に
あったかいはあるのだ。
「そうさ、仇を取れるんだったら、俺は何だってするさ。理想主義者なんて、くそくらえだ」
そう呟いた『彼』の瞳は本来の翠ではなく、虹彩に彩られていた。


「彼らが出会ったらどうするのか、楽しみだね。リボンズ」
「そうだね、さあどう出る?ロックオン・ストラトス?」



★取りあえず、こんな感じで始まります。あれ、おかしくない?という処は、その内明らかにしていく  つもりです。あ、この話は刹ライではありません。あしからず。 戻る